インターホンの呼び出し音がしてつくしはいぶかった。
こんな夜遅い時間に・・・だが、おおよその見当はついていた。
モニターで確認すれば道明寺がこちらを見つめていた。
予感は当たっていた。
「なに?」
とひと言、冷たい声で答えた。
「話したいことがある」
「私は話しなんてしたくありません。明日会社で会いましょう」
「ま、まて!牧野!」
「なんでしょう?」
「会ってもらえないなら強引にでも入ることは出来るが・・どうする?」
・・・そうだった。
この人はそんなことが出来る立場の人なんだ・・・。
つくしは今更ながらこの人との属性の違いを感じていた。
お金と権力と美貌のすべてを備えたこの人には自分の思い通りに出来ないことなんてないのだと。
つくしは仕方なくセキュリティ自動ドアを解除した。
5分とかからずここまで上がって来れるはずだ。
玄関の扉を解錠する音がした。
扉が開かれたとき、そこにいた牧野は今朝出社したときと同じ服装だった。
「牧野、こんな遅い時間にすまない・・」
「・・どうぞ。こんなところじゃ寒いからなかへ・・」
司が玄関を入るとつくしはキッチンのテーブルへと案内した。
「狭いところだけど、どうぞ・・」
二人で狭いキッチンのテーブルで向かい合って座っていた。
道明寺がこんな時間に訪ねてくる理由なんて知ってる。
二人の女性についてのいいわけに決まってる。
それとも・・別れ話?
やっぱり私と付き合ってみたけど、どこにでもいるつまらない女と思われた?
付き合って二カ月も経つのにキスしか許さない女なんてつまらない?興ざめ?
どんな話になったとしても頭をはっきりさせておく必要がある。
今の私にはカフェインが必要だ。
「こ、こんな時間だけど・・コーヒーでも飲む?」
「 ああ 」司は椅子に背中をあずけた姿勢で呟いた。
「あ、でもいつも道明寺が飲んでいるようなコーヒーじゃないからね?」
つくしはコーヒーを淹れるため席をたった。
そしてキッチンの隅に置かれていたコーヒーメーカーにペーパーフィルターをセットするとコーヒーの粉を数杯すくって入れた。
「道明寺の飲むコーヒーはいつも豆から挽いてるのよね?」
「うちのは・・そんなにいい粉じゃないから・・美味しくないかもしれないけど・・」
つくしは冷蔵庫のなかを覗きこんでいた。
「あ、ミルクがない・・。あ、道明寺はブラックだから必要ないよね?」
つくしはそう言いながらも司の方を見ようとはしなかった。
コーヒーメーカーがゴボゴボと音をたて始めるとコーヒーの香りが部屋のなかに漂いはじめた。
沈黙が二人のあいだを流れていた。
そのうちにゴボゴボと音をたてていた機械の音がポコポコと言う音に変わると、やがて静かになった。
つくしは二人分のカップを用意するとひとつは道明寺の前に置き、もうひとつは両手で包み込むようにして握ぎりしめた。
つくしは座らなかった。
そしてテーブルを挟んだままで司と向かい合っていた。
「仕事モードの牧野は嫌な女だな」
と司は呟いた。
「今日も、昨日も・・おまえは会社で俺を無視して嫌な女だった」
「俺はかわいい牧野のほうが好きだ」
司の声は微笑を含んでいた。
「話しって・・?」
「牧野、この前マンションに来た女だけど・・」
つくしは司の言葉を遮った。
「ど、道明寺!わ、私と別れたいんならはっきり言って!」
つくしは司の顔を正面から見据えて言った。
「や・・やっぱり私なんかと付き合うのは・・・。社会的レベルが違うっていうのか・・。
私はお嬢様でもなんでもないし、家柄だって普通だし・・。ど、道明寺だったら誰でも手にはいるのに・・」
つくしはわななく息を吸い込んで話しを続けた。
「し、仕事は・・嫌な女にならないように努力するから・・まだちょっと無理かもしれないけど・・努力します・・」
「牧野、違うんだ、いいから俺の話しをちゃんと聞け!」
立ち上がった司はテーブルを回り込むとつくしの傍へとやってきた。
「あの女は俺のストーカーだ!妄想女なんだよ!俺の女だなんてとんでもねぇ話だ!」
司は声を高めた。
「あのとき、総二郎が電話してきたのもあの女に気を付けろって警告だったんだよ!
