アルマトイからキルギスの首都、ビシュケクまでジェットでの移動は約45分。
離陸したかと思ったらあっという間に着陸した。
つくしは、この街に来たことがある。その時は乗り合いバンで陸路国境を越えたが移動に4時間かかった。
そしてその時窓から見たのは広い草原。山と草原の国と呼ばれるキルギスは中央アジアのスイスと呼ばれているが、札幌と同じ緯度のビシュケクは緑の溢れるのんびりとした街だった。
空港に迎えに来ていた車は2台。1台目の車に乗り込んだのは、副社長とつくしと運転手の隣にボディガード。西田と高橋と他のボディガードは2台目の車に乗ったが、機内で西田からこれから会う相手が変更になり大統領になったと訊かされた。
「高橋からお知らせしていたように当初は首相と面会する予定でしたが、大統領がどうしても副社長に会いたいとスケジュールを調整されたそうです。何しろ世界的な企業である道明寺グループの副社長が、突然この国を訪れることに驚かれているようですが、これまで日本はこの国の発展のため有償無償問わず援助をしてきました。大統領としては今後も日本からの援助を期待することもですが、我社にこの国へ投資してくれるように訴えたいのでしょう」
日本の国土の約半分の面積のキルギスは資源が貧しい国だ。
だから海外からの投資を呼び込もうにも魅力に欠ける。だからこそ大統領自らが世界的企業のトップに会いたいと望んだのだろう。
それにしても面会相手が大統領に変更になったことには驚いた。
だが相手が誰になったとしても通訳としての仕事を全うすればいい。
それに今回は相手が国の要人ともなれば、その人物の傍には日本語の通訳がいて、男が話す日本語は、その通訳が大統領に伝え、つくしは大統領が言った言葉だけを男の耳に伝えることになるはずだ。
だが突然のことで日本語の通訳が手配できないことも想定されるが、あらかじめ首相と面会することが分かっていたから、会う前にやっておかなくてはならないことをメモしていた。
それはアルマトイの市長との面会の時のように、相手が日本語を理解できないことをいいことに、延々とつくしに対する思いを口にするということ。
だから今回もあの時と同じようなことを言い出すなら、それなりの答えを用意しておかなければ、国としての日本が恥をかくように思え、念のためという思いから道明寺の副社長に恥ずかしくない言葉を用意していた。
そしてやはり頭を過るのは、アルマトイの市長と会った日のことだ。
「……まったくこの男は何を考えてるのか。副社長としての自覚をニューヨークに置き忘れてきたんじゃないの?」
「何か言ったか?」
「いいえ。なにも」
つくしは小さく呟いてから強く否定した。
そして窓の外に目をやったが、無いとは思いながらも、あの日と同じことが起きないように念を押さなければと視線を隣の男に向けた。
「道明寺副社長。先日の市長との会談の時のようなことが起きないようにくれぐれもよろしくお願いします」
言われた男は、つくしに目を合わせると言った。
「ああ。分かってる。あの時は悪かった。お前に会って嬉しくなって気持ちが先走った。
だがこれだけは分かって欲しい。あれは決してふざけてたんじゃない。俺はお前とやり直したいと心から思っている。その思いが止められなかった。
それにお前が妻子のある男と付き合っていると思ったのは俺の勘違いだ。悪かった」
その言葉は何故か心からの言葉に思えつくしを驚かせた。
何故なら男がまだ少年で俺様だった頃。自分の好意が報われなかったとき、その鬱憤を他人にぶつけるようなところがあったからだ。
だが今隣にいる男の態度は真摯に感じられた。
そして機内でもそうだったが、隣にいる男はあの時とは打って変わって無口だった。
だがその態度に何かよからぬことを考えているのではないかと思ってしまうのは考え過ぎなのか。
「どうした?俺の顏に何か付いてるか?」
そう言われて、つくしは自分がじっと男の顏を見つめていたことに気付くと慌てて前を向いた。
「いいえ。眉と目と鼻と口以外何もついていません」
「そうか。ならいい。今の俺に必要なのはお前を見つめることが出来る目と、お前の匂いを感じることが出来る鼻と、キスできる唇があればそれでいいんだからな」と男は言ったが、その言葉には笑みが含まれていた。
やはりこの男は何を考えているか分かったものじゃない。
まかり間違って大統領の前で、つくしに対しての思いを口にし始めれば大変なことになることを理解しているのか。
だがつくしは何も言わなかった。自分は通訳としての仕事をいつもと同じようにすればいい。それに男が言いたいことがあるなら言えばいい。
この男の口から語られる言葉を訳すことで自分が恥ずかしい思いをしたとしても、恋愛映画の翻訳をしていると思えばいい。
そんなことを考えながら視線を窓の外に向けた。
するとそこに見えたのはロシア正教会の建物。
キルギスの主な宗教はイスラム教だが、ロシア正教の結婚式を終えたのだろうか。教会の前で写真を撮るためポーズをとる花婿と花嫁の姿が見えた。

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離陸したかと思ったらあっという間に着陸した。
つくしは、この街に来たことがある。その時は乗り合いバンで陸路国境を越えたが移動に4時間かかった。
そしてその時窓から見たのは広い草原。山と草原の国と呼ばれるキルギスは中央アジアのスイスと呼ばれているが、札幌と同じ緯度のビシュケクは緑の溢れるのんびりとした街だった。
空港に迎えに来ていた車は2台。1台目の車に乗り込んだのは、副社長とつくしと運転手の隣にボディガード。西田と高橋と他のボディガードは2台目の車に乗ったが、機内で西田からこれから会う相手が変更になり大統領になったと訊かされた。
