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2020
03.11

また、恋が始まる 16

「アイツ….持ってたんだ」

つくしが手にしているのは、かつて男が見覚えが無いと言ったネックレス。
それは記憶の中に正しく位置付けられていて、男は、これは女性に買った初めてのプレゼントだと言った。
当時、道明寺邸に使用人として住み込んでいたつくしは、天体観測だと言われ男と共に夜空を眺めた。あのとき、キスされて床に押し倒されたが、キスされたことは嫌ではなかった。
ただ、いきなりロマンティックな局面に遭遇したことで慌てたが、こうして16年たって思うのは、あの日が恋のはじまりだったのかもしれないということ。
あのことをきっかけに自分の心に向き合うことを決め、2ケ月限定とはいえつき合うことを決めたのだから。

だが、ふたりは甘いラブストリーに縁がなかった。
だから、いくら男があの頃の記憶を蘇らせたとしても甘い記憶はないはずだ。
つまり、あの男が言う今も変わらない気持ちというのは、ただの情なのかもしれない。
情を恋だと勘違いしているのかもしれない。
何しろ恋は勘違いから始まると言われているのだからきっとそうだ。

「…….そうよ。気持はあの頃と変わらないなんて、あの男の勘違いよ」

それに未成年の恋は、はしかのようなものだ。
それは、10代の頃に付き合っていた男女の結ばれた確率の低さからも分かるが、多感な10代の頃に出会ったふたりの恋が運命の恋として結婚に繋がるのは、漫画やドラマや映画の世界だけの話で現実にあるとすれば余程ふたりの絆が強かった。もしくは本物の運命で結ばれている場合だけだ。

本物の運命。
もしふたりの間に本物の運命があると言うなら、神様は16年もつくしのことを忘れる男を彼女の運命の男として用意していたということになるが、それもどうかと思う。
けれど別れた恋人と数年経って再会し、よりが戻ったという話もある。
ただ、つくしの場合は別れたのではなく忘れられたということだが、この違いをどう取ればいいのか。

あの頃のつくしは、甘えるのが苦手で女らしさを出すことが嫌だった。
何かにつけ「あたしはそんな女じゃない」という態度を取り続けた。
素直になれない自分というのがいて意地を張っていた。歯向かってばかりいた。
そんな女が素直になれたのは、あの無人島だったが、16年経てば今もあの頃と同じで誰かに頼って生きることを望まない女がいた。
だがそれは自分の性格だと思っている。
それにくすぶっている気持ちを吐き出さずに吸い込んでしまう癖は昔のまま。
だから時々心の声が呟きになる。

「今更何なのよ….突然現れて好きだって言って….それにこんなところまで連れてきて….何がチャンスをくれよ…..」

つくしは、ネックレスの箱をテーブルの上に戻すと、ベッドルームへ向かった。














「つくしちゃん久し振り!」

「お、お姉さん!?」

翌朝部屋の扉を叩く音にあの男かと思えば、そこにいたのは男の姉。
男がつくしのことを忘れても、姉である椿は、まるで親戚のように彼女のことを気遣い、盆暮れ正月にはロスから贈り物が届いた。
だが、その気遣いが逆につくしの心を苦しめた。
それは弟思いの姉がつくしと話をする時必ず口にする言葉は、『ごめんね』だったから。

だが椿が悪いのではない。
それに男が悪いのでもない。
それなら恨みを持たれた道明寺財閥が悪いのか。
いや。そうではない。男の中にあったつくしの記憶が無くなったことは誰が悪いというものではない。
だから、そこまで気を遣って欲しくなかった。
けれど、つくしがカザフスタンで暮らすようになると、まるで彼女の気持ちを察したように、贈り物が届く回数が減り年に一度だけになったが、それはつくしの誕生日。
寒い国に暮らすつくしのために送られて来たのは、ダウンコートやムートンのブーツといった防寒具で実用的なそれらは嬉しかった。




椿はつくしの横を抜け部屋の中に入ってくると、「はいこれロスのお土産」と言って箱を差し出したが、それはこれまでも送られてきたことがあるチョコレートの箱。

「それにしても本当に久し振りよね?元気そうで良かったわ。つくしちゃん朝食まだよね?すぐに用意させるから一緒に食べましょう?」と言ったが、これは一体……

「あの。お姉さん?どうしてここに?」

「驚いた?実は司からつくしちゃんのことを思い出したって電話があってね?
つくしちゃんの心を自分に振り向けるためならどんなことでもするつもりだって言ったの。
それで会いに行くって言うから、てっきりカザフスタンにいると思うじゃない?それなのにキルギスにいるって言うから驚いたわ」