俺はあんな女は見たこともねぇし、そんな女とキスなんかするはずねぇだろ?」
司は訴えかけるように言った。
「そ、そう・・・」
じゃあ今日のあのきれいな女性は?
司はつくしが逡巡しているのを見て取った。
「牧野、おまえが何を考えてるかわかるぞ。今日の女は誰だって考えてるんだろ?」
つくしは小さく頷いた。
「あれは俺の姉貴だ。夕方ロサンゼルスから着いたところだったんだ」
「あのひと・・道明寺のお姉さんなの?」
事態改善は可能か?
「姉ちゃんは親しい人間には抱きつく癖があんだよ・・」
そのうちおまえにも抱きつくようになるぞ!
「・・ほ、本当なの?」
信じられないのか多少の不安が語尾から感じられた。
「ああ本当だ。姉貴なら今すぐにでも会えるぞ?」
つくしは顔からサーっと血が引いていくような感覚に襲われていた。
「あの・・わたし・・ご、ごめん・・道明寺。ごめんなさい」
本気でそう思っている口調だった。
司は息を吐き出すと言った。
「いや・・俺が悪い・・・って言いたいところだけど、俺は悪くねぇぞ!」
「ストーカー女なんて俺は被害者だし、姉貴はおまえが勝手に勘違いしたんだからな!
俺にバスまで追っかけさせやがって!」
「だ・・だって二人とも道明寺に抱きついてたのよ?どう考えてもそう思うわよ!」
つくしは落ち着かない表情になった。
「いーや。思わねえな。抱きついてきたとしても俺は抱きつき返しちゃいねぇからな。
あんな一方通行のハグなんて聞いたことねぇ。セクハラじゃねえかよ!やめてくれよ、あんなドブス女」
司はそういうと意外にも笑いながらつくしが大事そうに手の中に包み込んでいるコーヒーカップを取り上げると悪戯っぽい目をした。
「抱きつかれるなら牧野がいい」
司はつくしから取り上げたコーヒーをひと口くちにした。
そして一転して真顔になると
「・・・これ本当にコーヒーか?」
と苦笑しながら司は呟いた。
「牧野、おまえは臆病な女じゃないだろ?なんで俺と付き合っていくことをそんなに躊躇してるんだ?」
「道明寺・・・わたし・・」
司は手にしていたコーヒーカップをテーブルの上に置くとつくしの身体を引き寄せた。
低く甘い声でささやかれたとき、つくしは気がついた。
これから自分がどんなふうになるのかわかっていた。
「牧野、俺とおまえは違って当然なんだからそんなことは何も心配しなくていいんだ。
これから二人で折り合いをつけていけばいい・・・」
「言ったはずだ、恋するのに理由は要らないってな。わかったか?俺の言ってることが?」
司はいったん口をつぐんだあと、つくしの頬にそっと手を添えた。
そしてにやりと笑った。
「おまえが逃げても世界の果て、いや地獄の果てまででも追いかけて行くからな!」
それから、真顔になった。
「愛してる・・牧野・・」
「俺はおまえの気持ちが固まるまで、待つつもりでいたけど・・」
司は息を吸い込んだ。
つくしはじっと司を見つめていた。
「・・どうしよう・・わたしも・・道明寺がすき・・・」
つくしは司の腕の中に飛び込んでいた。
なにも考えていなかった。考えたくなかった。
ただ知りたかった・・・そして感じたかった。
つくしの身体は司の身体にぴったりと押し付けられていた。
欲しいと思った。道明寺を。
司はむさぼるようにキスをしていた。
まるでつくしがこの世でたったひとり、人類のなか唯一の女性であるかのように。
そして誰かに取られてなるものかとしっかりと抱きしめていた。

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つくしは今更ながらこの人との属性の違いを感じていた。
