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2020
04.08

Sometime It Snows in April

負けられない闘いがそこにある。
そう言ったのは誰か。
だが同時にこうも言った。
こんな時だから優しさが必要になると。
互いに思いやる気持ちが必要になると。

そして一騎当千と言われ、敵が多いほど燃える男がいる。
だが今回の敵は目に見えない敵。それはウイルス。
だからどんなに男が強くてもその敵と闘うことは出来ない。
そしてそのことを男も十分理解している。
だから今この状況で男が選んだのは、好きだから会わないという愛のカタチ。


「牧野。お前に確認したいことがある」

男はパソコンのモニターに映る恋人に話しかけた。

「うん?なに?」

「お前。手洗い、うがいはちゃんとしてるか?」

「大丈夫。ちゃんとしてるわよ?」

「それからしっかり寝てるか?」

「もちろんよ」

「常識の範囲内の行動を心掛けてるか?」

「うん。外出は生活必需品や食料品を買いに行くだけ。それに買い物を済ませたら真っ直ぐ帰ってるわ」

「誰かに誘われてもノーと答えてるか?」

「当然よ。それに誰に誘わるって言うのよ?」

モニターの中にいる恋人は笑った。

「類だ。あの男のことだ。お前のことが心配だ。うちに来ないかって誘ってんじゃねえのか?」

「もう…..何?この状況でやきもち焼かないでよね?」

「分かってる。冗談だ。それよりも距離を保ってるか?」

「ソーシャルディスタンスなら気を付けてるわ」

「そうか。俺はお前が元気でいてくれたらそれでいい」

司は恋人の言葉を訊いて安心した。
愛する人が健やかでいることが男の幸せ。
恋人とは、また会えばいい。
健康なデートが出来るようになれば、しっかりと触れ合えばいい。
その時に顏を寄せて思いっきりキスをすればいい。
密閉した空間で密接なコトをすればいい。
だからいつか来るその日まではパソコンのモニター上でしか会えないが、今はそれで充分だ。
だが、先の見えないこの状況に不安で気分が沈みがちになっていることは間違いない。
だから彼女の気持を和ませる話をすることにした。

「牧野。安心しろ。俺はウイルスに強い男を知ってる。その男はウイルスを倒した実績を数多く持っている。だからその男がこの状況を変えてくれるかもしれねえ」

「え?誰?そんな人がいるの?道明寺の知り合いなの?」

「ビル・ゲイツだ」

「ビル・ゲイツってあのビル・ゲイツ?」

その人物は誰もが一度は使ったことがあるソフトウェアを開発した会社の創業者で世界的な億万長者の慈善家。

「そうだ。あの男はこれまでずっとウイルスと闘ってきた。だからあの男ならウイルスを倒すことが出来るはずだ。と言ってもコンピューターウイルスだがな」

「もう!冗談ばっかり言うんだから!」

と、恋人は言ったが、司の話はあながち冗談とは言えなかった。
事実、あの男は自身が持つ財団がウイルスを撃退するワクチン工場建設に資金を投じていると言った。
そして道明寺財閥もグループの製薬会社が開発した抗インフルエンザウイルス薬が、問題のウイルスに効果があると言われていることから、増産するため設備投資を行うことを決めた。






「ねえ、道明寺」

「なんだ?」

「道明寺も気を付けてね?」

「ああ。もちろんだ」


ニューヨークにいる男は暫く帰国することはない。
それは愛する人のため。
愛する人を守るために今、自分が取らなければならない行動。

「牧野」

「うん?」

「もう寝ろ」

パソコンの向こう側にいる恋人は眠そうだった。
だから司はそう言って通信を終ろうとしたが、恋人はまだ何か言いたそうだった。
だから待った。

「どうした?俺に何か言いたいことがあるのか?」

「えっ?….うん、あのね、道明寺。あ….愛してるからね!それからあんたも早く寝てね?あ、今そっちは朝だったわね?ええっと….じゃあ今日も一日頑張ってね!」

言い終わると同時に切断された通信。

「__ったく勝手に切りやがって。俺の愛してるが言えなかっただろうが」

司の恋人は面と向かって愛という言葉を口にするのが苦手だ。
だから、そんな恋人の口から聞かされた愛してるの意味は大きい。

司はパソコンの隣に飾られている彼女の写真を手に取った。
その写真は今年の1月。司の誕生日に東京で写したもの。
笑いかけるその顏は夜空に輝く何千、何万の星よりも美しい輝き。
その笑顔があるから司は頑張れる。
その笑顔が自分に向けられるから生きていられる。
今はその笑顔に会うことに我慢が強いられたとしても、それは彼女のためであり、司のためでもある。
それに司はこの街で、ニューヨークで、社員の安全と生活を守る義務がある。

