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2020
05.25

金持ちの御曹司~甘い罰~<後編>

『罰を与えるわ』

恋人はそう言うと部屋を出て行ったが、その言葉に司の頬が緩んだのは、ある意味での期待感。
恋人に与えられる罰。それはいったいどんなものなのか。
だが司にはMっ気はない。それにどちらかと言えばSっ気の方が強い。
そしてそれは恋人に対してだけであり他の女とではそんな気が起きることはない。
それに、これから起こることは、どうせ恋人のすることだ。大した罰ではないと思っている。

たとえばそれは椅子に縛られ身動きの出来ない司の全身をくすぐるとか、司の身体的弱点である耳に息を吹きかけるといった可愛らしい類のものではないか。
だから恋人が部屋を出て行ったのは、フワフワとした毛がついた猫じゃらしのような棒を取りに行ったとか、そう類のもので間違っても鞭を手に戻ってくるなど考えもしない。
それにふたりの付き合いでイニシアチブを握っているのは自分だ。
だからどんなことでも司が本気で止めろと言えば止めるはずだ。

それにしても、こんな風に縛られるということは、恋人は無難なセックスじゃ物足りないのか。不満があるのか。もしかして激しい行為を望んでいるのか。恋人は縛られる行為に興味があるのか。だとすれば、司は男としての努力が足りないということになる。
それなら努力をしなければならない。と、なると、縛りのプロに教えを乞うべきか。
だが司の知り合いに縄師はいない。だが総二郎ならひとりくらい知り合いにいそうな気がする。

そうだ。確か….西門流の門下生にその世界では一流と言われる縄師の男がいると訊いたことがあった。なら早速総二郎に電話をしてその男を紹介してもらえばいい。
そしてネクタイや手錠を使う拘束プレイではなく本格的な『縛り』を習えばいい。
だが気を付けなければならないことがある。それは恋人は色白で跡がつきやすい。
だから縄で本格的な縛りをすれば、縄の文様がはっきりと残るはずだ。つまり外から見えやすい場所、たとえば手首についた縄の跡を隠すものを用意してやる必要がある。取りあえずリストバンドでもいいか?けれど恋人の美しい肌に傷をつけるのは罪だ。
それに小さいが美しく白い胸の下に縄の跡をつけるのは悪だ。
そう思いながらも、縛った恋人の身体をいいように弄ぶことを想像すると、自分が縛られていることを忘れ下半身が頭をもたげてくるのが感じられた。




「お待たせ。道明寺」

そう言って恋人が司の前に戻って来たとき手にしていたのは猫じゃらしでもなければ、鞭でもない7センチ四方の小さな袋。

「ねえ?これがなんだか分かる?」

恋人はそう言って司に袋を見せたが、中身が白い粉であることだけしか分からなかった。
だから「いや。さっぱり分かんねえ」と答えると恋人は不敵な笑みを浮かべた。

「ふふふ。これはね。殆どの人間は一度でもこの味を知れば虜になると言われている粉よ。これからこれをあなたに与えるわ。そうすればあなたはこの白い粉を求めて私の言うことを訊く。もう二度と私以外の女のところに行くことは出来なくなるわ」

「おい。まさか…牧野…お前、それは…」

司の前に立つ恋人はいつもとは違い妖艶に思えた。と同時にその微笑みは真冬の空に浮かぶ刃物のように薄い三日月のような冷たさも感じられた。

「そうよ、これは禁断の白い粉よ。もしくは伝説の白い粉とも言うわね?」

おい….ちょっと待て!
司は恋人の口から出た禁断の白い粉とか、伝説の白い粉という言葉に戦慄を覚えた。
これは夢だよな?俺の夢の中だよな?
司は高校生の頃、乱れた生活を送っていた。だが薬物に手を出したことはない。昔も今も薬物とは縁のない世界にいる。それなのに何故恋人が白い粉を手にしている?
まさか恋人は現実が辛くて、それから逃避するため白い粉に手を出したのか。
だがそれは戦慄のシナリオだ。ダメだ。たとえ夢の中でも恋人がそんなものに手を出していることは許されたことではない。
まさかとは思うが、もしかしてこの夢は予知夢か?恋人がイライラとしていたのは生理前ではなく禁断症状が出たのか?
もしそうなら目が覚めたら早々に恋人を問いただそう。そして何か悩みがあるなら俺に言え。道を誤ったとしても俺がついている。俺がお前を更生させてみせる。だからその白い粉を捨てろと言おう。
だがそれを恋人に言う前に、夢の中の恋人は小袋の上の部分を開き、片手で司の頭を自分の胸元に抱え込むと言った。

