FC2ブログ
2015
11.25

まだ見ぬ恋人34

牧野がドアを開けて入って来た。
いつもに輪を掛けたような早い出社だった。
牧野は・・・いつもと変わらないように見える。
そして向かいの席に座る俺に向かって朝の挨拶をした。

「おはようございます支社長。お加減はいかがですか?」
と杓子定規に言った。
「ああ、おかげ様で」
他の社員の手前、司はさりげない様子で言った。
「そうですか。良かったですね。」
とほほ笑んできた。
が、そのほほ笑みは冷たくていつもの牧野じゃなかった。
胸に突き刺さるような冷たいほほ笑みを返された。
周りの空気まで凍りそうだった。
「ま、牧野・・」
「なんでしょうか!」
思いっきり睨まれた。
こえぇー。牧野ってこんな女だったか?



あの女、総二郎が電話で言ってたミカって女だった。
総二郎はちょっと頭がおかしい、ヤバイ女がいるから気を付けろと俺に警告するために何度も連絡を取ろうとしていたらしい。
あんな女、俺には全く記憶になんてない。
牧野以外の女に興味なんてあるわけがない。
ましてやあんな女とキスなんてするはずがない!
俺のストーカーか?
妄想女かよっ!
どうやって俺のマンションにもぐりこんだか知らねぇが、セキュリティは即クビにした。

クソッ!
あの女!俺に抱きついてきやがって!
牧野以外に触られて気持ち悪くて反吐が出そうだった。
昔の俺だったらその場でぶっ殺してたぞ。

もうこれ以上昨日の記憶をほじくり返そうとは思わなかったので、そのイメージを頭のなかから払拭した。
それよりもこれからのことの方が大切だからな。

俺はこれからどうしたらいいんだ?

『・・もう一度キスして・・』

俺の耳元でささやいてきた牧野の声が聞こえてくるようだ。
数時間前、牧野が俺の身体の下にいて身悶えしていたことが嘘のようだ・・。
牧野にキスして、牧野に触れて・・・


俺のオフィスラブライフはどうなるんだ?
つき合ってる二人が険悪になったとき、それでも平静を装って仕事をしなきゃなんねぇなんて地獄だな・・・
最高に素晴らしい拷問を受けたあとはマジもんの地獄かよ・・

牧野は俺のことをまるで道に落ちた犬のクソのような目で見る。
向かいの席に目をやれば、俺の視線に気づいているはずなのに絶対に視線を合わすものかとパソコンの画面を睨みつけるように見ている。
そして唇はぎゅっと固く結ばれている。

俺は牧野の流れるようなシルキーな黒髪が好きなのに、今日のこいつはきつく固めた団子みたいなのが頭のうえに乗っかってる。
俺に対しての嫌がらせか?
なんか知らねぇが、まったく隙が感じられない女になってる。
携帯にかけても出ねぇ・・・
マンションにも行ってみたが居るのか居ないのか分かんねぇが応答しなかった。
仕事が終わればお疲れ様でしたとばかり、さっさと退社しているらしい。
ああ、そんなのは勤怠管理データを見れば一目瞭然だった。
だから牧野が席を立ったとき、こっそり後をつけて廊下に出たら走って逃げられた!


取り付く島もない・・・
話しなんてとても出来るような状況じゃねぇ。
多分、今の牧野は俺に他の女がいて俺を信じられない、裏切られたという思いでいっぱいなんだろう。
まさに目にしたものがすべてって感じの女だもんな。

こんな状況でまる二日、牧野を真正面に見ながら午前中を過ごした俺は今日も午後からは執務室に戻って来た。
いつもは美味いと感じる煙草がまずい・・
牧野とこのままの状況が続けば俺は知らないうちに煙草をやめることが出来るかもしれないと思うようになった。

どうすりゃいい?


****


司が二人を呼び出したのは助言を求めるためだった。

「誰か死んだのか?」
総二郎は司を見ながら言った。
「司、総二郎から聞いたぞ?」
司は黙ったままだった。
「司、そんな暗い顔するなよ!」
「おまえ、ストーカー女に牧野との初エッチを邪魔されたそうだな?」
あきらは顔に笑みを浮かべると面白そうに聞いた。

「あの女!やっぱ殺してやる・・」
司の顔が怒りに染まった。

「司、お前が言うとシャレになんねぇな」
「なあ、あきら。俺はどうしたらいいんだ?牧野は俺の方を見ようともしない。近寄ろうとしたらまるで汚ねぇものでも見るような目で俺を見る。電話にも出ねぇ・・」
司はそこまで言うと忌々しそうに総二郎を睨んだ。

