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2019
06.12

理想の恋の見つけ方 144

司は済んだこと。終わったことに囚われる男ではなかったはずだ。
だが牧野つくしのこととなると、そうはいかないということを知った。
つまりそれだけ惚れているということになるが、今、司の前にいる男に対しての感情は間違ってもそうではない。

損害保険会社の四宮圭一は細身の身体に濃紺のスーツを身に着けていた。
背は175センチほどあり、すっきりとした二重瞼をしていた。
圭一は自分がこの場所に呼ばれた理由を契約間近の保険プログラムについての確認だと思っていた。
それは、契約書を取り交わすまで何度あってもおかしくはない話。
そしてビジネスでは土壇場で契約が破棄されることもよくある話だが、それでも四宮圭一の態度には自分が大きな契約を勝ち取ったという自負が感じられた。

それにしても、副社長である司が決済をすることがあっても、彼本人に呼ばれることは無いと思っていたはずだ。
だから何を言われるのかといった思いで司の前に座る男は、背筋を伸ばした姿勢でいるのに対し、司はソファに背をもたせ掛け、肘掛けに両腕を乗せた姿勢でいた。
そして出されたコーヒーをひと口だけ飲むと言った。

「あなたが南米の鉱山開発の保険プログラムを作成された四宮さんですか?」

「はい。そうです。この度は我社の保険をご採用下さってありがとうございます」

そう答えた男は何かご質問があればどんなことでもお答えしますといった態度でいるが、司は訊きたいことはない。

司は私的な感情で事業を動かすことはないと言われるが、人間そう簡単に感情を捨てきれるものではない。現にこうして四宮圭一を呼んだのは、牧野つくしが一度だけ付き合ったことがある男がどんな男なのか興味があったからここへ呼んだ。
そして好きで付き合った女が怪我をしたからという理由で別れを告げた男の顔を見たいと思った。だから緊張をしているその顔をじっと見つめた。

そしてかつて喧嘩相手を震え上がらせていた男の今の喧嘩の方法は、相手を殴ることではない。大人になった今では腕力ではなく何が相手に一番ダメージを与えるかを知ることが必要だ。だから司は自分に向けられた感謝の言葉に早速答えることにした。

「四宮さん。私は回りくどい言い方をするのは好きではない。だから言わせていただくが本日ここにお越しいただいたのは、御社との契約を白紙に戻したいとお伝えするためです」

まさに青天の霹靂とはこのことかもしれない。
四宮圭一がバカな男なら、ポカンと開けられたその口に虫が飛び込んでも気付かないはずだ。だがどうやら四宮圭一はバカではないらしい。
一瞬何が何だか分からないといった顔をしたが、すぐに慌てた様子で言った。

「道明寺副社長。間もなく契約が結ばれるこの保険を白紙に戻すとおっしゃるんですか?何か問題でもあったのでしょうか。それならすぐに再検討して_」

四宮圭一は足元に置いていたブリーフケースを膝の上に置き中を開け、持参している資料を取り出そうとしていた。
だから司は言った。

「いや。再検討の必要ない。大変申し訳ないが保険は他社でお願いすることにした」

その声は力強い声で一切の反論を許さないといった声。
だが四宮圭一は食い下がった。

「しかしそれでも我社の保険プログラムは他社よりも__」

「あなたは」

司は圭一の言葉を遮ると劇的な効果を狙うため間を置いた。
それは若い頃と違い、気に入らない相手の顔をいきなり殴ることを止めた男が相手に向ける威圧感のひとつ。

「自分の仕事に誇りを持っているようだが、それはいいことだ。素晴らしい。だがやはり御社との契約は破棄させてもらいたい」

司は再びこともなげに言って目の前にいる男の反応を待ったが、四宮圭一は二度目に言われた言葉で明らかに衝撃を受けた様子で表情が変わった。

「そんな。突然そのようなことをおっしゃられましても……。でも何故ですか?理由をお聞かせ下さい」

「理由か?理由は簡単だ。俺がお前を気に入らないからだ」

司の口から出た理由に圭一は驚いた顔をした。
それもそのはずだ。何しろ道明寺司と会ったのは今日が初めてであり、どうして自分が彼に気に入らないと言われるのかが全く分からなかったからだ。
それについ先ほどまであなた、と呼ばれていたが、お前と言った口調には怒りが感じられた。
そして圭一の顔は驚愕から回復することが出来ず、思わず口から出た言葉は、うわずった調子で、「冗談ですよね」。
だが道明寺司がビジネスの場で冗談など口にすることは無いとは分かっていても、他の言葉が思い浮かばなかった。

