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2019
06.30

理想の恋の見つけ方 最終話

花嫁の両親は娘が連れてきた結婚相手が大財閥の跡取りと訊いて腰を抜かした。
父親は典型的なサラリーマンで母親は専業主婦。道明寺という名前を知らないわけではなかったが、二人の思いは、まさかうちの娘が。のひと言に集約されていた。
そして会社員の弟は、義理の兄になる人が道明寺司だと訊いて両親と同じように驚いたが、真剣な表情で、「姉は頭はいいんですが不器用なところがあります。それにおっちょこちょいなところもあります。そんな姉ですがよろしくお願いします」と頭を下げた。

そして今。両親は身体に馴染まないモーニングと黒の留袖姿で教会の最前列に座り、祭壇の前に立つ娘の後姿を見つめていたが、牧師が「この男女が夫婦であることをここに宣言いたします」と言うと式は終わり緊張が解けた。

振り向いた花嫁の姿は、ステンドグラスから差し込む陽光に照らされ輝いて見えた。
それはその笑顔が美しかったから。
そして隣に立つ男性の精悍な顔立ちは、大切な人を娶ったことへの満足さと、妻となった女性に対して責任を負ったことを表していた。


新郎新婦共に30代の半ばであり、二人とも派手な式を望まなかった。
だから披露宴も親族と親しい人を招いてのもので、媒酌人や来賓の長い挨拶といったものは無く、乾杯も食事もスムーズに行われた。

そして、婚約をしてから結婚するまでの1年の間に、花嫁は脚の傷痕を無くすための手術を受けた。
医師からは、完全に傷痕を無くすことは出来ないと言われていたが、あれから半年経った今、長い傷痕は薄っすらとしたものに変わり、よく見なければ、そこに傷痕があったとは思えない肌があった。そしてそのことを一番喜んだのは本人だが、共に喜びを分かち合ったのは夫となる司だ。
どんな手術も100パーセント確実だとは言えず、リスクが伴うことは理解していて、実際に手術を終えるまで気を抜くことは出来なかった。
だからこそ、今では薄っすらと感じられるだけになった傷痕に寄せる思いはひとしおだった。


やがて披露宴が終り、花嫁の周りにいるのは三条桜子と美作あきらと西門総二郎と花沢類。
三人の男性は司の幼馴染みで親友だが、司の婚約者に初めて会ったのは、紹介した人がいると言われメープルで食事をした時。そして司と総二郎とあきらが席を外したとき類が口にしたのは、「司に大切だと思う女性が現れるとは思わなかったよ」

花沢物産の専務は、三人の中でも一番司と親しいと言われていた。
だが類も忙しい男で今はパリに暮らしていた。だから、司が婚約したというニュースはネットのニュースとあきらからの電話で知った。

「司の心は氷で覆われていて、それを溶かすことが出来る女性はいないと思っていたからね。でも司は本当に興味を持ったことに対しては強引だから君のことが気になり出したら強引だったんじゃない?だって子共の頃からの癖が今もそのままだしね?」

「癖?」

つくしは、幼馴染みが口にした婚約者の子供の頃の癖に興味を持った。

「そう。あいつはお山の大将だったから、自分が気になる物事に対してマウントを取りたがる癖があるんだ。俺たちがまだ幼稚舎に通っていた頃の話だけど俺が大切にしていたクマのぬいぐるみを司が取り上げた。それは俺の興味がクマのぬいぐるみに向けられているのが許せなかったからなんだ。ああ見えて子供の頃の司は寂しがり屋で独占欲が強くて独善的な子供だった。それは俺たちみんなそうだったけど、特に司は両親の不在が多かったから親からの愛情を与えられなかったって言えばいいのかな。自分だけを見て欲しいって気持ちが強くてね。あんな大きな図体だけど寂しがり屋だったんだ。あ、でも心配しなくていいよ。独善的なところは大人になってから改善されたから。だけど、こうして二人で話しているところをアイツが見たら眉間に皺を寄せて俺につっかかって来るはずだよ。つまり独占欲の強さはあの頃以上だと思うから」



