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2020
06.11

夜の終わりに 11

司は牧野つくしを抱え上げベッドに運ぶと布団をかけた。
すると女は猫のようにくるりと身体を丸めた。そして一言二言何かを呟いたが目を覚ますことはなかった。

「変わった女だな。お前は」

司は今更のように思った。
女が眠りにつく前に「隣で寝てもいいか」と訊いた。
すると女は戸惑うことなく笑って、「いいわよ」と言った。ただし何かしたら大声を上げるとも言ったが、司は酔っぱらった女のその態度に苦笑した。
それにしても、こうして数時間一緒にいるというのに不思議と欲望が湧くことがないのは、女の容姿がどうのと言うのではない。それなら何か。それはこの女が無防備過ぎるからだ。

着ていた服はどこにあるのかと浴室を覗いてみれば、スーツとブラウスは脱衣籠の中に畳んで置かれていた。司は上着を手に部屋に戻りハンガーを手にすると、自分の上着の隣に掛けた。
そして本来ならタオルを掛けるはずの場所に掛けられていたのはストッキング。洗濯したのか。濡れた飾り気のない下着が一緒に並んでいた。
つまり浴衣の下は裸。いくら何もしないと言われても男の前で下着を付けずにいる女は普通じゃない。そしてその状態で見知らぬ男の前で何の懸念もなく喋り寝る女は、ある意味肝が据わっている。

「それにしても無防備にもほどがある」

それは女に呆れて出た言葉なのか。
それとも感心しているのか。自分でも分からなかった。
そして自分がこの女に対して男としての欲望以前に思うのは、ただ話をするだけでいいという思い。
それはまだ性の営みを知らなかった頃は別として、心の中では女の肉体など欲を吐き出すだけの代物と考えている自分が求めたプラトニックな感情だ。

そして本来の司は酔っ払いの言うことは真に受けない。
だが今夜は酔っ払った女の言った通りにすることにした。それは隣で寝てもいいということ。だから司も長い夜を終えることにすると、女の隣に身体を横たえた。

どんなストレスや疲れも、寝ることが解消に繋がると言う。だから女が眼を覚ましたとき、バカなセクハラ上司に付き纏われていることは別として、仕事で疲れた身体も少しは楽になっているはずだが、酩酊とは言わないが男が隣で寝ることを許した記憶はないだろう。
それにしても、目が大きい以外ごく普通の顏立ちの女は、どうしてこうも簡単に他人を信じることが出来るのか。
そう思いながら司は女の顏を見ながら目を閉じた。すると耐え難い眠気がやって来て、すぐに深い眠りに落ちた。











午前7時半。
司の睡眠時間は短い。
だからいつも少し寝ただけで自然と目が覚める。
だが今朝はそうではない。長い時間寝たという感覚がある。つまり司にすればこの数時間は惰眠を貪ったに等しい。
そして目覚めたときここがどこか一瞬分からなかったが、隣の寝ている女の顏で、すぐにここがラブホテルの一室であることを思い出した。

ベッドを降りるとシャワーを浴びに浴室へ行ったが、改めてそこに干されている下着を見て笑った。「もう乾いたか?」
そして思った。もし女が目覚めたとき、枕元にこの下着があったらどんな顏をするだろう。
それは司の手が触れたことを示すことになるが、静かな寝息を立てている女は即座に布団に深く潜り込むかもしれない。それともベッドから飛び起きると大急ぎで浴室に駆け込むか。司の予想では後者だが果たして本当か。
司はそんなことを思いながらスーツの上着を着てネクタイをポケットに入れると、女に声をかけた。

「T子。朝だ。起きろ」

T子こと牧野つくしは寝ぼけた返事をして目を開けたが、どうやら自分が置かれている状況は理解しているようで照れた様子で司を仰ぎ見た。

「おはようございます」

「よく眠れたか?」

「はい。おかげさまでありがとうございます」

「そうか。良かったな」

「本当に色々とご迷惑をおかけしました」

と言ったが、司が「下着。乾いてるぞ」と言うとギョッとした顏をして飛び起きた。
そして転がり落ちるようにベッドから出ると、浴室の扉を勢いよく開けて飛び込んで行ったが、司はその後ろ姿を見て笑っていた。




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コメント
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dot 2020.06.11 07:30 | 編集
司*****E様
つくしのことが気になる男。
これは運命の出会い?
でもまだこの段階ではなんとも....という状態ですが、お話が進みましたので御覧の通りとなっています^^
アカシアdot 2020.06.14 22:43 | 編集
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