立ち上ることが出来ず倒れていた四宮圭一は、襟首を掴まれ連れて行かれたが、司はその前に凍るような冷たい声で脅しの言葉を囁きかけるのを忘れなかった。
その言葉が男を震え上がらせたのは確かで、青ざめていた顏は生気を失い土気色に変わった。
そして司は四宮圭一の顏を殴った後、つくしの身体を気遣った。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫。平気。大丈夫だから…それより司は大丈夫?」
大丈夫だと言ってコーヒーをかけられた司を心配したが、身体が震えているのが見て取れた。
だから司は彼女の膝の下に腕を入れ抱き上げ、自分は大丈夫だと答えた。
そして今は、彼女が何故病院を訪れたのかを知りたかった。
司と婚約をしてからスカートを履くことが多くなった女が外科を訪れたのは、古傷が痛むからなのか。そのこと以外に外科を訪れる理由が見当たらなかった。
だから司は訊いた。
「傷が痛むのか?」
「え?」
「脚の傷が痛むのか?だから医者に会いに来たのか?」
10年以上前に出来た傷だとしても痛みを感じることがあるはずだ。
だから司はそれを心配していた。そしてもし痛みを感じるなら万全の態勢で治療を受けさせるつもりでいた。
「違うわ。そうじゃないの。私が診察を受けに来たのは傷が痛むからじゃない。脚の傷の痛みはないわ。だから違うの」
「それなら何でだ?」
口調が緊張気味になったのは、脚の傷ではないと言われ、それなら他に何か心配事でもあるのか。
その思いから再び訊いた。
「それならどうして外科を受診した?」
つくしは婚約者の緊張を感じ取った。
だから病院を訪れた理由を正直に答えることにした。
それは、女性医師にも言われたが、大事なことは二人で決めていくことにしたから。
そして夫となる人には自分の考えをはっきりと伝える必要があると認識していたからだ。
「脚の傷痕を治そうと思うの。先生もそれが出来るとおっしゃったの。でも全く痕跡が無くなるわけじゃないの」
傷痕のために男性を遠ざけ心を開こうとしなかった。
言い換えればそれがコンプレックスになっていたから。そしてその傷痕は治そうと思えば、もっと早くに治療することが出来たことは薄々だが分かっていた。けれど、それをしなかったのは、そうしたい明確な理由が無かったから。
だが今のつくしは、好きな人のために綺麗になりたいという思いがあった。だから以前お世話になった女性医師の元を訪れた。
そして今、自分を抱えている男性にその思いを打ち明けたが、反応は思っていたものとは全く別のものだった。
「俺はお前が病院を訪れたと訊いてどこか悪いんじゃないかと思った。けど三条はお前が病院に行った理由を教えてはくれなかった。だから心配になってここまで来て外科を受診したと知って脚の傷のことだと思った。時間が経ってはいるが痛みが出たと思った」
司はそこまで言って自分が思っていたこととは違った理由で外科を受診していたことに、とりあえず安堵したことを伝えた。
そして婚約者の女性の口から語られた脚の傷痕を治すという言葉に、もしかすると自分のために受けたくもない手術を受けようとしているのではないかと感じた。
だから自分の思いを伝える口調は諭すようになった。
「つくし。俺は先天的なものだろうが後天的なものだろうがお前の傷痕を気にしたことはない。それに傷を恥じだとは思わない。俺はあの男と違って人を外見で見る人間を軽蔑している。それは他人が俺を見る目がそうだったのと同じだ。俺の内面を見る人間はいなかった。俺の周りにいたのは俺がどんな人間だろうと構わない人間ばかりだった。つまり必要とされてたのは人間性じゃなかった。大人になってからも同じで俺の周りに集まってくる女は人工的な言葉と表情を持っていた。顏や身体にメスが入っている女は自然とそうなってくるもんだが、そんな女が大勢いた。けどお前の感情は決して作られたものじゃない。だからお前が傷痕を消したいと思うなら反対はしない。だがな。身体にメスを入れるということは痛みを伴うんだぞ?それにどんなに名医だと言われてもリスクはある」
それはただ事実を伝えているだけで、手術を受けることを反対だとも賛成だとも言わなかった。
「リスクがあることは分かってるわ」
かつて司は、彼女が望むならアメリカにいる世界最高の腕を持つ美容整形外科医の診察を受けさせてもいいと思った。けれど、彼の口から出た言葉はかつての自分の思いを否定していた。
「それに俺は完璧な人間を求めてるわけじゃない。俺が惚れたのは今のままの牧野つくしだ。それに完璧な美しさなら俺が持ってる」