「いや、残念だが冗談じゃない。俺がお前を気に入らない理由だが、今のお前には心当たりはないだろう。それにそのことに関していくら考えた所で今は分からないはずだ。ただ言えるのは、俺はお前が気に入らない。だからこの契約はない」

そして声のトーンを一段階低くした男は圭一にこう言った。

「俺は仕事に私情を持ち込むことはしない男だと言われるが、そんな男でも大切な女のためならそういうこともある。四宮さん。あんたはこの契約が白紙になった理由を理不尽だと言うだろう。だが世の中はそんなもんだろ?それに世の中が理不尽だらけだとしても、それはそうなる理由があるからだ。だから悪いな。お前の会社との契約は結ばれない」

その時の四宮圭一の顔は青ざめ唇が震えていた。
それは動揺を通り越し、心筋梗塞でも起こす一歩手前に見えた。
だが司は、圭一が心筋梗塞を起こそうが脳卒中を起こそうが左遷されようが関係なかった。

「それから社に戻って契約が白紙になった理由を訊かれたら自分が気に入られなかったと言えばいい」

だがそのことに対し圭一の会社から文句が出ることはない。
何故なら南米での契約を白紙に戻す代わりに、中東での石油プラント工事の保険契約を結ぶ約束をしていたからだ。
そしてその保険料は南米のそれよりも高額だった。





司は四宮圭一の顔を殴りはしなかったが、牧野つくしが与えられたダメージを別の形で回収することに成功したはずだ。
それは四宮圭一という男が、司に嫌われたため会社が得るはずだった莫大な利益を失ったことをどう説明すればいいかを考えている姿に哀れを感じたからだ。
そして会社は道明寺司に嫌われた男の処遇をどうするかと言えば、出世コースを外れたことは間違いなかった。



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コメント
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dot 2019.06.12 07:36 | 編集
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dot 2019.06.12 07:56 | 編集
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dot 2019.06.12 08:54 | 編集
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dot 2019.06.14 00:16 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
四宮圭一。司に呼び出され、自分が結ぼうとしていた契約が破棄されるとは思いもしなかったでしょうね。
そしてその理由がお前が気に入らないからと言われ何故という思いでしょう。
まさか自分が10年以上前に付き合った女が、道明寺司の恋人になっているとは思いもしないでしょうからねぇ。
国際マーケット部門という出世コースを外れることになった男の末路....。
経済界は色々な所で繋がっていますから、道明寺司を敵に回したことで終わりでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.06.14 21:11 | 編集
童*様
四宮圭一は何故自分が司から気に入らないと言われたか。
その理由を考えるでしょう。
でもいくら考えても分からないでしょうねぇ。
人は自分がされたことは覚えていますが、自分が他人にしたことは覚えていないことが殆どだと言われていますからねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.06.14 21:17 | 編集
み***ん様
司のさり気ない復讐はビジネス上の個人攻撃でしたねぇ^^
ビジネスの世界は色々な繋がりがあります。
四宮圭一の契約は破棄しても、他の契約を結ぶことで相手の会社との繋がりは保つ。
それに圭一の会社は歴史のある会社です。道明寺グループとは他にも色々とお付き合いがあるはずです。
つまり司に嫌われた四宮圭一の未来は無いでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.06.14 21:23 | 編集
イ**マ様
別契約までしちゃってる司(≧▽≦)
エグいですか?(笑)
いや。この場合はおっしゃる通りかっこいいですよ。
はい。そして四宮圭一がこの理不尽さの理由を知るのは、司がつくしと結婚して全世界にお披露目した時でしょうねぇ。
それにしても左遷間違いない男は、それをどこで知ることになるのでしょう。
アラスカの大地?それとも灼熱の砂漠?
どちらもイヤですが、四宮圭一。社命ですから行かねばなりません!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.06.14 21:31 | 編集
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