司は長野での仕事を終えると車に乗り、中央道を東京に向かって走っていた。
だがこの先事故で通行止めの案内に、近くのインターで高速を降り下道を走っていた。
やがて車がどこかの駅前に差し掛かったとき、喉の渇きを覚え、車を止めさせると自販機から水を買った。
そして、運転手に暫くこのままでいてくれと言って煙草を吸っていたが、そのときスモークガラスの窓をノックする音に外を見た。
するとそこには雨に濡れながら女が立っていた。
時刻は午前1時を回っている。
まさかそんな時間に駅前で女に車の窓をノックされるとは思いもしなかった。
司は安全上の理由から、誰に車の窓を開けろと言われても開けることはない。
ましてや真夜中。トラブルに巻き込まれる可能性が高い。だからなおさら無視を決めていたが、女が再び窓をノックしようとしているところで、何故か思わず窓を開けた。
その女は司の車をタクシーと勘違いをしていた。
そして電車を乗り過ごして困っていると自分が置かれている窮状を訴え、都内に帰りたいので同乗させて欲しいと頼んできた。
だがこの車はタクシーじゃないと言う司に対し、女はタクシー代なら払いますと言い、強固なまでに乗せて欲しいと言ってきた。だが、その理由が分からない訳ではない。
それは、この車を、つい先ほどまで司の車の前方に止められていたタクシーと勘違いしているということ。だが司が言い放った「よく見ろ。この車は俺の車だ」に改めて車を見た女は、自分の勘違いに気付いたのか。ようやく黙った。
そして言った。
「申し訳ありません。私の勘違いでした。改札を出たときここに黒いタクシーが止まっていたので、てっきりそのタクシーだと思って…..本当に申し訳ございませんでした」
司は車の傍で雨に打たれながら頭を下げた女を見ていたが、女の口ぶりやスーツ姿という服装から、勘違いをしたことを除けば誠実そうに見えた。
いや、誠実というよりも真面目という言葉の方が当てはまるように思えた。
それにしても、傘を開けばいいものの、司の車をタクシーだと思った女は、乗るつもりで折りたたんだ傘はそのままで髪はぐっしょりと濡れていた。
そのとき、強い風が吹いて雨が車内へ吹き込んだ。と同時に女はクシャミをして鼻をすすった。そして唇が震えているのが見て取れた。
真夜中の激しい雨。すっかり濡れてしまった身体。
梅雨入り前の季節だとしても夜は冷える。傘をさすことを忘れた女をこのままここに放置すれば、確実に風邪をひくだろう。下手をすれば肺炎になってもおかしくはない。
そしてその姿は、打ちひしがれ、うなだれているように見えたが、どうやらこの女は本当に困っているようだ。それに女は周りが見えてないようだ。だから司は女に言った。
「ここが終点なら駅員がいるはずだ。都内まで帰りたいが手段がないと事情を説明して始発が出るまで中で待たせてもらえばいい」
そう言ったが、女の耳に届いていないのか。
女から言葉が返ってくることはなかった。
そして何故か口にした、「それともこの車に乗るか?乗るなら都内まで連れて帰ってやるが、どうする?」の言葉。
だがそうは言ったものの、女は見ず知らずの男の車に乗るほどバカではないはずだ。
だから女は駅員に助けを求めるだろう。
だが、つい先程までどうしてもこの車に乗りたいと訴えてきた女は、どこか怖いもの知らずに思えた。
それに女は、ほんの少し前までは唇だけが震えていたが、今は身体まで震えていて、その震えを抑えようとしたのか。鞄を腕にかけた状態で腕組みをしていたが、それでもまだ震えていた。
「おい?大丈夫か?」
さすがに司は心配になって訊いた。
「す、すみません….大丈夫…です。あの….」
と、女は言葉を途切らせながら言ったが、女を濡らしている雨はその強さを増した。
そして言葉を続けようとした女は、よろけて鞄を足元に落とすと、自分自身も濡れたアスファルトの上に膝を着いた。
「おい!」
司はドアを開けて車を降りると、今にも倒れそうな女に触れた。
「しっかりしろ!」
だが女は身体を震わせるだけで答えなかった。
だから司は女を抱え上げると運転手に言った。
「後藤。タオルを用意しろ。この女を車に乗せる」

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だがこの先事故で通行止めの案内に、近くのインターで高速を降り下道を走っていた。
やがて車がどこかの駅前に差し掛かったとき、喉の渇きを覚え、車を止めさせると自販機から水を買った。
そして、運転手に暫くこのままでいてくれと言って煙草を吸っていたが、そのときスモークガラスの窓をノックする音に外を見た。