その言葉に司に抱きかかえられた女は笑った。
「何だ?何がそんなにおかしい?」
司は人が真剣に話している時に笑う女にムッとした。
「だって完璧な美しさは俺が持ってるって、堂々と言う司がおかしくて」
司は、それは今更だろと言いたかった。
そして口の端を小さく歪めて笑みを浮かべた。
だが彼女と知り合ってから自分の外見を気にしたことは無かった。
何しろサメの研究者である女は人間の男よりもサメの方に興味があった。
そして牧野つくしは、司を多額の寄付をしてくれた男として見ていただけで、どんな女も裏表があり金がある男をたぶらかそうとするはずだという彼の思いを覆した。
そしてグラスの中身をぶちまけられる経験をしたのは、彼女が初めてだった。
だがそれは司が電話で偽名を名乗り他人のフリをして彼女と会話をしていたことに腹を立てたからであり、その否は司にあった。
だから、あの時のことを口に出せば、「女を甘く見ると痛い目を見るということよ」と言われた。
それに牧野つくしという女は、人に媚びを売る人間ではなく自分というものをしっかりと持つ女だ。そして司は彼女の保護者ではないのだから彼女の意思を尊重するつもりだ。傷痕を消したいというなら反対はしない。
「いいだろう。俺はお前の意思を尊重する。手術を受けたいなら受けるべきだ。それに手術を受けたからといって俺たちの関係が変わることはない」
司は自分の思いをきっぱりと言うと、彼を見上げる女の唇に唇を重ねた。

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その言葉が男を震え上がらせたのは確かで、青ざめていた顏は生気を失い土気色に変わった。
そして司は四宮圭一の顏を殴った後、つくしの身体を気遣った。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫。平気。大丈夫だから…それより司は大丈夫?」
大丈夫だと言ってコーヒーをかけられた司を心配したが、身体が震えているのが見て取れた。
だから司は彼女の膝の下に腕を入れ抱き上げ、自分は大丈夫だと答えた。
そして今は、彼女が何故病院を訪れたのかを知りたかった。
司と婚約をしてからスカートを履くことが多くなった女が外科を訪れたのは、古傷が痛むからなのか。そのこと以外に外科を訪れる理由が見当たらなかった。
だから司は訊いた。
「傷が痛むのか?」
「え?」
「脚の傷が痛むのか?だから医者に会いに来たのか?」
10年以上前に出来た傷だとしても痛みを感じることがあるはずだ。
だから司はそれを心配していた。そしてもし痛みを感じるなら万全の態勢で治療を受けさせるつもりでいた。
「違うわ。そうじゃないの。私が診察を受けに来たのは傷が痛むからじゃない。脚の傷の痛みはないわ。だから違うの」
「それなら何でだ?」
口調が緊張気味になったのは、脚の傷ではないと言われ、それなら他に何か心配事でもあるのか。
その思いから再び訊いた。
「それならどうして外科を受診した?」
つくしは婚約者の緊張を感じ取った。
だから病院を訪れた理由を正直に答えることにした。
それは、女性医師にも言われたが、大事なことは二人で決めていくことにしたから。
そして夫となる人には自分の考えをはっきりと伝える必要があると認識していたからだ。
「脚の傷痕を治そうと思うの。先生もそれが出来るとおっしゃったの。でも全く痕跡が無くなるわけじゃないの」
傷痕のために男性を遠ざけ心を開こうとしなかった。
言い換えればそれがコンプレックスになっていたから。そしてその傷痕は治そうと思えば、もっと早くに治療することが出来たことは薄々だが分かっていた。けれど、それをしなかったのは、そうしたい明確な理由が無かったから。
だが今のつくしは、好きな人のために綺麗になりたいという思いがあった。だから以前お世話になった女性医師の元を訪れた。
そして今、自分を抱えている男性にその思いを打ち明けたが、反応は思っていたものとは全く別のものだった。
「俺はお前が病院を訪れたと訊いてどこか悪いんじゃないかと思った。けど三条はお前が病院に行った理由を教えてはくれなかった。だから心配になってここまで来て外科を受診したと知って脚の傷のことだと思った。時間が経ってはいるが痛みが出たと思った」
司はそこまで言って自分が思っていたこととは違った理由で外科を受診していたことに、とりあえず安堵したことを伝えた。
そして婚約者の女性の口から語られた脚の傷痕を治すという言葉に、もしかすると自分のために受けたくもない手術を受けようとしているのではないかと感じた。
