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2020
05.07

烈日 3

Category: 烈日(完)
「気付いていたわ。理香ちゃんがあそこにいたのは」

彼女は私があの場所にいたことに気付いていたと言った。
そして「ねえ甘いものでも食べましょう。ご馳走するから」とケーキを注文すると、私が食べ終わるのを待って「あの人は主人じゃないの」と言って語り始めたのは昔の恋の話だ。

それは16才の少女と17才の少年の恋。
自分を苛める少年が大嫌いだったと言った彼女は、やがて気付けば恋におちていたと言った。

「その人はお金持ちの家の息子で、屈折した考えの持ち主で、我儘で俺様な男。でも一途なところがある人で私が迷っているときいつも答えをくれた。私は昔から頑固なところがあるって言われていて、変なところでこだわり過ぎることがあったの。そんな私の考えを変えてくれたのが彼なの」

自分を変えてくれた男性との恋。
私はそういった恋をしたことがない。だから彼女が言ったことを理解することは難しい。
だが男と女の間には何だって起こり得ることは頭の中では分かっている。
けれど恋は脳の勘違いだという話もあるように、若い頃の恋というのは思い込みというものもあるはずだ。だが彼女の言葉から感じられるのは、決して思い込みではないということ。
そして人生が二度あれば、またきっと同じ人を好きになるはずだと言った。

ひとしきり、ふたりの出会いについて語った彼女は、言葉を途切らせるとコーヒーを口に運んだ。
それにしても、語られた話の中には、身分違いという言葉が今も存在することを証明するような下りもあった。それに、その年頃の少年と少女にはあり得ないような事も起きていた。
そんなふたりが一緒に過ごした時間は短く、少年が高校を卒業するとアメリカの大学へ進学したことで、ふたりはニューヨークと東京という遠い地で恋が成就されることを願った。
けれど、この恋は可能性のない恋だと、ふたりともどこかで分かっていて、そんなふたりが別れを決めたのは、男性が少年から青年になり大学を卒業してからだと言った。
そして1年後。男性は親の決めた相手と結婚をしたと言った。

「理香ちゃん。たとえどんなに裕福な暮らしをしていても、全てが自分の思い通りになる人は少ないと思うの。私は裕福な家庭に生まれなかったし、初めから人生が思い通りに行くとは思いもしなかった。でも彼は裕福だからこそ自分の思い通りにはならなかったわ。
何しろ彼の人生は自分だけの人生じゃなかったから。でもそれは付き合い始めた時から分かっていたことだったわ。でもね。それでもなんとかなる。彼は自分の人生だからなんとか出来ると思っていたわ。でもそれを許さない状況もある。だから私は彼と別れたの」

その言葉の裏に隠されているものは当事者でなくても察することが出来た。
道明寺司の政略結婚。それは会社が必要としていたものを得るために行われたビジネスであり、ふたりはそのために自分達を犠牲にしていた。
そして若いふたりの恋は封印され、彼女は30代で結婚したが、その結婚は恋愛感情から生まれた夫婦関係というより、ただの同居人のようなものだと言った。


「瞬く間に時が流れたとは言わないけど、それでもあっという間に40代を迎えたわ」

そして、古い恋の封印が解かれたのは、ホテルのロビーでの偶然の再会からだと言った。
そんな男と女の間に流れた時は四半世紀近い歳月だと言った。
だから、ふたりとも全てが昔のままだとは言えない容貌だったが、いくら時が流れてもあの頃の事がまるで絵に描いたように目の前に現れたと言った。
つまり、それほど互いの脳裡には、あの頃のふたりの姿が焼き付けられているということだ。

男性はその場で彼女に名刺を渡した。そしてふたりは連絡を取り合うようになり、短い時間でも会うようになった。やがてその時間が長くなり、肌を合わせるようになったが、彼女には夫がいる。それに相手にも妻がいる。だから彼女は二人の関係に罪の意識があった。罪悪感を抱いた。だが理性よりも心に重きを置いたのは、男性のことが好きだからだと言った。

それにしても何故彼女は、ふたりのことを私に話すのか。
絵画教室で一緒になっただけの若い女に、何故過去の恋について告白をするのか。
そして今のふたりの関係も。

私は砂浜で見たことを誰かに話すつもりはない。それは彼女の夫にも話すつもりはないということ。
だから、口止めをするための前置きとして、ふたりのことを話し始めたなら必要ないという思いで言った。

「つくしさん。何故ふたりのことを私に?私はおふたりのことを誰かに話すつもりはありません。もちろんご主人にも言いません。だから心配しないで下さい」

すると彼女は首を横に振って、「理香ちゃん。違うの。私がこんな話をするのは誰かに知って欲しかったからなの。私たちとは全く関係ない人に私たちがどんな風に出会って愛を重ねるようになったかを知って欲しかったからなの。そうすれば救われる気がするから」と言ったが、私は彼女が口にした救われるの意味が分からなかった。




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コメント
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dot 2020.05.07 09:42 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
えー。こちらのお話は短編ということもあり、多くを語ることが出来なくて申し訳ないです。
ただ言えるのは、短編です‼(笑)
あまり深く考えずに読み流して下さいね。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2020.05.07 22:33 | 編集
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