車は信号待ちで止まっていた。
司は彼女が教会の前にいる花婿と花嫁を見ている様子を見つめていた。
その姿は、ただぼんやりと窓の外を見ているようでそうではないと感じたのは、それまで開かれていた彼女の手がキュッと握られたからだ。
それは何の意味も持たないことだとしても、司には意味があるように思えた。
彼女が握りしめている手は司が掴もうとして掴むことが出来なかった手だ。
その指に永遠の愛を誓う指輪を嵌めるつもりでいた。けれど、彼女のことを忘れたことでその思いが叶うことはなかった。
だがこうして彼女のことを思い出した以上その指に自分の指輪を嵌めたい。
司のことを好きだと言ってくれた少女の指に永遠の絆の印を与えたかった。
だがあれから16年が経つ。
ふたりの間にある16年という歳月は高いハードルで重すぎる歳月。
だが司はこれまで飛び越えることは難しいと言われるハードルも飛び越えてきた。
しかし、このハードルを飛び越えるのは簡単ではない。
それに何ごともなかったようにあの頃に戻れるとは思ってはいない。
そして思うのはあの時、将来を誓ったからといって上手くいったのかと言えば、若い二人が向かい合って恋愛の結論を出すには早すぎたのかもしれないということ。だから運命はふたりが共に過ごす時間を奪ったのではないか。だが本当にそう考えているかと言えば違う。
それは16年もの間彼女を忘れていたことの言い訳に過ぎない。
だから長い時を経て彼女のことを思い出し、こうしてふたりでいれば、あの頃より彼女を思う気持ちは強い。つまり、彼女を誰にも渡したくはないという思いは強かった。
そしてどうしても訊きたいことがあった。
この国の花婿と花嫁が写真撮影のためポーズをとる様子を見つめている彼女に。
「牧野。お前。なんでその年になるまで結婚しなかった?」
「え…..?」
男の声はつくしのすぐ近くから聞こえた。
だから慌てて横を向いたとき、すぐそこに男の端正な顏があって近すぎて息を呑んだ。
「お前。なんでまだひとりなんだ?」
「な、何よ。急に….」
「お前、誰かと付き合うことを考えたことがないって言ったが、結婚することを考えたことはないのか?なんでまだひとりなんだ?もしかして俺のことを待ってたのか?」
司は更に彼女顏を近づけた。
そして彼女の目に視線を据えた。
「な、何言ってるのよ。ち、違うわよ!あたしはアンタのことなんて待ってないわよ!」
「それならなんで結婚しなかった?」
「うるさいわね…..あたしの結婚はアンタに関係ないでしょ?」
「いいや。関係ある。俺はお前のことを思い出した時、もしかするとお前は結婚しているかもしれない。結婚していてもおかしくないと思った。けど独身だと訊いてホッとした。けどお前に会いに来てみれば妻子ある男と付き合ってると思った。ああ、分かってる。それが勘違いだったってことは。
けど何でお前は結婚してないんだ?なんでまだひとりなんだって思ったら俺のことを待っててくれたんじゃねえかって。だから_」
――――だから、お前。まだ俺のことを愛しているんだろ?
司は心の中から溢れてきたその言葉を口にしようとした。
だが目の前にいる女は、まっすぐ司の目を見て言った。
「だから何よ?いい?よく訊いて。あたしはアンタのことなんて待ってない。アンタとはあの時、お邸にネックレスを返しに行ったときに終わった。あの時アンタはあたしに向かって二度とここに来るなって言った。
それに大体ひとのこと16年も忘れてたアンタにあたしがどうして結婚してないって訊く権利なんてない!」
彼女は言うと顏を窓の外に向けた。
そして司の方を見ようとはしなかった。
どこの国でも大統領と呼ばれる人間にはカリスマ性がある。
その大統領が「ようこそ我が国へ」と言って男に手を差しだした。
そして相手がどこの国の大統領だろうと臆することの無い男はその手を握ると、つくしのことを「私の通訳の牧野つくしです」と紹介して腰を下ろすと話し始めたが、その口から出たのは英語。そして相手の大統領も英語で答えた。
つまりふたりとも流暢に英語を話し、通訳は必要ないということ。
だからつくしは、男の左斜め後ろでふたりの話を訊いていたが、男の態度はアルマトイ市長との面会とは異なり、道明寺の副社長としての立場を忘れてはいないようだ。
だからつくしは、これならおかしなことを言い出さないはずだとホッとしていた。

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司は彼女が教会の前にいる花婿と花嫁を見ている様子を見つめていた。
その姿は、ただぼんやりと窓の外を見ているようでそうではないと感じたのは、それまで開かれていた彼女の手がキュッと握られたからだ。
それは何の意味も持たないことだとしても、司には意味があるように思えた。
彼女が握りしめている手は司が掴もうとして掴むことが出来なかった手だ。
その指に永遠の愛を誓う指輪を嵌めるつもりでいた。けれど、彼女のことを忘れたことでその思いが叶うことはなかった。
だがこうして彼女のことを思い出した以上その指に自分の指輪を嵌めたい。
司のことを好きだと言ってくれた少女の指に永遠の絆の印を与えたかった。
だがあれから16年が経つ。