だから自分の思いを伝える口調は諭すようになった。
「つくし。俺は先天的なものだろうが後天的なものだろうがお前の傷痕を気にしたことはない。それに傷を恥じだとは思わない。俺はあの男と違って人を外見で見る人間を軽蔑している。それは他人が俺を見る目がそうだったのと同じだ。俺の内面を見る人間はいなかった。俺の周りにいたのは俺がどんな人間だろうと構わない人間ばかりだった。つまり必要とされてたのは人間性じゃなかった。大人になってからも同じで俺の周りに集まってくる女は人工的な言葉と表情を持っていた。顏や身体にメスが入っている女は自然とそうなってくるもんだが、そんな女が大勢いた。けどお前の感情は決して作られたものじゃない。だからお前が傷痕を消したいと思うなら反対はしない。だがな。身体にメスを入れるということは痛みを伴うんだぞ?それにどんなに名医だと言われてもリスクはある」
それはただ事実を伝えているだけで、手術を受けることを反対だとも賛成だとも言わなかった。
「リスクがあることは分かってるわ」
かつて司は、彼女が望むならアメリカにいる世界最高の腕を持つ美容整形外科医の診察を受けさせてもいいと思った。けれど、彼の口から出た言葉はかつての自分の思いを否定していた。
「それに俺は完璧な人間を求めてるわけじゃない。俺が惚れたのは今のままの牧野つくしだ。それに完璧な美しさなら俺が持ってる」
その言葉に司に抱きかかえられた女は笑った。
「何だ?何がそんなにおかしい?」
司は人が真剣に話している時に笑う女にムッとした。
「だって完璧な美しさは俺が持ってるって、堂々と言う司がおかしくて」
司は、それは今更だろと言いたかった。
そして口の端を小さく歪めて笑みを浮かべた。
だが彼女と知り合ってから自分の外見を気にしたことは無かった。
何しろサメの研究者である女は人間の男よりもサメの方に興味があった。
そして牧野つくしは、司を多額の寄付をしてくれた男として見ていただけで、どんな女も裏表があり金がある男をたぶらかそうとするはずだという彼の思いを覆した。
そしてグラスの中身をぶちまけられる経験をしたのは、彼女が初めてだった。
だがそれは司が電話で偽名を名乗り他人のフリをして彼女と会話をしていたことに腹を立てたからであり、その否は司にあった。
だから、あの時のことを口に出せば、「女を甘く見ると痛い目を見るということよ」と言われた。
それに牧野つくしという女は、人に媚びを売る人間ではなく自分というものをしっかりと持つ女だ。そして司は彼女の保護者ではないのだから彼女の意思を尊重するつもりだ。傷痕を消したいというなら反対はしない。
「いいだろう。俺はお前の意思を尊重する。手術を受けたいなら受けるべきだ。それに手術を受けたからといって俺たちの関係が変わることはない」
司は自分の思いをきっぱりと言うと、彼を見上げる女の唇に唇を重ねた。

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Comment:2
コメント
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司*****E様
こんにちは^^
傷があろうがなかろうが、牧野つくしに変わりはありませんね?
でもつくしは愛する人のために傷を治したいと思うようになりました。
お互いの個を尊重し合う!いい言葉ですねぇ。
大人の二人だから出来る恋というものがあるのでしょう。
二人にとっての理想の恋はどんな恋だったのか。
今はそれが分かっているのではないでしょうか。
え?司が四宮圭一に囁いた言葉ですか?
脅しの言葉ですからねぇ^^
「今度俺がお前の顏を見た時は命がないと思え?」(笑)
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
傷があろうがなかろうが、牧野つくしに変わりはありませんね?
でもつくしは愛する人のために傷を治したいと思うようになりました。
お互いの個を尊重し合う!いい言葉ですねぇ。
大人の二人だから出来る恋というものがあるのでしょう。
二人にとっての理想の恋はどんな恋だったのか。
今はそれが分かっているのではないでしょうか。
え?司が四宮圭一に囁いた言葉ですか?
脅しの言葉ですからねぇ^^
「今度俺がお前の顏を見た時は命がないと思え?」(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.06.29 23:35 | 編集
