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2020
02.26

また、恋が始まる 5

「おい…..あぶねぇだろうが!それに人の目の前でいきなり扉を閉めるってのは失礼だろうが!それが十何年振りに会った人間に対しての態度か?」

司は閉まった扉の向こうにいる女に叫んだ。
そしてドアノブを掴んで回したが扉は開かなかった。

「てめぇ…..一度開けた鍵をなんで閉めた?牧野!鍵を開けろ!ここを開けろ!」

ドアノブをガチャガチャと回す男は、扉を叩くことも忘れなかったが、その音はドンドンと大きな音で部屋の中に響いた。
だが扉の向こうにいる女は男の声を無視し、その音に負けないくらい大きな声で言った。

「なんでアンタがここにいるのよ!何が失礼よ!だいたい日本語が不自由だった男に日本語を忘れたなんて言われたくないわよ!」

つくしが扉を開けた先にいた男は、かつて彼女と付き合いながら彼女のことを忘れ、彼女が作った弁当を他の女が作ったものだと信じた味音痴の男だ。
そんな男が突然目の前に現れ、つくしのことを失礼だと言い、鍵を閉めた扉を叩いて開けろと喚いている。
それにしても何故あの男がここにいる?
だが頭の中に湧き上がったその疑問は男の言葉ですぐに解決した。

「牧野!いいか。よく訊け。俺はお前を思い出した。だからここに来た。お前を忘れたことを詫びにここに来た。だからこの扉を開けてくれ!」

男はつくしのことを思い出したと言ったが、本当にその言葉通りだとすれば、あれから16年経って男の中にある牧野つくしに関する記憶が浮上したということになるが、つくしの口をついた言葉は、「だから何?だから何なのよ?」

「だからって、お前それは_」

司は言いかけたが、扉の向こうにいる女は彼が言葉を継ぐ前に言った。

「アンタは16年もあたしのことを忘れていた。だけど突然あたしの事を思い出したから、詫びたいって言ったけど侘びてどうしたいのよ?言っとくけど今更愛してるって言葉は訊きたくない。それにあたしは大人の女で自分のことは自分で出来る。いつもそうしてるし、昔もそうしてきた。それはこの国に来ても同じ。だからほっといてよ!」

司は彼女の言葉に懐かしさを感じていた。
誰かに頼ることはしたくない。
かつてそう言って司に向けた瞳はまっすぐで生意気な瞳だった。
けれど今はふたりの間に扉があって、その瞳を見ることは出来ないが、扉を閉められる前に見た彼女の瞳はあの頃と同じだった。
だがたった今、彼女が言った「今更愛してるって言葉は訊きたくない」という言葉は、司がこうしてウズベキスタンに来たことを手遅れだと言っているのか。
つまりここに来るまでの車内で頭の中を過ったように、結婚に踏み切れず、かと言って別れることもせず曖昧な関係で彼女との関係を続けている男がいるということなのか。
そしてさっきは考えなかったが、もしかしてその男には妻子がいて、男は妻と別れて君と一緒になると言うセリフで彼女を傍に置いているのではないか。
だがそれは既婚男が女を繋ぎ留めておくための常套句で、その場しのぎの姑息な手だ。
つまり司の最愛の人は既婚男に都合のいい女にされているということになるが、もしそうだとすれば…..
恐らくだがこの結論は間違ってないはずだ。
それにもしかすると司が足を踏み出した瞬間、扉を閉めたのは部屋の中に男がいて、その男の存在を隠すためか?
料理をしていたというのは嘘で、裸でベッドにいた彼女は急いで服を着ていた?
そして男は部屋の奥で息を殺して隠れているのかもしれない。
だとすればこれはまさに不幸な状況だ。
けれどこうなったのは、司が彼女のことを忘れたからだ。
だが彼女のことを思い出した瞬間から愛は溢れて止まらなかった。
だから彼女が不幸になるのは見たくない。



司は怒鳴ってしまわぬように、ひと呼吸おいてから言った。

「牧野。お前、この国に男がいるのか?」

「はあ?」

「牧野。お前が今どんな状況にいても俺はあの頃と同じでお前のことを愛してる。俺はお前が不幸な目に遭うことを望んでない。いいか、牧野。よく訊け。30過ぎた女が中途半端な関係でいることで幸せになれるとは思えねぇ」

彼女はとぼけているようだが司は決意した。
こうなった何としても男から引き離さなればならないと。
そして引き離したところで、折を見て結婚してくれと言えばいい。
もし相手の男が何か言ってきたら….
いや。相手は妻子持ちだ。本気で妻子を捨てて結婚する気があるなら、とっくにそうしているはずだ。
だがそうしないところが既婚男のずる賢さだ。

「牧野。いいか。訊いてくれ。俺はお前を忘れるという罪を犯した。だがな。人は知らず知らずのうちに罪を犯していることもある。だからと言って俺の罪を許してくれとは言わない。
それから俺はお前に対してはどんなことがあっても全てを受け入れることが出来る。
それほどお前のことを愛してるってことだ。だからお前が何か罪を犯していたとしても構わねぇ。それに俺はお前が俺の傍にいてくれるなら過去に何があろうと、何をしていようと全く気にならねぇ」

そうだ。
司も彼女のことを忘れている間、ニューヨークで他の女と遊んでいた。
だから彼女が他の男と付き合っていたとしても、それは仕方がない。
その男が妻子持ちだとしても。

「牧野。とにかく俺はお前のことを思い出した瞬間からお前に対する愛がそこら中に溢れだした。他の女のことはこれっぽっちも頭にない。俺にはお前だけだ。これだけは信じてくれ。今は会いたくないって言うなら明日会おう。お前、明日通訳としてうちの仕事を受けてるよな?だから明日会社で待ってる」

司は扉の向こうにいる女にやさしく語りかけたものの、返事はなかった。




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コメント
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dot 2020.02.26 08:27 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
目の前で扉を閉められた男。
その男の思考回路は冷静さを失っているかもしれませんね?(笑)
扉越しに思いを伝えてはいますが、果たして伝わっているのでしょうか。
どちらにしても、この男はつくしを諦めることはないでしょうから、この先を待ちましょう‼
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.02.26 22:05 | 編集
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