「今までお前が女に夢中になった姿を見たことがなかったが、まさか結婚まで考えていたとはな。それにしても、女は信じられねぇって女性不信を公言していた男がここまで変わるってのが不思議だが、彼女に会ってお前は変わったってことか。それにしてもお前がひとりの女に夢中になるとは昔のことを思えば信じられねぇけどお前は本気なんだな?」
あきらは、親友の執務室を訪ねると、道明寺司が牧野つくしと婚約をしたという記事が載った雑誌を男の前に置いた。
それは週刊誌ではなく経済誌の中でも一流と言われる雑誌。
二人の馴れ初めは電話だと書かれていたが、それは間違い電話から始まった恋だと書かれていた。
「これを読むと嘘つき男の策略とはどこにも書かれてない。むしろ随分とロマンチックに書かれているが、彼女から中華料理のデリバリーを頼まれた時、運命を感じたってのは大嘘だ。何しろお前があの電話を受けた時、俺はお前と一緒に車の中にいたが、お前は怪訝な顔をして運命どころか迷惑な間違い電話に顏をしかめてたぞ?」
「そうだったか?」
「ああ。そうだ。お前はムッとしていた」
あきらは、そう言って笑ったが、司は笑われて結構という態度でいた。
その反応は、恋愛経験が豊富なあきらから見ても分かる精神的に満たされている男の心の余裕というものだが、そんな態度が取れるのは心も身体も満たされているからこそだ。
そしてあきらは、それをどこか羨ましく感じたが、今まで女のことで笑顔を見せたことがない男が頬を緩めた姿は新鮮だった。
「それにしてもお前は女に対して決めたルールがあったはずだが、牧野つくし先生に会ってからは、そのルールもことごとく崩れたってわけだ」
道明寺司の女に対するルール。
それは恋や愛のルールではない。
そのルールとは、女と寝ても絶対に好きになることはないということ。
だからあきらは、そんな男が女と婚約をしたというニュースに、親友が人を愛することを知ったのだと分かった。
「あきら。俺はルールを曲げたわけじゃない。俺がしたのは少し修正を加えただけだ」
「修正ねぇ。ま、物は言いようだが、まさか俺たちの仲間内で一番初めに結婚するのがお前になるとは思いもしなかったがな」
過去には一生結婚するつもりはないといった態度があったが、不思議なもので今あきらの前にいる男は、今まで使うことがなかった顏の筋肉を使っていた。
それは、今までなら無駄だと言われた表情だが、婚約者のことを語る顏には笑顔があった。
「言っておくが俺は勢いに流されて結婚を決めたわけじゃない。それにあいつに何かをして欲しいから結婚を決めたわけじゃない。ただ傍にいて欲しいから結婚する。理由はそれだけだ」
あきらは、司の言葉に本当にこの男は変わったと感じた。
そして恋をして結婚を決めた親友に対して羨ましいという思いを抱いた。本物の恋をした男に嫉妬を感じたが、それは自分が本物の恋をしていない。結婚したいと思える相手に出会えないからだが、人の出会いというのは分からないものだと思えた。
「なるほど。道明寺司もついに結婚か。永遠の愛を約束したいから結婚する。俺だったらこの記事のタイトルをそう付けるが、ま、そういうことだろ?司?」
どこか笑ったような口ぶりになったのは、男の机の上に飾られた不釣り合いな写真立ての中身がサメだったからだ。
インディゴブルーのしなやかな流線形の身体を持つ恐ろしくも美しいサメ。
それは、婚約者である牧野つくしが深海ザメの研究者であることが関係していることは間違いないのだが、何故その写真が飾られているのか。
だからあきらは訊いた。
「おい。司。ところで何でサメの写真を飾ってんだ?」
すると男はニヤリと笑った。
「いい写真だろ?これは世界で最も美しいと言われるサメだ。サメは恐ろしいと思われているが案外そうでもない。危害が加えられない限り人を襲うことはない。だがサメはどんなに遠くにいる獲物でも、その存在を感じ取ることが出来る。そしてそこまで泳いで行くことが出来る。それに深く潜ることも出来る」
