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2019
09.17

金持ちの御曹司~受け止めて!この気持ち。~<後編>

部屋の中は明るかった。
つくしは目覚めたとき大きなベッドの真ん中に横たわっていたが、服は着ておらずバスローブを着ていた。
何故自分がこんな姿でここにいるのか。レコーディングを終えプロデューサーの道明寺司に飲みに行こうと誘われ、バーに着いてからジントニックを飲んだ後の記憶が無かった。

起き上がって顏にかかっていた髪を振り払い、バスローブをかき合わせ辺りを見回した。
そしてここがメープルの一室であることに気付いたのは、壁に掛けられている絵が印象的なもので見覚えのあるものだったからだ。

そうだ。つくしは以前この部屋に来たことがある。
それは道明寺司がこの部屋を自分の部屋として使用していて、打ち合わせで何度か訪れたことがあったからだ。

つくしを見出した道明寺司は、道明寺財閥の御曹司だが家業を継ぐことはなく音楽の道に入った。
それは御曹司のほんの気まぐれかと思われていたが、彼には音楽の才能があった。
そして俳優だと言われてもおかしくないその外見から女性にモテる男だった。
だから常に大勢の女性が彼の傍にいた。
そんな男のプロデューサーとしての才能は他の誰よりも秀でていて数多くの歌手を世に送り出した。
つくしは、その男に好きだと言われた。だが彼女は好きな人がいる。だから歌手を辞め、その人の傍にいたいと言った。
すると、好きだと言われ抱きしめられたが、つくしは彼の気持ちに気付いていた。
だが気付かないフリをしてきた。そうしなければ一緒に仕事をすることが出来なかったからだ。二人は仕事上の良きパートナー。そう思うようにしてきた。
だから気付いていたとはいえ、突然の告白にどう答えればいいのか分からず言葉に詰まった。たが彼は「分かった」と言って話はそれで終わった。
しかし、この状況からすれば話はそれで終わってはいなかったということになる。
バーでジントニックを飲んだ後のことは覚えていないということは、薬か何かが入った酒を飲まされたということになるが、これからどうすればいいのか。
ベッドに腰かけ考えていたが、逃げ出そうにも着ていた洋服は何処かへ持ち去られ着るものがない。

その時だった。
カチリと音がして扉が開き彼が入って来た。
そして後ろ手に扉を閉めると鍵をかけたのが分かった。

「気が付いたか?」

「気が付いたかって。こんなことしてどういうつもりなの?」

つくしはバスローブをかき合わせた姿勢で言った。

「どういうつもりか?」

「そうよ」

「つくし。俺はお前を諦めることが出来そうにない。それはお前の周りに大きな金が動いているからじゃない。その才能を終わらせることもだが、お前が俺の傍からいなくなることに耐えられそうにない。それに俺は本当にお前のことが好きだ。いや好き以上だ。愛してる。お前を放したくない」

司は言うと、着ている服を床に脱ぎ捨てながら彼女に近づいた。
そして驚いて司を見上げる大きな瞳をした女の頬に手を添え言った。

「俺はお前が欲しい。これまで出会ったどんなに才能豊かな歌手よりも、どんな美人の女優よりもお前の事が愛おしくてたまらない。歌手の代わりならいくらでもいる。女優の代わりもいくらでもいる。だが俺にはお前しか見えない。だから相手の男が誰であっても、その男にお前を渡すつもりはない」

