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2020
05.28

夜の終わりに 1

Category: 夜の終わりに
雨が降っていた。
だから改札から出たところでいつも鞄に入れてある折り畳み傘を広げたが、ここが電車の終点だと知ったのは、「お客さん。起きて下さい。着きましたよ。終点です」と車掌に声をかけられたからだ。
眠っていた。だから本来降りるべき駅を乗り過ごしここまで来た。
腕時計を見た。すると針は午前1時10分を指していた。
そして着いたと言われても、ここが何処か分からなかった。
だから車掌に訊いた。

「あの、すみません。ここは?」

「ここですか?山梨ですよ」

「山梨?」

「ええ。そうです。新宿からだと80キロほど離れた場所になります。それから引き返しの上りの電車はありません。でも大丈夫ですよ。ここは山の中の田舎ですが全く何もないと言う訳ではありません。駅前には小さいですがホテルがありますよ」

車掌はそう言って立ち去ったが、その口振りからして、つくしと同じように乗り過ごす人間がいるということが分かった。
だからごく当たり前のようにホテルの場所を教えてくれたが、小さな駅の改札を出たところは、すぐに車道で、そこには息子を迎えに来たのだろう。年配の男性がハンドルを握る車に若者が乗る様子や、数メートル先にいる傘をさした男性が暗闇に消えていく姿があった。

それにしても、まさか隣の県まで乗り過ごすとは思いもしなかった。
つくしが暮らす街はJR中央線の沿線で、今日は新宿を23時45分に出る電車に乗ったが今まで乗り過ごしたことはなかった。
そして、その電車の終点は都心から遠く離れた山の中の小さな街。
これまで駅のホームにある電光掲示板に表示されているその地名を意識したことはなかった。自分の乗った電車がこんなに遠くまで走っているとは思わなかった。

それにしても、ほんの数秒目を閉じただけだったはずだ。それに一度目が覚めたはずだったが、再び暗闇の中に落ちたのは疲れが溜まっていたからなのか。
確かに、ここ数日忙しくて残業が続いていた。だから帰りはいつも遅かった。
だがひとり暮らしということもあり、時間は自由だった。それに睡眠時間が6時間だとしても、ベッドに横になれば深い眠りに落ちるから疲れを翌日に持ち越すことはなかった。
けれど、流石に毎日ともなれば疲れが溜まっていたとしてもおかしくはなかった。

だが今日は真っ直ぐ家に帰る気にはなれなかった。だから食事を済ませて帰ることにした。
だから会社近くのイタリアンレストランで食事をしたが、その時グラスワイン頼んだ。
それは口当たりの良い甘さを持つワイン。一杯だけでは飲み足りない。そう思ったからもう一杯頼んだのだが、それが間違いだったのかもしれない。だが、今日はどうしても飲みたかった。だから飲んだ。
だが立っていれば眠ることはなかったはずだが、珍しく席が空いていて座ったのだが、それがまずかったのかもしれない。だが今更それを言ったところでどうしようもない。
今は見知らぬ街の駅にいて、これから都内に帰る手段はないのだから今夜はこの街に泊まるしかなかった。

つくしは車掌が教えてくれたホテルへと足を向けたが、一歩踏み出したところで足に冷たさを感じて下を見た。足元の水たまりに気付かなかった。

「ああ…やっちゃった」

踏み出したパンプスの中に水が入ってストッキングに滲みていた。
やがてジワジワと滲みが広がるのが感じたが、どうせ脱ぐのだから濡れたところで気にすることはない。それに濡れた靴が朝までに乾かなくても大したことではない。

それにしても、こここが山の中の街なら、この季節の晴れた日は新緑が美しいはずだ。
それにはっきりとは見えないが、街灯に照らされた街の外側には暗い山があることは感じられる。そして都会に降る雨とは違う種類の雨が降るこの街の緑は、都会のビルの間から見える緑とは違って深いはずだ。それにきっと緑が街を包み込んでいるはずだ。

そう言えば、最近は毎日遅く晴れた空をのんびりと見上げたことがなかった。
そうだ。明日は土曜で仕事は休みだ。いや。もう日付は変わっているのだから、もう土曜で今日は休みだ。だからこれから寝て起きたらこの街を散策してみるのも悪くないと思った。
久し振りにのんびりと過ごすのも悪くない。緑あふれる場所で空を見上げてみるのもいいかもしれない。
それにもうすぐ気の滅入るような梅雨がやって来る。だからその前に晴れた空を見上げたい。そう思うと立ち尽くしている水たまりから出た。




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コメント
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dot 2020.05.28 05:50 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
はい。新しいお話です。しかしこちらは短編です。(多分)
電車で寝過ごす。アカシアも経験があります。いつもなら座れないのに座れた。
そして疲れていて自分が口を開けて寝ていた自覚がありました。
その電車は快速でした。終点までは行きませんでしたが、気付いたとき、ここはどこ?(笑)
そして反対側のホームから戻りました。
さあ、このつくしはこれからどんな景色を見るのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.05.28 22:31 | 編集
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