つくしは司と並んで走りながら言った。
「ね・・ねぇ・・どうして・・つ・・つかさも・・走ってるの?」
「あほ。おまえが寝坊したからだろうが・・」
「で、でもそれは・・つ、つか・さ・・が悪い・んだから・・」
と、つくしは廊下を走りつづけながら言った。
「つ、司は・・あとからゆっくり・・来たらいいじゃない!支社長に勤怠管理・・なんてないでしょ?」
「私は遅刻なんて・・」
日曜の夜、明日はつくしと一緒に出勤すると言いはった。
それも地下鉄で・・・
「つ、司はちゃんと迎えに来てもらって出社して」とつくしは断った。
じゃあ、つくしも自分と同じ車で出社すればいいと言うのはいつものことだが、そんな迂闊なことが出来るはずがなかった。
支社長といち女子社員が同じ車で出社するなんてありえない・・・
つくしは車で迎えに来てもらった方が車内で仕事も出来るだろうし、疲れた身体を休めることができるからと言ったが無駄だった。
俺はつくしと地下鉄で出勤すると言って譲らなかった。
いつもなら、もっと早い時間帯で混雑もまだ許される範囲だった。
が、二人して乗り込んだ時間帯の地下鉄の混雑にはさすがに司も辟易したと見えた。
どうして地下鉄に乗りたがるのかと聞いてみれば、おまえと出会ったのが地下鉄の駅だったからと言われた。
が、つくしにはまったく心当たりが無かった。
道明寺みたいな人と出会っていたら印象に残っていたはずなのにね?
それに何故そんなに出会いの場所にこだわるのかが不思議だった。
「つくし・・」
司はつくしが業務をこなすオフィスの扉の前につくとひと息ついた。
「・・な・・に?」
息を切らして答えるつくしの顔を両手で包んで
「浮気すんなよ」と強く短いキスをした。
「ちょ・・バカ・・」
「おまえに首ったけだ」
司の唇がカーブをえがいた。
つくしは小さな声で「わたしも」と呟くとダークスーツに身を固め、有能で危険な雰囲気のする男を見送った。
****
司はつくしのマンションに泊まることが増えた。
週末がめぐってくるたび、もっと一緒にいたいと思う気持ちが二人のなかに芽生えていた。
毎日、少なくとも午前中だけだが互いの顔を見て仕事をする状況はある。
が、A国での未開発鉱区の開発プロジェクトは現地が主導して進めることにより、東京で司の指示を必要とするオペレーションは少なくなってきた。
そしてその状況を見越したように別のプロジェクトが立ち上がり、司の指揮を必要とする案件が持ち上がっていた。
司はそれにともない出張しなければならなかったし、つくしはオフィスで待ち受けている仕事をこなす日々が続いていた。
また暫くは多忙を極める日々が続きそうだった。
いつも何らかの形で毎日顔を合わせていた二人も時間と距離という制約はどうしようもなかった。
どうしようもなかったが・・・
どうしようもなく会いたいと思うことがある。
そう強く思うようになったのはつくしのほうだった。
もちろん司もそうだった。
出張先からでも必ず電話をかけてくる。
お互いにその日あったことを話しあい最後には必ず愛しているの言葉とともに電話をおいていた。
長期出張となると指折り数えて待つあいだに季節が進んでいくスピードのほうが早かった。
もうすぐクリスマスシーズンか・・
南半球は真夏のクリスマス・・
サンタクロースがサーフボードに乗ってやって来る日も近い。
そういえば道明寺は高校生のころサーフィンをするために行ったって話していたっけ。
去年は大使館主催のクリスマスパーティーにひとりで参加した。
やっぱり私は真夏のクリスマスよりホワイトクリスマスの方が好き。
でも雪なんて降らなくてもいい・・
今年のクリスマスは好きな人と一緒に過ごせることがなによりのプレゼントだもの。
暗黙の了解により、司とつくしの二人が付き合っていることはもちろん内緒だった。
最初のうちこそ司は誰かに気づいて欲しい、誰かに自分達の関係を聞いて欲しいという思いだった。
その思いが溢れ、やたらとつくしの傍をうろつくと言う状況を生み出していた。