「総二郎、おまえがあん時、電話なんかしてくるからだ!なんでマンションに電話するんだよ!」司は立ち上がった。
「なにいってんだ、おまえが携帯に出ねぇからだろうが!人が親切に教えてやろうと思ったのによ!」
総二郎も立ち上がった。
「俺は寝込んでてそれどころじゃなかったんだよっ!」
「そんなこと知るかよ!」
二人の男は立ち上がったまま睨みあっていた。

「まあ二人とも落ち着け。な、座れよ。なあ司、まずは牧野に事情を説明してわかってもらうことが第一だろ?」
あきらは少し大きすぎるくらいの声で言った。
「ああ・・けど牧野は俺を避けてるし、口もきいてくれねぇ」
「それなら牧野のダチから話してもらうってのはどうだ?」
あきらはそう言うと同意を求めるように総二郎を見た。

「いいじゃねぇか。滋か桜子にでも頼んで・・」
「ダメだ!あいつらなんてぜってぇダメだ!」
「なんでだよ?」
「アイツらの耳にこんな話が入ったら俺のことなんて捨てちまえって言うに決まってる。
滋なんてぜってぇそう言うぞ!あのサル女!うちを辞めてまた大河原へ戻って来いなんて言い出しかねねぇ・・」

「しかしよ、なんとまあ、あの夜がおまえらの初体験になるところだったって言うんだからどれだけ時間がかかってるんだよ。牧野と付き合いはじめてかれこれ2カ月だろ?」
総二郎に言われ司が頷いた。
「・・ったく運が悪りぃって言うか、タイミングを逃すって言うか・・」
あきらは同情したようにため息をついていた。

「俺に言わせりゃ付き合い始めたその日にさっさとやっちまえば良かったんだよ!」
総二郎の言うことも一理あると思わないわけじゃなかった。
が、牧野のことをそんな軽い女だなんて考えちゃいない。
おまえらの付き合う女とは違うんだよ!牧野はな!
「どうすりゃいいんだ俺は・・」
司は頭を抱えた。
「女の心理を俺に聞くか?」
総二郎はにやにや笑いを浮かべた。
「司、俺たちに女の心理を聞くな。けど女の身体のことならなんでも教えてやるぞ?」

こいつらに聞くんじゃなかった。

「いいか、司。こういうゴタゴタしたことはさっさとすませろ。事情をきちんと説明してわかってもらえ?いつまでも長引くとろくな話しになんねぇからな」
司は頷くと手にしていたアルコールを口にしていた。


****


結局あいつらに話しをしたところで、どうにもならない。

あのとき西田は俺と牧野に気をきかせて帰ったが、今の俺の状態を見ていて見かねたのか、ついに言って来た。
「なにかありましたか?」
司は答えなかった。

「司様、おひとりで考えてもどうしようもない事もあります」
「女性のことに関しては、男の我々が頭を悩ますよりやはり同性の方にご相談されたほうがよろしいかと思いますが」
―――確かに、それは言える。
だがどうする?
俺の周りで牧野のことをよく知っている女は滋か三条の二人しかいない。
ダメだ。あいつらに話しなんかしたら、まとまる話しもまとまらない。

俺のことを理解してる人間に・・・

俺は西田が力説していた孫子の兵法を思い出した。
そこに書かれていたこと・・・


どんなに勇猛果敢な指揮官でもこれだけは必ず行う。
援軍を呼ぶことだ。
だから俺は援軍を呼ぶことにした。
それは明日ロサンゼルスからやって来る。









にほんブログ村

人気ブログランキングへ

応援有難うございます。
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.11.25 07:03 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.11.25 08:04 | 編集
k**hi様
本当に酷いですよね。司もいい迷惑です。
玄関前に立っていたなんて考えると怖いですよね。
え?司のこと疑ってしまいました?(笑)
このお話の司がそんなことするなんて!
椿お姉様の活躍!期待外れにならないようにと思っていますが
司も自分の力で頑張らなくてはいけませんよね?
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.26 21:58 | 編集
as***na様
あの二人の言葉にニンマリですか?
有難うございます。
言いそうですよね?
司のことを本気で心配しているのか疑問が残りますが
二人のキャラクターなら言うのでは?と思いました。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.26 22:04 | 編集
H*様
椿さんに任せたらなんとかなりますよね?
やはりそう思いますよね?
誤解・・・解けません(笑)
司も困っています。
早くなんとかしてあげたい気持ちはありますので
もう少しお待ち下さいませ。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.26 22:09 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top