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2019
05.08

理想の恋の見つけ方 127

買ったばかりのドレスを着てパーティーに出る。
店は、このドレスは昨年の売れ残りだと言ったが本当にそうなのか。
つくしは、本当は違うはずだと思っていた。
それはあの店が昨年の売れ残りをディスカウントで売るような店だとは思えなかったからだ。
だが800ドルと言われレシートを見せられれば納得するしかなく、その金額を道明寺司に支払った。それにどんなに違うはずだと言ったとしても、店がそう言うのだから確かめようがなかった。
そしていつもと違う華やかさを感じられるドレスを着た女に、
「似合ってる」と言った男はタキシード姿でドレスと一緒に購入した踵の高い靴に転びそうになった女を車までエスコートした。








ボストンの高級住宅街にある邸宅に集まったのは、海洋生物学者であるジョナサン・ブラウワー博士の研究仲間や友人たち。
その中には、つくしが過去に何度か会った研究者もいて、日本にいるはずの彼女との再会を喜んでくれた。
そして誰もが彼女の隣に立つ男性の紹介を求めるのは、その男性から感じられる雰囲気がアカデミックな世界とは別のものだと気付くからだ。
そして彼らが道明寺司という名前に一様に驚いた顔をするのは、ブラウワーと同じで男がボストンの会社を巨額の資金を投じて買った人物ということを知っているからだ。
だが、それとはまた別に経済界のサメと言われる男とサメの研究者が一緒にいることに、この二人の接点は何なのかと不思議に思っていた。
だからつくしは、今の自分の立場は彼のブレーンであり、この旅はそんな男に求められての旅だと言ったが、オーストラリアから来たサメの研究者であるマックス・フレモントに、
「ブラウワー博士から訊いてますよ。お二人はお付き合いをされているそうですね?」と言われ、やんわりと違いますと答えたが、相手が信じないのは、否定された男の態度に余裕というものを感じているからだ。

「彼女は恥ずかしがり屋で、ひと前で私との関係を問われると必ず否定します」

司のその言葉に隣に立つ女は頬を引きつらせながら、余計なことは言わないで下さいと小さな声で言ったが司は無視をした。

「そうでしたか。しかしドクター牧野の恋人があなたのようなビジネスマンだとは思いもしませんでした。実は私は彼女のような人がタイプだったんです。学会で彼女の発表を訊いてから彼女のファンです。それに彼女の黒髪と黒い瞳はとても魅力的ですからね。でもドクター牧野は日本でビジネスマンの恋人を見つけたということですね?しかし学者というのは同じように学者をパートナーに選ぶことが殆どで経済人と学者のカップルというのは我々の世界では珍しい組み合わせです。なぜなら研究者同士なら互いの研究を理解し議論することが出来るからです。だから私は大学の教職員としか付き合ったことがないんですよ」

そう言って笑ったフレモントは、つくしの隣で非の打ち所がない態度を取る男に笑顔を向け言葉を継いだ。

「ミスター道明寺。ドクター牧野は優秀な研究者です。あなたなら彼女のために色々なことが出来るでしょう。それは研究者である我々にとっては大変羨ましいお話ではありますが、これからもドクター牧野が我々の仲間として研究に励んでいただけることを望みます。そういえばドクター牧野。私はこの前ウバザメの行動を調べるために発信機を付けたんですが、オーストラリアで放したところ南アフリカでまで泳いで行きました。彼らは回遊性ですから南アフリカ沖にいたとしても不思議ではありません。ですが秋冬は冬眠するように深海底にいると言われています。本当にそうなのか。まだはっきりとしたことは分かりません。ですから私は__」

フレモントは自分が研究をしているサメについて話し始めたが、その話しの内容につくしが口を挟み始めると、いつの間にか他の研究者たちが周りに集まり議論が始まった。
それは、つくしが懸念していた研究以外のことで注目されるのとは違っていて、ひとたびサメについての議論が始まると、つくしの連れの男性には興味がないといった風で誰もが自分の研究成果を話すことに夢中になっていたが、議論が盛り上がると周囲のことが気にならなくなる。それが学者は普通とは変わっていると言われる所以のひとつだが、つくしも迷惑な男のことは忘れ議論に没頭していた。

司は牧野つくしの傍から離れると、彼女の周りに集まった男たちがサメについて議論をする様子を見ていた。
すると、それまで司の隣で彼のことを気にしていた女は、彼の存在を忘れたように真剣な表情で議論に加わり意見を述べていた。

牧野つくしは、司がパートナーとしてパーティーに出席することを辞めさせようとした。
その理由は、研究を共にする仲間から好奇の目で見られることが嫌だということ。
だがこうして議論をする彼らの中にいる牧野つくしは、司のことなど気にしてなかった。

司は、これまで彼が招待を受けたパーティーでは、自身が中心となり議論が交わされることがあった。だがこの場の主役は彼ではない。そして関心を向けられることのない、特別な目で見られることがない空間というもの経験すると、彼の前で戸惑うことなく他の研究者と議論する牧野つくしという女の姿に誇らしさを感じていた。

やがて、暫く議論を続ける学者たちの中で紅一点の女は、ハッとしたように司の姿を探した。
それは出来れば同行して欲しくなかった相手だとしても、このパーティーは男にとっては全く縁の無いアカデミックな世界。だから司への気遣いを見せようとしたのか。
司は彼女と目を合わせると、片方の眉をつり上げ笑みを浮かべてみせた。
それは、気にしなくていいという意志表示だが、相手はそれを理解した。
そして再び牧野つくしは議論の輪の中で自分の考えを述べ始めたが、司の視線は彼女の顔から離れることはなかった。




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コメント
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dot 2019.05.08 07:37 | 編集
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dot 2019.05.08 12:42 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
研究仲間が揃えば研究の話に花が咲く。
研究熱心な彼らは話に没頭すると周りが見えなくなるようです。

え?つくしの心はまだ懐柔されないのか?
さて。そろそろ進展があってもいい頃のような気がするんですがねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.05.08 22:56 | 編集
イ**マ様
仕事の理解があって居心地が良くなって来るに決まってる(≧▽≦)
確かにそれは言えるはずです。
仕事をする女にとってパートナーとなる相手の男性の理解は必要ですよね?
それにしてもこの司の余裕(笑)
ん~。さすが司と言っておきましょう!^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.05.08 23:00 | 編集
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