「あの、胸をはって妻になるって…..」
「あら?あなたは司と結婚するつもりはないのかしら?」
「あのまだ私たちは付き合いを始めたばかりで、結婚については_」
「あらそう。話し合ってないとおっしゃるのかしら?」
「いえ….そうではなくて、その…」
つくしは目の前の女性を大企業の経営者ではなく恋人の母親という目で見ているが、それでも今の自分は、まるで重役会議に提出された書類のように思えた。
そういった書類は数名の役員が目を通し、それから社長である女性の前に提出されるが、隅々まで目を通すことで、あら探しをする訳ではないが、文言の全てをチェックしてミスがないかを探す。だから、この面会に懐疑的な思いがあった。
それは、本当に母親が我が子とその恋人に対しての祝福を持っての面会なのかということ。
それに、ここでこうして受け答えをする中で揚げ足を取ることが無いとは言えず、返す言葉を選ぼうとしていた。
だがそれ以前にプロポーズをした本人に対し、まだ返事をしていな状況で母親に対して自分の気持ちを述べることが正しい順序だとは思えなかった。
「随分と言いにくそうにしているわね?はっきり言っていただいていいのよ?わたくしはあなたが司と結婚することに反対はないわ。むしろそうしていただいた方がいいの。それにあの子だって一時的な欲望と愛情の違いは分かっているはずよ。でもその違いをあの子に教えたのはあなたでしょ?牧野さん?」
その言葉は面白がっているような言い方。
そして微笑みとは言えない弱い微笑だった笑みは、つくしの内面を読んだとばかり、
「心配しなくていいのよ?私はあなたを噛み殺すつもりはないわ。それにあなたは海洋生物学者であって心理学者じゃないわ。だからあなたが今見て訊いていることは、そのまま受け取ってもらえばいいのよ?それからこれはビジネスではなく人の感情の話をしているの。司はあなたに弁解や釈明をしたかもしれないけれど、あなたはわたくしに対してそういった話をする必要はないわ」
道明寺楓は教授の副島と幼馴染みだと言った。だから弁解や釈明の言葉に含まれるのは、つくしの脚の傷のことを言っているのだと分かった。
つまりそれは、道明寺楓はつくしの人柄を調べたと言ったが、それ以外のことも全てを知っているということだ。
そしてその時、つくしの頭の中を過ったのは副島の態度だ。
それは、つくしが道明寺司から5千万の寄付を受けることになった時の事や、熱心にボストンへ行くことを勧めた時のことだ。
つまり道明寺司との出会いは仕組まれていたということ。
そしてその事と同時に頭を過ったのは、道明寺財団の研究助成事業に申し込み、最終審査まで残り面接まで辿り着いたことについてだ。
それは自分の研究が残ったのは正当な審査の結果ではなく、副島と道明寺楓の関係から通過したものではないかということ。もしそうなら研究者としてのプライドは地に落ち、今まで研鑽を積んで来たことが無駄に思えてしまうはずだ。
「牧野さん。あなたは考えていることが顔に出やすい人ね?それにあなたはうわべと中身とに落差がある人間ではないわ。だからあなたの心理状態を判断することは簡単ね?訊きたいことがある。そうよね?だったら今あなたの頭の中にあることを言ってちょうだい」
そこまで言われたなら思っていることを口にしてもいいはずだ。
だからつくしは訊いた。
「あの。私は道明寺財団の研究助成事業に申し込みをしました。そして最終審査まで残りました。それはもしかしてあなたと副島教授との関係から便宜が図られていたということでしょうか?もしそうなら私は_」
「牧野さん。それは違うわ。あなたの研究は正当な審査を受けて最終審査まで残ったの。決してわたくしと副島との関係から便宜が図られたのではないわ。ただ、あなたの面接にあの子を向かわせたのはわたくし。それはあの子にまともな女性と付き合って欲しいと思ったかったからよ?でもあなたとあの子はわたくしと副島が考えていたとは別の方法で知り合っていた。だけどまさかそこに高森真理子が絡んで来るとは思いもしなかったわ。けれどあの一件であの子があなたのことを真剣に考えていることが分かったわ。
