fc2ブログ
2020
06.05

夜の終わりに 8

見知らぬ男性とラブホテルの一室にいて、やたらと広い風呂に入っているが、そのことに抵抗がないわけではない。
それにこの場所で風呂に入ることに躊躇いがなかったわけではない。
それでも、男性の言葉と態度に奇妙な安心感を覚えたのは、有無を言わせない強い態度の裏に優しさを感じたからだ。

そして男性は人に命令することに慣れている。
それはいくら洞察力がないと言われるつくしでも、男性の態度は勿論のこと、運転手付きの車に乗っていることから察することが出来る。つまり男性は立場を守らなければいけない人間のはずだ。
そんな人間がいくら緊急避難だからといって、見知らぬ女とこういった場所に入ることが問題にならないはずがない。だが男性が言った通りここが山の中なら、他の人間に知られることはない。だから騒ぐほどのことではないのかもしれない。

それにしても男性は何歳なのか。
つくしとさして変わらないように思えたが、それなら30代半ばかそれ以上。と言うことは、指輪はしていなかったが結婚している可能性もある。そうだ。男性の中には指輪をすることに抵抗がある人もいる。だから指輪の有無だけでは判断できない。
となると、いくら事情があるからと言っても、夫が見知らぬ女とこういった場所にいることを知った時、妻はどう思うだろうか。
多分男性は、つくしがこうして風呂に入っている間に通行止めで帰れないと連絡をしているはずだ。だがまさかとは思うが女性とふたりだけでラブホテルにいるとは言わないだろう。

だがたとえこの状況を知ったとしても、ここで何かが起こることはないのだから、妻である女性には気を揉む必要はないと言いたい。
けれど妻の立場を自分に置き換えたとき夫のことが信じられるだろうか。
そう思うには理由がある。それは、同期入社の友人が妻のある男性と交際しているからだ。
相手は取引先の5才年上の男性。仕事を通じて親しくなり付き合うようになったが、妻にはバレてはいないという。
そして男性が彼女と合う時は、仕事が長引いで終電を逃した。タクシーで帰ると高くつくからカプセルホテルに泊まるといって彼女と会っていた。
もちろん、世の男性が全員そうだとは思わないが、少なくともつくしの友人はそういった男性と付き合っていた。

それにしても、あの男性については、初めは誘拐犯。そして次には強姦魔。とにかく男性は犯罪者だという思いを持ったが、今度は既婚者ではないかと思うのは、相手に対する印象が変わったからだ。男性は鋭い目をしているが以外と優しいところがある。
だがそれは、男性に家族が、もしくは恋人がいるからではないか。つくしに対する優しさは、愛する人がいるからの優しさなのかもしれない。そうだ。人が人に優しく出来るのは、自分が愛されているから出来ることだ。
そしてたった今、頭をかすめたその思いは相手に対する純粋な興味であり、ただそれだけのことでなんでもない。

そして友人は妻のいる男性に本気ではない。
それなら遊びなのかと問えば、そうではないと言う。

「あのね、つくし。人間はどんなに進化したとしても所詮動物よ。動物の世界では力が強いオスが沢山のメスを従えたハーレムを作るわ。動物を人間に置き換えれば、その強さはお金があるか。権力があるかどうかよ。それからその次がカッコイイかどうか。
私はそれさえ満たしていれば、たとえ相手のナンバーワンになれなくてもいいのよ。ハーレムの一員でもいいの。でもふたりの関係でイニシアチブは握っているつもり。だから会う会わないは私が決めてるわ」

男性との付き合いで主導権を握っていると言った友人は美人だ。
それに頭がいい。そんな友人はモテる女性だが真剣に人を愛したことがないと言う。
そんな彼女がつくしだけに教えるわね。と言って話してくれたのは、「実は私、整形してるの。昔の私はブスでね。全然モテなかったし苛められたわ。だから見返してやろうと思って整形したの」

そして手に入れた美しさで人生を楽しんでいると言ったが、「つくし。つくしは物事を真っ直ぐに考えすぎなの。一度しかない人生なんだから、もうすこし柔軟に考えた方がいいんじゃない?そうすれば彼氏と別れることもなかったと思うけど」と継いだが、それはつくしが最近付き合い始めた男性には他に女性がいたが、そんなことは気にすることはないということ。
だがつくしは他に女性がいる男性と付き合うことは出来なかった。
だから別れたが、それは終わったことであり未練は全くない。
それよりも、もっと腹が立つことがある。
だがまさか見知らぬ男性にその愚痴を言うわけには__


だが、何故か喋りたくなっていた。
それは風呂から上がり、備え付けの浴衣を着てベッドが置かれた部屋とは別の和室で、座卓を挟んで差し向かいに座った男性から、ミニバーにあったブランデーを入れたコーヒーを勧められたことから始まった。

初めは飲む事に躊躇いがあった。
男性が悪い人間だとは思わないが、それでももしかすると茶色い液体の中にはブランデー以外のものが入っているかもしれないと思ったからだ。
だが、「心配するな。ブランデーは身体が温まるから入れたが、それ以外何も入っちゃいない。それともビールの方が良かったか?」と、思いを見透かされたように言われれば、「いいえ。そんなことは」と答え、三分の二ほど飲むと身体の芯が熱くなるのが感じられた。

「おいしい….」

そして、その美味しさにおかわりを頼むと、ここ最近会社で起きたことを話し始めた。



にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.06.05 14:34 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.06.06 00:41 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
あまりいい恋愛が出来ていなかった女(笑)
そんなつくしですが会社で何が起こっているのか。
お待たせいたしました。m(__)m

なんと!あのドラマが再放送されているではありませんか。
先程見ました。
シリーズ化を期待しているのですが、Ⅲはあるのでしょうか。
来年に期待しています!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.06.07 22:18 | 編集
ふ**ん様
「ハーレムの一員」でいいと言うつくしの同期。
たとえ不倫でも主導権は自分にある。
同期の彼女はとても明るく前向きです。

司が女を嫌いでなければ、とてつもなくデカいハーレムが出来る‼(≧▽≦)
そうでしょうねえ。どれくらいの女性をそのハーレムに?
そんな話が頭を過ったんですが書くとすれば御曹司の夢の中かもしれませんね(笑)

本当に暑くなりましたね。
今年の夏の暑さはマスクをしていることを考えると、いつもよりも暑い夏になりそうですね。
ふ**ん様もご自愛下さいませ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.06.07 22:26 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top