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2019
10.01

金持ちの御曹司~結婚したい男~<後編>

銀座の一流と言われるフランス料理店は司の馴染みの店。
二人は食事をしながら新作のブラジャーのマーケティングについての意見を交わしていた。
それは彼女が資料室で過去の広告について知りたがっていたということから始まったが、司の視線は美味そうに食事をする彼女の口元から、彼女の首。そしてそこから胸元へ降りると、やがて薄手のニットの膨らみの上で止ったが、彼女は司の視線に気付くことなくナイフで肉を切り分けていた。
だが何かを感じたのか。ナイフを動かす手を止め顔を上げ彼を見た。
だから司は慌てて口を開いた。

「牧野。それで今日もあのブラジャーを?」

「はい。もちろんです。『ときめくブラ』は私が会社に入る前から使用していました。
このブラは若い女性が一度は着けてみたいと思うブラです。それは寄せて上げる機能だけではありません。このブラには若い女性の感性を刺激するレースやリボン使いといったものがされています。女性は毎日使うものに対しては、ましてや身体に直接着けるものに対しては拘りがあります。私はこのブラが気に入っています。新作のときめくブラもきっと大勢の女性に受け入れられるはずです」

司は頷いたが、そこから先は新作のブラジャーのこともだが、クリスマスシーズンに発売を予定している赤いブラジャーについての話になった。
イタリアでは新年を迎えるにあたって赤い下着をつける習慣がある。
その起源は紀元前30年ごろ。初代ローマ皇帝アウグストゥスの時代にまで遡る。
その当時、赤は権力と健康と精神と富の象徴であり、良運をもたらす色だと信じられ、権力者たちのマントは赤く染められていた。
そういったことから、イタリアではクリスマスに赤い下着をプレゼントし合い、年末になると幸運を呼び寄せたいと願う人間は、老若男女問わずその下着を身につけて年越しをする。
その習慣が日本に根付くことはないにしても、日本でも還暦を迎えた男女は赤を祝いの色として用いていることもあり馴染みがない色ではない。
だから今年のクリスマスには赤い下着の販売に力を入れるのも悪くないということになった。
それに司は個人的に赤が好きということもあり、赤い下着をイメージするのは簡単だった。
そして食後のコーヒーが出される頃、訊きたかったことを口にした。

「牧野。お前は赤い下着を贈り合う相手がいるのか?」

「え?」

「だから恋人はいるのかって訊いてる」

「道明寺部長…..どうしたんですか?いきなりそんな…」

司は手にしていたカップをソーサーに置くと真剣な眼差しで彼女を見た。

「牧野。訊いてくれ。俺には恋人はいない。1年前に別れた。それはお前が俺の前に現れたからだ。俺はお前がうちの会社の面接に現れた時からお前のことが気になっていた。それ以来ずっとお前のことを見てきた。だからどうだ?俺と付き合ってみないか?いや。俺と真剣に付き合ってくれ」

「部長…..」

「牧野。俺のことが嫌いか?もしそうならはっきりそう言ってくれ。いや。今の発言は撤回する。嫌いだと言われても俺はお前を諦めるつもりはない。俺はお前のことが好きだ。
お前を初めて見た時、この女こそ自分が探していた女だと分かった。
つまりお前と出会ったことは運命だと思った。だがから俺のことを拒否しないでくれ。牧野。愛してるんだ」

司は手を伸ばしてテーブルの上で彼女の手を握り、そこからひたすら自分の思いを告白し続けたが、それはウエィターが閉店の時間でございますと言ってくるまで続いた。

そこから先はとんとん拍子に話が進んだ。
ふたりは付き合い始めてから半年後に結婚。
3人の子供に恵まれ幸せな家庭生活を送った。











おい?

ちょっと待て。

本当にこれでいいのか?


司は目覚めると辺りを見回したが、そこに西田の姿はなかった。
そしていつもと違う状況に心の中で首を傾げた。
それは随分と簡単にハッピーエンドを迎えたが、これでいいのかという思い。
何しろこれまで夢から目覚める時は必ず西田の咳払いや声が聞こえた。
それにあまりいいとは言えない状況で終わる夢ばかり見ていた。
それなのに今日はごく自然に目が覚めた。
それに夢の内容は悪くはない。だがこれまでのことが異常だったと思えばこの状況は普通だと言えるはずだ。

そうだ。今までの夢が突拍子のないものばかりだったのだ。
だが夢というのは得てしてそういうものだ。
だからこうして結婚するという結末を迎える夢を見るということは、もしかすると望みが叶う日が近いということか?
つまり正夢か?結婚したい男の願いが叶い、恋人と結婚する日が近いということか。
よし!それならその幸福を確実に味わうため夢にも出て来た赤いランジェリーを恋人に贈ろう。そして自分も恋人とお揃いの赤い下着をつけて年越しをする。
そしてこの幸せは魔法のニンジンジュースと呼ばれるジュースを飲んだことがもたらしたと感じた。
だから心の中で西田を褒めた。

