環境が人を変えるという言葉があるが、それは本当だろうか。
だがつくしが置かれている状況は、ニューヨークの博物館で恐竜の骨格標本や地球の歴史に関する展示を見ているだけで環境というには大袈裟過ぎるたとえだ。
けれどニューヨークの歴史ある博物館は、つくしにとっては訪れたかった場所であり、大きく立派な建物は日本の博物館にはない広さと贅沢さを感じさせる場所だった。
だからこの場所に来ることが出来たことが嬉しかった。
そしてつくしの口元に笑みを浮かべさせたのは、道明寺司という男の今まで見たことがない一面を目にしたからなのかもしれなかった。
それにしても、海の生き物コーナーであるミルスタイン海洋生物ホールの吹き抜けに吊るされた30メートル近い実物大のシロナガスクジラの模型は圧巻で見る者を圧倒するが、海が職場とも言えるつくしも地球最大の動物であるそのクジラには未だ出会ったことはなかった。
だから感心した様子で見上げていたが、
「お前はこのクジラに出会ったことがあるのか?」と訊かれ、「ない」と答えると、
「そうか。お前はサメの研究者だがクジラには興味がないのか?」と問われ、出来るだけさり気ない調子で答えようとした。
それは一緒に展示を見て回っているとは言え、必要以上に親しく振る舞うつもりはないという思いからだが、それでも今までなら自然に尖っていた口も何も意識しない普段と同じ口調で喋ることが出来た。
「ないこともないけど、私が海洋生物で初めて興味を持ったのはサメだったから。
それにサメって海の悪者みたいに言われるけどそうじゃないのよ?サメは人を襲うことはないし…..いえ。サメが人を襲うのは人間の方が彼らに危害を加えようとするからよ。だってサメは臆病な生き物で、人間を見て驚くことはあっても何もしない人間を襲うことはないの」
つくしは、道明寺司相手にサメの話を始めたが、この場所はつくしの専門分野が遺憾なく発揮出来る場所であり不思議なほど饒舌でいられた。それは海の生物に囲まれた場所が落ち着いた気持ちにさせてくれるからなのか。
そしておかしなことだが隣に立つ背の高い男のことを、道明寺ホールディングスの副社長ではなく、海洋生物のことを、さして知らない人物として接することが出来た。
それは、男が数千億ドルの取引を纏めることが日常だとしても、海の中にどれほどの種類のサメがいるかを知らないのだから、ここでは自分の方が優位に立っていると思えるからだ。
だがそれでも、彼は頭がいい男性で見るもの訊くもの全てを理解する能力がある。
それはこれまで一緒に過ごした時間から、研究者にはないビジネスセンスの良さと冷静さに、ずば抜けた判断能力を持ち、どんな局面も乗り切ることが出来るという自信というものがあるからだ。
現につくしを助けに来てくれた時の男は、その判断能力を発揮してつくしを見つけてくれた。
そしてそういった分野では、つくしは太刀打ちできない。
だがこの場所は自分のテリトリーだ。
だからつくしは少しだけ、いやここではやはりつくしの方が優位に立っていると思っているが、すぐ傍に立つ金髪女性や、近くを通り過ぎて行く女性のグループが熱い眼差しで男を見るのは、その容貌がひと目を引くからだ。
しかし、それは容貌だけではない。立っているだけで意識がそちらに引き寄せられる人物というのは、容貌とは別に雰囲気があるからだ。
だが隣に立つ男は自分を見つめる女性たちに目を向けることも気にする様子もなく、ただつくしの傍を離れることなく彼女の話に耳を傾けていた。
だがつくしにとってはただの男だ。
だから女性達の視線が羨望となってつくしに向けられても気に留めず話を続けた。
「それにダイビングのタンクから出る泡に驚いて逃げるサメもいるわ。サメだって普段見たこともない得体のしれないものは怖いでしょ?だから人を襲うサメがいるって言われてるけど、それはサメが近づいたとき暴れる人間を魚と勘違いしてるからよ。それからサーファーがボードの上にお腹をつけて水を掻く様子が好物の亀に似ているから襲われたりするの。それにサメの中には好奇心が旺盛なサメもいて人間と一緒に泳いでくれるのよ?ジンベイザメはいい例であのサメは大きい身体の割りに臆病だし食べる物もオキアミやプランクトンや小魚なの。あんなに身体が大きいのにどうやってその身体が維持できるか不思議に思えるくらいよ?」
つくしは館内を歩きながら話をしているが、隣を歩く男は、彼女が興味を示した展示には同じように興味を示し時折質問を投げかけてくる。そのことに何かを意識することなく言葉を返せるのは、今まで男を避けていたことを思えば、この感覚は不思議な感覚だった。
それにしても、かなり近くに立つ男の身体は決してつくしに触れようとはしなかった。
だがそれでもスーツを通して伝わる熱は確かにあり、もし身体に触れられたら自分はどんな態度を取るのだろうか。
そして今のこの感覚に、奇妙な安心感を得ていることを否定出来なかった。

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だがつくしが置かれている状況は、ニューヨークの博物館で恐竜の骨格標本や地球の歴史に関する展示を見ているだけで環境というには大袈裟過ぎるたとえだ。
けれどニューヨークの歴史ある博物館は、つくしにとっては訪れたかった場所であり、大きく立派な建物は日本の博物館にはない広さと贅沢さを感じさせる場所だった。
だからこの場所に来ることが出来たことが嬉しかった。
そしてつくしの口元に笑みを浮かべさせたのは、道明寺司という男の今まで見たことがない一面を目にしたからなのかもしれなかった。