「高橋からお知らせしていたように当初は首相と面会する予定でしたが、大統領がどうしても副社長に会いたいとスケジュールを調整されたそうです。何しろ世界的な企業である道明寺グループの副社長が、突然この国を訪れることに驚かれているようですが、これまで日本はこの国の発展のため有償無償問わず援助をしてきました。大統領としては今後も日本からの援助を期待することもですが、我社にこの国へ投資してくれるように訴えたいのでしょう」
日本の国土の約半分の面積のキルギスは資源が貧しい国だ。
だから海外からの投資を呼び込もうにも魅力に欠ける。だからこそ大統領自らが世界的企業のトップに会いたいと望んだのだろう。
それにしても面会相手が大統領に変更になったことには驚いた。
だが相手が誰になったとしても通訳としての仕事を全うすればいい。
それに今回は相手が国の要人ともなれば、その人物の傍には日本語の通訳がいて、男が話す日本語は、その通訳が大統領に伝え、つくしは大統領が言った言葉だけを男の耳に伝えることになるはずだ。
だが突然のことで日本語の通訳が手配できないことも想定されるが、あらかじめ首相と面会することが分かっていたから、会う前にやっておかなくてはならないことをメモしていた。
それはアルマトイの市長との面会の時のように、相手が日本語を理解できないことをいいことに、延々とつくしに対する思いを口にするということ。
だから今回もあの時と同じようなことを言い出すなら、それなりの答えを用意しておかなければ、国としての日本が恥をかくように思え、念のためという思いから道明寺の副社長に恥ずかしくない言葉を用意していた。
そしてやはり頭を過るのは、アルマトイの市長と会った日のことだ。
「……まったくこの男は何を考えてるのか。副社長としての自覚をニューヨークに置き忘れてきたんじゃないの?」
「何か言ったか?」
「いいえ。なにも」
つくしは小さく呟いてから強く否定した。
そして窓の外に目をやったが、無いとは思いながらも、あの日と同じことが起きないように念を押さなければと視線を隣の男に向けた。
「道明寺副社長。先日の市長との会談の時のようなことが起きないようにくれぐれもよろしくお願いします」
言われた男は、つくしに目を合わせると言った。
「ああ。分かってる。あの時は悪かった。お前に会って嬉しくなって気持ちが先走った。
だがこれだけは分かって欲しい。あれは決してふざけてたんじゃない。俺はお前とやり直したいと心から思っている。その思いが止められなかった。
それにお前が妻子のある男と付き合っていると思ったのは俺の勘違いだ。悪かった」
その言葉は何故か心からの言葉に思えつくしを驚かせた。
何故なら男がまだ少年で俺様だった頃。自分の好意が報われなかったとき、その鬱憤を他人にぶつけるようなところがあったからだ。
だが今隣にいる男の態度は真摯に感じられた。
そして機内でもそうだったが、隣にいる男はあの時とは打って変わって無口だった。
だがその態度に何かよからぬことを考えているのではないかと思ってしまうのは考え過ぎなのか。
「どうした?俺の顏に何か付いてるか?」
そう言われて、つくしは自分がじっと男の顏を見つめていたことに気付くと慌てて前を向いた。
「いいえ。眉と目と鼻と口以外何もついていません」
「そうか。ならいい。今の俺に必要なのはお前を見つめることが出来る目と、お前の匂いを感じることが出来る鼻と、キスできる唇があればそれでいいんだからな」と男は言ったが、その言葉には笑みが含まれていた。
やはりこの男は何を考えているか分かったものじゃない。
まかり間違って大統領の前で、つくしに対しての思いを口にし始めれば大変なことになることを理解しているのか。
だがつくしは何も言わなかった。自分は通訳としての仕事をいつもと同じようにすればいい。それに男が言いたいことがあるなら言えばいい。
この男の口から語られる言葉を訳すことで自分が恥ずかしい思いをしたとしても、恋愛映画の翻訳をしていると思えばいい。
そんなことを考えながら視線を窓の外に向けた。
するとそこに見えたのはロシア正教会の建物。
キルギスの主な宗教はイスラム教だが、ロシア正教の結婚式を終えたのだろうか。教会の前で写真を撮るためポーズをとる花婿と花嫁の姿が見えた。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
え?司が何をするか早く知りたいですか?(≧◇≦)
何をするんでしょうねえ(笑)
今日はいかがでしたでしょうか?
欲しい品物を入手することが出来たのでしょうか?
それにしても皆さんが一斉に買いに走るとこうなってしまうんですよね。
アカシアのトイレットペーパーですが、店頭で最後のふたつとなっていたところで入手するすることが出来ました。
これでやっとトイレ事情の危機から脱出することが出来ました。
おお!本日卒業式だったんですね?
おめでとうございます。しかし今年の卒業式は色々と印象深い式になってしまいましたね?
そんな令和2年の春ですが、未来に向かってファイト!ですね?(*^-^*)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
え?司が何をするか早く知りたいですか?(≧◇≦)
何をするんでしょうねえ(笑)
今日はいかがでしたでしょうか?
欲しい品物を入手することが出来たのでしょうか?
それにしても皆さんが一斉に買いに走るとこうなってしまうんですよね。
アカシアのトイレットペーパーですが、店頭で最後のふたつとなっていたところで入手するすることが出来ました。
これでやっとトイレ事情の危機から脱出することが出来ました。
おお!本日卒業式だったんですね?
おめでとうございます。しかし今年の卒業式は色々と印象深い式になってしまいましたね?
そんな令和2年の春ですが、未来に向かってファイト!ですね?(*^-^*)
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.03.03 22:59 | 編集