だが、こうして二人が身体も心も結びつきを強めた今では互いを信頼し、落ち着いた関係で過ごせるようになってきていた。
しかし司が結婚の話を持ち出すたび、つくしは嬉しさを感じると共に本当に結婚できるのだろうかと言う思いにとらわれずにはいられなかった。
司はことあるごとに結婚しようと言ってくれる。
彼にとっては付き合うということは結婚を前提とすると言うことだから、付き合う期間があるならすぐにでも結婚をしたいと言うほどだった。
だが、結婚というのは当人同士だけの問題ではない。
その永続的な関係には肉親の関係も含まれるのだから。
相手は道明寺家のひとり息子だ。
彼の家族がつくしとの永続的な関係を受け入れてくれるかどうかが一番の問題だった。
司は今すぐの結婚が無理なら婚約しようと言いはった。
早く自分達の関係を公のものとして世間に公表しようと主張した。
だがこれから先、将来のことを考えるのであれば二人の関係を今この段階で公のものとするの好ましくないのではと司の姉の口から出た。
「二人ともわかっているとは思うけど、司は日本支社のトップで、つくしちゃんはいち事業部の社員。いくらつくしちゃんが優秀な社員でも、それを許せる人と許せない人がいるのよね・・」
椿はそこまで言うと手にしていたグラスを司に振り向けた。
「ちょっと、司!どうなってるのよ!」
クリスタルのカットグラスに満たされているワインが零れそうになった。
椿は弟とその恋人をまえにしてワイングラスを傾けていた。
「司!あんたお母さんにはちゃんと話をしてるの?」
「あ?あのクソババァか?」
司は憮然とした態度でソファにもたれ掛り長い足を投げ出していた。
「司!つくしちゃんの前でそんな口のきき方をしない!」
「ごめんね、つくしちゃん。こいついつまで経っても母親のことが許せないのよ・・」
椿はためらい、それから言葉を継いだ。
「聞いてるかもしれないけど・・あたし達の母親ってのが厳しい人でね。我が子に対しても容赦がない人間っていうのかな・・」
椿はワインを飲みながらため息をついていた。
「とにかく、きちんと話をしないことには将来つくしちゃんが困るんだからね?」
「いくらあんたがひとりそんなことを言っても結婚ってのはいろいろとあるんだからね?」
「お母さんだって・・いつまでも・・いい?司、ちゃんと話をしなさいよ!」
椿は勢いよく立ち上がるとテーブルから離れた。
司は隣に座るつくしの手を握ると、大丈夫だ何も心配することはないと言った。
「 うん 」つくしは言い司の手を握り返した。
「わたしたち、これからもずっと一緒にいれるといいね」
つくしはほほ笑んでみせた。
「ああ。これから先はずっと一緒にいよう」
司も同じことを言うともう一度つくしの手をぎゅっと握り返していた。

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と、つくしは廊下を走りつづけながら言った。
「つ、司は・・あとからゆっくり・・来たらいいじゃない!支社長に勤怠管理・・なんてないでしょ?」
「私は遅刻なんて・・」
日曜の夜、明日はつくしと一緒に出勤すると言いはった。
それも地下鉄で・・・
「つ、司はちゃんと迎えに来てもらって出社して」とつくしは断った。
じゃあ、つくしも自分と同じ車で出社すればいいと言うのはいつものことだが、そんな迂闊なことが出来るはずがなかった。
支社長といち女子社員が同じ車で出社するなんてありえない・・・
つくしは車で迎えに来てもらった方が車内で仕事も出来るだろうし、疲れた身体を休めることができるからと言ったが無駄だった。
俺はつくしと地下鉄で出勤すると言って譲らなかった。
いつもなら、もっと早い時間帯で混雑もまだ許される範囲だった。
が、二人して乗り込んだ時間帯の地下鉄の混雑にはさすがに司も辟易したと見えた。
どうして地下鉄に乗りたがるのかと聞いてみれば、おまえと出会ったのが地下鉄の駅だったからと言われた。
が、つくしにはまったく心当たりが無かった。
道明寺みたいな人と出会っていたら印象に残っていたはずなのにね?