でもあなたは過去に起きたことで自分を小さな箱に押し込めようとしていた。だからあなたには、その箱から出てもらえるようにしなければならなかった。ここまで言えば頭のいいあなたのことだから分かるわよね?」
小さな箱と形容したそれは自分の気持ちを確かめるのが怖い。
恋に対して臆病という名がつけられた高い壁に囲まれた場所。
そしてそこへ自分を押し込めようとしていたつくしの前に現れたのは__
「もしかして椿さんですか?」
「ええそうよ。あの子の姉よ。あなたもご存知の通りわたくしは司の母親としての務めは果たしてはこなかった。その代わりに椿が、娘があの子の面倒を見てくれたの。それに姉である椿は弟が可愛いわ。弟がまともな恋愛を始めたならその手伝いをしたいと思うのが椿という人間なの。だからわたくしの話を訊いて行動を起こしてくれたわ」
つくしは、ここまでの話の中で自分の恋に道明寺楓と椿。そして教授の副島が係わっていることを知ったが、何故か不思議なことだが落ち着いてその話を訊くことが出来た。
だがまさか教授の副島が二人を結び付けようとしているとは頭の片隅にもなかった。
そして道明寺楓も。
けれど今ここで、自分の思いを恋人の母親に伝えるのも悪くはないと思った。
だから、やや口角を上げている道明寺楓の目をしっかりと見返して言ったが、その女性は全てを言わなくても分かるはずだ。
「私は司さんのことが好きです。だからよろしくお願いします」

にほんブログ村
「あら?あなたは司と結婚するつもりはないのかしら?」
「あのまだ私たちは付き合いを始めたばかりで、結婚については_」
「あらそう。話し合ってないとおっしゃるのかしら?」
「いえ….そうではなくて、その…」
つくしは目の前の女性を大企業の経営者ではなく恋人の母親という目で見ているが、それでも今の自分は、まるで重役会議に提出された書類のように思えた。
そういった書類は数名の役員が目を通し、それから社長である女性の前に提出されるが、隅々まで目を通すことで、あら探しをする訳ではないが、文言の全てをチェックしてミスがないかを探す。だから、この面会に懐疑的な思いがあった。
それは、本当に母親が我が子とその恋人に対しての祝福を持っての面会なのかということ。
それに、ここでこうして受け答えをする中で揚げ足を取ることが無いとは言えず、返す言葉を選ぼうとしていた。
だがそれ以前にプロポーズをした本人に対し、まだ返事をしていな状況で母親に対して自分の気持ちを述べることが正しい順序だとは思えなかった。
「随分と言いにくそうにしているわね?はっきり言っていただいていいのよ?わたくしはあなたが司と結婚することに反対はないわ。むしろそうしていただいた方がいいの。それにあの子だって一時的な欲望と愛情の違いは分かっているはずよ。でもその違いをあの子に教えたのはあなたでしょ?牧野さん?」
その言葉は面白がっているような言い方。
そして微笑みとは言えない弱い微笑だった笑みは、つくしの内面を読んだとばかり、
「心配しなくていいのよ?私はあなたを噛み殺すつもりはないわ。それにあなたは海洋生物学者であって心理学者じゃないわ。だからあなたが今見て訊いていることは、そのまま受け取ってもらえばいいのよ?それからこれはビジネスではなく人の感情の話をしているの。司はあなたに弁解や釈明をしたかもしれないけれど、あなたはわたくしに対してそういった話をする必要はないわ」
道明寺楓は教授の副島と幼馴染みだと言った。だから弁解や釈明の言葉に含まれるのは、つくしの脚の傷のことを言っているのだと分かった。
つまりそれは、道明寺楓はつくしの人柄を調べたと言ったが、それ以外のことも全てを知っているということだ。
そしてその時、つくしの頭の中を過ったのは副島の態度だ。
それは、つくしが道明寺司から5千万の寄付を受けることになった時の事や、熱心にボストンへ行くことを勧めた時のことだ。
つまり道明寺司との出会いは仕組まれていたということ。
そしてその事と同時に頭を過ったのは、道明寺財団の研究助成事業に申し込み、最終審査まで残り面接まで辿り着いたことについてだ。
