暫く車を走らせているとパラパラと雨が降り出した。
天気予報は晴れと言っていたが、山の天気は変わりやすい。
やがて降り出した雨はザーザーと音を立てアスファルトに激しく打ち付けるようになり視界がぼやけたことから車のヘッドライトが自動で点灯した。
そしてこの激しい雨に対向車もライトを点け速度を落としすれ違って行った。
だから司もアクセルを踏み込むことを止め速度を落とした。
そうだ。
急ぐ必要などないのだ。
司には3日間の休暇があるのだから、何も急いであの場所へ行く必要はなかった。
だから今は激しい雨のせいで白く霞んで見えにくくなったセンターラインを越えることのないように注意を払いハンドルを握っていた。
そしてお勧めの曲と言われナビが選んだのは、遠い昔に恋人と一緒に訊いたことがある曲だった。
その曲はドライブに使われていいような普遍的な曲で、誰もが耳にしたことがあるはずの曲で好き嫌いがある曲ではなかった。
だからナビがその曲を選んだのも分かるような気がした。
その曲を聴きながら思い出されるのは若かりし頃の自分の姿。
司が道明寺ホールディングスの社長に就任したのは今から20年前。
それは30歳の誕生日を迎える少し前のこと。
それまで社長だった母親が病気の為その座を退き司が跡を継いだ。
そしてこれまで道明寺のトップとして巨大船団と言えるグループの舵取りをして来たが、思えばこの20年の間には色んなことがあった。だがゆっくりと過去を振り返る時間がなかった。
だがそもそも人生に待ったはない。
二つの道があれば、どちらかを選ばなければ先へ進むことは出来ず、それに司の人生は迷っている時間というものはなかった。
そんな中で一番思うのは、自分の人生の半分以上は会社と共にあったということ。
そしてその中には結婚という自分の中ではあり得ないこともあった。
だがそれでも結婚したのは、母親が病に伏した時に進められた政略結婚であり、それにさして女に興味がない男も、道明寺の跡を継ぐ子孫を残すため、いずれ結婚しなければならないのなら相手は誰であっても良かった。
司にはかつて心から愛した人がいた。
しかし彼女とは結ばれることはなかった。
それは、司が彼女を捨てたから。
そうなった理由は、司が彼女のことを忘れたから。
あの時忘れた人は大切な人で、捨ててしまった感情を表す言葉は後悔としか言えなかったが、それは司にとって負の記憶であり、彼女に背を向けたことは一生背負っていく罪だと捉えていた。
そして彼女のことを思い出したのは結婚して3年が経ったある日の朝。
全身にびっしょりと汗をかき、うなされて目覚めたとき、心配そうに自分を覗き込んでいる妻の顏が彼女の顏に変わった。
記憶を取り戻した司は、かつての恋人に会いに行こうと思った。
だがそう思ったのは束の間であり、他の女と結婚した自分が今更どのツラを下げて会いに行けばいいのか。
だから、彼女の行方を探すことはしなかった。それに彼女も今頃は結婚して子供がいるはずだと思った。だから会いに行けば迷惑になると思い、遠いニューヨークの地から彼女が幸せに暮らしていることを祈った。持って行き場のない気持ちを仕事に向け、彼女のことは忘れようとした。そして司は不妊手術を受け、子供が出来ないことを理由に妻と別れた。
そんな男がこれから訪れようとしているのは、かつて恋人と訪れたことがある別荘。
途切れた記憶を繋ぎ合わせることは止めたが、時の波間に置き忘れた彼女を好きだったという感情は今も変わらずあり、それが時折頭をもたげて来ることがある。
だが司は心の奥にある思いを表に出すことはなかった。
それでも3日間の休暇で訪れたいと望んだ場所は彼女との思い出が残る場所。
気ままなドライブを楽しみたいと思ったのは嘘ではないが、心は死ぬまで一生忘れることのない人と過ごした別荘に行きたいと望んでいた。

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天気予報は晴れと言っていたが、山の天気は変わりやすい。
やがて降り出した雨はザーザーと音を立てアスファルトに激しく打ち付けるようになり視界がぼやけたことから車のヘッドライトが自動で点灯した。
そしてこの激しい雨に対向車もライトを点け速度を落としすれ違って行った。
だから司もアクセルを踏み込むことを止め速度を落とした。
そうだ。
急ぐ必要などないのだ。
司には3日間の休暇があるのだから、何も急いであの場所へ行く必要はなかった。