それに何故そんなに出会いの場所にこだわるのかが不思議だった。
「つくし・・」
司はつくしが業務をこなすオフィスの扉の前につくとひと息ついた。
「・・な・・に?」
息を切らして答えるつくしの顔を両手で包んで
「浮気すんなよ」と強く短いキスをした。
「ちょ・・バカ・・」
「おまえに首ったけだ」
司の唇がカーブをえがいた。
つくしは小さな声で「わたしも」と呟くとダークスーツに身を固め、有能で危険な雰囲気のする男を見送った。
****
司はつくしのマンションに泊まることが増えた。
週末がめぐってくるたび、もっと一緒にいたいと思う気持ちが二人のなかに芽生えていた。
毎日、少なくとも午前中だけだが互いの顔を見て仕事をする状況はある。
が、A国での未開発鉱区の開発プロジェクトは現地が主導して進めることにより、東京で司の指示を必要とするオペレーションは少なくなってきた。
そしてその状況を見越したように別のプロジェクトが立ち上がり、司の指揮を必要とする案件が持ち上がっていた。
司はそれにともない出張しなければならなかったし、つくしはオフィスで待ち受けている仕事をこなす日々が続いていた。
また暫くは多忙を極める日々が続きそうだった。
いつも何らかの形で毎日顔を合わせていた二人も時間と距離という制約はどうしようもなかった。
どうしようもなかったが・・・
どうしようもなく会いたいと思うことがある。
そう強く思うようになったのはつくしのほうだった。
もちろん司もそうだった。
出張先からでも必ず電話をかけてくる。
お互いにその日あったことを話しあい最後には必ず愛しているの言葉とともに電話をおいていた。
長期出張となると指折り数えて待つあいだに季節が進んでいくスピードのほうが早かった。
もうすぐクリスマスシーズンか・・
南半球は真夏のクリスマス・・
サンタクロースがサーフボードに乗ってやって来る日も近い。
そういえば道明寺は高校生のころサーフィンをするために行ったって話していたっけ。
去年は大使館主催のクリスマスパーティーにひとりで参加した。
やっぱり私は真夏のクリスマスよりホワイトクリスマスの方が好き。
でも雪なんて降らなくてもいい・・
今年のクリスマスは好きな人と一緒に過ごせることがなによりのプレゼントだもの。
暗黙の了解により、司とつくしの二人が付き合っていることはもちろん内緒だった。
最初のうちこそ司は誰かに気づいて欲しい、誰かに自分達の関係を聞いて欲しいという思いだった。
その思いが溢れ、やたらとつくしの傍をうろつくと言う状況を生み出していた。
だが、こうして二人が身体も心も結びつきを強めた今では互いを信頼し、落ち着いた関係で過ごせるようになってきていた。
しかし司が結婚の話を持ち出すたび、つくしは嬉しさを感じると共に本当に結婚できるのだろうかと言う思いにとらわれずにはいられなかった。
司はことあるごとに結婚しようと言ってくれる。
彼にとっては付き合うということは結婚を前提とすると言うことだから、付き合う期間があるならすぐにでも結婚をしたいと言うほどだった。
だが、結婚というのは当人同士だけの問題ではない。
その永続的な関係には肉親の関係も含まれるのだから。
相手は道明寺家のひとり息子だ。
彼の家族がつくしとの永続的な関係を受け入れてくれるかどうかが一番の問題だった。
司は今すぐの結婚が無理なら婚約しようと言いはった。
早く自分達の関係を公のものとして世間に公表しようと主張した。
だがこれから先、将来のことを考えるのであれば二人の関係を今この段階で公のものとするの好ましくないのではと司の姉の口から出た。
「二人ともわかっているとは思うけど、司は日本支社のトップで、つくしちゃんはいち事業部の社員。いくらつくしちゃんが優秀な社員でも、それを許せる人と許せない人がいるのよね・・」
椿はそこまで言うと手にしていたグラスを司に振り向けた。
「ちょっと、司!どうなってるのよ!」
クリスタルのカットグラスに満たされているワインが零れそうになった。
椿は弟とその恋人をまえにしてワイングラスを傾けていた。
「司!あんたお母さんにはちゃんと話をしてるの?」
「あ?あのクソババァか?」
司は憮然とした態度でソファにもたれ掛り長い足を投げ出していた。
「司!つくしちゃんの前でそんな口のきき方をしない!」
「ごめんね、つくしちゃん。こいついつまで経っても母親のことが許せないのよ・・」
椿はためらい、それから言葉を継いだ。
「聞いてるかもしれないけど・・あたし達の母親ってのが厳しい人でね。我が子に対しても容赦がない人間っていうのかな・・」
椿はワインを飲みながらため息をついていた。
「とにかく、きちんと話をしないことには将来つくしちゃんが困るんだからね?」
「いくらあんたがひとりそんなことを言っても結婚ってのはいろいろとあるんだからね?」
「お母さんだって・・いつまでも・・いい?司、ちゃんと話をしなさいよ!」
椿は勢いよく立ち上がるとテーブルから離れた。
司は隣に座るつくしの手を握ると、大丈夫だ何も心配することはないと言った。
「 うん 」つくしは言い司の手を握り返した。
「わたしたち、これからもずっと一緒にいれるといいね」
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