それは自分の研究が残ったのは正当な審査の結果ではなく、副島と道明寺楓の関係から通過したものではないかということ。もしそうなら研究者としてのプライドは地に落ち、今まで研鑽を積んで来たことが無駄に思えてしまうはずだ。
「牧野さん。あなたは考えていることが顔に出やすい人ね?それにあなたはうわべと中身とに落差がある人間ではないわ。だからあなたの心理状態を判断することは簡単ね?訊きたいことがある。そうよね?だったら今あなたの頭の中にあることを言ってちょうだい」
そこまで言われたなら思っていることを口にしてもいいはずだ。
だからつくしは訊いた。
「あの。私は道明寺財団の研究助成事業に申し込みをしました。そして最終審査まで残りました。それはもしかしてあなたと副島教授との関係から便宜が図られていたということでしょうか?もしそうなら私は_」
「牧野さん。それは違うわ。あなたの研究は正当な審査を受けて最終審査まで残ったの。決してわたくしと副島との関係から便宜が図られたのではないわ。ただ、あなたの面接にあの子を向かわせたのはわたくし。それはあの子にまともな女性と付き合って欲しいと思ったかったからよ?でもあなたとあの子はわたくしと副島が考えていたとは別の方法で知り合っていた。だけどまさかそこに高森真理子が絡んで来るとは思いもしなかったわ。けれどあの一件であの子があなたのことを真剣に考えていることが分かったわ。
でもあなたは過去に起きたことで自分を小さな箱に押し込めようとしていた。だからあなたには、その箱から出てもらえるようにしなければならなかった。ここまで言えば頭のいいあなたのことだから分かるわよね?」
小さな箱と形容したそれは自分の気持ちを確かめるのが怖い。
恋に対して臆病という名がつけられた高い壁に囲まれた場所。
そしてそこへ自分を押し込めようとしていたつくしの前に現れたのは__
「もしかして椿さんですか?」
「ええそうよ。あの子の姉よ。あなたもご存知の通りわたくしは司の母親としての務めは果たしてはこなかった。その代わりに椿が、娘があの子の面倒を見てくれたの。それに姉である椿は弟が可愛いわ。弟がまともな恋愛を始めたならその手伝いをしたいと思うのが椿という人間なの。だからわたくしの話を訊いて行動を起こしてくれたわ」
つくしは、ここまでの話の中で自分の恋に道明寺楓と椿。そして教授の副島が係わっていることを知ったが、何故か不思議なことだが落ち着いてその話を訊くことが出来た。
だがまさか教授の副島が二人を結び付けようとしているとは頭の片隅にもなかった。
そして道明寺楓も。
けれど今ここで、自分の思いを恋人の母親に伝えるのも悪くはないと思った。
だから、やや口角を上げている道明寺楓の目をしっかりと見返して言ったが、その女性は全てを言わなくても分かるはずだ。
「私は司さんのことが好きです。だからよろしくお願いします」

にほんブログ村
- 関連記事
-
- 理想の恋の見つけ方 149
- 理想の恋の見つけ方 148
- 理想の恋の見つけ方 147
スポンサーサイト
Comment:2
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

司*****E様
おはようございます^^
プロポーズの返事はまだですが、楓さんには自分の思いを伝えてもいいと思った。
当の本人よりも先に母親に自分の気持ちを伝えたのは、義理の母となる人を敬いたいという思いからなのでしょう。
それにしても、この恋物語には自分たち以外の人たちが深く係わっていたとは思いもしなかったでしょうね。
司もこのことを知ったら驚くでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
プロポーズの返事はまだですが、楓さんには自分の思いを伝えてもいいと思った。
当の本人よりも先に母親に自分の気持ちを伝えたのは、義理の母となる人を敬いたいという思いからなのでしょう。
それにしても、この恋物語には自分たち以外の人たちが深く係わっていたとは思いもしなかったでしょうね。
司もこのことを知ったら驚くでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.06.22 22:07 | 編集