あの時の言葉通り、披露宴を終え三人の男性と話しをしているつくしに近づいて来た夫となった男は、幼馴染みの男たちを睨みつけた。

「類。お前はそれ以上つくしに近づくな。それからあきらも総二郎も男としての見た目は悪くない。それなのに決まった女がいないのは何でだ?完璧な男三人の誰ひとりとして恋人がいないってのは異常だ。お前ら女に対しての考え方が恐ろしく凝り固まっていて満足する女が見つからないのか?それとも結婚する気がないのか?けど、お前らもいい年なんだからいい加減考えろ」

三人の男たちは、まさか仲間内で司が一番に結婚するとは思わなかったこともだが、その男の口から女に対しての考え方が恐ろしく凝り固まっているや、お前らも早く結婚しろと言われるとは思いもしなかった。

そして類の前に立った花婿が彼に軽くパンチを繰り出した時、それを軽く避けた男は苦笑いを浮かべ花嫁に訳知り顔で微笑んだ。
だからつくしも思わず笑ったが、それを見た夫が花嫁の腰に腕を回しタキシードを着た身体にしっかりと引き寄せた態度は、どう考えてもやきもち焼きの夫の姿に見えた。

そして披露宴を終えた二人が向かったのは、二人が暮らすことになった司のペントハウス。
照明が落とされた部屋で二人がしたのはスローな音楽に合わせたダンス。
それは音楽に合わせて揺れているだけだが、長い一日の終わりにやっと持つことが出来た二人だけの時間を楽しんでいた。
だがやがて音楽が終ると、夫となった男は妻の身体を少しだけ離し顏を見つめた。

「愛してる」

それは低い声で囁かれた言葉。

「これほど一人の女を愛せるとは思いもしなかった」

見つめる顏は真剣で笑う場面ではないはずだが、つくしは思わず笑っていた。
それは思い出し笑いだが、披露宴の挨拶の中で夫となった男の口から「共に白髪になるまで添い遂げる」という言葉が出るとは思いもしなかったからだ。

「ねえ?」

「何だ?」

「サメが共に白髪になるまで添い遂げるって訊いたことがないんだけど?」

その言葉に男は笑いながら答えた。

「確かに白髪のサメがいるなら見て見たいものだ。まあ俺がサメの中で初めて白髪になるのも悪くはない。つまりお前は世界で初めて白髪になったサメを研究する学者だ」

司はそこで妻の目をまっすぐにのぞき込めるように膝を曲げ、彼女の顏の高さに視線を合わせた。

「お前に会えて本当に良かった。もしお前に出会わなければ俺は死ぬまで一人だったろうよ。つくし。お前はいつの間にか俺にとってはなくてはならない女になった」

そこまで言った司は、大きな手で妻のヒップを包んで持ち上げ、今度は自分の目線の高さに彼女の顏を合わせ言った。

「奥さん。これからよろしくな」

そして持ち上げられた妻は、夫の背中で足首を組むと恥ずかしそうに「うん」と言った。




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本日で完結となります。
長らくお付き合いをいただき、ありがとうございました。
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コメント
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dot 2019.06.30 06:08 | 編集
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dot 2019.06.30 08:16 | 編集
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dot 2019.06.30 09:31 | 編集
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dot 2019.06.30 11:59 | 編集
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dot 2019.06.30 12:02 | 編集
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dot 2019.06.30 16:41 | 編集
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dot 2019.06.30 17:02 | 編集
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dot 2019.07.01 16:38 | 編集
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2019.07.01 20:47 | 編集
だ*ご様
こちらこそ毎朝お読みいただきありがとうございました。
そして労いのお言葉ありがとうございました^^