椿は言うと内線電話を見つけ手に取った。
そして英語でこの部屋に朝食を用意するように言ってから振り返った。

「ゴメンね。つくしちゃん。司がつくしちゃんを通訳としてこの国に連れて来たのはあの子の衝動なんでしょ?まあそれは仕方ないわよね。何しろ司はイノシシみたいに猪突猛進だから思い立ったら行動に移さないといられない性格だから。でもね、つくしちゃん。愛情に関してはオオカミよ。一度つがいになったら絶対に浮気なんかしないから。それにオオカミは群れで生活する動物でしょ?今のあの子なら自分の群れを守る力、つまり自分の大切な物を守る力は充分あるから何も心配はいらないわ」

つくしは椿が言っている意味が分からなかった。

「つくしちゃん。私ね、司がつくしちゃんのことを思い出して、つくしちゃんと一緒にキルギスにいるって訊いて、ここは私の出番だと思ったの。だから急いで飛んで来たの。
ほら、褒められた習慣じゃないけどこの国には誘拐婚の習慣があるでしょ?一族総出で誘拐してきた女性を説得して結婚させる習慣。私はつくしちゃんが妹になることは大賛成。この気持ちは16年前から同じよ。だからつくしちゃんを説得しに来たの。それから安心して。お母様も賛成しているから」

椿の母親。それは鉄の女と呼ばれる道明寺楓
つまり男の母親でもあるが、ふたりの交際に反対していた魔女が賛成している?
それはにわかには信じがたい言葉で耳を疑った。
いや、それ以前に椿がキルギスの伝統的な結婚方法を実行しようとしていることもだが、姉弟で罪を犯すことを何とも思っていないことに、この姉弟にはつくしが持つ常識は通用しないことを今更ながら理解した。

「あのね、つくしちゃん。母はあの当時司とつくしちゃんが付き合うことに反対していたけど、今は違うのよ?ひとり息子の司は女性と付き合うけど結婚する気は全くないでしょ?だからこのままじゃ家系が絶える。お母様はそれを心配しているの。ホント、うちの母親は勝手よね?でもね。本当はそれだけじゃないの。だってあの司がひとりの女性のために自分を変えようとした。自分を抑えようとしたのは後にも先にもつくしちゃんだけだもの。だから母も大人になった司を見てつくしちゃんとのことを考えたのよ。
つまりね。司の秘書の西田もだけど、道明寺のカザフスタンの駐在事務所に赴任させた社員のことも母が関係してるのよ?それにしてもまさかつくしちゃんが中央アジアの国に行くとは思いもしなかったけど」

椿の言うまさかは、つくしにとってもまさかだ。
そして椿は相変わらずよく喋り、つくしに口を挟ませようとはしない。

「でもね。分かるわ。司とは縁のない土地に行きたかったのよね?でもアルマトイには道明寺の駐在事務所があったのよ。仮にカザフスタンに駐在事務所がなかったら作ってたと思うけど、とにかく母も私も日本を出たつくしちゃんのことを見守ってたの。いつか司が自分を取り戻したとき、きっとまたつくしちゃんのことを求めるって分かってたから。
それにしても16年もかかるなんて、あの子バカじゃない?」

椿は様々な言葉で弟をなじった。
けれど、弟思いの姉はひといき息つくと諭すようにつくしに言った。

「つくしちゃん。あの子があなたのことに気付くのに時間はかかったけど、今の司の気持ちはあの頃と同じなの。だからもう一度司を見て欲しいの。でもつくしちゃんのことをこれだけ待たせたんだから、この先あの子にどんなことをしてもいいわ。殴っても蹴っても構わない。沢山お金を使わせてもいいわ。16年もあなたのことを忘れたあの子を簡単に許さなくていい。でもあの子を見捨てないでやって欲しいの。もう一度あの子を好きになって欲しいの。あの子と恋をして欲しいの。本音を言えばあの子を支えて欲しいの。出来ればこれから先の人生を一緒に歩んで欲しいの。あの子は人前では強気な態度を取るけどひとりになれば寂しがり屋よ。それは姉の私だから分かるの。何しろあの子を育てたのは私だから。
それに経営者は孤独な職業よ。どんなに周りに頭のいい人間がいて、どんなに支えてくれていても、最後の最後に決断するのはあの子。つくしちゃんにはそんなあの子の心の拠り所でいて欲しいの。支えて欲しいの。もちろんそれは出来ればの話だけど……」

