黒い切れ長の目がつくしを見つめている。
そして男の口から語られるのは誉め言葉であり女性なら言われたら嬉しい言葉。
ましてや、道明寺司のような男から言われれば間違いなく飛び上がって喜ぶ言葉だ。
けれど、つくしはその言葉を素直に訊くことが出来なかった。
「す、好きだを言えば何でも許されると思ってるなら大間違いよ!」
「じゃあ愛してる。惚れてる。とにかく俺はお前のことが好きだ。お前という存在に惚れてる。真っ直ぐな瞳で俺を見つめる顏も好きだが、どんな顏だろうがどんな姿だろうが構わねえのが本音だ。だってそうだろ?どんな顏形だろうとお前の本質は変わりようがない。
こうして16年経って会ってみればそれを実感した。牧野つくしは牧野つくし以外になりようがないってことをな」
司は、そこで一旦言葉を切ったが話を続けた。
「なあ、牧野。そうカッカするな。男からの愛の告白にそんなに怒る女がどこにいる?」
つくしはここに居ると言いたかった。
けれど、どうしてこんなに自分は怒っているのか。
道明寺司は昔の恋人で、つくしを忘れた男で、長い間会うことのなかった男であって、今のふたりがこうして会っているのは、たまたま男がつくしのことを思い出したからであって、もし思い出さなければこうして会うこともなかった男だ。
だからそんな男が突然現れ、さもつくしの事を分かったような眼差しで見ていることが憎らしいのだ。
「牧野」
「何よ…」
「唇を噛むな」
「噛んでなんかないわよ!」
だがつくしは無意識のうちに唇を噛んでいて、言われるまで気づかなかった。
「いいや噛んでる。それにしてもお前は相変わらず忙しい女だな。怒ってたと思えば今度は悔しがる。ま、コロコロと変わる表情はあの頃と比べりゃ多少大人になってるが何が悔しいんだか知らねえけどそんなに悔しがる必要はねえだろ?」
「べ、別に悔しがってなんかないわよ!」
だが言われる通り何が悔しいのか分からないが、悔しいという感情はつくしの中にあった。
それに大人になった男にはつくしにはない余裕がある。
それは大勢とは言わなくても女性との噂が絶えなかった男の経験がそうさせるのか。
けれどつくしは、高校生だったあの頃と同じ。
いや、それ以下で男を前に小学生並にまごついていた。
「牧野。俺はお前をここに連れて来たことがお前の意思に反していることは分かってる。
だからこれ以上力技を使うつもりはない。けど俺のお前に対する思いを伝えることを止めるつもりはない。だからもう一度俺を見て欲しい。俺はお前以外の女は欲しくない。誰よりもお前のことが好きだ。だからチャンスをくれ」
つくしは数を10まで数えた。
そして意を決したように扉を開けたが、そこはこの邸でのつくしの部屋。
そこは、リビングルームなのか。中央にはテーブルとソファが置かれ、窓際の小さな丸テーブルの上にはクリスタルの花瓶に赤いバラの花が活けられていた。そして部屋の奥の開かれた扉の向こうにベッドが見えたことから、そこがベッドルームであることが分かった。
10まで数を数えたのは何故か緊張していたから。
ふたりの距離を縮めたいと思う男の頭の中に何があるか分からないという思いがそうさせたが、男は「お前がもう一度を俺を好きになるためのチャンスが欲しい」と言い部屋の前までつくしを連れてくると、「お前の鞄はこの部屋の中にある」と言って背中を向けた。
だから何かを心配する必要はないはずだ。
鞄は確かに部屋の中にあった。
だからつくしはソファに近づくと、置かれていた鞄の中を確かめた。
中には財布や携帯電話やパスポートが入っていた。宿泊を伴う旅ではなかったことから他に荷物は無かったが、あの男のことだ。きっと女性に必要なものは用意してあるはずだ。
つくしは昔から恋に不器用だった。
だからこれまで誰とも付き合ったことがない。
あの男を除いては。
だから、好きだ。あの頃と変わらない気持ちでいる。と言われ、どぎまぎとする心中と自分の経験の無さを誤魔化すことでいっぱい、いっぱいだった。
つまり、恋に関してはあの頃と同じで進歩がないということ。
だから、あの頃の思い出が入り交じって感情的に対応してしまった。
そして16年たった今。キスされて無人島でした最後のキスを思い出していた。
沼に落ちたつくしを助けるため飛び込んだ男は、助け出すと離れるのは嫌だと言った彼女を抱きしめてキスをした。だが男は港で暴漢に刺され、つくしのことを忘れた。
あの事件から16年経ち、仕事に没頭することで忘れようとしていたあの島での出来事。
けれど男は、あの島で見せたのと同じ決意みなぎる眼差しを持ってつくしの前に戻ってきた。
「なんで今になって現れるのよ」
そう呟いたつくしは窓際の丸テーブルの上に箱が置かれているのに気付いた。
それは正方形の小さな箱で見覚えがあった。
だから思わず手に取って蓋を開けたが中には思っていた通りの物が入っていた。
それは、つくしが男に返したネックレスだった。

