司は真剣な目で牧野つくしを見つめた。
そして女の顔に浮かぶ表情を見ていた。
だが女は、これ以上話をしたところで変わることはないといった態度で前を向き、ブラウワーから受け取った資料を鞄から取り出すと目を通し始めた。
つまり司を無視することに決めたということだが、その状態は車がボストンの街中に入るまで続いた。やがて車がホテルではなく別の建物の前に止まったのを知ったとき、戸惑った顔をして司を見た。
ブラウワー博士はパーティーの客は200人程だと言った。
場所はボストン市内の高級住宅街の邸宅が会場。そして正式に招待状があるパーティーであることから、その場に相応しい装いと言われるものが必要だった。
だから司はつくしをブティックへ連れて行ったが、彼女が言いたいことは分かっていたから先に口を開いた。
「今夜博士のパーティーに行くんだろ?それならドレスがいるはずだ」
当然だが牧野つくしは司の行動に顔をしかめた。
だがこの旅に用意されたスーツケースにパーティー用のドレスを準備しているとは思えなかった。それは彼女が博士と交わした会話の中に困ったという感情があったからだ。
しかしそれは司が恋人だと言って同行することが迷惑だということを意味していたとしても、招待を断わることは出来ないのだからドレスが必要なことは本人が一番理解している。だから仕方ないといった様子で車を降りると司の後に続いたが、彼の背中に向かってこう言った。
「ここの支払いは自分でしますから」
その口調は決意に満ちていて、顔を見なくても充分支払いの意志が感じられた。
だから司は、ここは彼女の意志を尊重するため「ああ。分かった」と答えた。
そしてなんとかして司を排除しようとする女は店員の女性と話し始めた。
「お客様。お客様は小柄でいらっしゃいますからボリュームがあるものよりスッキリとした方がお似合いです。ヒールのある靴をお履きになればもう少し背が高くなりますし、お連れ様とのバランスも取りやすくなるはずです」
女性店員は店内に用意されたソファに腰を下ろし優雅に脚を組んだ司に顔を向け、いかがでしょうかと同意を求めるような視線を向けたが、平均的なアメリカ人女性と日本人ではスタイルが違うのは当たり前で、今更アメリカ人女性に比べ欠けている部分がどうなるものではない。
そのことを理解している女は、アドバイスを受け入れようとしていたが、ドレスのラベル以外のタグを探していたが付いてはいなかった。
司がつくしを連れて来た店はボストンで高級と呼ばれるブティックのひとつであり、値段を気にしながら買う客はいない。だから値札をつける必要がないのだが、女はそうはいかないようで試着する前に値札を探す様子が見て取れた。
そしてこういった店の店員は歩合制で働いていることが殆どで、高い物が売れれば売れるほど給料に反映される。だから当然彼らが勧めるのは値が張るものだ。
そして店員が相手をしているのは、この街のどこにでもいるような小柄な東洋人女性だが、ソファに腰を下ろしこちらを見ている長身の東洋人男性の態度は堂々としていて、着ている服がオーダーメイドのスーツであることが分かるのは仕事柄だが、店の入口に立つボディーガードが、その男がただのビジネスマンでないことを物語っていた。
そして司が出されたコーヒーを断り、前髪をかき上げる仕草をした時、スーツの袖口に覗いた金色の薄い時計を店員は見逃さなかった。
「お客様。こちらのドレスをご試着なさってはいかがですか?こちらのロングドレスならどのようなシーンでお召しになられても問題になることはございません」
店員が手にしたドレスはいったい幾らなのか。
それが気になるのが普通の人間だ。そして司はこの店のドレスが最低でも大学准教授の給料の2倍以上の金額であることを知っている。だから牧野つくしに払わせるつもりはないのだが、そのドレスは確かに彼女に似合うはずだと思った。
それは高森開発のパーティーへ同伴を求めた時に用意をさせたドレスとは違いチャコールグレーの鳩を孔雀へ変身させるドレスで着る前から似合うと分かっていた。だから値段が分からないままでは試着することが出来ないと躊躇いを見せる女に言った。
「心配するな。この店は高そうに見えるがそのドレスは去年の売れ残りでディスカウント価格の800ドルだ」
司は意地でも自分で払うという態度を見せた女に彼女が払えそうな値段を告げた。
すると予算内だったのか。ホッとした表情を浮かべた女はドレスを手に更衣室へ向かったが、着替えた姿を司に見せる気はないのか。出て来ることはなかったが、店員との会話でそのドレスにすることに決めたようだ。
そして着替えを終え店員に支払いをしようとした女は、
「お支払いはお連れ様から頂いております」と言われ、「あの。このドレスは本当に800ドルですか?」と訊いた。
すると店員は、「はい。昨年の売れ残りですので800ドルです。それ以上でもそれ以下でもございません」と答えたが、店を出た後で胡散臭そうな顔をしてもう一度司に同じことを訊いた。
だから司は、「ばかげた質問だな」そう言って800ドルのレシートを差し出した。

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そして女の顔に浮かぶ表情を見ていた。
だが女は、これ以上話をしたところで変わることはないといった態度で前を向き、ブラウワーから受け取った資料を鞄から取り出すと目を通し始めた。
つまり司を無視することに決めたということだが、その状態は車がボストンの街中に入るまで続いた。やがて車がホテルではなく別の建物の前に止まったのを知ったとき、戸惑った顔をして司を見た。
ブラウワー博士はパーティーの客は200人程だと言った。