ふたりの間にある16年という歳月は高いハードルで重すぎる歳月。
だが司はこれまで飛び越えることは難しいと言われるハードルも飛び越えてきた。
しかし、このハードルを飛び越えるのは簡単ではない。
それに何ごともなかったようにあの頃に戻れるとは思ってはいない。
そして思うのはあの時、将来を誓ったからといって上手くいったのかと言えば、若い二人が向かい合って恋愛の結論を出すには早すぎたのかもしれないということ。だから運命はふたりが共に過ごす時間を奪ったのではないか。だが本当にそう考えているかと言えば違う。
それは16年もの間彼女を忘れていたことの言い訳に過ぎない。
だから長い時を経て彼女のことを思い出し、こうしてふたりでいれば、あの頃より彼女を思う気持ちは強い。つまり、彼女を誰にも渡したくはないという思いは強かった。
そしてどうしても訊きたいことがあった。
この国の花婿と花嫁が写真撮影のためポーズをとる様子を見つめている彼女に。
「牧野。お前。なんでその年になるまで結婚しなかった?」
「え…..?」
男の声はつくしのすぐ近くから聞こえた。
だから慌てて横を向いたとき、すぐそこに男の端正な顏があって近すぎて息を呑んだ。
「お前。なんでまだひとりなんだ?」
「な、何よ。急に….」
「お前、誰かと付き合うことを考えたことがないって言ったが、結婚することを考えたことはないのか?なんでまだひとりなんだ?もしかして俺のことを待ってたのか?」
司は更に彼女顏を近づけた。
そして彼女の目に視線を据えた。
「な、何言ってるのよ。ち、違うわよ!あたしはアンタのことなんて待ってないわよ!」
「それならなんで結婚しなかった?」
「うるさいわね…..あたしの結婚はアンタに関係ないでしょ?」
「いいや。関係ある。俺はお前のことを思い出した時、もしかするとお前は結婚しているかもしれない。結婚していてもおかしくないと思った。けど独身だと訊いてホッとした。けどお前に会いに来てみれば妻子ある男と付き合ってると思った。ああ、分かってる。それが勘違いだったってことは。
けど何でお前は結婚してないんだ?なんでまだひとりなんだって思ったら俺のことを待っててくれたんじゃねえかって。だから_」
――――だから、お前。まだ俺のことを愛しているんだろ?
司は心の中から溢れてきたその言葉を口にしようとした。
だが目の前にいる女は、まっすぐ司の目を見て言った。
「だから何よ?いい?よく訊いて。あたしはアンタのことなんて待ってない。アンタとはあの時、お邸にネックレスを返しに行ったときに終わった。あの時アンタはあたしに向かって二度とここに来るなって言った。
それに大体ひとのこと16年も忘れてたアンタにあたしがどうして結婚してないって訊く権利なんてない!」
彼女は言うと顏を窓の外に向けた。
そして司の方を見ようとはしなかった。
どこの国でも大統領と呼ばれる人間にはカリスマ性がある。
その大統領が「ようこそ我が国へ」と言って男に手を差しだした。
そして相手がどこの国の大統領だろうと臆することの無い男はその手を握ると、つくしのことを「私の通訳の牧野つくしです」と紹介して腰を下ろすと話し始めたが、その口から出たのは英語。そして相手の大統領も英語で答えた。
つまりふたりとも流暢に英語を話し、通訳は必要ないということ。
だからつくしは、男の左斜め後ろでふたりの話を訊いていたが、男の態度はアルマトイ市長との面会とは異なり、道明寺の副社長としての立場を忘れてはいないようだ。
だからつくしは、これならおかしなことを言い出さないはずだとホッとしていた。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
つくしの通訳が必要な事もなく、このままいけばスムーズに終わるはず....
どうなんでしょう(笑)終わるのでしょうか(笑)
買えたんですね!良かったですねえ。
確かに品薄になっていますよねえ。
本日もドラッグストアに立ち寄りましたが棚はカラッポでした。
そんな状況を目の当たりにすると、いくら国内在庫はあると言われても不安な気持ちになりますよね。
感染拡大に終息の気配が見えないこの状況に閉塞感は増すばかりですが、こちらのお話は明るいコメディ調に書いています。
そんなお話を楽しんで頂ければ幸いです。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
つくしの通訳が必要な事もなく、このままいけばスムーズに終わるはず....
どうなんでしょう(笑)終わるのでしょうか(笑)
買えたんですね!良かったですねえ。
確かに品薄になっていますよねえ。
本日もドラッグストアに立ち寄りましたが棚はカラッポでした。
そんな状況を目の当たりにすると、いくら国内在庫はあると言われても不安な気持ちになりますよね。
感染拡大に終息の気配が見えないこの状況に閉塞感は増すばかりですが、こちらのお話は明るいコメディ調に書いています。
そんなお話を楽しんで頂ければ幸いです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.03.04 23:12 | 編集
