「牧野。お前がこの国にいるのは付き合ってる男がいるからだろ?それも妻子がいる男だ。
だからお前はその男が妻子を捨ててお前と一緒になってくれるのを待ってる」
司はそこまで言うと前を向き彼女の顏を見ることはしなかった。
それは突然暴露された自分の恋愛について狼狽している彼女を見たくなかったから。
それに彼女も見られたくはないはずだという思いから敢えて前を向いた。
そして否定も肯定もない沈黙は、司の言ったことが正しいということになる。
「牧野。いいんだ。隠す必要はない。お前は妻子持ちの男と付き合ってんだろ?その男から妻とは別れる。だからそれまで待ってくれ。子供が学校を卒業するまで待ってくれ。そんなことを言われてるんだろ?
だがな、そんなことを言う男が妻と別れることはない。それに世の中を見てみろ。口先だけで生きてる男は大勢いる。牧野。お前は危険な恋愛に足を踏み入れている。お前はその男に騙されてる。ただの都合のいい女にされてるだけだ。お前に相応しいのはそんな男じゃない」
思わず強くなった語尾。
それは他の女がどんな人生を送ろうと勝手だが、愛している女がひと目を忍んで妻子のある男と付き合っていることに、その男に甘い言葉で籠絡されていたことに腹が立ったからだ。
「隠さなくていい。昨日俺がお前の家を訪ねたとき扉を開けるまで時間がかかったのは、料理をしてたからじゃない。男とベッドにいて、急いで服を着たからだ。それに慌てて扉を閉めたのは中に男がいたからだ」
司は自ら口にしたその言葉に辛さを感じた。
彼女が自分以外の男とそういった関係になっていたことに紛れもなく嫉妬していた。
だがこれは受け入れなければならない現実であり、そうなったのは、司が16年も彼女を忘れていたからだ。
無駄に過ごした16年。それは実に勿体ない無意味な時間。取り戻せるなら取り戻したい。
だが取り戻すことは出来ないし、過去を変えることは出来ない。けれど、これから先の未来は変えることが出来る。
だからこれからふたりで新しい未来を築いていけばいい。
「牧野。よく考えるんだ。妻子のいる男と付き合っても未来はない。だから俺とやり直そう。俺はお前のことを思い出した瞬間からお前のことを愛してる。だから__」
と、言いかけたところで、やおら彼女が口を開いた。
「あたしが妻子のいる男性と付き合ってる?」
司は、「そうなんだろ?」と言って隣に座っている女に顏を向け目を合わせたが、眉間に皺が寄っているのが見て取れた。
「いったい何を言ってるのよ?」
「何をってお前が妻子がある男と付き合ってることだ。お前はその男に騙されてる。都合のいい女にされてることを言ってる」
司は不実な男に傷つけられた彼女のハートを癒すつもりだ。
優しく抱きしめ、痛みを和らげるためにキスをする。
ところが返ってきた言葉は、「バカじゃない」
「何だって?」
「言ったとおりよ。バカじゃないって!道明寺の副社長になったアンタがバカだったのは昔だけだと思った。でも今もそうみたいね?」
はあ?
