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2020
02.28

また、恋が始まる 7

「何を考えてるのか知らないけど、人をからかうのもいい加減にして!アンタは道明寺の副社長でしょ?そんな立場の人間が通訳に勝手なこと言わせて….うんうん…違う。通訳に言葉を捏造させてそれでいいの?」

市長との1時間にわたる会談が終り、市役所を出たつくしは車に乗り込むと男に怒りをぶつけたが、同行していた西田と高橋は行く所があると言って既に別の車で市役所を後にしていた。

隣に座った男は会談中つくしに対しての思いを延々と語り続けた。
つくしは、そんな男の言葉を市長をはじめとしたアルマトイの行政に係わる人間が喜ぶ答えに捏造して答えるということを繰り返した。だから気疲れは相当なものがあった。

「ちょっと!訊いてるの?」

つくしは怒りをぶつけているつもりだが、隣に座っている男は彼女が怒っていることも気にならないのか。平然とした顏で言った。

「ああ訊いてる。俺はこの国の言葉は分かんねぇけど相手は満足そうに頷いてた。つまりお前が上手い事訳してくれたって事だろ?だからそれでいいんじゃねえの?」

実際市長をはじめとするこの街の人々は、つくしの口から語られるカザフ語に、その通りだと感心したように同意を見せることもあった。
そして時折つくしが言葉に詰まると男はまともな言葉を口にしてつくしに通訳するように言った。
つまり、つくしが訳した話を全く訊いていないというのではなかった。
だからつくしは、その言葉をカザフ語に訳して市長に伝えたが、会話の殆どがつくしの捏造によって成立していて、男がつくしの口を借りて道明寺の副社長として市長に語ったのは、市長個人に対する敬意を示す言葉くらいだった。

「あのね?あたしが言いたいのはそういったことじゃない。アンタはこの街の市長を前に….」

言い淀んだのは男が言った言葉を思い出していたから。

『俺はお前のことが今でも好きだ。愛してる。俺ともう一度付き合ってくれ。16年間忘れていた償いをさせてくれ。俺はお前以外の女は欲しくない。お前だけを味わい尽くしたい。お前に熱いキスをしたい……』

「市長を前にお前に対する俺の思いを語ったことが問題か?」

つくしは隣に座っている男がニヤッと笑ったのを見た。
それは彼女の思考を読んだということ。

「そ、そうよ!相手が日本語が分からないのをいいことに__」

「ああ。その通りだ。相手は日本語が分かんねぇ。だからあの場所は俺がお前に自分の気持ちを伝えるには丁度よかった。だってそうだろ?昨日のお前の態度じゃまともに話を訊いて貰えそうになかった。だからあの会談を利用させてもらった。
それにこういったものは形式的なものに過ぎねぇんだよ。市長が喋ったのはこの街に投資してもらえるなら最大限の便宜を図るだの、今後も道明寺とこの街の発展を願うだの、具体的な話はなにひとつない。つまり実務的なことは部下にさせていて、市長が直接何かをすることはない形だけのものだ。けどそれはうちも同じだ。うちのここでの仕事は高橋がすべてやっている。だから俺が市長に会ってすることは、この街で事業をさせてもらっている感謝の気持ちを示すことだ。
ま。この国に来たのはお前がいるからで、ビジネスは二の次だったが、あいつらが言うには折角この街に来たんだ。だから今後の事業のために会っておくことも必要だと言ったから会ったまでだがな」

そう言われたつくしは、あの場所に秘書の西田と駐在員の高橋がいて、男の口から語られた自分への思いを聞かれていたことに頬が熱くなった。

「言っておくが、俺は正直な気持ちを口にしただけで訊かれて恥ずかしいことを言ったつもりはない」

司は彼女と話をするためのチャンスを逃すつもりはない。
それに互いに言い合うことに異存はない。
むしろそうしたい。
心の内に溜め込んでいるよりも言いたいことをはっきりと言葉にしてもらう方が…..。

それに昔のように言いたいことを言う彼女が好きだ。
赤札を貼られイジメられても立ち向かって来た彼女が。
だがそれでも時に自分の気持ちを殺し我慢をしていた彼女もいたが、そうさせてしまったのは司のせいだ。
そして今彼女が付き合っている男が妻子のいる男で、男が妻と別れることを我慢強く待っているようだが、そんな不誠実な男に彼女を渡すつもりはない。

「なあ、牧野。俺はニューヨークの女どもとの関係は整理した。きっぱり別れた。だから他の女はいない。これからの俺はお前だけだ。それに俺たちは大人だ。過去に色々あったとしてもそれは人生経験だ。それからこれだけははっきり言える。俺は不実な男じゃない。
だから妻子のいる男と付き合うのは止めて俺と付き合ってくれ」




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コメント
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dot 2020.02.28 07:01 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
ついに怒り爆発です(笑)
そんな女に対し悪びれた様子のない男。むしろチャンス!と捉えています。
そうですよね。とても16年も会っていなかったとは思えないふたりの会話です(笑)

突然決まった休校。
卒業していく子供たちにとっては「え!?」ですよねえ。
今までこのようなことはありませんでしたから、不安が大きいですよね。
え?トイレットペーパーが品薄?!
明日買おうと思っていたのにどうしましょう。(;^ω^)どこかにあるでしょうか?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.02.28 23:09 | 編集
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