抱き上げられた女は司の腕の中から顔を上げ、驚いた顔で彼を見た。
その顔は普段は深海に暮らすシーラカンスが何かの拍子に浮上して浅瀬に迷い込みエラではなく進化の途中で退化してしまった肺で息をしようとしているように見えた。
そしてサメと称される男は、そんなシーラカンスを抱え建物から出たところで車に乗ったが、そこでハッとしたように我に返った女はゴクリと唾を飲んだ。
「あの….どこへ?」
「この街には俺のペントハウスがある。そこへ行く」
二人が車の乗り込んだとき、椿と食事をしてから降り出した雨は強くなっていた。
ニューヨークの街が不思議な色を放つにはまだ早い時間だが、雨のせいなのか。まるで夕闇が降りる時間のような暗さが感じられた。
司は本当の牧野つくしを知りたい気持ちが大きくなっていくのが感じられた。それはひとりで生きる自信を持つ女の、嘘のないその態度と瞳に囚われたことを自覚した瞬間からあった。
そしてそれは言い換えれば欲望という言葉になる。
だから、牧野つくしを連れ去るように抱き上げた。それは彼女の信頼をやっと勝ち得た男の名誉挽回の行為とはほど遠いことだとしても、気持ちを止めることが出来なかった。
つまり、司にとって人を好きになるということは、心と身体の全てをもって相手を愛するということ。それを牧野つくしが気付かせた。
だから司は正直に言った。
「俺はお前と愛し合いたい」
司は愛など信じたことがなかった。
だから愛という言葉を口にしたことはない。
だが牧野つくしに対しては素直に心を打ち明けることが出来る。だから思いっきり抱きしめ、これからの時間をすべて使って愛し合いたいという思いがあった。
だがそれを望むのは、まだ早いはずだという思いもあったが、恋人になった男と女というのは、どの段階で抱き合うのか。
かつて司の周りにいた女達は簡単に彼に抱かれた。だから過去の経験を比較対象に使うことは出来ないと分かってはいても、ついその調子でと言えばいいのか。自制心が打ち砕かれ気持が先走ったが、彼の言葉に返される言葉はなかった。
つまりそれは嫌だという意味なのか。だがそこには、いつもの男を寄せ付けないと張り巡らされていたバリアはない。それなら今のこの状態は緊張しているということなのか。
司は牧野つくしの口が開かれるのを待った。
頬を赤く染めた状態でいる彼女の返事を。
そして返されたのは___
「…..経験がないんだけど….それでもいいなら」
全てを受け止め包み込む。
司は目にしたものを拒むつもりはない。
本人が醜い傷跡だと思っていたとしても身体の傷は人間の人格には関係ない。傷跡はただの傷跡だ。だから司の前に傷跡を晒すことを躊躇っているのなら何度でも言うつもりだ。
外見をどうのことのいう男はクソだと。
だから見ないで欲しいと言われたとしても見るつもりでいた。
それに司に言わせれば、牧野つくしの傷跡を見ることが辛いと言って別れた男はクソ以下だ。そして本当の牧野つくしを知る男が司だけだということに、彼女と人生の時間が重なった奇跡というものを感じた。
だが遊び慣れた女達を相手にしてきた男は経験のない女をリードしたことがない。
だから経験がない女をどうリードすればいいのか分からなかった。
ただ言えるのは俺を信じてくれ。だからどんなに彼女が欲しくても優しくリードするつもりでいた。そしてその言葉通りベッドの傍に立つ女に歩み寄るとパンツスーツの上着を脱がせてからベッドに横たえたが、パンツのファスナーを下げるという行為は初めての経験だ。そのとき女が緊張したのが分かった。
それはいくら司が気にするなと言ったとしても、傷跡が彼の目に晒されることへの不安からだと分かっていた。
だから心配するなという意味を込め生地の上から右足の太腿に触れてからパンツを脱がせ、さらに両脚を包んだ黒のストッキングを脱がせた。そこに現れたのは見える限り太腿の上部から膝近くまで続く傷跡。
「ちっぽけな傷跡だ。お前はこんな傷跡を気にしてたのか?」
司は目を背けることなく言った。
だが司の前にあるのは大きな傷跡。
10人が見れば10人全てが酷いと答えるであろう傷跡。
けれど司にはその傷跡は誘惑に思えた。
この傷跡があったから牧野つくしは誰にも心を許すことはなかった。