お金と権力と美貌のすべてを備えたこの人には自分の思い通りに出来ないことなんてないのだと。
つくしは仕方なくセキュリティ自動ドアを解除した。
5分とかからずここまで上がって来れるはずだ。
玄関の扉を解錠する音がした。
扉が開かれたとき、そこにいた牧野は今朝出社したときと同じ服装だった。
「牧野、こんな遅い時間にすまない・・」
「・・どうぞ。こんなところじゃ寒いからなかへ・・」
司が玄関を入るとつくしはキッチンのテーブルへと案内した。
「狭いところだけど、どうぞ・・」
二人で狭いキッチンのテーブルで向かい合って座っていた。
道明寺がこんな時間に訪ねてくる理由なんて知ってる。
二人の女性についてのいいわけに決まってる。
それとも・・別れ話?
やっぱり私と付き合ってみたけど、どこにでもいるつまらない女と思われた?
付き合って二カ月も経つのにキスしか許さない女なんてつまらない?興ざめ?
どんな話になったとしても頭をはっきりさせておく必要がある。
今の私にはカフェインが必要だ。
「こ、こんな時間だけど・・コーヒーでも飲む?」
「 ああ 」司は椅子に背中をあずけた姿勢で呟いた。
「あ、でもいつも道明寺が飲んでいるようなコーヒーじゃないからね?」
つくしはコーヒーを淹れるため席をたった。
そしてキッチンの隅に置かれていたコーヒーメーカーにペーパーフィルターをセットするとコーヒーの粉を数杯すくって入れた。
「道明寺の飲むコーヒーはいつも豆から挽いてるのよね?」
「うちのは・・そんなにいい粉じゃないから・・美味しくないかもしれないけど・・」
つくしは冷蔵庫のなかを覗きこんでいた。
「あ、ミルクがない・・。あ、道明寺はブラックだから必要ないよね?」
つくしはそう言いながらも司の方を見ようとはしなかった。
コーヒーメーカーがゴボゴボと音をたて始めるとコーヒーの香りが部屋のなかに漂いはじめた。
沈黙が二人のあいだを流れていた。
そのうちにゴボゴボと音をたてていた機械の音がポコポコと言う音に変わると、やがて静かになった。
つくしは二人分のカップを用意するとひとつは道明寺の前に置き、もうひとつは両手で包み込むようにして握ぎりしめた。
つくしは座らなかった。
そしてテーブルを挟んだままで司と向かい合っていた。
「仕事モードの牧野は嫌な女だな」
と司は呟いた。
「今日も、昨日も・・おまえは会社で俺を無視して嫌な女だった」
「俺はかわいい牧野のほうが好きだ」
司の声は微笑を含んでいた。
「話しって・・?」
「牧野、この前マンションに来た女だけど・・」
つくしは司の言葉を遮った。
「ど、道明寺!わ、私と別れたいんならはっきり言って!」
つくしは司の顔を正面から見据えて言った。
「や・・やっぱり私なんかと付き合うのは・・・。社会的レベルが違うっていうのか・・。
私はお嬢様でもなんでもないし、家柄だって普通だし・・。ど、道明寺だったら誰でも手にはいるのに・・」
つくしはわななく息を吸い込んで話しを続けた。
「し、仕事は・・嫌な女にならないように努力するから・・まだちょっと無理かもしれないけど・・努力します・・」
「牧野、違うんだ、いいから俺の話しをちゃんと聞け!」
立ち上がった司はテーブルを回り込むとつくしの傍へとやってきた。
「あの女は俺のストーカーだ!妄想女なんだよ!俺の女だなんてとんでもねぇ話だ!」
司は声を高めた。
「あのとき、総二郎が電話してきたのもあの女に気を付けろって警告だったんだよ!
