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2015
11.27

まだ見ぬ恋人36

バスの旅は次の停留所で終わっていた。
つくしはバスに乗っていたのと同じ時間を費やすことなく、最寄りの地下鉄の駅から電車に乗っていた。
走るスピードがいつもよりも遅く感じられた。
早く時間が過ぎてしまえばいいのに・・・
つくしは目的の駅で降りるとこの日二度目の疾走を始めていた。


司の姉は弟の初恋がどうしようもない誤解と歪曲により危機にさらされていると聞いてロスアンゼルスから東京へ戻ってきた。
姉の椿は自分の弟が世間で言われるような冷酷な仕事人間ではないし、週刊誌に書かれるような事実はないとよく理解していた。
まだ幼い子供のころからいつも留守だった両親に代わって弟の面倒を見て来たのは自分だった。
子供なのに母親に甘えることも出来ず、子供らしく育つことが出来なかった寂しい子だった。そんな弟は少年時代に入ると不道徳行為を繰り返し生活は荒んでいった。
男女の差はあれど、姉と弟でもこうも違うものかとしばしば思っていた。
それでも椿はそんな弟がかわいいと思えた。
世の中には受け入れてもらえないような弟になったとしても、弟の味方が自分だけになったとしてもこの子を守ろうと思っていた。


ところがそんな椿が司の執務室に入るなり放った言葉は
「あんたって情けない男ね!わかってるの司?」だった。
「なんだよ!」
司は不機嫌そうに言った。
「なんだよじゃないわよ!本当に情けない男ね!」
椿はそういうとツカツカと執務デスクの前までやって来ると司の目の前に両手をついて言い放った。

「あんた、タマあるの?あんたが小さいときはあったけど今もちゃんとそこにあるの?
 それとも縮んで使い物にならなくなった?」
椿は笑った。

「いくら仕事が出来ても女性に対しての扱いが全然だめだわ・・・・あんた総二郎やあきらとつるんでいる割りにはそっちの方は全然ダメね・・・・」
とため息をつきながら言った。
「司、いい?ちゃんと説明しなさいよ!あたしのこともストーカー女のことも!」
椿はくるりと向きを変えると司のデスクから少し離れたソファに腰を下ろした。
そして運ばれて来ていたティーポットから紅茶を注いだ。

「わかってるよ姉ちゃん!俺がそんなにバカな男に見えるのかよ」
司はむきになって言い返した。
牧野・・寂し気な表情をしていた・・
あんな顔をしてる牧野なんて見たことがなかった。

「見えるわよ!だから言ってるんでしょ?」
と紅茶を口にする前に言った。そしてため息と共に聞いた。

「それで、ストーカー女が来たときつくしちゃんと・・一緒にいたってわけよね?」
「ああ、俺が熱出して寝込んでたら牧野が来てくれて・・」
「バカは風邪ひかないって言うけど、あんたはバカじゃなかったってことね」
椿は呟いた。
「姉ちゃん、風邪じゃなくてインフル・・」
司は口を挟むことが出来なかった。

「まあいいわ。とにかくあんたは今まで何かを手に入れるのにこんなに一生懸命になったことなんてなかったんだから・・・。
女嫌いのあんたが好きになった女の子なんでしょ?ようやく本当の自分を見せてもいいと思えるような相手に出会ったんだから欲しい物を手にいれるための努力と根性を見せてごらんなさいよ!」
「いっとくけどね、あんたみたいな男、つくしちゃんを手放したら一生後悔しながら生きるはめになるわよ!わかってんの?」
椿は言葉を切るとティーカップに再び紅茶を注いだ。
「あんたの幸運なんて生まれたときに全部使っちゃったんだからね?」
「姉ちゃん、それどう言いう意味だよ!」
司は反撃した。
「うるさいわね!・・あたしの教育方法が間違ってたのかしら?」
「男はね、惚れて好きになった女に尽くすから男としての魅力が増すのよ?
度量と甲斐性があるように見えるのは・・まあ、あんたは甲斐性はなんとかなりそうだけど・・。
女があの男が欲しい、素敵だって思えるような度量の広い男ってのは自分の人生が充実しているからなのよ?そんなふうに輝いて見える男ってのは大体素敵なパートナーか家族がいるからなのよ。世の素敵な男ってのは、パートナーや家族によって魅力ある素敵な男性に育てられてるの。男は自分ひとりで魅力的になるわけじゃないの。
今のあんたを見てあんたを欲しがるような女はね、あんたの本質なんかどうでもいいのよ。
わかるでしょ?司!今まであんたの周りにはそんな女ばっかりだったんだから」
「あんたつくしちゃんのことが好きなんでしょ?だったら自分の人生が輝くために頑張りなさいよ!」

「・・・それから司、つくしちゃんと話しをして・・それでもだめならあたしのところに連れてきなさい・・。あたしがあんたのことを・・そんな人間じゃないってことを話してあげるから」と椿は穏やかな口調で続ける。
「あんたが初めて好きになった女の子なんだから素敵な人なんでしょ?」

ああ。そうだ・・・
地下鉄で初めて牧野を見たとき恋におちた。
牧野が浮かべたほほ笑みを見て俺もつられてほほ笑んでいた。
あいつがどこの誰だかわかんねぇ時から恋をしてた。
だから探し出してたいした用も無いのに勤務先の大使館まで押し掛けた。
大河原に転職したって聞いたから滋を口説いてうちに転籍させた。
真面目で、人を信じやすく寛大だ。
だからあのストーカー女の言うことも信じたわけだ。
まあ、ちょっと頭が良すぎて堅苦しいところもあったけど、それも時間とともに取れてきた。
キスをすれば熱く返してくれるようになってきた。

司はほほ笑みを浮かべて椿を見た。
「姉ちゃん、牧野は素敵だ」
「俺、牧野と結婚したいと思ってるんだ・・だから姉ちゃん、今度牧野に会ってくれないか?」
「よく言ったわ司!その言葉が聞けて嬉しいわ!」
椿は答えた。

「俺、牧野に会いに行ってくるわ」
司は立ち上がると何かを心に決めたようにゆっくりとドアのほうへと歩いて行った。


****


つくしは自宅に帰るとコートを脱ぎ、ソファに腰をおろした。
目的の駅で電車から降り向かった先のそこは休館日だった。
プラネタリウム・・・そこで一人ゆっくりと星空を眺めながら考えたかった。
つくしは司が自分の乗ったバスを追いかけて来たのを見た。
・・・だからって? 


司はつくしのマンションの部屋に明かりがついているのを確かめた。
バスに飛び乗ったつくしを追いかけてはみたが、追いつくはずがないことはわかっていた。
どこかで降りてはいるだろうが、例え見つけることが出来たとしても今の状況では自分に向き合ってもらえるかどうかわからなかった。

司は女を追いかけるという経験がなかった。
むしろ追い払う経験の方が多かった。
自分に群がって来る女を追い払う方法ならいくらでも知っていた。

司は今日という日が少しでも良くなって終わることを願いながらつくしの部屋のインターホンを押していた。








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コメント
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2017.03.25 22:00 | 編集
り*様
はじめまして。こんにちは^^
なんだか勿体ないお言葉を賜り有難うございます。
>花沢類がもう少し積極的・・諦めない三角関係(笑)
大人になった類くん、つくしを巡って司と心理戦を繰り広げると言った感じでしょうか?(笑)
大人の三角関係・・なんだか楽しそうですね!(笑)
あ、でも司に怒られそうです(笑)
拙宅でも楽しんでいただければ幸いです。
こちらこそ、いつもお読みいただき、ありがとうございます^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2017.03.26 22:41 | 編集
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