そして同じく身体も。
つまりこの傷跡は牧野つくしが司と抱き合うまで誰のものにもならないために作られた彼だけが見ることが許された印だ
だから司はその傷痕に触れることに躊躇いはなかった。
「俺が何をしようと気にするな」
そう言った男は膝から太腿の内側へと指先を滑らせながら傷跡に唇を這わせ愛撫を始めたが、震えるように動いた身体と頭上から聞こえたうめき声は、誰にも褒めてもらえることがないと思っていた身体を愛されたことに対する女のしとやかな歓び。
その瞬間司は決意した。
ありったけの時間をかけて愛し合おうと。
司は牧野つくしの身体を奪うと同時に自身の身体を分け与えたいと望んだ。
それは身体を持たない幽霊が魂の収まる場所を探し求めていたのと同じ。
だがその場所を見つけた。
そして司は、今ほどひとりの女性を欲しいと思ったことはなかった。
だからその気持ちを証明することにした。

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その顔は普段は深海に暮らすシーラカンスが何かの拍子に浮上して浅瀬に迷い込みエラではなく進化の途中で退化してしまった肺で息をしようとしているように見えた。
そしてサメと称される男は、そんなシーラカンスを抱え建物から出たところで車に乗ったが、そこでハッとしたように我に返った女はゴクリと唾を飲んだ。
「あの….どこへ?」
「この街には俺のペントハウスがある。そこへ行く」
二人が車の乗り込んだとき、椿と食事をしてから降り出した雨は強くなっていた。
ニューヨークの街が不思議な色を放つにはまだ早い時間だが、雨のせいなのか。まるで夕闇が降りる時間のような暗さが感じられた。
司は本当の牧野つくしを知りたい気持ちが大きくなっていくのが感じられた。それはひとりで生きる自信を持つ女の、嘘のないその態度と瞳に囚われたことを自覚した瞬間からあった。
そしてそれは言い換えれば欲望という言葉になる。
だから、牧野つくしを連れ去るように抱き上げた。それは彼女の信頼をやっと勝ち得た男の名誉挽回の行為とはほど遠いことだとしても、気持ちを止めることが出来なかった。
つまり、司にとって人を好きになるということは、心と身体の全てをもって相手を愛するということ。それを牧野つくしが気付かせた。
だから司は正直に言った。
「俺はお前と愛し合いたい」
司は愛など信じたことがなかった。
だから愛という言葉を口にしたことはない。
だが牧野つくしに対しては素直に心を打ち明けることが出来る。だから思いっきり抱きしめ、これからの時間をすべて使って愛し合いたいという思いがあった。
だがそれを望むのは、まだ早いはずだという思いもあったが、恋人になった男と女というのは、どの段階で抱き合うのか。
かつて司の周りにいた女達は簡単に彼に抱かれた。だから過去の経験を比較対象に使うことは出来ないと分かってはいても、ついその調子でと言えばいいのか。自制心が打ち砕かれ気持が先走ったが、彼の言葉に返される言葉はなかった。
つまりそれは嫌だという意味なのか。だがそこには、いつもの男を寄せ付けないと張り巡らされていたバリアはない。それなら今のこの状態は緊張しているということなのか。
司は牧野つくしの口が開かれるのを待った。
頬を赤く染めた状態でいる彼女の返事を。
そして返されたのは___
「…..経験がないんだけど….それでもいいなら」
全てを受け止め包み込む。
司は目にしたものを拒むつもりはない。
本人が醜い傷跡だと思っていたとしても身体の傷は人間の人格には関係ない。傷跡はただの傷跡だ。だから司の前に傷跡を晒すことを躊躇っているのなら何度でも言うつもりだ。
外見をどうのことのいう男はクソだと。
だから見ないで欲しいと言われたとしても見るつもりでいた。
それに司に言わせれば、牧野つくしの傷跡を見ることが辛いと言って別れた男はクソ以下だ。そして本当の牧野つくしを知る男が司だけだということに、彼女と人生の時間が重なった奇跡というものを感じた。
だが遊び慣れた女達を相手にしてきた男は経験のない女をリードしたことがない。
だから経験がない女をどうリードすればいいのか分からなかった。
