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2019
05.09

理想の恋の見つけ方 128

つくしは道明寺司のことを考えた。
久し振りに会った研究仲間との議論に夢中になり男のことを気にしなかった時間があった。
そしてそのことに気付き会場を見渡すと少し離れた場所に立つ男と目が合った
すると気にしなくていいと言われた気がして、そのまま議論を続けた。
だが、長い議論が終り、ひと息つくと同伴者のいない自分が広い邸の中で置き忘れられた人形のように感じられた。

それは、この場所にいるのは顔見知りの研究仲間ではあるが、個人的に親しいといった人間はおらず、挨拶や議論を交わすことはあっても心の奥深くまで踏み込むことはないからだ。
つまり自分の研究に学術的な価値を認めてもらえなければ、研究を続けていくことは難しいという状況から、研究者同士は議論を戦わせる仲間ではあるが同時にライバルでもあり、手の内は見せないという部分もあるからだ。
それでも、仲間が大きな賞を取れば褒め称え悦びを表すのが彼らの流儀だ。
そして、どの分野にも言えることだが、研究というのは切磋琢磨が必要で、競うことで成果が得られ、その分野の新たな成長に繋がることになるということは、研究者なら誰もが思うことだ。


つくしは道明寺司の姿を探していたが、部屋の中に見つけることは出来なかった。
それならいったいどこにいるのか。
いくつかの部屋の中を見て回ったが、やはり男の姿を見つけることは出来なかった。

ボストンの高級住宅街にある邸は広い庭とプールがあり、夜のこの時間は明るい照明がその庭を照らしていた。だがまだこの季節は外で何かをするには肌寒く、誰も外へは出ていなかった。
だがその時だった。テラスに面した窓の向こうに男の姿を見つけた。
そこは、煌々と照明が照らす庭とは少し離れた奥まった場所で、翳りゆく時のような薄暗さがあった。

男はテラスに置かれた椅子に腰を下ろし煙草を吸っていたが、その横顔はサメと形容されるだけのことはあり、研ぎ澄まされた刃物のようで、そんな男と暗がりで時間を過ごしたくないという気持ちがあった。
だが、そこへ行かなければ相手はつくしに気付くことはない。だからテラスへと続く廊下へ向かうと扉を開け外へ出て男の元へ向かった。

「あの….道明寺副社長?」

自分の名前を呼ばれた男は、つくしに気付くと薄い金の腕時計にちらりと目をやった。

「どうした?話し合いは終わったのか?」

「え?ええ。終わりました。….あの、すみません。つい話に夢中になってしまって….」

そこから先に言いかけた言葉が出なかったのは、つくしを見つめる男の顔に、ふわっと、柔らかな表情が浮かんだからだ。
それは全く予期しなかった表情で今まで見たことのない優しい顔をしていた。
そしてタキシードに煙草という組み合わせは、まるで古い映画のワンシーンのように見え、道明寺司という人間を知らなければ、映画俳優だと言われても信じるはずだ。
そんな男の煙草を持つ長くきれいな指は、ほとんど手入れをしないつくしの指とは違い爪の先まで美しく整えられていた。

「そうか。それは良かったな。議論することが出来るということは素晴らしいことだ。それにどんな内容だろうと、理に敵ってないとしても言いたいことが言い合える相手がいることは楽しいだろ?」

つくしはその言葉に以前男が口にしていたことを思い出していた。
それは、幼い頃から彼の周りにいた人間は彼に媚びへつらう人間ばかりで、本当に言いたいことを口にする人間はいなかったということ。
口にする言葉に対しての返事もイエス以外はなく、それが当たり前だったということ。
そして成長するにつれ周囲を見通す力を持つようになった男の周りに集まる人間は、彼の容姿に惹かれ財産が目当てと言われる女たちであり、彼の考えや行動はどうでもいいといった人間ばかりだったということ。

「どうした?牧野つくし?議論のし過ぎで疲れたか?」

「え?いえそんなことは_」

と言いかけた言葉の向こうで男が目の前のテーブルに置かれた灰皿で煙草を消す様子に目がいった。

「そうか。それなら中に入るか」

そう言った口調は、やはり柔らかく今までない雰囲気が感じられた。

「ああ、それから俺のことは気にするな。まだ話し足りないと思うなら、そこらにいる研究者を捕まえろ。いくらでも話せばいい。俺は議論を重ねるお前の姿を誇りに思える。それにここにいる学者先生の扱いなら心配するな。何しろ企業経営者は学ぶのが早い。そうしなければ世界でビジネス展開をすることは出来ないからな」

確かに、この男なら相手が経済人であろうが学者であろうが、どんな人間を相手にしても、相手が百の言葉を言えばそれ以上の言葉を返すことが出来るはずだ。

「それにブラウワー博士もそうだが学者先生の中には社交辞令が得意な人間も多い。どうやら俺が牧野つくしの恋人だって話はここにいる人間の間では知れ渡っている。だから自分の研究にも興味を持ってもらえないかって論文片手に説明しに来た男もいた。まあ、そのおかげで退屈はしなかったがな」

つくしは、道明寺司が恋人だという話はさておき、こういった話が出るのは、彼自身が海洋生物学者たちとの議論を楽しんだからだということが分かった。
だが議論を戦わせることは研究者の世界では当たり前のことだが、彼自身はその立場から率直な物言いをされることはなかったはずだ。けれど本人はそれが楽しかったと言った。だから表情が違うのだと思った。
そして男の手が灰皿の隣に置かれているシガレットケースに伸びるのを見ていた。

「それにしても煙草が吸えるのが外しかないってのは愛煙家にとっては辛いな。言っとくがガキの頃から吸ってた訳じゃない。いや。15の時に一度止めた」と言って笑った。
だがアメリカに来てからまた吸い始めたと付け加えたが、どう応えていいのか分からないつくしは黙っていた。そして何故だか分からなかったが唇の乾きを感じていた。
その時、冷たく強い風が吹いてクシュン、と大きなくしゃみが出た。

「おい。大丈夫か?春先とはいえボストンの夜はまだ冷える。中に入った方がいい」

立ち上った男はタキシードの上着を脱ぐと、包み込むようにつくしの肩に着せ掛けたが、ふわりと香った匂いは今まで気付いていても気付かないフリをしていた男の香り。
オリエンタル・ウッディの香りは、暖かな甘さが感じられ、今のつくしはその香りに心地よさを感じていた。



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コメント
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dot 2019.05.09 06:10 | 編集
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dot 2019.05.09 07:08 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
今まで意識しないようにしていた司の香り。
その香りがふわりと香って意識はそちらへ向かいました。
つくしの気持ちに変化が生じて来たのでしょうかねぇ。
じわじわと、そしてゆっくりととなるのでしょうか!
変化は確実に出て来たような気もするのですが果たしてどうなる?!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.05.11 22:11 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
なんだか恋の予感がしますか?
つくしは司の術中に嵌ったのか?う~ん。どうなんでしょうねぇ(笑)
時間をかけることに決めた男は自然体で接することに決めたのでしょうか。
それとも、つくしと一緒にいるとそういった態度になってしまうのでしょうか。
そして、そんな男につくしの心が解れていくのでしょうかねぇ。
頑張れ司!と言ってやって下さい(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.05.11 22:30 | 編集
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