「道明寺。口を開けてこの粉を飲みなさい」

「い、嫌だ」司は小声で答えた。

「口を開けなさい!」

恋人が強く命じたが、司は口を開けなかった。
だが司は恋人の黒い瞳に見つめられると抵抗出来ない男で、それは夢の中でも変わらなかった。だから有無を言わさぬ瞳に言われるまま口を開けると、傾けられた小袋から零れ落ちてきた白い粉を口腔内に受け入れたが、それは口の中ですぐに溶けて消えた。

そして「これであなたもこの白い粉の虜。もうこの粉なしでは生きていけないわ。つまり私から離れては生きてはいけないということよ。道明寺、あなたは私のものよ。私だけのものよ」と言われ、恋人の顏を見つめながら縛られて強張っている腕から力が抜けていくのを感じていたが、これほどまで彼女に求められている自分は幸せなのか。だが果たしてこれでいいのかという思いを抱いたところで、「支社長。こちらの書類が最後になります」と言われ、はっと目を覚ました。

司は今回の夢ばかりは早く覚めて欲しかった。
だから西田が書類を手にデスクの前に立っている姿にホッとした。
そして西田が「お顔の色が悪いようですが、どうかなさいましたか?」と訊いたが「なんでもない」と言って深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。






心臓が激しく鼓動を繰り返し、額に冷や汗が浮かんでいるのが感じられた。
今日の夢はこれまで見たものとは違い害のある恐ろしい夢だった。
それにしても何故こんな夢を見たのか分からなかった。

そして翌日恋人からのメールに書かれていたのは、『昨日はごめん。下痢でお腹が痛くて仕事に集中できなくてイライラしてたの』の言葉。
だから司は心配で仕事が終わると恋人の家に駆け付けた。

「大丈夫か?」

「うん。ごめんね心配かけて。おととい朝作ったお味噌汁を冷蔵庫に入れるの忘れてて、夜帰って飲んだらお腹壊したの。でももう大丈夫だから。でも念のためにヨーグルトを食べていい菌を増やさなくちゃね」

そう言った恋人がヨーグルトと一緒にテーブルの上に置いたのは、白い粉が入った小さな袋。それはまさに夢で見たものと同じもの。
だから司は冷たい恐怖を感じ戦慄を覚えた。
そして恋人は司が白い粉をじっと見つめている様子に言った。

「ああ、これ?これは今では手に入らないのよ。まさに伝説の白い粉よ」

『伝説の白い粉』
司は恋人が夢の中と同じ言葉を言っていることに驚愕した。
やはりあれは正夢だったのか。それにしても恋人はいつから薬物を使うようになったのか。
だがこの際いつからかはどうでもいい。それよりも一刻も早く止めさせなければならない。
そうだ。すぐに入院させて薬を抜かなければならない。そのためには今、目の前に置かれているそれを取り除かなければならなかった。
だから司はテーブルの上に置かれた小袋を取り上げた。

「ちょっと!何するのよ!」

恋人は驚いた様子で言った。
そんな恋人に司は真剣な顏で激しく詰め寄った。

「牧野。何するのってこれは何だよ?伝説の白い粉って、いったいこれは何なんだよ!お前、いつからこんなものを__」

すると恋人はきょとんとした顏で司に言った。

「え?これ?これ今は付いてないけど昔はプレーンヨーグルトには必ず付いていた砂糖だけど道明寺知らないの?ああ、そうよね。知らないわよね。知らなくて当然よね。だってあんた自分でヨーグルト買ったことがないものね?あのね、昔のプレーンヨーグルトってもの凄く酸っぱくて、添付された砂糖をかけなきゃ食べれなかったの。特に子供はそう。プレーンヨーグルトなんて子供にとっては酸味ばかりで全然美味しくなかった。
でもうちはママがその砂糖を使わせてくれなくてね。お菓子が入れられていた缶の中に取っておいたのよ。それでその砂糖を料理に使ったりしてたの。でもあたしこの砂糖が大好きでね。子供の頃、時々缶の中からこっそり取り出して食べてたの。でも見つかると叱られたわ。だから我が家ではこの砂糖は禁断の白い粉とも呼ばれてたわ。
それがこの前実家に帰って台所の整理をしてたら大量に出て来たから少し貰って来たの。だから今は付いてないプレーンヨーグルトにかけて食べようと思ったの」