「いい?よく訊いて。あたしは妻子ある男性と付き合ってない。それ以前に誰とも付き合ってないわよ!」
「付き合ってない?」
「ないわよ!」
「誰とも?」
「誰とも!」
司に向けられた挑むような瞳。
それは彼女を拉致して飾り立て金が全てだ。金で手に入らない物はないと言った司に対し、そのへんの女と一緒にしないでと言った時と同じ瞳だ。
あの時、司は恋におちた。
だが彼女が運命の女だと気付くのはそれから随分と後だったが__。
そして今、司の隣にいる女性はあの時と同じ瞳で司を見ているが、今の司は彼女が言った少年だった頃のバカな男ではない。
それなら何か。
ただ、彼女の記憶を取り戻し16年振りに会えた彼女を前に、あの頃どうしようもないほど恋焦がれていた女性に会えたことに、冷静に考えることが出来なかっただけだ。
そうだ。昔から彼女を前にすると自制する心を失ったように、思い込みで彼女が妻子ある男と付き合っていると言ってしまった。
「いい?あたしはこの国に来て男にうつつを抜かしたことはないの!あたしは大学で日本語の教師としてこの国の若者に日本語を教えるために来たの。それから今は日本語学校の教師と通訳として忙しい毎日を送ってるの。だから誰かと付き合うことを考えたことがないの。それから言っとくけどアンタとやり直すつもりはないから!」
司にそう言った女は、「あたしのことを何も知らないくせに…..」と呟くと運転席と後部座席との間の仕切りを叩き「運転手さん!車を止めて下さい。あのお店の角で車を止めて下さい」と英語で言った。
「牧野。家まで送らせてくれ。それにあの店はなんだ?」
「送ってくれなくて結構です!それにあの店はパン屋よ!明日のパンがないから買って帰るのよ!言っとくけどうちに来てもアンタのパンはないから!」
車が店の角で止ると彼女は降りた。
「牧野、待てよ……」司も慌てて車を降りると声をかけたが、彼女は振り返ることなく店の中に入って行った。

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だからお前はその男が妻子を捨ててお前と一緒になってくれるのを待ってる」
司はそこまで言うと前を向き彼女の顏を見ることはしなかった。
それは突然暴露された自分の恋愛について狼狽している彼女を見たくなかったから。
それに彼女も見られたくはないはずだという思いから敢えて前を向いた。
そして否定も肯定もない沈黙は、司の言ったことが正しいということになる。
「牧野。いいんだ。隠す必要はない。お前は妻子持ちの男と付き合ってんだろ?その男から妻とは別れる。だからそれまで待ってくれ。子供が学校を卒業するまで待ってくれ。そんなことを言われてるんだろ?
だがな、そんなことを言う男が妻と別れることはない。それに世の中を見てみろ。口先だけで生きてる男は大勢いる。牧野。お前は危険な恋愛に足を踏み入れている。お前はその男に騙されてる。ただの都合のいい女にされてるだけだ。お前に相応しいのはそんな男じゃない」
思わず強くなった語尾。
それは他の女がどんな人生を送ろうと勝手だが、愛している女がひと目を忍んで妻子のある男と付き合っていることに、その男に甘い言葉で籠絡されていたことに腹が立ったからだ。
「隠さなくていい。昨日俺がお前の家を訪ねたとき扉を開けるまで時間がかかったのは、料理をしてたからじゃない。男とベッドにいて、急いで服を着たからだ。それに慌てて扉を閉めたのは中に男がいたからだ」
司は自ら口にしたその言葉に辛さを感じた。
彼女が自分以外の男とそういった関係になっていたことに紛れもなく嫉妬していた。
だがこれは受け入れなければならない現実であり、そうなったのは、司が16年も彼女を忘れていたからだ。
無駄に過ごした16年。それは実に勿体ない無意味な時間。取り戻せるなら取り戻したい。
だが取り戻すことは出来ないし、過去を変えることは出来ない。けれど、これから先の未来は変えることが出来る。
だからこれからふたりで新しい未来を築いていけばいい。
「牧野。よく考えるんだ。妻子のいる男と付き合っても未来はない。だから俺とやり直そう。俺はお前のことを思い出した瞬間からお前のことを愛してる。だから__」
と、言いかけたところで、やおら彼女が口を開いた。
「あたしが妻子のいる男性と付き合ってる?」
司は、「そうなんだろ?」と言って隣に座っている女に顏を向け目を合わせたが、眉間に皺が寄っているのが見て取れた。
「いったい何を言ってるのよ?」
「何をってお前が妻子がある男と付き合ってることだ。お前はその男に騙されてる。都合のいい女にされてることを言ってる」
司は不実な男に傷つけられた彼女のハートを癒すつもりだ。
優しく抱きしめ、痛みを和らげるためにキスをする。
ところが返ってきた言葉は、「バカじゃない」
「何だって?」
「言ったとおりよ。バカじゃないって!道明寺の副社長になったアンタがバカだったのは昔だけだと思った。でも今もそうみたいね?」
はあ?
