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2020
06.01

夜の終わりに 5

道路際に輝くホテルのネオンサイン。
だがそこはメープルのようなホテルではなく、『空』と書かれた青い灯りが道路から見えるようになっているホテルの入口。
周囲に何もない山中に忽然と現れたその場所は、電飾の矢印が進むべき方向を示していて、車は奥へと進んで行ったが、暫くの間、車の両側には竹藪が続いていた。
やがて開けた場所に出ると、前方に独立した和風建築の平屋が間隔をあけて建っていた。
そしていくつかの建物の前には車が止められ、ナンバープレートの前には戸板を小さくしたようなものが置かれていた。

「副社長。本当にこちらでよろしいのでしょうか。こちらはメープルのようなホテルとは違い、その……男女が忍び会う時に使う場所ですが….」

40代後半の後藤は言葉を選びながら言った。

「ああ。構わん。迂回路を探してもこの雨だ。その道もどんな道か分からんだろ?山道ならそこも落石の可能性がある。本来通るはずだった道が復旧するまでここで休む。それにこの女も休ませた方がいいだろう」

何ともおかしな話だが、ほんの少し前まで自分はこの女をどうしようというのかと自問自答していたが、目を閉じると再び開け、ふうっと息をついた。
司は性善説に基づいた行動を取り、男に媚びを売るような態度を取らない女に興味を持った。話をしたいという思いに駆られていた。だが、そうするには時間が必要だ。
だからこの場所で休むことに決めた。

そして自分の膝の上に頭を乗せ寝ている女は熱こそ出してはいないが、この女の頭のてっぺんから爪先まで濡らした雨は、上着だけではなくブラウスも濡らしていた。つまり雨は下着にまで滲みている。だから身体は芯から冷えていて、いくら車内に暖房を効かせていても、着ているものが濡れている以上身体が暖まることはない。
それなら何をすべきかと言えば、濡れた服を脱ぎ熱い風呂に入ること。
だから司はこの女を風呂に入れるつもりだ。

「しかしここは副社長のような方がお使いなられるような場所ではございません」

後藤は司の立場を気にしてそう言ったが、司はこういった施設に対し何がどうという感情はない。
それは、ここが男と女の当たり前のあり方を過ごす場所で、ただそれに特化している場所に過ぎないからだ。
それにメープルだろうが、ヒルトンだろうが、ホテルと名が付く場所を同じように使う男女に目くじらを立てる人間などいないはずだ。
それに真夜中の田舎の道路際に立つこの場所に週刊誌の記者がいるというなら会いたいものだ。

「後藤。俺はここがメープルクラスのホテルだとは思ってない。それにここがどんな場所だろうが気にしちゃいない」

と言ったものの、司は生まれて初めてこの類のホテルを利用する。
だから利用方法が分からなかった。

「それで?お前はこういったホテルに詳しいのか?フロントはどこだ?」

訊かれた後藤は、「こういったホテルには通常フロントはありません。それに特段のチェックインは必要ありません。お部屋に入られたところで利用料金が発生する仕組みになっています。それにホテル側の人間とは極力顏を合せない仕組みになっていますので、お支払についても自動精算で行われるようになっています」と、言って車をゆっくりと前に進めると、「どうやらこちらは建物の入口に明かりが灯っていれば使用出来るシステムのようです。ですからあちらの建物が使用できることになります」と答えたが、後藤が示した建物は、入口にある丸提灯に明かりが灯り『空室』という文字が浮かび上がっていた。

「それにしても、この敷地の広さと建物からして依然はこういったホテルではなく旅館として利用されていたのではないでしょうか?」

確かに広い敷地に外観だけ見れば和風建築の平屋が点在しているここは、初めからこうした施設として建てられたものではないことは覗えた。それにもしここに日本庭園があれば、旅館としての体を成していただろう。つまり、ここを建てた人物は山奥の隠れ家的な宿を営んでいたのか。それとも営むつもりだったのか。どちらにしても、今は当初の面影を残しつつ別の宿として利用されていた。

司は後藤に「お前も開いている部屋を見つけて休め。出発する時は電話をする」と言ったが、後藤は「ありがとうございます。ですがわたくしは車の中で結構ですので」と答えると「車はあちらの広場に駐車いたします」と言葉を継いだ。










司は車から女を抱き上げると、狭い玄関と3畳ほどの広さの次の間の向こうにある12畳ほどの部屋へ女を運んだが、その奥にある部屋はフローリングで、そこに大きなベッドが置かれていた。
だからそこへ女を下ろしたが、ここへ運んでいる途中、一定の息づかいをする女は目が覚める気配がなかった。
だがそんな女が、いきなり目を開いてガバッと起き上がった。
そして目の前にいる司の顏を見て悲鳴を上げた。




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コメント
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dot 2020.06.01 10:11 | 編集
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dot 2020.06.01 15:19 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
ネオンキラキラのホテルに泊まる。
その存在は知っていても泊まるのは初めてでしょうねえ(笑)
そして運転手の後藤にレクチャーを受けますが、後藤はその手のホテルはひとりでは泊まれないと知っているようです。
ん?でも泊まれるんでしょうか?
さて、いきなり目を覚ました女とどんな会話が交わされるのでしょう。

週末の人出が戻りつつありますが、ちょっと怖いですねえ。
再び緊急事態宣言が出されると経済活動が制限されてしまいます。
そうならないように気を付けて!としか言えないのですが、雨の季節を迎えると蒸し暑さで身体が疲れやすくなります。
体調に気を付けての生活ですね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.06.02 21:47 | 編集
ふ**ん様
後藤が気になるんですね!(笑)
でも後藤は気にしないで下さい(;^ω^)
え?でも後藤。車中に待機でトイレはどうする?え~災害用簡易トイレで用を足す?
いや、もう後藤はいいですって!(笑)

鳥居のお話。神様は見ている。
アカシアも訊いたことがあります。ゴミの不法投棄の場所にもあるとか。
そうですよね。最近そういったことをする人はいないと思いますが、昔はいました!(;^ω^)
あと夜遅い時間帯の繁華街の裏路地。酔っ払いによく見られる行動ですよね。

さて目を覚ました女。
司とどのような会話が交わされるのでしょうねえ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.06.02 22:02 | 編集
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