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2020
05.05

烈日 1

Category: 烈日(完)
< 烈日(れつじつ)>
こちらのお話は短編ですが明るいお話ではありません。
お読みになる方はその点をご留意下さい。
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私は知り合いの女性が亡くなったという知らせを受け葬儀に参列するため電車に乗った。
急な知らせで驚いたが、暫く顏を合わせてなかったことから、何かあったのではないかと心配していた矢先のことだった。

私がその女性と知り合ったのは街の絵画教室。
絵を描くことが好きな私は美術大学へ進学したが、大学を卒業するにあたり何を職業にするべきかを悩んだ。いや、正直に言えば悩む必要などなかった。早い段階で芸術とは別の道を歩まなければならないと分っていた。
つまり4年もたたない間に理解したのは、美大に入学できる才能はあっても、その才能で生きていけるのかと言えば、そうではないということだ。

それに芸術の世界に生きる人間は、男も女も彼らは持つ全てをその世界に投げうって生きている。
つまり彼らの精神も心も、目の輝きも発せられる言葉も、全てが芸術に傾けられ、別の世界に生きている。
だから彼らは日常の世界では見つけられない物を創作出来る。形を表現できる。人の心を揺さぶるような絵が描ける。
けれど私は彼らのように自分の持つ全てをその世界になげうってはいない。
いや。なげうっていないのではない。なげうつものがないだけの話だ。
つまり、ただ単に絵を描くのが好きなだけの私は絵描きになるには才能のない人間だったに過ぎなかった。

そして大学を卒業して就職したのは中堅クラスの広告代理店。
絵描きには向いてはいなかったが、それでも絵を描くことが好きな私は、そこで絵を描く仕事が出来るのではないかと思った。だが任されたのは広告の提案と企画であり、グラフィックアートを担当する人間は別にいた。
だから物足りなさを感じた私は、寝るだけの場所になっている家よりも、落ち着いて絵が描ける場所を借りるという意味で絵画教室に通うようになったが、そこで知り合ったのが彼女だ。

彼女の年齢は母親と同じほどではないかと、おおよその見当をつけていたが、本当の年齢は知らなかった。
けれど、亡くなったと連絡を受けたとき、はじめて彼女の年齢を知った。
50歳。母親よりも年上だった。だが彼女はその年齢には思えない若々しさがあった。色白で大きな黒い瞳には輝きがあった。背は高くはないが華奢な身体に弛みは感じられなかった。
それに世間一般的に言って、その年齢の女性から感じられるはずのない透明感というものが感じられた。

私は他人と親しくするのが苦手だ。
心の中をさらけ出して話をするということが苦手だ。
それに母親ほどの年齢の女性と個人的な付き合いをしたことが無かった。
だが何故か彼女とは気が合った。教室が終ってお茶を飲みに行くこともあった。これよかったら貰ってくれない?と言って庭で咲いたというバラの花を貰ったこともあった。一緒に展覧会へ出かけたこともあった。旅行に行ったからと言って、買ってきたお菓子を貰ったこともあった。
そうした時間の流れは2年で、私はこうして葬儀に向かいながら彼女に秘密を打ち明けられた日のことを思い出していた。




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コメント
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dot 2020.05.05 08:34 | 編集
司*****E様
どんな物語が始まるのかですか?
こちらは短編ですのですぐに終わります。
サラっと読み流して下さいませ^^

え?1000冊もあったんですね?凄いですねえ(@_@。
それだけあると、読みたい本を探すのが大変だったのでは?

さて。そろそろ頭を切り替えて、、、ということになりますが、感染拡大を防ぐための新しい生活様式を心掛けたいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.05.06 22:43 | 編集
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