司はつくしをベッドに押し倒すとローブを脱がせようとした。

「いや!道明寺!止めて!こんなことしないで!」

「暴れるな。暴れても無駄だ。男の力に女が敵うはずがない」

「違うの!道明寺!止めて!お願い訊いて!」

「何が違う?お前は俺じゃない男が好きなんだろ?」

「違うのよ!お願い訊いて!私が……私が好きなのはあなたなの!私が歌手を辞めて傍にいたいと思う人はあなたなの!」

「…..つくし」

司は押し倒した女の頬を流れる涙に気付いた。

「最近のあなたはどこか遠い眼をしてる。時々寂しそうな表情を浮かべてるわ。それはあなたのお姉さまが亡くなったことに関係あるんでしょ?あなたはお姉さまとは仲がよかった。それに私もお姉さまには大変よくしていただいた。お姉さまがお亡くなりになってからのあなたはひとりになったと思っているんでしょ?私はそんなあなたの傍にいたい。ひとりの女性としてあなたを支えたいの。だから歌手を辞めてあなたの傍であなたの仕事の支えになりたいの。だからいつかあなたに私の気持ちを伝えるつもりでいた。でも何か言おうにも言葉が見つからなかったの」

司は半年前に姉である椿を病気で亡くした。
そしてそれからの司は心の拠り所だった姉を亡くしたことで気持ちが沈むことがあった。

「つくし。お前、本当に俺のことが好きなのか?」

「ええ。好きよ。長い間歌手とプロデューサーとして過ごして来たけど、司のことが好きだった。ずっとあなたが好きだったわ」

「つくし……」

「司…..」

司はベッドに押し倒した女の髪に触れ、それから頬に手を触れた。
そして唇を重ねるため顏を近づけ_____


「支社長。それ以上お顔を書類に近づけるのはお止め下さい。そちらに欲しいのはサインであって唇ではございません」

司は西田の声に目を開いたが、目の前には手にしていた書類があった。

「あほう!こ、これは字が小さすぎて読めねえから顏を近づけただけだ!」

「そうですか。それではルーペをお持ちいたしましょうか?わたくしの私物ではございますがブルーライトがカットされている日本製で大変よく見えます。それから先日うっかりその上に腰を下ろしてしまいましたが壊れない優れものでございます」

司は西田の言葉を無視して書類を読むとサインをした。














「ねえ。海外事業本部の牧野さん。今までのど自慢大会出たことがなかったけど、彼女、上手いわね?」

「本当ね。あの伸びやかな声。凄いじゃない?それになりきってるって言うの?雰囲気までそっくりだったわ。もしかして優勝は彼女かもね?」

司は初めて社内対抗のど自慢大会の審査員として席に着いていた。
それは恋人が出場しているからだが、恋人からのど自慢大会に出ると訊かされ、どんなに多忙だろうとその日の夜はスケジュールを入れさせなかった。
そして社内行事とは言え本気の勝負。
だから恋人からは喉を労わりたいからと言って数日前からは愛し合うのも禁止となった。

会場は会社の近くのホールを貸し切り演奏はオーケストラによる生演奏。
司は恋人が心を込めて歌う曲を訊いていたが、『ブレーキランプ5回点滅。愛してるのサイン』という歌詞に、これからはそうしようと思った。

そして司会者が、「それでは最後の方です。どうぞ!」と言ってオーケストラが演奏を始めたのは、どこか悲しげなメロディー。
照明は少し暗めから徐々に明るくなり舞台の袖から出て来たのは、着物姿で日本髪を結った女性。その女性が『上野発の夜行列車おりた時から 青森駅は雪の中』と歌い始めて司は腰が抜けた。


「お、お袋!?」

舞台で恋に終止符を打った女の悲しみを歌うのは道明寺楓。
その時、以前秘書課の女性が話していた言葉が頭を過った。

『あの方にそんな暇ないわ』

『あの方は多忙を極めてるわ』

確かにあの方にそんな暇はない。
それにあの方は多忙を極めている。
そうだ。確か今朝はスイスにいたはずだ。
だがこの大会に出るために過密スケジュールをやり繰りして、わざわざスイスから来た。
そして大物演歌歌手並の堂々とした態度で歌う社長の登場に会場が息を呑んでいるのが分かった。
やがて天井から雪を表す白い紙がハラハラと舞い落ちて来たが、舞台中央で歌う女は冬の津軽海峡を越え北海道へ帰る女の気持ちを切々と歌った。
そして津軽海峡の冬景色を歌い上げると視線は見えるはずのない津軽半島の北の果てにある竜飛岬を見ていた。

