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2019
06.04

理想の恋の見つけ方 139

自分の気持ちを正直に伝える。
その言葉に司はぺらぺらと喋り出した女が彼の目を見て何を言うのか思考を巡らせた。
二人は暗闇の中にいたが、今の司には牧野つくしの顔がはっきりと見え、浮かんだ表情には今まで見たことがない懇願するような目があったが、普段なら思慮深いとも言える女の態度からすれば、この状況は何を表しているのか。

司は掴んだ牧野つくしの手首を離さなかった。
いや。それ以前に離したくないといった思いから力が入ってしまったのか。女が少し顔を歪めたことに気付くと手を緩めた。

「誰に何を伝えるって?」

「誰って…..」

「だから誰に何を伝えるって?」

「何をって…..」

司の言葉をオウム返しする女は、つい先ほどまでの態度とは打って変わったように口が重くなった。それは戸惑っているとしか言えなかったが、これ以上曖昧なことを言っても仕方がないと思ったのか。言葉をつなぐように話し始めた。

「それは、ええっと….だから….少し前から影のようにモヤモヤとした思いが頭の中にあって、それが何であるかはっきりと分からなかったけど、それが分かったのは椿さんに会ったからで、つ、椿さんは弟である副社長のことを不器用だって言って….でもそれは仕事に対してじゃなくて私に対してであって__」

司は牧野つくしの話に口を挟むことなく黙って聞くつもりでいた。
だが、口を開けば開くほど要領を得ないというのか。彼女が誰に何を伝えたいのかが分からなかった。だからつい強い調子で「だから何が言いたいんだ?」と言ったが、返されたのは、
「ええっと….だから__その__」そこまで言って静かになったのは余程口に出しかねる言葉なのか。
だが男性経験がないという発言は躊躇なく出た。
だから今言おうとしている言葉との差は何なのか。
そう考えていたとき、女は張りつめていた糸が切れたのか。
それとも緩んだのか。ひと呼吸ついた。それでもその顔には何らかの決意がみなぎっていると思えた。だから司は彼女の口から語られる次の言葉を待った。

「これは椿さんに言われたんです。その人のことが好きかどうか。恋なのか。自分の気持ちが分からないなら、その人が他の誰かと付き合っていることを想像してみてって。そうしたら頭の中に浮かんだのは嫌だという思いだった….。だからそのことを伝えたくて…私。副社長のことが好きかもしれません.」

司は喜ぶべきだと分かっていた。
すると、その思いが彼女の手首を掴んでいた指に力が入るという状況を生み出した。
それにしても言葉尻を捉えるではないが、好きかもしれませんというのは断定ではない。
好きなら好き。嫌いなら嫌いと物事は白黒はっきりつけるのが司の性格だ。
だが牧野つくしの言葉に込められた意味は好きと同じことだと理解した。

しかし何も言わない司に対し、緊張し始めた女は唇を噛んだ。
司は彼女の手首を掴んだまま立ち上がった。だから掴まれたつくしも立ち上がることになったが、暗闇のプラネタリウムは満天の星を映し出している最中で、突然立ち上がった男女に周りにいた人間からは何事かと驚いた気配が伝わって来た。
だがトイレにでも行くと思ったのか。投げ出されていた足が収められ通路が開けられた。
だから司は牧野つくしの手を掴んだまま他の客の前を横切りプラネタリウムの外へ出た。
そしてこう言った。

「本当か?今言ったことは本当か?」

司の繰り返した言葉に手首を掴まれた女は真っ直ぐに司を見つめ、そして小さく頷いた。
だから司は掴んでいた手首を離し、今度は彼女の手を握ると歩き出した。だが数歩、歩いたところで立ち止まった。そしてつくしをさっと抱き上げ建物の外へ向かって歩き出した。



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コメント
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dot 2019.06.04 05:56 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
え?これから行く所はどこなのか?
も、もちろん二人でゆっくり「話」が出来る場所?
ん?それはどこなのでしょう?
二人とも大人ですからねぇ。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2019.06.04 22:54 | 編集
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