あきらはそこまで訊いて、この写真は司を表していることに気付いた。
経済界のサメと呼ばれる男は、鋭い歯を持ちビジネスの世界では切れ者と言われるが、その鋭さとは別の第六感を持ち合わせていた。
そしてその第六感が牧野つくしの行方を探してあきらに電話をかけてくると、あきらとの会話にヒントを得てすぐさま行動に移し川上真理子に拉致された牧野つくしの居所を見つけ出した。
それはまさに、どんなに遠くにいる獲物でも、その存在を感じ取り獲物のいる場所へ辿り着くことが出来るということ。
だがこの場合獲物というのは敵ではなく牧野つくし。
サメは獲物を殺すのではなく守るためにそこへ行き自ら危険の中に飛び込んで行った。
「そうか。この写真は彼女からのプレゼントだな?それにこのサメはお前だな」
あきらのその言葉に司は「ああ」と言ったが、その顏には、あきらが見たことがない優しい表情が浮かんでいたが、道明寺司に今までそんな表情をさせた女はいなかった。
だからあきらは本物の恋をした司が羨ましいのだ。
だがあきらは、かつて仲間内で一番凶暴だと言われた男が幸せになることを心から祝福することが出来た。
それは、あきらが自分のことを司の兄だと冗談交じりに口にしていたあの頃の癖が今でも抜けずにいるからだとしても、やはり道明寺司という男は、あきらにとっては親友であり兄弟だからだ。だから親友の幸せは自分の幸せだと感じていた。
「司。これから先、牧野つくしはお前のような男が傍にいてくれるなら心強いはずだ。何しろ道明寺司が夫だとすれば、どんなに広い海だろうが危険な海だろうが他の魚に襲われる心配はないんだからな」

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あきらは、親友の執務室を訪ねると、道明寺司が牧野つくしと婚約をしたという記事が載った雑誌を男の前に置いた。
それは週刊誌ではなく経済誌の中でも一流と言われる雑誌。
二人の馴れ初めは電話だと書かれていたが、それは間違い電話から始まった恋だと書かれていた。
「これを読むと嘘つき男の策略とはどこにも書かれてない。むしろ随分とロマンチックに書かれているが、彼女から中華料理のデリバリーを頼まれた時、運命を感じたってのは大嘘だ。何しろお前があの電話を受けた時、俺はお前と一緒に車の中にいたが、お前は怪訝な顔をして運命どころか迷惑な間違い電話に顏をしかめてたぞ?」
「そうだったか?」
「ああ。そうだ。お前はムッとしていた」
あきらは、そう言って笑ったが、司は笑われて結構という態度でいた。
その反応は、恋愛経験が豊富なあきらから見ても分かる精神的に満たされている男の心の余裕というものだが、そんな態度が取れるのは心も身体も満たされているからこそだ。
そしてあきらは、それをどこか羨ましく感じたが、今まで女のことで笑顔を見せたことがない男が頬を緩めた姿は新鮮だった。
「それにしてもお前は女に対して決めたルールがあったはずだが、牧野つくし先生に会ってからは、そのルールもことごとく崩れたってわけだ」
道明寺司の女に対するルール。
それは恋や愛のルールではない。
そのルールとは、女と寝ても絶対に好きになることはないということ。
だからあきらは、そんな男が女と婚約をしたというニュースに、親友が人を愛することを知ったのだと分かった。
「あきら。俺はルールを曲げたわけじゃない。俺がしたのは少し修正を加えただけだ」
「修正ねぇ。ま、物は言いようだが、まさか俺たちの仲間内で一番初めに結婚するのがお前になるとは思いもしなかったがな」
過去には一生結婚するつもりはないといった態度があったが、不思議なもので今あきらの前にいる男は、今まで使うことがなかった顏の筋肉を使っていた。
それは、今までなら無駄だと言われた表情だが、婚約者のことを語る顏には笑顔があった。
「言っておくが俺は勢いに流されて結婚を決めたわけじゃない。それにあいつに何かをして欲しいから結婚を決めたわけじゃない。ただ傍にいて欲しいから結婚する。理由はそれだけだ」