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そして男の口から語られるのは誉め言葉であり女性なら言われたら嬉しい言葉。
ましてや、道明寺司のような男から言われれば間違いなく飛び上がって喜ぶ言葉だ。
けれど、つくしはその言葉を素直に訊くことが出来なかった。
「す、好きだを言えば何でも許されると思ってるなら大間違いよ!」
「じゃあ愛してる。惚れてる。とにかく俺はお前のことが好きだ。お前という存在に惚れてる。真っ直ぐな瞳で俺を見つめる顏も好きだが、どんな顏だろうがどんな姿だろうが構わねえのが本音だ。だってそうだろ?どんな顏形だろうとお前の本質は変わりようがない。
こうして16年経って会ってみればそれを実感した。牧野つくしは牧野つくし以外になりようがないってことをな」
司は、そこで一旦言葉を切ったが話を続けた。
「なあ、牧野。そうカッカするな。男からの愛の告白にそんなに怒る女がどこにいる?」
つくしはここに居ると言いたかった。
けれど、どうしてこんなに自分は怒っているのか。
道明寺司は昔の恋人で、つくしを忘れた男で、長い間会うことのなかった男であって、今のふたりがこうして会っているのは、たまたま男がつくしのことを思い出したからであって、もし思い出さなければこうして会うこともなかった男だ。
だからそんな男が突然現れ、さもつくしの事を分かったような眼差しで見ていることが憎らしいのだ。
「牧野」
「何よ…」
「唇を噛むな」
「噛んでなんかないわよ!」
だがつくしは無意識のうちに唇を噛んでいて、言われるまで気づかなかった。
「いいや噛んでる。それにしてもお前は相変わらず忙しい女だな。怒ってたと思えば今度は悔しがる。ま、コロコロと変わる表情はあの頃と比べりゃ多少大人になってるが何が悔しいんだか知らねえけどそんなに悔しがる必要はねえだろ?」
「べ、別に悔しがってなんかないわよ!」
だが言われる通り何が悔しいのか分からないが、悔しいという感情はつくしの中にあった。
それに大人になった男にはつくしにはない余裕がある。
それは大勢とは言わなくても女性との噂が絶えなかった男の経験がそうさせるのか。
けれどつくしは、高校生だったあの頃と同じ。
いや、それ以下で男を前に小学生並にまごついていた。
「牧野。俺はお前をここに連れて来たことがお前の意思に反していることは分かってる。
だからこれ以上力技を使うつもりはない。けど俺のお前に対する思いを伝えることを止めるつもりはない。だからもう一度俺を見て欲しい。俺はお前以外の女は欲しくない。誰よりもお前のことが好きだ。だからチャンスをくれ」
つくしは数を10まで数えた。
そして意を決したように扉を開けたが、そこはこの邸でのつくしの部屋。
そこは、リビングルームなのか。中央にはテーブルとソファが置かれ、窓際の小さな丸テーブルの上にはクリスタルの花瓶に赤いバラの花が活けられていた。そして部屋の奥の開かれた扉の向こうにベッドが見えたことから、そこがベッドルームであることが分かった。
10まで数を数えたのは何故か緊張していたから。
ふたりの距離を縮めたいと思う男の頭の中に何があるか分からないという思いがそうさせたが、男は「お前がもう一度を俺を好きになるためのチャンスが欲しい」と言い部屋の前までつくしを連れてくると、「お前の鞄はこの部屋の中にある」と言って背中を向けた。
だから何かを心配する必要はないはずだ。
鞄は確かに部屋の中にあった。
だからつくしはソファに近づくと、置かれていた鞄の中を確かめた。
中には財布や携帯電話やパスポートが入っていた。宿泊を伴う旅ではなかったことから他に荷物は無かったが、あの男のことだ。きっと女性に必要なものは用意してあるはずだ。
つくしは昔から恋に不器用だった。
だからこれまで誰とも付き合ったことがない。
あの男を除いては。
だから、好きだ。あの頃と変わらない気持ちでいる。と言われ、どぎまぎとする心中と自分の経験の無さを誤魔化すことでいっぱい、いっぱいだった。
つまり、恋に関してはあの頃と同じで進歩がないということ。
だから、あの頃の思い出が入り交じって感情的に対応してしまった。
そして16年たった今。キスされて無人島でした最後のキスを思い出していた。
沼に落ちたつくしを助けるため飛び込んだ男は、助け出すと離れるのは嫌だと言った彼女を抱きしめてキスをした。だが男は港で暴漢に刺され、つくしのことを忘れた。
あの事件から16年経ち、仕事に没頭することで忘れようとしていたあの島での出来事。
けれど男は、あの島で見せたのと同じ決意みなぎる眼差しを持ってつくしの前に戻ってきた。
「なんで今になって現れるのよ」
そう呟いたつくしは窓際の丸テーブルの上に箱が置かれているのに気付いた。
それは正方形の小さな箱で見覚えがあった。
だから思わず手に取って蓋を開けたが中には思っていた通りの物が入っていた。
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