場所はボストン市内の高級住宅街の邸宅が会場。そして正式に招待状があるパーティーであることから、その場に相応しい装いと言われるものが必要だった。
だから司はつくしをブティックへ連れて行ったが、彼女が言いたいことは分かっていたから先に口を開いた。
「今夜博士のパーティーに行くんだろ?それならドレスがいるはずだ」
当然だが牧野つくしは司の行動に顔をしかめた。
だがこの旅に用意されたスーツケースにパーティー用のドレスを準備しているとは思えなかった。それは彼女が博士と交わした会話の中に困ったという感情があったからだ。
しかしそれは司が恋人だと言って同行することが迷惑だということを意味していたとしても、招待を断わることは出来ないのだからドレスが必要なことは本人が一番理解している。だから仕方ないといった様子で車を降りると司の後に続いたが、彼の背中に向かってこう言った。
「ここの支払いは自分でしますから」
その口調は決意に満ちていて、顔を見なくても充分支払いの意志が感じられた。
だから司は、ここは彼女の意志を尊重するため「ああ。分かった」と答えた。
そしてなんとかして司を排除しようとする女は店員の女性と話し始めた。
「お客様。お客様は小柄でいらっしゃいますからボリュームがあるものよりスッキリとした方がお似合いです。ヒールのある靴をお履きになればもう少し背が高くなりますし、お連れ様とのバランスも取りやすくなるはずです」
女性店員は店内に用意されたソファに腰を下ろし優雅に脚を組んだ司に顔を向け、いかがでしょうかと同意を求めるような視線を向けたが、平均的なアメリカ人女性と日本人ではスタイルが違うのは当たり前で、今更アメリカ人女性に比べ欠けている部分がどうなるものではない。
そのことを理解している女は、アドバイスを受け入れようとしていたが、ドレスのラベル以外のタグを探していたが付いてはいなかった。
司がつくしを連れて来た店はボストンで高級と呼ばれるブティックのひとつであり、値段を気にしながら買う客はいない。だから値札をつける必要がないのだが、女はそうはいかないようで試着する前に値札を探す様子が見て取れた。
そしてこういった店の店員は歩合制で働いていることが殆どで、高い物が売れれば売れるほど給料に反映される。だから当然彼らが勧めるのは値が張るものだ。
そして店員が相手をしているのは、この街のどこにでもいるような小柄な東洋人女性だが、ソファに腰を下ろしこちらを見ている長身の東洋人男性の態度は堂々としていて、着ている服がオーダーメイドのスーツであることが分かるのは仕事柄だが、店の入口に立つボディーガードが、その男がただのビジネスマンでないことを物語っていた。
そして司が出されたコーヒーを断り、前髪をかき上げる仕草をした時、スーツの袖口に覗いた金色の薄い時計を店員は見逃さなかった。
「お客様。こちらのドレスをご試着なさってはいかがですか?こちらのロングドレスならどのようなシーンでお召しになられても問題になることはございません」
店員が手にしたドレスはいったい幾らなのか。
それが気になるのが普通の人間だ。そして司はこの店のドレスが最低でも大学准教授の給料の2倍以上の金額であることを知っている。だから牧野つくしに払わせるつもりはないのだが、そのドレスは確かに彼女に似合うはずだと思った。
それは高森開発のパーティーへ同伴を求めた時に用意をさせたドレスとは違いチャコールグレーの鳩を孔雀へ変身させるドレスで着る前から似合うと分かっていた。だから値段が分からないままでは試着することが出来ないと躊躇いを見せる女に言った。
「心配するな。この店は高そうに見えるがそのドレスは去年の売れ残りでディスカウント価格の800ドルだ」
司は意地でも自分で払うという態度を見せた女に彼女が払えそうな値段を告げた。
すると予算内だったのか。ホッとした表情を浮かべた女はドレスを手に更衣室へ向かったが、着替えた姿を司に見せる気はないのか。出て来ることはなかったが、店員との会話でそのドレスにすることに決めたようだ。
そして着替えを終え店員に支払いをしようとした女は、
「お支払いはお連れ様から頂いております」と言われ、「あの。このドレスは本当に800ドルですか?」と訊いた。
すると店員は、「はい。昨年の売れ残りですので800ドルです。それ以上でもそれ以下でもございません」と答えたが、店を出た後で胡散臭そうな顔をしてもう一度司に同じことを訊いた。
だから司は、「ばかげた質問だな」そう言って800ドルのレシートを差し出した。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
相手が道明寺司だと納得できないことが多いかもしれませんね?(笑)
でもそれは仕方がありません。だって道明寺司ですから(笑)
800ドルのドレスにディスカウントとか売れ残りとか、司の口から出る言葉ではないような気もしますが、それは相手が牧野つくしだからです。庶民的感覚で行かなければ彼女が納得しないことは理解出来ているようです。
そしてパーティーを楽しむのは誰なのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
相手が道明寺司だと納得できないことが多いかもしれませんね?(笑)
でもそれは仕方がありません。だって道明寺司ですから(笑)
800ドルのドレスにディスカウントとか売れ残りとか、司の口から出る言葉ではないような気もしますが、それは相手が牧野つくしだからです。庶民的感覚で行かなければ彼女が納得しないことは理解出来ているようです。
そしてパーティーを楽しむのは誰なのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.05.08 22:39 | 編集