あきらは、司の言葉に本当にこの男は変わったと感じた。
そして恋をして結婚を決めた親友に対して羨ましいという思いを抱いた。本物の恋をした男に嫉妬を感じたが、それは自分が本物の恋をしていない。結婚したいと思える相手に出会えないからだが、人の出会いというのは分からないものだと思えた。
「なるほど。道明寺司もついに結婚か。永遠の愛を約束したいから結婚する。俺だったらこの記事のタイトルをそう付けるが、ま、そういうことだろ?司?」
どこか笑ったような口ぶりになったのは、男の机の上に飾られた不釣り合いな写真立ての中身がサメだったからだ。
インディゴブルーのしなやかな流線形の身体を持つ恐ろしくも美しいサメ。
それは、婚約者である牧野つくしが深海ザメの研究者であることが関係していることは間違いないのだが、何故その写真が飾られているのか。
だからあきらは訊いた。
「おい。司。ところで何でサメの写真を飾ってんだ?」
すると男はニヤリと笑った。
「いい写真だろ?これは世界で最も美しいと言われるサメだ。サメは恐ろしいと思われているが案外そうでもない。危害が加えられない限り人を襲うことはない。だがサメはどんなに遠くにいる獲物でも、その存在を感じ取ることが出来る。そしてそこまで泳いで行くことが出来る。それに深く潜ることも出来る」
あきらはそこまで訊いて、この写真は司を表していることに気付いた。
経済界のサメと呼ばれる男は、鋭い歯を持ちビジネスの世界では切れ者と言われるが、その鋭さとは別の第六感を持ち合わせていた。
そしてその第六感が牧野つくしの行方を探してあきらに電話をかけてくると、あきらとの会話にヒントを得てすぐさま行動に移し川上真理子に拉致された牧野つくしの居所を見つけ出した。
それはまさに、どんなに遠くにいる獲物でも、その存在を感じ取り獲物のいる場所へ辿り着くことが出来るということ。
だがこの場合獲物というのは敵ではなく牧野つくし。
サメは獲物を殺すのではなく守るためにそこへ行き自ら危険の中に飛び込んで行った。
「そうか。この写真は彼女からのプレゼントだな?それにこのサメはお前だな」
あきらのその言葉に司は「ああ」と言ったが、その顏には、あきらが見たことがない優しい表情が浮かんでいたが、道明寺司に今までそんな表情をさせた女はいなかった。
だからあきらは本物の恋をした司が羨ましいのだ。
だがあきらは、かつて仲間内で一番凶暴だと言われた男が幸せになることを心から祝福することが出来た。
それは、あきらが自分のことを司の兄だと冗談交じりに口にしていたあの頃の癖が今でも抜けずにいるからだとしても、やはり道明寺司という男は、あきらにとっては親友であり兄弟だからだ。だから親友の幸せは自分の幸せだと感じていた。
「司。これから先、牧野つくしはお前のような男が傍にいてくれるなら心強いはずだ。何しろ道明寺司が夫だとすれば、どんなに広い海だろうが危険な海だろうが他の魚に襲われる心配はないんだからな」

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
間違い電話から始まった恋。
でもあきらに言わせれば嘘つき男の策略だそうです。
司が夫になれば他の魚に襲われる心配はない。
たとえ襲われても大丈夫‼
確かにそうでしょう。司なら全力で守ってくれますからねぇ。
ハプニングも色々とありましたが、恋を見つけた二人がいます^^
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
間違い電話から始まった恋。
でもあきらに言わせれば嘘つき男の策略だそうです。
司が夫になれば他の魚に襲われる心配はない。
たとえ襲われても大丈夫‼
確かにそうでしょう。司なら全力で守ってくれますからねぇ。
ハプニングも色々とありましたが、恋を見つけた二人がいます^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.06.27 21:54 | 編集
