司は普段運転手付きの車に乗ることからカーナビの機能を必要としない生活を送っていた。
それに自分で運転する時も走り慣れた場所が多く利用したことがない。
だから、聞こえてきた『目的地へのルート案内を始めます』の柔らかな女性の声に思わず返事をしていた。
「よろしくな」
するとナビは『こちらこそ。どうぞよろしくお願いします』と返事をした。
司はその言葉に片眉を上げた。
どうやら最新のカーナビは人の言葉を認識するように作られているようだが、技術は日進月歩であり機械が人と会話を交わすことは、さほど驚くことではない。
何しろ話しかけるだけで、照明やテレビの操作ができる人工知能を持つロボットは今の世の中には幾らでも溢れているのだから。
だからカーナビにそういった機能が備わっていても不思議ではないのだが、司は今まで使ったことがない機能だ。そんなことから感心しながら再びナビに話しかけた。
「目的地まではあとどれくらいで着く?」
『はい。目的地まであと1時間半ほどで着きます』
とナビは答えたが、機械とは言えその声は優しい女性の声であり、こうして会話が出来る機能を備えたナビゲーションシステムを不快とは思えず悪くはなく面白いと思えた。
だから司は再び話しかけた。
「そうか。それなら目的地に着くまで観光案内をしてくれないか?」
『観光案内ですか?』
「ああ。そうだ。目的地を訪れるのは随分と久し振りだ。だからそこに着くまでの道案内もだが観光案内もしてくれ」
司がそう言うとナビは黙ったが、それは考える時間なのだろう。
だから司も何も言わず暫く黙っていた。
すると、『分かりました。では、これから目的地に到着するまでの間、観光案内をさせていただきます』とナビは言ってこの先に何があるか。何が美味いかといった話を始めたが、その案内の仕方はまるで血の通った人間のようで、機械の音声もここまでくると技術の進歩を感心するしかなかった。
それに機械は人の機嫌を取ることはない。
媚びへつらう態度を取ることはない。
だからいつも自分の周りにいる人間とは違い対等な態度を取るところが気に入った。
つまり、どんなに機械が進歩しても、相手の地位や立場といったものを認識することは出来ず、司が口を挟まない限り喋りを続けているナビのその姿は好ましかった。
そしてひとりで車に乗ることが滅多にない男は、車内という狭い空間でナビの話を訊きながら、目に映る景色を楽しみ、時折窓を開け外の空気を感じひとりの時間を楽しみ始めたが、改めて思うのは誰にも邪魔されない自由な時間というのは素晴らしいものだということ。
そして眼下に広がる摩天楼で繰り広げられるビジネスの揉め事を数多く見て来た男は、山並みの風景に心が洗われた。
国破れて山河ありという言葉があるが、こうして目にする風景はまさにそれだと感じられた。
だが数日前から風邪気味だったことから、少し頭痛がして頭を軽く振ったが、運転には問題はなかった。
そのときナビの声が耳に入った。
『まもなく2キロ先、左方向、諏訪インター出口で降りて下さい』
次のインターで降りろと指示があり、司は左にハンドルを切り高速道路を降りると県道を走り始めたが、『ここから先は道なりですがカーブが続きます。運転には充分注意して下さい』
ナビはそう言って司に注意を促した。
だから司は、分かったと答えた。
そしてハンドル操作を続ける男を邪魔しないようにとでも言うのか。
黙ってしまったナビに司は何か音楽をかけてくれないかと言った。
すると、『わかりました。どのような音楽がお好きですか?お気に入りの歌手はいますか?』と訊いて来たが司は音楽に拘りはない。
それに気に入った歌手というのもいない。
だから、「いや。特に拘りはない。お勧めの曲があればそれを流してくれ。但し最近流行りの賑やかな曲は止めてくれ」と言った。
するとナビは少し沈黙をしたあと、『わかりました』と言って音楽を流し始めたが、その曲は聞き覚えのある懐かしい曲だった。