だが恋にアクシデントは付きもの。
司は胸ポケットの震えを感じ携帯電話を取り出すと画面をタップした。
それは恋人からのメール。


『お疲れ道明寺。あのね、広報の糸島ちゃんが来年の春に結婚することになったの。あ、糸島ちゃんって私の同期のね。それでね、年末の冬期休暇に二人で独身さよならイタリア旅行することになったから。だから今年の年越しはイタリアで過ごすから一緒に過ごせなくてごめんね。』

人間は息をしている限り苦悩とわだかまりが交差する。
司は恋人の人間関係に口を挟むことはしてこなかった。
それに恋人が同期の友人と旅行をすることに不満はない。
だが何故それが年を跨いでなんだという思い。
でもそれは仕方がないと納得しなければならなかった。
彼女は仕事が忙しい。有給休暇取得もままならないことも理解している。
だから会社が休みになる年末しか長期旅行に行けないことも充分分かっている。
それでも、彼女が自分の誕生日を避け29日に出発するのは、司が誕生日を祝ってくれることを知っているから。そして彼女もそれを望んでいる。


司は、「仕方ねえな。牧野、行ってこい」と呟いてから『いいぞ。気を付けて行って来い』と返事を返した。
するとすぐに、『ありがとう。道明寺。お土産買ってくるからね?何がいい?』
と返事が来た。
だから、『赤い下着。お前もお揃いの赤いのを買え』と返した。
司は返事を待った。だが今度はすぐに返事がこなかったが、それは何故赤い下着かを考えているから。
やがて少し待ったところで返事が来た。

『分かった。赤い下着ね?』

『ああ。赤い下着だ。それもとびっきりセクシーなヤツ』

『了解。とびっきりセクシーなのを選んで帰るから楽しみに待ってて』






司は携帯を胸ポケットに入れると伸びをしてから書類を手に取った。
司は夢の続きを望んでいた。
結婚した牧野つくしと幸福な生活を送ることを。
だが結婚はゴールじゃない。結婚は始まりだ。
その始まりが少し遅れたところで大差はない。
司は彼女と結婚する以外考えられないのだから。
それに、ふたりの愛はずっと変わることはないのだから。




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コメント
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dot 2019.10.01 07:12 | 編集
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dot 2019.10.01 07:46 | 編集
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dot 2019.10.01 12:49 | 編集
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dot 2019.10.01 18:39 | 編集
ふ*******マ様
今回はいつものイヤラシイ夢とは違い何故かハッピーエンド。
司も自分でおかしいぞ?と思ったようですが、たまにはいいではありませんか(笑)
そしてイタリア土産に司が所望したのは、セクシーな赤い下着。それもお揃いで!
赤いセクシーな下着が洗濯されて干されている状況!いいですねえ~。
でも外には絶対に干せませんね?(*ノωノ)
そしてこの坊ちゃんなら喜んで赤い下着も付けるでしょうねえ(^^)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.10.03 21:01 | 編集
司******E様
司は自分の見たハッピーエンドな夢にちょっと待て!
いつもと違う夢に懐疑的のようですが、もしかして正夢か?と思ってしまうのも仕方がないですね。
>正夢にしたかったら夢の内容を人に話してはいけない。
確かにそんな迷信がありますねえ。
そして悪い夢は人に話せと言われてますが、アカシアの場合いい夢も悪い夢も人に話します(笑)

え?イタリア土産の赤いセクシーな下着を買ってきたその後の話ですか?
そしてオリンピックの開会式を家族で見よう!
ええっと(;^ω^)どのお話だったかも忘れているアカシアです。
家族になっているということは、御曹司は終わってしまうということですので、いかがでしょう(笑)
それにしても、まさか御曹司がここまで続くとは思ってもいませんでしたが、いつかこの二人が結婚出来るといいですねえ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.10.03 21:25 | 編集
ふ**ん様
目覚めに西田が出ないハッピーエンドの夢。
そんな夢に心の中で首を傾げる男(笑)
そしてこれはきっとニンジンジュースのお蔭だと西田を褒める男がいました。
しかし恋にアクシデントは付きもの。
自分で分かっている男は大人の対応をしました。
そしてお揃いの赤い下着を買ってこいと言う男は、ちょっと大人になったエロ曹司でしたが、果たして赤い下着を着けた恋人と愛し合うことは出来るのでしょうかねえ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.10.03 21:33 | 編集
切**様
ハッピーエンドの夢の終わりに最終回だと思いましたか?
残念ながらそうではなかったようです(笑)
え?イタリアのセクシーな赤い下着が巣鴨の赤パンで再生されたんですか(≧▽≦)
確かにどちらも縁起物ですものね?(笑)
そして赤いセクシーな下着姿の二人は相思相愛のラブラブですが、あちらのお話の二人はそうではありません。
こちらの坊ちゃんはM気質ですが、あちらはどう考えてもS気質ですからねえ。
あちらは色々とあると思いますがつくしの応援ありがとうございます!
そしてコメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.10.03 21:46 | 編集
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