俺はあんな女は見たこともねぇし、そんな女とキスなんかするはずねぇだろ?」
司は訴えかけるように言った。
「そ、そう・・・」
じゃあ今日のあのきれいな女性は?
司はつくしが逡巡しているのを見て取った。
「牧野、おまえが何を考えてるかわかるぞ。今日の女は誰だって考えてるんだろ?」
つくしは小さく頷いた。
「あれは俺の姉貴だ。夕方ロサンゼルスから着いたところだったんだ」
「あのひと・・道明寺のお姉さんなの?」
事態改善は可能か?
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「だ・・だって二人とも道明寺に抱きついてたのよ?どう考えてもそう思うわよ!」
つくしは落ち着かない表情になった。
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司はそういうと意外にも笑いながらつくしが大事そうに手の中に包み込んでいるコーヒーカップを取り上げると悪戯っぽい目をした。
「抱きつかれるなら牧野がいい」
司はつくしから取り上げたコーヒーをひと口くちにした。
そして一転して真顔になると
「・・・これ本当にコーヒーか?」
と苦笑しながら司は呟いた。
「牧野、おまえは臆病な女じゃないだろ?なんで俺と付き合っていくことをそんなに躊躇してるんだ?」
「道明寺・・・わたし・・」
司は手にしていたコーヒーカップをテーブルの上に置くとつくしの身体を引き寄せた。
低く甘い声でささやかれたとき、つくしは気がついた。
これから自分がどんなふうになるのかわかっていた。
「牧野、俺とおまえは違って当然なんだからそんなことは何も心配しなくていいんだ。
これから二人で折り合いをつけていけばいい・・・」
「言ったはずだ、恋するのに理由は要らないってな。わかったか?俺の言ってることが?」
司はいったん口をつぐんだあと、つくしの頬にそっと手を添えた。
そしてにやりと笑った。
「おまえが逃げても世界の果て、いや地獄の果てまででも追いかけて行くからな!」
それから、真顔になった。
「愛してる・・牧野・・」
「俺はおまえの気持ちが固まるまで、待つつもりでいたけど・・」
司は息を吸い込んだ。
つくしはじっと司を見つめていた。
「・・どうしよう・・わたしも・・道明寺がすき・・・」
つくしは司の腕の中に飛び込んでいた。
なにも考えていなかった。考えたくなかった。
ただ知りたかった・・・そして感じたかった。
つくしの身体は司の身体にぴったりと押し付けられていた。
欲しいと思った。道明寺を。
司はむさぼるようにキスをしていた。
まるでつくしがこの世でたったひとり、人類のなか唯一の女性であるかのように。
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Comment:2
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

ka**i様
いつもご訪問有難うございます。
はい。私も誤解が解けてホッとしました(笑)
ka**i様の仰るとおり、素敵な夜を過ごしてもらいます!
今度こそは二人に熱い一夜が訪れるように頑張ります!
ストーカー女の邪魔も誰かさんからの電話もないはずです。
ただ、濃度をどのくらいにしようかと・・
なにしろ初心なふたりですので(笑)
また明日覗いて見て下さると嬉しいです。
コメント有難うございました。
いつもご訪問有難うございます。
はい。私も誤解が解けてホッとしました(笑)
ka**i様の仰るとおり、素敵な夜を過ごしてもらいます!
今度こそは二人に熱い一夜が訪れるように頑張ります!
ストーカー女の邪魔も誰かさんからの電話もないはずです。
ただ、濃度をどのくらいにしようかと・・
なにしろ初心なふたりですので(笑)
また明日覗いて見て下さると嬉しいです。
コメント有難うございました。
アカシア
2015.11.28 21:39 | 編集
