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2020
02.12

Bittersweet <前編>

Valentine’s Day Story 2020
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日本でのバレンタインは女性の方から愛を告白することが当たり前となっているが、海外では男の方から愛を伝えるのがバレンタイン。
だから男はこの日アメリカから帰国すると愛してるという言葉を伝えるためバラの花束を手に恋人の元を訪れようとしていたが、そこは東京ではなく地方都市の郊外にある大型スーパー。
彼女は去年の春。転勤でその街へ引っ越しをしていた。

ふたりが遠距離恋愛を始めたのは、男が高校を卒業し大学進学のためニューヨークに住まいを移してから。
そして男がニューヨークの大学を卒業した1年後。
日本で大学を卒業した彼女が就職したのは大手食品会社。所属は菓子事業部。
そこで営業をしているが、仕事は小売店にひとつでも多く自社の商品を販売してもらうこと。そのためには自社商品がいかに売れるかということを説明する。
そして自社の商品が客の目に触れやすい場所に置かれるようにすることが仕事。
だから他社の商品よりもいい場所に棚を貰い陳列が出来るようにすることが求められる。
つまり彼女の仕事は商品を売る為の仕掛けを考えることだが、菓子というのは主食である食品とは違い、「ついで買いの商品」であり、どうすれば手に取ってもらえるかを考えなければならない。
だからこそ商品が陳列される場所は重要だが、新商品が発売されれば自ら売り場に立ちプロモーションをすることも彼女の仕事のひとつだ。

そんな営業活動の中で一番忙しいのは、年に一度チョコレートが爆発的に売れる冬。
それはバレンタインデーの前。女性は意中の男性に自分の気持ちを伝える手段としてチョコレートを買い求めるからだが、本命と言われる男性に贈られるチョコレートはデパートで売られている海外の高級なチョコレートであり、スーパーの棚に並んだ安価なチョコレートではない。
だがそれでも小売店には小売店の商機がある。
誰もが皆高級なチョコレートを買い求めるとは限らない。それは会社の同僚や友人に贈るちょっとしたチョコレートであったり、自分が食べるものであったりするからだ。
だから彼女はその商戦のために日々担当するスーパーを回っていた。

そしてバレンタインデーともなれば、そんな女性を恋人に持った男の元にいつも大量に送られてくるのは自社のチョコレート使って作られた菓子。
それは溶かしたチョコレートの中にフルーツやナッツ類が入っていたり、カップケーキになったり、ブラウニーだったり、とにかく毎年大量にチョコレートを使った菓子が送られてくるが、その量からして試作した物ではないかとさえ思えた。
だが彼女の会社のチョコレートのキャッチフレーズは『ずっとかわらない優しさ。』であり、そのフレーズ通り、どの菓子も優しい味がした。

それに男は嬉しかった。
何しろ全てが彼女の手作りであり、男の顏を模したクッキーを貰った時と同じくらいの歓びがある。そして初めて手作りのクッキーを貰った時、その嬉しさに彼女を引き寄せ思わずキスをしていた。
だが元々甘いものが苦手な男だ。だからその全てを一度に食べることはない。コーヒーブレイクの時、ほんの少し摘まんで後は冷蔵庫の中に仕舞った。そして時間をかけて食べていた。

そんな彼女から、「うちの会社の今年の販促グッズはクリアファイルなの」と訊かされたがピンとこなかった。
大手食品メーカーである彼女の会社は、チョコレートを売るために毎年販売促進グッズを用意するのだが、今年の販促グッズはクリアファイル。
会社の看板商品でありロングセラーである板チョコを5枚買えばそのクリアファイルが1枚貰えるらしいが、何故クリアファイルを販促グッズにしたのか?
そんなどこにでもあるものを販促グッズにして商品が売れるのか?
だが、どうやらそのクリアファイルには日本で人気のある男性アイドルの姿が印刷されていて、それを目当てに買う女性が大勢いると言う。
だが、それだけで満足していては営業として失格だ。
どうすればライバル会社よりも売り上げを伸ばすことが出来る?
そんな思いから仕事熱心な恋人はバレンタインデーが近づくと毎年頭を悩ませていた。
そして男は彼女の会社に電話をすると、今日彼女がいるスーパーの場所を訊き出し、車を走らせていた。




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コメント
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dot 2020.02.12 05:55 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
バレンタインデー。お嬢様の状況を母は勘で分かる!(≧▽≦)
そして友クッキー♡
アカシアの青春時代に友チョコの習慣はありませんでしたが、今は女性同士での交換も普通にありますよねえ。
販促グッズ。氷上の王子様の方はあるようですがJ君は無いんですね?
そしてこちらのお話のタイトル。彼らの曲と同じだということはアカシアも存じております。
爽やかなメロディで耳に馴染む曲でリズムが心地いいですね。

さてお話の方はと言いますと御覧のような感じです(笑)
3話で終わりですが楽しんでいただければ!と思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.02.13 23:02 | 編集
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