一旦言葉を切った椿は、そこで少し沈黙した。

「それにつくしちゃんは….ごめね。これは姉の私の独りよがりな思いかもしれないけど、私はつくしちゃんが日本で過ごした11年を見てきたけど大学生の頃はアルバイトに励んで休日に過ごすことと言えば、ひとりで買い物に出掛けたりお友達とお茶をしたり。動物園に行ったりだった。それに社会人になってからも同じ。だから年頃の女性にしては余りにも寂しいって言ったら間違っているかもしれないけど、弟のことは別として男性の影がないことを心配もしたわ。それにF3との付き合いも遠のいたって言うのかしら。つくしちゃんはあの子たちといると司のことを思い出すから付き合いを止めたんだと気付いたわ」

椿は窓辺の丸テーブルの上に置かれている箱に気付くと言った。

「それからあのネックレスだけどあれは長い間私が保管していたの。でも2年前、司にこれ覚えてるって訊いたの。当然だけどその時はそんなもの知るかって全く興味を示さなかったわ。
でも物には魂が宿るって言うでしょ?丹念に作られたものや、思い入れがあるものには特にそう。あのネックレスは司がつくしちゃんのために特注で作らせたものでしょ?そんなネックレスにはつくしちゃんのことを好きだというあの頃の司の思いが込められている。だから私はネックレスがあの頃の司の思いを蘇らせてくれることを祈ってあの子の傍に置く事にしたの。ほら。あの子は占いでいうところの土星人でしょ?だから土星を形どっているネックレスをラッキーアイテムとして執務室に置きなさいって言ってね」

あのとき男は言った。
俺たちは土星人で運命共同体だと。
だから哀しいことがあればそれを分かち合おう。嬉しいことがあればその喜びを倍にしようと。だがそれらを分かち合うことは実際には出来なかった。

「それから司がつくしちゃんのことを思い出したのは執務室よ。きっとあのネックレスが語りかけたんだと思うの。自分がいるのはこんなところじゃない。自分がいる場所は牧野つくしの傍だってね。だから私は司をカザフスタンに行かせたのはあのネックレスだと思ってるの。あのネックレスに込められたあの頃の司のつくしちゃんに対する思いが司の記憶を蘇らせ導いたんだわ。でもそうと分かってたらもっと早くあの子の傍にネックレスを置いていたわ」

椿は後悔と自責の念にかられたように言ったが、あのネックレスにそんな力があるとは思えなかった。
けれど、人が何かに頼りたいと思うことを否定することは出来ない。

「それにあのネックレスは止まってしまったふたりの運命の歯車を動かそうとしている。そう感じたの。だからつくしちゃん….司のこと。もう一度考えてくれないかしら?」





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皆様、沢山の拍手とコメントをありがとうございました。
個別にお返事を差し上げたい思いなのですが、こちらで失礼いたします。
皆様からの沢山のご感想と共に、どのような思いでアカシアの話を読んで下さっているかを知りパワーをいただきました。
つきましては、こちらの話を終えるように筆を進めたいと思います。
その後ですが、こちらのお部屋では短い話をと考えております。
そしてゆっくりとですが、別部屋の話も進めていきたいと思います。
コロナ疲れもある中、お気遣い下さった皆様ありがとうございました。
アカシア
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コメント
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2020.03.11 08:59 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.03.11 09:19 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.03.11 10:44 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.03.11 21:58 | 編集
の**様
はじめまして^^
お気遣いありがとうございます。
こちらの話も間もなく終わりますが楽しんでいただけるように最後まで書きたいと思います。
ご声援ありがとうございました。

アカシアdot 2020.03.13 23:02 | 編集
み***ん様
おはようございます^^
>少し悲しい二人...そんな話も楽しんでいただけて嬉しいです。
こちらの話はもう間もなく終わりますが、楽しんでいただけるように最後まで書きたいと思います。
そして別部屋の話もそろそろ進めたいと思ってます。
ご声援ありがとうございました^^
アカシアdot 2020.03.13 23:08 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
司にとって椿さんは最強の味方。
やはり姉は頼りになりますね?(笑)
それにしても司の本能は帰巣本能とでも言うのでしょうか(笑)
つくしの元へ戻る。つくしとやり直すこと以外考えていません。
細胞が覚えているにしても凄い男です(笑)
さて、こちらの話も終わりが近づいてきました。
最後まで楽しんでいただけるといいのですが...。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.03.13 23:14 | 編集
ゆ***ん様
はじめまして^^
「また、恋が始まる」を楽しんでいただけて嬉しいです。
そして他の話も読んで下さっているのですね?
ありがとうございます!
読めそうにないと思われた時は、お控え下さいね。
ひとつでも、ゆ***ん様の心に残る話があればアカシア大変嬉しいです。
ご声援ありがとうございました^^
アカシアdot 2020.03.13 23:22 | 編集
m**i様
待っていると言っていただけることが嬉しいです。
どうもありがとうございます。
そしてご声援ありがとうございました^^
アカシアdot 2020.03.13 23:28 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
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