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2015
12.04

まだ見ぬ恋人42

パーティーは大成功だった。
と、いっても内輪のパーティーだった。
そのレストランは司が高校時代から贔屓にしていたと言うイタリアンレストランだった。


入籍だけはと司にせかされるように手続きを済ませたつくしはその足でこの場所へと連れてこられた。
そこには人生における大きな出来事に立ち会ってくれる人たちがいた。
親友たちだ。


一夜が明けた今朝、区役所での紙一枚の手続きと言われればそれまでのことだが、二人で役所の階段を駆け上がり提出をしてきた。
急いで入籍をしたのは仕方がない。
これでパスポートの切り替えも出来る。
牧野つくしから道明寺つくしに変わることによって海外で受ける扱いが変わってくる。
年が明ければ渡英することになるからな。



「つくし、おめでとう!」
「優紀!久しぶり!」
「遠いのにわざわざありがとう」
「とんでもない。親友のためだもの。それにつくし、年が明けたらイギリスにいっちゃうし・・今よりももっと遠くになっちゃうね・・」
優紀はしんみりとした口調で言った。

「優紀ちゃん、大丈夫だよ。滋ちゃんちのジェットならすぐだから」
そう言う滋の手には何かの飲み物が握られている。
「そうですよ、先輩に会おうと思えばすぐにでも会えますから」
と言う桜子の指先はキラキラと輝いている。

そんな二人に強調され
「うん。そうだね・・寂しくなったら・・」
とつくしは呟いていた。

「なに言ってるんですか先輩!道明寺さんと居て寂しいなんてことになるわけないですよ!」
「そうだよ、つくし。ロンドンに着いたら忙しくなると思うよ?」
「先輩、あちらの奥様方とのお付き合いってのもあるだろうし忙しくなりますよ?」
友人たちにそう言われると不安が募ってきた。

「うん・・・でもね、イギリスはいまだに階級制度が・・」
「なに心配してるのつくし?」
「うん・・私の英語って通じるかなって思って・・」
「なに言ってんのよつくしは・・」
「だって私の英語って訛ってない?そ、それに私なんて庶民の出だよ?」
そう言いながらも上流階級に属するこの二人とは出会って一週間もしないうちに仲良くなった。それ以来この二人とは親友と呼べる間柄になっていた。
そして司との付き合いや結婚に対しての不安を打ち明けたりしていた。


「おい、なにこそこそしてんだよ!」
「べ、別にこそこそなんて・・」
「あのね司、つくしがね、自分の訛りのある英語が通じるかどうか心配してるんだって!
 あっちは本家本元のイギリス英語だからね?」

「心配すんな、おまえはあっちでもやってけるさ。おまえ自身のやり方でやればいいんだ」
司はつくしを安心させるようにほほ笑んだ。
それからかがんでつくしと額をくっつけ合っていた。
「まあ、あっちは階級意識ってのが根強く残る社会だからな・・ま、嫌な思いをしてもおまえは日本人として誇りをもって生活したらいいんだ」と元気づけるように言った。

つくしは今は夫となった司の言葉に頷いた。



「ねえ、つくし・・あれ誰?」と囁かれた。
つくしは優紀の視線の先を追った。

「あ、西門さんって言ってね司の幼なじみなの」
「お家はね西門流っていう茶道のお家元なの」と付け加えた。
つくしは優紀のうっとりとした表情に驚いていた。

「ねえ、つくし・・写真とってもいいかな?」
「優紀、写真じゃなくて話をしたら?紹介するから、ね?」


優紀のこんな表情を見るなんて初めてだった。
まるでひと目惚れしちゃったみたいだった。



ひと目惚れと言えば・・・司は私と地下鉄で出会ってひと目惚れをしたと言っていた。
そして・・・彼の親友たちから聞かされた話しだと私が司にほほ笑んで?

地下鉄・・・?
ほほ笑む?