にほんブログ村
それに自分で運転する時も走り慣れた場所が多く利用したことがない。
だから、聞こえてきた『目的地へのルート案内を始めます』の柔らかな女性の声に思わず返事をしていた。
「よろしくな」
するとナビは『こちらこそ。どうぞよろしくお願いします』と返事をした。
司はその言葉に片眉を上げた。
どうやら最新のカーナビは人の言葉を認識するように作られているようだが、技術は日進月歩であり機械が人と会話を交わすことは、さほど驚くことではない。
何しろ話しかけるだけで、照明やテレビの操作ができる人工知能を持つロボットは今の世の中には幾らでも溢れているのだから。
だからカーナビにそういった機能が備わっていても不思議ではないのだが、司は今まで使ったことがない機能だ。そんなことから感心しながら再びナビに話しかけた。
「目的地まではあとどれくらいで着く?」
『はい。目的地まであと1時間半ほどで着きます』
とナビは答えたが、機械とは言えその声は優しい女性の声であり、こうして会話が出来る機能を備えたナビゲーションシステムを不快とは思えず悪くはなく面白いと思えた。
だから司は再び話しかけた。
「そうか。それなら目的地に着くまで観光案内をしてくれないか?」
『観光案内ですか?』
「ああ。そうだ。目的地を訪れるのは随分と久し振りだ。だからそこに着くまでの道案内もだが観光案内もしてくれ」
司がそう言うとナビは黙ったが、それは考える時間なのだろう。
だから司も何も言わず暫く黙っていた。
すると、『分かりました。では、これから目的地に到着するまでの間、観光案内をさせていただきます』とナビは言ってこの先に何があるか。何が美味いかといった話を始めたが、その案内の仕方はまるで血の通った人間のようで、機械の音声もここまでくると技術の進歩を感心するしかなかった。
それに機械は人の機嫌を取ることはない。
媚びへつらう態度を取ることはない。
だからいつも自分の周りにいる人間とは違い対等な態度を取るところが気に入った。
つまり、どんなに機械が進歩しても、相手の地位や立場といったものを認識することは出来ず、司が口を挟まない限り喋りを続けているナビのその姿は好ましかった。
そしてひとりで車に乗ることが滅多にない男は、車内という狭い空間でナビの話を訊きながら、目に映る景色を楽しみ、時折窓を開け外の空気を感じひとりの時間を楽しみ始めたが、改めて思うのは誰にも邪魔されない自由な時間というのは素晴らしいものだということ。
そして眼下に広がる摩天楼で繰り広げられるビジネスの揉め事を数多く見て来た男は、山並みの風景に心が洗われた。
国破れて山河ありという言葉があるが、こうして目にする風景はまさにそれだと感じられた。
だが数日前から風邪気味だったことから、少し頭痛がして頭を軽く振ったが、運転には問題はなかった。
そのときナビの声が耳に入った。
『まもなく2キロ先、左方向、諏訪インター出口で降りて下さい』
次のインターで降りろと指示があり、司は左にハンドルを切り高速道路を降りると県道を走り始めたが、『ここから先は道なりですがカーブが続きます。運転には充分注意して下さい』
ナビはそう言って司に注意を促した。
だから司は、分かったと答えた。
そしてハンドル操作を続ける男を邪魔しないようにとでも言うのか。
黙ってしまったナビに司は何か音楽をかけてくれないかと言った。
すると、『わかりました。どのような音楽がお好きですか?お気に入りの歌手はいますか?』と訊いて来たが司は音楽に拘りはない。
それに気に入った歌手というのもいない。
だから、「いや。特に拘りはない。お勧めの曲があればそれを流してくれ。但し最近流行りの賑やかな曲は止めてくれ」と言った。
するとナビは少し沈黙をしたあと、『わかりました』と言って音楽を流し始めたが、その曲は聞き覚えのある懐かしい曲だった。

にほんブログ村
スポンサーサイト
Comment:2
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

司*****E様
こんにちは。
カーナビ。話しかけた事に対して応えてくれるものもあるんですよ。
それから某メーカーの車ですが本物の人間に繋がって色々とお願いすることも出来るんですが、本当に便利な世の中になったなあと思いました。
地図!同じです(笑)
昔は知らない土地に行く時は、前もって地図を買って車に乗せていましたが、今はナビがあるので地図を見ることはありませんねぇ。
え?メロンのショートケーキ!
なんだかとても贅沢なケーキですね!子供の頃、メロンといえばお見舞いに使われるのが定番でしたが今でもそうなのでしょうか?そしてモンブラン!アカシアも好きです。秋を迎えると沢山のモンブランが目につくようになりますが、時々無性に食べたくなるのがモンブランです。
さてお話ですが、まだ二人の関係が分かりませんねえ。
ですがこちら短編ですのでそろそろ....?
コメント有難うございました^^
こんにちは。
カーナビ。話しかけた事に対して応えてくれるものもあるんですよ。
それから某メーカーの車ですが本物の人間に繋がって色々とお願いすることも出来るんですが、本当に便利な世の中になったなあと思いました。
地図!同じです(笑)
昔は知らない土地に行く時は、前もって地図を買って車に乗せていましたが、今はナビがあるので地図を見ることはありませんねぇ。
え?メロンのショートケーキ!
なんだかとても贅沢なケーキですね!子供の頃、メロンといえばお見舞いに使われるのが定番でしたが今でもそうなのでしょうか?そしてモンブラン!アカシアも好きです。秋を迎えると沢山のモンブランが目につくようになりますが、時々無性に食べたくなるのがモンブランです。
さてお話ですが、まだ二人の関係が分かりませんねえ。
ですがこちら短編ですのでそろそろ....?
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.08.31 21:56 | 編集