だから今は激しい雨のせいで白く霞んで見えにくくなったセンターラインを越えることのないように注意を払いハンドルを握っていた。
そしてお勧めの曲と言われナビが選んだのは、遠い昔に恋人と一緒に訊いたことがある曲だった。
その曲はドライブに使われていいような普遍的な曲で、誰もが耳にしたことがあるはずの曲で好き嫌いがある曲ではなかった。
だからナビがその曲を選んだのも分かるような気がした。
その曲を聴きながら思い出されるのは若かりし頃の自分の姿。
司が道明寺ホールディングスの社長に就任したのは今から20年前。
それは30歳の誕生日を迎える少し前のこと。
それまで社長だった母親が病気の為その座を退き司が跡を継いだ。
そしてこれまで道明寺のトップとして巨大船団と言えるグループの舵取りをして来たが、思えばこの20年の間には色んなことがあった。だがゆっくりと過去を振り返る時間がなかった。
だがそもそも人生に待ったはない。
二つの道があれば、どちらかを選ばなければ先へ進むことは出来ず、それに司の人生は迷っている時間というものはなかった。
そんな中で一番思うのは、自分の人生の半分以上は会社と共にあったということ。
そしてその中には結婚という自分の中ではあり得ないこともあった。
だがそれでも結婚したのは、母親が病に伏した時に進められた政略結婚であり、それにさして女に興味がない男も、道明寺の跡を継ぐ子孫を残すため、いずれ結婚しなければならないのなら相手は誰であっても良かった。
司にはかつて心から愛した人がいた。
しかし彼女とは結ばれることはなかった。
それは、司が彼女を捨てたから。
そうなった理由は、司が彼女のことを忘れたから。
あの時忘れた人は大切な人で、捨ててしまった感情を表す言葉は後悔としか言えなかったが、それは司にとって負の記憶であり、彼女に背を向けたことは一生背負っていく罪だと捉えていた。
そして彼女のことを思い出したのは結婚して3年が経ったある日の朝。
全身にびっしょりと汗をかき、うなされて目覚めたとき、心配そうに自分を覗き込んでいる妻の顏が彼女の顏に変わった。
記憶を取り戻した司は、かつての恋人に会いに行こうと思った。
だがそう思ったのは束の間であり、他の女と結婚した自分が今更どのツラを下げて会いに行けばいいのか。
だから、彼女の行方を探すことはしなかった。それに彼女も今頃は結婚して子供がいるはずだと思った。だから会いに行けば迷惑になると思い、遠いニューヨークの地から彼女が幸せに暮らしていることを祈った。持って行き場のない気持ちを仕事に向け、彼女のことは忘れようとした。そして司は不妊手術を受け、子供が出来ないことを理由に妻と別れた。
そんな男がこれから訪れようとしているのは、かつて恋人と訪れたことがある別荘。
途切れた記憶を繋ぎ合わせることは止めたが、時の波間に置き忘れた彼女を好きだったという感情は今も変わらずあり、それが時折頭をもたげて来ることがある。
だが司は心の奥にある思いを表に出すことはなかった。
それでも3日間の休暇で訪れたいと望んだ場所は彼女との思い出が残る場所。
気ままなドライブを楽しみたいと思ったのは嘘ではないが、心は死ぬまで一生忘れることのない人と過ごした別荘に行きたいと望んでいた。

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Comment:2
コメント
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司*****E様
おはようございます^^
え?結婚生活の中であったのか。なかったのかですか?
う~ん。正直なところ分かりませんねえ。
しかし結婚は跡取りを残すことが前提での結婚でしたからねえ。
さてこのドライブ。この先どうなるのでしょう。
短いお話ですが楽しんでいただければ幸いです^^
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
え?結婚生活の中であったのか。なかったのかですか?
う~ん。正直なところ分かりませんねえ。
しかし結婚は跡取りを残すことが前提での結婚でしたからねえ。
さてこのドライブ。この先どうなるのでしょう。
短いお話ですが楽しんでいただければ幸いです^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.09.01 22:23 | 編集