「いやあ。まさか楓社長がいらっしゃるとは思いませんでしたが、今年の優勝は楓社長ですな」

司の隣にいる専務はそう言うと、「もちろん忖度などしておりません」と言葉を継いだが、他の審査員も同感だといった風に頷いた。













「ねえ。道明寺。まさかお母さまが参加されるとは思わなかったけど、お上手ね?」

司は帰りの車の中で恋人からそう言われ「そうか?」としか答えなかったが優勝したのは母親だった。
司は母親が歌を歌うのを初めて見た。
そして恋人の熱唱も。
つまり司は期せずして自分にとって大切な女性二人の本気の歌を訊いたことになるが、やはり恋人の方が上手いと思った。
だが思った。
もしかすると将来恋人も母親のように着物姿でああいった歌を歌うようになるのではないかということを。
だが司は嫌いではない。
人の心情を切々と歌い上げる母親の姿に何かを見たような気がしたからだ。

それは自分の気持ちを歌で表すということだが、司も自分の気持ちを受け止めて欲しいという思いからある歌を口ずさんだ。
だがそれは彼女だけに届けばいい歌声。
だから司は恋人の耳元に唇を寄せると、彼女のためだけに愛の歌を囁いていた。




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コメント
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dot 2019.09.17 05:42 | 編集
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dot 2019.09.17 11:21 | 編集
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dot 2019.09.18 01:50 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
司のキスマーク入りの書類が出回ったら...。
確かに争奪戦間違いなしですね?(≧▽≦)

のど自慢大会の優勝は楓社長でしたが、司も母親の登場に驚いたでしょうねえ。
朝はスイスにいた母親が夜には日本にいた。
それものど自慢大会に出場するために来たんですから、腰が抜けても当然でしょう(笑)
司の描くつくしとの未来予想図は結婚ですが、いつになったら実現できるんでしょうねえ。
御曹司。結婚したら終わりですからねえ(;^ω^)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.09.18 21:19 | 編集
ふ**ん様
お楽しみ描写はお預けとなりました。
はい。こちらは御曹司ですから西田に邪魔されるのが定番となっております(≧▽≦)
だいたい仕事中にそんなことを妄想している男が悪いんです(笑)
え?いつも運転手付きの車に乗っている男が、どうやってブレーキランプ5回点滅させるのか?
アカシアも書いた後で考えたんです。
きっと運転手にブレーキ5回踏ませるんでしょう(;^ω^)
そして大トリの演歌楓。
着物姿で紙吹雪が舞う舞台で歌う自分の母親を見た司は、さぞや驚いたことでしょう。
それにしてもこちらの道明寺ホールディングス。
なかなか楽しそうです。社員の福利厚生もしっかりしているんでしょうねえ。
笑っていただけて良かったです!^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.09.18 21:29 | 編集
ま**ん様
楽しかったですか?
良かった(*^-^*)
のど自慢大会に参加した楓さん(≧▽≦)
まさか社長が!という社員と司。驚いたことでしょう(笑)

某ビルの対抗歌合戦。
アカシアも存じております!
楽しそうでいいですよねえ~。
道明寺ホールディングスも社内対抗歌合戦で社内の親睦を図っているのだと思いますが、これから先もずっと続けて欲しいですね?
そして司は、出そうで出ないを貫いた方がいいですよね。
だって彼は完璧に歌い、全ての女性社員の心を虜にしてしまうことは間違いありませんからねえ。
それにしても坊ちゃんが歌を歌うとすれば、どんな歌を歌うのでしょう。
つくしの耳だけに囁いた歌は何なんでしょうね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.09.18 21:41 | 編集
s**p様
まさかの楓さん登場でした(^^ゞ
え?想定外でアイスコーヒー吹いたんですか?(笑)
御曹司に出て来る楓ママはお茶目かもしれません。
そして御曹司のお話しはコメディーですから笑っていただけて嬉しいです。
変なコメントでもOKです‼
どんどん突っ込んでやって下さいね^^
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.09.18 21:50 | 編集
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