ただ言えるのは俺を信じてくれ。だからどんなに彼女が欲しくても優しくリードするつもりでいた。そしてその言葉通りベッドの傍に立つ女に歩み寄るとパンツスーツの上着を脱がせてからベッドに横たえたが、パンツのファスナーを下げるという行為は初めての経験だ。そのとき女が緊張したのが分かった。
それはいくら司が気にするなと言ったとしても、傷跡が彼の目に晒されることへの不安からだと分かっていた。
だから心配するなという意味を込め生地の上から右足の太腿に触れてからパンツを脱がせ、さらに両脚を包んだ黒のストッキングを脱がせた。そこに現れたのは見える限り太腿の上部から膝近くまで続く傷跡。
「ちっぽけな傷跡だ。お前はこんな傷跡を気にしてたのか?」
司は目を背けることなく言った。
だが司の前にあるのは大きな傷跡。
10人が見れば10人全てが酷いと答えるであろう傷跡。
けれど司にはその傷跡は誘惑に思えた。
この傷跡があったから牧野つくしは誰にも心を許すことはなかった。
そして同じく身体も。
つまりこの傷跡は牧野つくしが司と抱き合うまで誰のものにもならないために作られた彼だけが見ることが許された印だ
だから司はその傷痕に触れることに躊躇いはなかった。
「俺が何をしようと気にするな」
そう言った男は膝から太腿の内側へと指先を滑らせながら傷跡に唇を這わせ愛撫を始めたが、震えるように動いた身体と頭上から聞こえたうめき声は、誰にも褒めてもらえることがないと思っていた身体を愛されたことに対する女のしとやかな歓び。
その瞬間司は決意した。
ありったけの時間をかけて愛し合おうと。
司は牧野つくしの身体を奪うと同時に自身の身体を分け与えたいと望んだ。
それは身体を持たない幽霊が魂の収まる場所を探し求めていたのと同じ。
だがその場所を見つけた。
そして司は、今ほどひとりの女性を欲しいと思ったことはなかった。
だからその気持ちを証明することにした。

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司*****E様
おはようございます^^
ついに来た!そのようですが、どうなんでしょうねぇ(≧▽≦)
たっぷり愛してくれる!!(笑)
何だかハートマークが多いので先日の西田ではありませんが何気にプレッシャーを感じております。
それにしても愛し方って難しいですねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
ついに来た!そのようですが、どうなんでしょうねぇ(≧▽≦)
たっぷり愛してくれる!!(笑)
何だかハートマークが多いので先日の西田ではありませんが何気にプレッシャーを感じております。
それにしても愛し方って難しいですねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.06.05 23:48 | 編集

笹**る様
見て来ましたが美しい和菓子ですね。
日本伝統の和菓子には色々な意味が込められていて、味を楽しむだけではなく季節も味わうことが出来る。
本当に素晴らしいですね?そして食べたい~。
さてお話ですが、やっとここまで来ました。
本当に長かったですよね?
それにしても相変わらずクサイ台詞も平気で言う男。
いや。言ってなくても、そんな思考を巡らせる男は、それがクサイとは思ってないんでしょうかねぇ(笑)
そしてつくしは身も心も愛される女になるのか?
エラ呼吸から肺呼吸に変わる日も近いかも?
コメント有難うございました^^
見て来ましたが美しい和菓子ですね。
日本伝統の和菓子には色々な意味が込められていて、味を楽しむだけではなく季節も味わうことが出来る。
本当に素晴らしいですね?そして食べたい~。
さてお話ですが、やっとここまで来ました。
本当に長かったですよね?
それにしても相変わらずクサイ台詞も平気で言う男。
いや。言ってなくても、そんな思考を巡らせる男は、それがクサイとは思ってないんでしょうかねぇ(笑)
そしてつくしは身も心も愛される女になるのか?
エラ呼吸から肺呼吸に変わる日も近いかも?
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.06.06 00:03 | 編集