するとそこには雨に濡れながら女が立っていた。
時刻は午前1時を回っている。
まさかそんな時間に駅前で女に車の窓をノックされるとは思いもしなかった。
司は安全上の理由から、誰に車の窓を開けろと言われても開けることはない。
ましてや真夜中。トラブルに巻き込まれる可能性が高い。だからなおさら無視を決めていたが、女が再び窓をノックしようとしているところで、何故か思わず窓を開けた。
その女は司の車をタクシーと勘違いをしていた。
そして電車を乗り過ごして困っていると自分が置かれている窮状を訴え、都内に帰りたいので同乗させて欲しいと頼んできた。
だがこの車はタクシーじゃないと言う司に対し、女はタクシー代なら払いますと言い、強固なまでに乗せて欲しいと言ってきた。だが、その理由が分からない訳ではない。
それは、この車を、つい先ほどまで司の車の前方に止められていたタクシーと勘違いしているということ。だが司が言い放った「よく見ろ。この車は俺の車だ」に改めて車を見た女は、自分の勘違いに気付いたのか。ようやく黙った。
そして言った。
「申し訳ありません。私の勘違いでした。改札を出たときここに黒いタクシーが止まっていたので、てっきりそのタクシーだと思って…..本当に申し訳ございませんでした」
司は車の傍で雨に打たれながら頭を下げた女を見ていたが、女の口ぶりやスーツ姿という服装から、勘違いをしたことを除けば誠実そうに見えた。
いや、誠実というよりも真面目という言葉の方が当てはまるように思えた。
それにしても、傘を開けばいいものの、司の車をタクシーだと思った女は、乗るつもりで折りたたんだ傘はそのままで髪はぐっしょりと濡れていた。
そのとき、強い風が吹いて雨が車内へ吹き込んだ。と同時に女はクシャミをして鼻をすすった。そして唇が震えているのが見て取れた。
真夜中の激しい雨。すっかり濡れてしまった身体。
梅雨入り前の季節だとしても夜は冷える。傘をさすことを忘れた女をこのままここに放置すれば、確実に風邪をひくだろう。下手をすれば肺炎になってもおかしくはない。
そしてその姿は、打ちひしがれ、うなだれているように見えたが、どうやらこの女は本当に困っているようだ。それに女は周りが見えてないようだ。だから司は女に言った。
「ここが終点なら駅員がいるはずだ。都内まで帰りたいが手段がないと事情を説明して始発が出るまで中で待たせてもらえばいい」
そう言ったが、女の耳に届いていないのか。
女から言葉が返ってくることはなかった。
そして何故か口にした、「それともこの車に乗るか?乗るなら都内まで連れて帰ってやるが、どうする?」の言葉。
だがそうは言ったものの、女は見ず知らずの男の車に乗るほどバカではないはずだ。
だから女は駅員に助けを求めるだろう。
だが、つい先程までどうしてもこの車に乗りたいと訴えてきた女は、どこか怖いもの知らずに思えた。
それに女は、ほんの少し前までは唇だけが震えていたが、今は身体まで震えていて、その震えを抑えようとしたのか。鞄を腕にかけた状態で腕組みをしていたが、それでもまだ震えていた。
「おい?大丈夫か?」
さすがに司は心配になって訊いた。
「す、すみません….大丈夫…です。あの….」
と、女は言葉を途切らせながら言ったが、女を濡らしている雨はその強さを増した。
そして言葉を続けようとした女は、よろけて鞄を足元に落とすと、自分自身も濡れたアスファルトの上に膝を着いた。
「おい!」
司はドアを開けて車を降りると、今にも倒れそうな女に触れた。
「しっかりしろ!」
だが女は身体を震わせるだけで答えなかった。
だから司は女を抱え上げると運転手に言った。
「後藤。タオルを用意しろ。この女を車に乗せる」

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コメント
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司*****E様
こんにちは^^
出会いは思わぬ形でやって来る。
さあどうなるのでしょう!(笑)
そしてこの司はどんな男なのでしょうねえ。
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
出会いは思わぬ形でやって来る。
さあどうなるのでしょう!(笑)
そしてこの司はどんな男なのでしょうねえ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.05.30 21:57 | 編集
