fc2ブログ
2019
08.07

父の課題 <前編> ~続・理想の恋の見つけ方~

Category: 父の課題
こちらのお話は『七夕の夜に~続・理想の恋の見つけ方~』の続編です。
********************************









「ねえお父さん、どうして、ちりめんじゃこはイワシになれなかったの?」

「は?」

「だから、このちりめんじゃこはイワシになれなかったからこんな形で僕たちに食べられてるってことだよね?」


司は我が子が何を言いたいのか理解出来ずにいた。
息子の前にあるのは皿にこんもりと盛られた京都土産のちりめん山椒。
それは総二郎が京都での茶会へ出向いた時に購入したもので漬物と一緒に届けられた。

司の息子の航(わたる)は英徳学園初等部の4年生になった。
そして夏休みに入った我が子には宿題として自由研究というものがあった。
だが司が初等部時代にそんな宿題があったのかと言えば無かったはずだ。

「そんなはずないでしょ?それは司が宿題をしなかっただけであったはずよ?だって小学生の自由研究は子供の自主性を高めるためにあるのよ。それに問題を解決する能力を育てるためにあるのよ?だから司が英徳に通っていた頃も絶対にあったはずよ?」

と海洋生物学者の妻は言った。
だから司の時代にもあったかもしれない自由研究という名の宿題。
だがそれはとてもメンドクサそうに思えたが、そんなことは口にしなかった。
何しろ我が子は母親に似て頭がいい。と、いうよりも拘りのものを見つけるとトコトン追求するタイプということ。
そして母親が海洋生物学者ということもあり、幼い頃から生き物に対して高い関心を持ち、幼稚舎時代は特にアマガエルに興味を抱き、庭にいるそのカエルを捕まえる手伝いをさせられ、大人になったらクワガタになると言って司を笑わせた。

だからイワシに興味を持ったとしても分かるのだが、そんな我が子が夏休みの自由研究のテーマに選んだのは、自然や環境問題でもなければ、魚のことでも科学的なことでもない。
それに「何故このちりめんじゃこはイワシになれなかったのか?」でもない。
それなら息子が決めた夏休みの自由研究は何なのかといえば、それは『イケメンは年を取ってもイケメンか?』ということ。
そしてその研究対象は父親である司だと言った。

司は幼い頃はかわいいと言われ、やがて成長していくにつれ、誉め言葉は、かわいいからカッコイイへと変化した。
そして中等部に入学する頃には、いい男の代表格だと言われ女に嫌というほどモテたが、女はバカで醜い生き物であり興味がなかった。
だが生理的なことから女性遍歴を重ねた後、最愛の人に出会ったが、その人は司のイケメン具合に興味はない学者だった。

やがて二人は結婚して男の子と女の子を授かった。
そのうちの男の子の方がとにかく人と違った視点で物事を見る。
だからなのか。『イケメンは年を取ってもイケメンか?』という人間観察を自由研究のテーマに選んだ。
だがそのテーマの研究は長い期間を要するものであり、とても夏休みの間だけで済まされるものではない。それに司はまだ40代であり年を取ったとは考えていない。
けれど、我が子にしてみれば40代の父親は年を取っているということなのか。

それにしても、まさか我が子にイケメンと思われているとは思わなかったが、確かに我が子は小さい頃、父親である司のことを「パパはカッコいい」と言っていた。
だがそれは幼い子供なら父親が一番であるということから思うことだ。
だから何をもって司をイケメンと思うのかを訊くことにした。

「航。父さんのことをイケメンだと思うのか?でもどうしてそう思うんだ?」

「う~ん。僕は正直なところお父さんがイケメンかどうかは分かんない。でもみんながそう言うからそうなんだろうなって。だって美穂ちゃんや理奈ちゃんがお父さんのことをイケメンだって言うし、先生もお父様はイケメンねって言ったよ?」

美穂ちゃんや理奈ちゃんというのは、恐らく同じクラスの女の子で先生はクラス担任。

「だから僕はお父さんが子供の頃からイケメンだったか知りたいと思ったんだ。ねえ。だからお父さんが赤ちゃんの頃の写真を見せてよ。それから幼稚舎に入ってからと初等部のも。それから中等部と高等部と大学のもね?あ!それからお母さんと出会った頃の写真もね!」

そう言われたが司は写真に撮られることが嫌いだった。
だから写真として存在しているのは、幼稚舎と初等部の低学年の頃の写真だけで、中等部、高等部の写真はなく、あるとすれば隠し撮りされたもの。
そして大学はアメリカであり、そこから妻と出会うまで写真と呼ばれるもので辛うじてあるとすれば週刊誌に載った写真。
だがその写真は粒子が荒く、ましてやスキャンダルに満ちた記事に使われている写真であり子供に見せたいと思うような写真ではなかった。

だから困った。
そして親になるということは、自分の過去にも責任を持たなければならないことを感じていた。
それにしても、まさか子供に若い頃の写真が見たいと言われるとは思いもしなかった。
だからなんとかしなければと思考を巡らせた。



にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2019.08.07 05:48 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
七夕から1ケ月。あっという間に1ケ月が過ぎてしまいました。
クワガタになりたいと言っていた航くん(笑)
もう4年生です。
そしてカッコいい。イケメンと言われる自分の父親に興味を持ったようです。
『イケメンは年を取ってもイケメンか?』
確かに子供の頃は可愛くて大きくなったら楽しみだと思っていたら、そうでもない(笑)
また逆のパターンも(笑)
こればかリは分かりませんねえ(笑)
さて、司。写真をどうするのでしょう。我が子の頼みですからなんとかするでしょう。
司パパ頑張れ!(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.08.07 21:51 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top