「ねえ司、司が私を初めて見かけた地下鉄の駅って・・もしかして?」
「あ?駅か?おまえが大使館に勤めていたときいつも利用していた駅だろ?
あの時は雨が降っててよ、大事な商談があるのに車が動かねぇから仕方なく地下鉄に乗ることにしたんだ。で、駅のホームでおまえと出会った。おまえは俺の反対側のホームにいて、俺の方を見て笑ったんだ。俺にほほ笑んだんだ」
司はそのときの状況を説明していた。

「なになに?司がつくしに一目惚れしたのってつくしが地下鉄で自分にほほ笑んだって話?
 滋ちゃんも聞きたい!」


つくしは司の話しを黙って聞いていた。
「それって」ようやく口を開いた。
「違うと思うけど・・・」
「何が違うって言うんだよ!お、俺の勘違いって言いたいのか?」
「うん。だって・・わたし司に向かってほほ笑んだなんて記憶は無かった・・」
つくしは呟いた。
「けど、あん時はだれも周りになんていなかった!」
司は応じた。




滋が不穏な沈黙を破った。
「え・・やだ・・もしかして・・?」
「何ですか滋さん?」


「つくし・・司が立っていた後ろの壁に貼ってあったポスターにほほ笑んだんじゃないの?」
「はぁ?どう言う意味だよ滋!」
「だって・・・その頃あっちこっちよく貼ってあったよね?」
「なにをだよ!」
「だからポスター・・・結構話題になってたのよ?ま、司は地下鉄なんか乗らないから知らないよね?」
と滋はからかい半分の口調で言った。

「あの・・道明寺さん、その頃東京都美術館で有名なフランス人画家の展覧会があったんです。その展覧会のポスターが結構・・・ねぇ先輩?」
桜子は何かを喉に詰まらせたような声で言いにくそうに言った。
「え? あ・・うん・・」

「思春期の女の子が椅子に座って片膝を立てて・・股を開いている絵のポスターなのよ。
もう下着丸見えで・・手は頭のうえで組んで目を閉じていて・・なんて言うの・・?扇情的?
なんかエロいって感じ? ほんとにあんなポスター・・よく鉄道会社が許したんだと思ったわよ?あの絵を見てまずどこに目が行くかが問題よね?」
滋と桜子はいわくありげに視線を交わした。
「そうですよ、みんなチラ見するけどじっくりと見る人なんていませんからね?」
「つくしも・・・それを見た記憶あるでしょ?」

「う・・うん・・」
「あのポスターの前に立ってる人はなかなか見たことがなかったし・・あの絵が好きなのかなぁ・・なんて思って・・・ある意味堂々としていて凄い人がいるなぁ・・って思えて笑ったことはあったかも・・・」


「ねえ、それが司だったってことじゃないの?」
滋はちらりと司を見た。
司は怪訝そうに三人を見ていた。


三人は顔を見合わせ急に口をつぐんだ。
そして意味がわからないと言う顔をしている司を見た。



それから大きな声で笑いだしていた。









つくしちゃんが見たポスターの絵画は『バルテュス・夢見るテレーズ』
(メトロポリタン美術館蔵)です。ご興味のある方は検索してみて下さいね。


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コメント
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dot 2015.12.04 08:39 | 編集
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dot 2015.12.04 15:21 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.12.04 16:37 | 編集
もっ*★様
はい。地下鉄の駅構内とか・・中とか・・。
ちょっと直視できないですよね(笑)
いえ、まじまじとは見れないと言うか(笑)
この画家さんの描く絵はこんな感じが多くて照れます。
このポスターの前に佇む坊ちゃん・・どうでしょうか?
もっ*★様の視線はどこに向かいましたか?
コメント有難うございました(^^)
いつもお読み頂き有難うございます。
アカシアdot 2015.12.04 23:44 | 編集
ka**i様
結婚しました!入籍だけはと急がせました。
それも年内に!パスポート間に合う?
いやいや司の力でなんとかするのでしょうね。
バルテュスに感謝!(笑)
単につくしに笑われていたと言う話になってしまいました。
そうですね、異国の地では色々と大変です。
でも司がついていれば、つくしは何も心配なんてすることはないと
思います。
ロンドン生活を楽しんでもらえたら・・と願っています。
コメント有難うございました。
そしていつもお読み頂き有難うございます(^^)
アカシアdot 2015.12.04 23:52 | 編集
た*き様
そうなんです。昨年ですが展示されていました。
地下鉄の構内や車内にドーンと・・・(笑)
そこまで・・なんですが、でもちょっと照れますよね?
まじまじと直視するのも・・(笑)
た*き様の視線はどちらに?
そのポスターの前に佇む司にほほ笑むつくし。
ほほ笑んだと言うより笑われていた!と言うべきでしょうか(笑)
あはは・・ありますよね。挨拶されたからこんにちはをしたら
違ってた・・。後ろの人だった(笑)
その通りです!恋愛は勘違いと妄想から始まる!
思い込みの激しい司にはありそうですよね?
そんなことで恋に落ちるんですよね・・(ため息)
コメント有難うございました。
いつもお読み頂き有難うございます(^^)
アカシアdot 2015.12.05 00:07 | 編集
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