司はそう言われて手にした小袋を見た。
するとそこには、『砂糖』と書かれていて、『この砂糖はグラニュー糖を砕いて溶け易く顆粒状にしたものです。ヨーグルト以外にもおいしくお使いいただけます』とあった。

「これ、そこに書いている通りグラニュー糖だから普通のお砂糖と違って口の中でフワッと溶けてお菓子を食べてるみたいで美味しかったのよね。だからこれ、子供の頃の思い出のひとつなの」









司の夢に出て来た禁断の白い粉であり伝説の白い粉。
それは恋人が子供の頃に味わった思い出の甘さ。
だから司も舐めた。
するとやはり砂糖は砂糖だ。甘いそのひと袋を食べろと言われれば拷問だと言えた。
だがそれでもその甘さが恋人の唇から感じられるなら、それは受け入れられる甘さだ。
そして司は気になっていたことを訊いた。
それは三流週刊誌に載った記事について。
だが恋人は笑って言った。

「あのね、道明寺。もう何年あんたの彼女やってると思うの?あんなのデタラメに決まってる。週刊誌の記事なんてあたしは全く気にしてないからね」

司の恋人は彼のことを信じている。
そして恋人は嘘つきは嫌いだ。
だから司は恋人に嘘をつくことはない。

「でも週刊詩の記事が本当だったらこのひと袋全部あんたの口の中に流し込むからね」

それは夢の中でもあった同じ光景。
そして司が嘘をつけば甘い罰が待っているということになるが、今はその甘い罰が欲しかった。
だから司の唇は、ヨーグルトを食べた彼女の唇の甘さを求めてゆっくりと重ねられた。




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コメント
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dot 2020.05.25 09:37 | 編集
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dot 2020.05.25 15:26 | 編集
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dot 2020.05.26 13:15 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
あはは。なんだか雲行きが怪しい話でしたね(;^ω^)
伝説の白い粉。そして禁断の白い粉は、かつてプレーンヨーグルトには必ず添付されていた砂糖でした。
司は甘いものが苦手ですから、口に直接あの砂糖を入れられるのは拷問に近いものがあるはずです(笑)

全国の緊急事態宣言が解除されましたね。
これからは、ますます気を付けての生活になると思います。
しかし、気温の上昇と共にマスクを付けていると暑さで苦しいですが、頑張りましょう!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.05.27 21:17 | 編集
ふ**ん様
「縄」でもうひとつ話?(≧▽≦)
興味はありますがスルーです‼
禁断の白い粉。伝説の白い粉は、かつてプレーンヨーグルトに添付されていた砂糖だった。
それを実家から貰って来た女。どれだけ甘いものが好きなのでしょうね。
そして、実はアカシアの手元にはその砂糖があります!(笑)過去のものがまだあります(笑)
あの砂糖はグラニュー糖でしたので、お菓子の甘さがあるんですよね。
ヨーグルトにフルーツを合わせて食べるのですが、あの砂糖をかけると美味しかったんです。
今のプレーンヨーグルトには添付されていませんが、理由としては最近のプレーンヨーグルトはあの頃あった酸味が無くなったこともあるのでしょうね。
え?「クリープ」の瓶からクリープを食べるお友達?
ほぼ食べ尽くした‼( ゚Д゚)凄いですね!
そして「ミロ」!懐かしい....確かに試供品でああいった粉を貰うと嬉しかったです。
まさにあれは神の粉でしたね。

さて、気温が上昇してまいりました。
調理した料理は忘れずに冷蔵庫にですね!
アカシアも気を付けます!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.05.27 21:40 | 編集
ふ*******マ様
色々と大変な世の中になりましたねえ。
それでも前を向いて進むしかないのですが、1日でも早く今の状況が終息を迎えることを願っています。
え?妄想が大人しい(笑)でもあの砂糖を口の中に注ぎ込まれる司にしてみれば、それはもう拷問です。
え?インドネシアの放置事件。どうやってベッドから脱出できたのか?(≧▽≦)
そうですね。あの時はマッパで手錠!(≧◇≦)真相解明したいですか?
ええっと....いつかあの時のことを司に語ってもらえる日が来る!と思ってお待ち下さい!(←本当?)
それにしても御曹司のインドネシアシリーズ(笑)いつの間にか新しいシリーズが出来てる!(笑)

気温の上昇と共に食品の傷みやすい季節がやって来ました。
つくしも残ったお味噌汁は冷蔵庫へ入れましょうね。
そしてヨーグルト。あの砂糖に懐かしさを感じているのはアカシアだけではなかったということが分かり嬉しいです!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.05.27 22:32 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
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