それにしても、海の生き物コーナーであるミルスタイン海洋生物ホールの吹き抜けに吊るされた30メートル近い実物大のシロナガスクジラの模型は圧巻で見る者を圧倒するが、海が職場とも言えるつくしも地球最大の動物であるそのクジラには未だ出会ったことはなかった。
だから感心した様子で見上げていたが、
「お前はこのクジラに出会ったことがあるのか?」と訊かれ、「ない」と答えると、
「そうか。お前はサメの研究者だがクジラには興味がないのか?」と問われ、出来るだけさり気ない調子で答えようとした。
それは一緒に展示を見て回っているとは言え、必要以上に親しく振る舞うつもりはないという思いからだが、それでも今までなら自然に尖っていた口も何も意識しない普段と同じ口調で喋ることが出来た。
「ないこともないけど、私が海洋生物で初めて興味を持ったのはサメだったから。
それにサメって海の悪者みたいに言われるけどそうじゃないのよ?サメは人を襲うことはないし…..いえ。サメが人を襲うのは人間の方が彼らに危害を加えようとするからよ。だってサメは臆病な生き物で、人間を見て驚くことはあっても何もしない人間を襲うことはないの」
つくしは、道明寺司相手にサメの話を始めたが、この場所はつくしの専門分野が遺憾なく発揮出来る場所であり不思議なほど饒舌でいられた。それは海の生物に囲まれた場所が落ち着いた気持ちにさせてくれるからなのか。
そしておかしなことだが隣に立つ背の高い男のことを、道明寺ホールディングスの副社長ではなく、海洋生物のことを、さして知らない人物として接することが出来た。
それは、男が数千億ドルの取引を纏めることが日常だとしても、海の中にどれほどの種類のサメがいるかを知らないのだから、ここでは自分の方が優位に立っていると思えるからだ。
だがそれでも、彼は頭がいい男性で見るもの訊くもの全てを理解する能力がある。
それはこれまで一緒に過ごした時間から、研究者にはないビジネスセンスの良さと冷静さに、ずば抜けた判断能力を持ち、どんな局面も乗り切ることが出来るという自信というものがあるからだ。
現につくしを助けに来てくれた時の男は、その判断能力を発揮してつくしを見つけてくれた。
そしてそういった分野では、つくしは太刀打ちできない。
だがこの場所は自分のテリトリーだ。
だからつくしは少しだけ、いやここではやはりつくしの方が優位に立っていると思っているが、すぐ傍に立つ金髪女性や、近くを通り過ぎて行く女性のグループが熱い眼差しで男を見るのは、その容貌がひと目を引くからだ。
しかし、それは容貌だけではない。立っているだけで意識がそちらに引き寄せられる人物というのは、容貌とは別に雰囲気があるからだ。
だが隣に立つ男は自分を見つめる女性たちに目を向けることも気にする様子もなく、ただつくしの傍を離れることなく彼女の話に耳を傾けていた。
だがつくしにとってはただの男だ。
だから女性達の視線が羨望となってつくしに向けられても気に留めず話を続けた。
「それにダイビングのタンクから出る泡に驚いて逃げるサメもいるわ。サメだって普段見たこともない得体のしれないものは怖いでしょ?だから人を襲うサメがいるって言われてるけど、それはサメが近づいたとき暴れる人間を魚と勘違いしてるからよ。それからサーファーがボードの上にお腹をつけて水を掻く様子が好物の亀に似ているから襲われたりするの。それにサメの中には好奇心が旺盛なサメもいて人間と一緒に泳いでくれるのよ?ジンベイザメはいい例であのサメは大きい身体の割りに臆病だし食べる物もオキアミやプランクトンや小魚なの。あんなに身体が大きいのにどうやってその身体が維持できるか不思議に思えるくらいよ?」
つくしは館内を歩きながら話をしているが、隣を歩く男は、彼女が興味を示した展示には同じように興味を示し時折質問を投げかけてくる。そのことに何かを意識することなく言葉を返せるのは、今まで男を避けていたことを思えば、この感覚は不思議な感覚だった。
それにしても、かなり近くに立つ男の身体は決してつくしに触れようとはしなかった。
だがそれでもスーツを通して伝わる熱は確かにあり、もし身体に触れられたら自分はどんな態度を取るのだろうか。
そして今のこの感覚に、奇妙な安心感を得ていることを否定出来なかった。

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Comment:2
コメント
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司*****E様
少しずつですが、つくしの心情に変化が表れてきた。
そうですねぇ。接すればそれだけ相手のことを知ることになりますから、否定し続けて来た男でも、おやっと思うところも出てくるということでしょうか。
好きという感情は...う~ん。まだなのでしょうねぇ。
さて博物館でのふたり。これからつくしの気持ちがどのように動くのか。
そして司は彼女の気持ちを動かすことが出来るのでしょうか。
コメント有難うございました^^
少しずつですが、つくしの心情に変化が表れてきた。
そうですねぇ。接すればそれだけ相手のことを知ることになりますから、否定し続けて来た男でも、おやっと思うところも出てくるということでしょうか。
好きという感情は...う~ん。まだなのでしょうねぇ。
さて博物館でのふたり。これからつくしの気持ちがどのように動くのか。
そして司は彼女の気持ちを動かすことが出来るのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.05.18 22:25 | 編集