そしてペントハウスの窓の外に広がる青空がいつもよりも澄んで見えるのは、車の往来がないから。
それは折しも4月にあるユダヤ教の祭日である過越祭(すぎこしさい)の史実と言われるモーセの導きによってエジプトを脱出するイスラエルの民が疫病を過ぎ越すために家にいることを求められ出歩かなかったのと同じようだ。
だがここは世界のビジネスの中心ニューヨーク。
どんな状況にあっても経済は常に動いている。
だから司は頭を休めることは出来なかった。








4月に東京で雪が降ることはない。
だから恋人と会えないこの状況は東京に大雪が降ったと思えばいい。
いや。世界中に大雪が降ったと思えばいい。
だが4月の雪もいずれは溶けてなくなる日が来る。
いつかこの雪は溶けて、また暖かい太陽が顔を覗かせるはずだ。
そして司はそれを、いや、司だけでなく世界中の誰もがそれを願っているはずだ。
だからその日が来るまで健康でいれば、また会える。
明けない夜はないのだから。





< 完 > * Sometime It Snows in April  四月に雪が降ることもある*
色々と厳しい状況になってきました。憂鬱なことや表情が歪むこともあると思いますが、いつかこの状況は収束する。そう願っています。そしてその日が一日でも早く訪れますように。   アカシア
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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.04.08 06:33 | 編集
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dot 2020.04.09 17:39 | 編集
ゆ***ぎ様
お返事が遅くなりましたが、コメント有難うございます。
本当に気持が塞ぐ日々です。
今のこの状況が一日でも早く収束してくれればいいのですが、今はひとりひとりが自覚をもって行動する。それしかないと思っています。
こちらのお話を楽しんでいただき光栄です。ありがとうございましたm(__)m
アカシアdot 2020.04.15 21:24 | 編集
し*く様
お返事が遅くなりましたが、コメント有難うございます。
厳しい日が続いていますが、負けられない闘いを闘って下さっている方々に感謝しながらこの現状を乗り切るしかありません。
頑張りましょう!^^
アカシアdot 2020.04.15 21:29 | 編集
司*****E様
お返事が遅くなりました。m(__)m
コロナウイルス。先が見通せない状況になっていますが、いつかはこの状況から抜け出すことが出来るはず。そう願うしかないのですが本当にどうなるのでしょうか。
政治も経済も混乱していますが、この状況下で最悪の敵と闘っている方々に感謝しかありません。
そしてコメントを頂いた時よりも状況は悪くなっていますが、終息するためには、みんなで協力するしかありません。全てを自分事だと考えなければならない。そう思います。
アカシアも細心の注意を払って過ごしていますが、手を洗い過ぎてガサガサです(笑)
司*****E様もお気をつけてお過ごし下さいね^^
アカシアdot 2020.04.15 21:36 | 編集
め*様
お返事が遅くなりましたが、コメント有難うございます。
こんな時だからこそ、優しさが必要になることもありますよね?
そして心にゆとりを持ちたいと思うのですが、この状況ではそうはいかないこともあると思います。けれど明けない夜はない。そう思って頑張りましょう!
め*様もご自愛下さいませ^^
アカシアdot 2020.04.15 21:44 | 編集
ふ**ん様
お返事が遅くなりましたm(__)m
「愛してる」普段その言葉を口にすることがない女のひと言は司にとって大きいですねえ。
そして今のこの状況はコメントをいただいた時より悪くなっています。
終息はいつになるのか。見通しを立てることが難しいと言われています。
だからこそ愛する人のために取らなければいけないと言われる行動を取りたい。
細心の注意を払って行動するしかありませんが、不自由なことも不便なことも乗り越えるしかありませんよね?
そして、自助努力だけではどうにもならないことがある。だからこそ共助が必要だと思います。
頑張りましょう!^^
アカシアdot 2020.04.15 21:51 | 編集
L**A様
お返事が遅くなりましたが、コメント有難うございます。
坊っちゃんはニューヨーク暮らしが長くて四月の東京の雪を知らないようです(笑)
しかし、タイトル通り四月に雪が降ることもあるんですよね(笑)
そして、ふたりの会えないこの状況もいつかは終わる日が来る。
それが一日でも早く来ることを願っています^^
アカシアdot 2020.04.15 21:57 | 編集
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