「いい?よく訊いて。あたしは妻子ある男性と付き合ってない。それ以前に誰とも付き合ってないわよ!」
「付き合ってない?」
「ないわよ!」
「誰とも?」
「誰とも!」
司に向けられた挑むような瞳。
それは彼女を拉致して飾り立て金が全てだ。金で手に入らない物はないと言った司に対し、そのへんの女と一緒にしないでと言った時と同じ瞳だ。
あの時、司は恋におちた。
だが彼女が運命の女だと気付くのはそれから随分と後だったが__。
そして今、司の隣にいる女性はあの時と同じ瞳で司を見ているが、今の司は彼女が言った少年だった頃のバカな男ではない。
それなら何か。
ただ、彼女の記憶を取り戻し16年振りに会えた彼女を前に、あの頃どうしようもないほど恋焦がれていた女性に会えたことに、冷静に考えることが出来なかっただけだ。
そうだ。昔から彼女を前にすると自制する心を失ったように、思い込みで彼女が妻子ある男と付き合っていると言ってしまった。
「いい?あたしはこの国に来て男にうつつを抜かしたことはないの!あたしは大学で日本語の教師としてこの国の若者に日本語を教えるために来たの。それから今は日本語学校の教師と通訳として忙しい毎日を送ってるの。だから誰かと付き合うことを考えたことがないの。それから言っとくけどアンタとやり直すつもりはないから!」
司にそう言った女は、「あたしのことを何も知らないくせに…..」と呟くと運転席と後部座席との間の仕切りを叩き「運転手さん!車を止めて下さい。あのお店の角で車を止めて下さい」と英語で言った。
「牧野。家まで送らせてくれ。それにあの店はなんだ?」
「送ってくれなくて結構です!それにあの店はパン屋よ!明日のパンがないから買って帰るのよ!言っとくけどうちに来てもアンタのパンはないから!」
車が店の角で止ると彼女は降りた。
「牧野、待てよ……」司も慌てて車を降りると声をかけたが、彼女は振り返ることなく店の中に入って行った。

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ま**ん様
ワハハ(≧▽≦)
>本物の恋には不器用....
そうなんです。この男。今必死につくしの意識を自分に向けようとしています。
こちらの司は別部屋の司とは性格真反対の男ですので笑ってやって下さい。
そして応援してやって下さい(^^ゞ
コメント有難うございました^^
ワハハ(≧▽≦)
>本物の恋には不器用....
そうなんです。この男。今必死につくしの意識を自分に向けようとしています。
こちらの司は別部屋の司とは性格真反対の男ですので笑ってやって下さい。
そして応援してやって下さい(^^ゞ
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.02.29 21:09 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
とんでもない思い違いをした男は焦っています。
ここで対応を誤れば彼女は自分の元に戻ってはこない。
そんな思いでいることでしょうねえ(笑)
さて、どうするのでしょう(笑)
いきなり月曜からの休校を求められ、学校関係者だけでなく様々な方面に影響が出ているようです。
そして色々とお疲れ様でした。
さてアカシア。トイレットペーパー...買えませんでした!
週半ばには沢山並んでいるのを見たのですが買わず...でも入荷しますとのことですので、また買いに行きます!
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
とんでもない思い違いをした男は焦っています。
ここで対応を誤れば彼女は自分の元に戻ってはこない。
そんな思いでいることでしょうねえ(笑)
さて、どうするのでしょう(笑)
いきなり月曜からの休校を求められ、学校関係者だけでなく様々な方面に影響が出ているようです。
そして色々とお疲れ様でした。
さてアカシア。トイレットペーパー...買えませんでした!
週半ばには沢山並んでいるのを見たのですが買わず...でも入荷しますとのことですので、また買いに行きます!
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.02.29 21:26 | 編集