アカシアdot 2019.07.01 22:38 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
長くなりましたが、やっと終わりました。
そうですよね。そんな遅い時間に電話をするな!とコメントをいただきましたねぇ(笑)
そしてやっと結ばれた二人ですが、これから家族が増え、司の机の上の写真もサメと共に家族写真が飾られることでしょう。
司がオムツを替える姿!(≧▽≦)それはもう笑えるでしょうね?
肩の荷を下ろした桜子にも素敵な恋があるといいですねぇ^^
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました^^
アカシアdot 2019.07.01 22:45 | 編集
ま**ん様
おはようございます^^
紆余曲折ありましたが結ばれた二人。
司はつくしの心と身体の傷をじわじわと、そして最後はぴょ~~んと遠くに飛ばした!(≧▽≦)
はい。もうその通りでございます!
そして共白髪になるまで一緒にいる。そしてその先も一緒なんでしょうね?(笑)
サメにコウノトリがお子を運ぶことは出来そうにありませんが、亀なら大丈夫そうですね?
サメの子育て。どんな風なんでしょう(笑)
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました^^
アカシアdot 2019.07.01 22:53 | 編集
み***ん様
こんにちは^^
結婚式を終えて二人きりのダンス。
そして共白髪発言の男(笑)
四宮圭一は、つくしが人を貶めるようなことを言う人間ではないことを理解していませんでしたが、真面目につくしと付き合っていたのかと言えば、どうでしょうねぇ。
そして司を敵に回した以上、未来はありません。
サメの研究と人間界のサメまで抱えた女は、これから子供のサメも育てるのでしょうねぇ。
最後までお付き合いいただき、有難うございました^^
アカシアdot 2019.07.01 23:01 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
つくしの両親は娘が道明寺司と結婚すると訊いて腰が抜けたでしょうね?
ははは(≧▽≦)進くんだけが冷静だった!
類は相変らず司をからかうのが楽しいのでしょうね?
そしてこれからつくしは海のサメと経済界のサメの両方を研究するのでしょう(笑)
そうですか。こちらは8ヶ月もかかりましたか...。長くなってしまいましたねぇ。
いつもご感想をいただき、ありがとうございましたm(__)m
6月。終わりましたねぇ。つまり今年も半年が過ぎた訳ですが本当に時間が経つのが早いです。
司*****E様もお忙しそうですね?
アカシアも色々です(笑)
次回作ですか?ん~(笑)笑って誤魔化しますが、またお知らせ致します。
そしてこちらのお話に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました^^
アカシアdot 2019.07.01 23:21 | 編集
イ**マ様
なくてはならない女。
司にそんな言葉を言わせる女は、つくしだけでしょうねぇ。
こちらのお話で楽しんでいただけて良かったです!
長くなりましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました^^
アカシアdot 2019.07.01 23:26 | 編集
満*様
うわ!この青は、まさに深い海の色のようですね?
それにしても、この涼やかな色はどうやって出すのかと思ってしまいます。
いつも色々な和菓子を紹介していただき、ありがとうございます!
食べたいですねぇ....。

はい。臆病だったシーラカンスはもういません。
サメ司と幸せに暮らすことに決めたようです。
お尻を持ち上げる司の腰に脚を回す女にセクシーさを感じていただき、ありがとうございます。
なんと!(@_@。サメの交尾を調べたんですね?
激しいでしょ?オスはメスが逃げないように噛んで岩場に押し付けたりするんですから凶暴ですよね?
まさに凶暴なサメです。このサメ司はどんな激しい....なのでしょうねぇ。
こちらのお話に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました^^
アカシアdot 2019.07.01 23:41 | 編集
切*椒様
こんにちは^^
司坊ちゃん、がんばりました(笑)
恋を自覚したら彼はブレません!
はい。この恋は楓さんの掌の上だったんです。
司はいつそのことに気付くのでしょうね?(笑)

え?御曹司シリーズの復習ですか?
あちらの坊ちゃんは妄想が激しい男ですが、害はありませんから笑って下さいませ(*^^*)
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました^^
アカシアdot 2019.07.01 23:52 | 編集
さ**る様
こんばんは^^
紆余曲折があったとしても二人は結ばれる運命です。
経済界のサメとサメの研究者は、これから子供のサメを育てるのでしょうねぇ。
坊ちゃんつくしを幸せにしてあげてね。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました^^

アカシアdot 2019.07.01 23:58 | 編集
ま**様
お久しぶりです!お元気ですか?
こちらのお話を読んで下さったんですね?
拍手コメントありがとうございました^^
アカシアdot 2019.12.09 23:48 | 編集
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