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2019
05.03

理想の恋の見つけ方 124

『私と一緒にウッズホールに行く理由は何ですか?』

そう訊かれた男は、仕事は昨日で終わった。だから休暇を取る。そして牧野つくしがこれから向かう場所が教養を深めるには悪くない場所だから同行すると言った。
だが司が言ったその言葉に牧野つくしが納得していないことは分かっている。
案の定、女は怪訝な表情で司を見た。だがそれ以上その話題に触れようとはしなかった。
それは、そうですか。どうぞご自由に。といった風で司を無視することを決めたような態度だった。
そして実際車内での牧野つくしは、手にしていたブリーフケースから資料を取り出すと読み始めたが、その様子は司がゆったりとした態度でいるのに対し、女の態度はリラックスには程遠く緊張感が感じられた。

やがて車がウッズホールに近づくと、牧野つくしは緑に溢れる景色を懐かしそうに見た。
そして目的地に着くと、いきいきとした顔をしだが、それは車を降りた女の視線の先にいる白髪の小柄な男に向けられていた。
その男は、ややくたびれた上着を着て、胸のポケットにはペンが数本並んでいて、その姿はいかにも学者といった雰囲気を感じさせ、広く秀でた額に知性を感じさせた。

「ブラウワー博士。はじめまして。牧野つくしです。すみません、到着が少し遅れてしまってご心配をおかけしたのでしたら申し訳ございません」

「いえいえ。大丈夫ですよ、ドクター牧野。ようこそウッズホールへ。ドクター副島から電話をもらってからあなたに会えるのを楽しみにしていました。彼と私は彼がこちらの大学に留学していたころからの付き合いです。昨年アメリカに来た彼に会いましたが、その時あなたの話も出ましたよ。あなたは研究熱心で優秀な研究者だとね」

司は牧野つくしが年配の男の手を握るのを見ていたが、サメの研究者である牧野つくしがウッズホールで会うだろうという人間をリストアップしていた。
そしてその中でも会う可能性が高いと思われていたのは、世界的なサメの研究者のジョナサン・ブラウワーという男。今、目の前にいる人物がその人間で、その口ぶりと目には嬉しそうな気持がこもっていた。
そしてその態度は、男が口にしたように牧野つくしが所属する副島研究室の副島とブラウワーが同年配であることもそうだが、親しいことから女のことは極東に住む親友の娘に会えたといった風だった。

「ところでドクター牧野。そちらの方は?」

「え?」

「あなたの後ろにいらっしゃる紳士ですよ。あなたはてっきりおひとりでいらっしゃると思っていましたので、まさか同行される方がいらっしゃるとは思いもしなかったのですが、失礼ですがそちらの方は?」

ジョナサン・ブラウワーがそう言ったとき、いつの間にかつくしの隣に立っていた男が口を開いた。 

「ブラウワー博士。はじめまして。このたびは彼女がお世話になります。私は彼女の恋人の道明寺司です」

「ちょっと何言って_」

司はつくしが言いかけた言葉を遮り名刺を差し出すと、受け取った相手は片眉を上げ驚いた表情を浮かべた。それはブラウワーが司のビジネスとは畑違いの分野の研究者だとしても司の名前。いや司の会社を知っていたということだ。
そして新聞を読む人間なら司が巨額の資金を投じてボストンの会社を買ったという記事を見ているはずだ。

「彼女がここに来ることを決めたのは私がアメリカに出張するにあたり一緒に行かないかと誘ったからです。何しろ私と彼女は仕事柄なかなか一緒にいる時間を持つことは難しい。それは私が多忙のせいですが、この旅は私がアメリカに出張するタイミングに彼女が准教授を務める大学の休みが重なって実現出来た旅です。それにドクター副島はいくら彼女が独立心の強い女性だとしても私のジェットで移動できることに安心されていました」

司がそこまで言ったところで初老の男性は安心したように頷いた。

「そうでしたか。それは良かった。確かに女性ひとりでここまで来るとなると大変です。
それに私は古い人間で女性がひとりで旅をすることが心配でなりません。ドクター副島からよろしく頼むと言われた以上、彼女のことを気に掛けない訳にはいきませんでした。ですから彼女が来ると言っていた時間になっても現れないことに心配になり、ここでこうして待っていたわけです。しかし、あなたのような立派な方がドクター牧野の恋人なら安心だ。それで今日も彼女が心配でご一緒されたということですな? 」

「はい。ボストンからここまで距離がありますからね。それに彼女はウッズホールに宿泊したかったようですが、私の仕事の都合でボストン市内に宿泊していますから、恋人として責任を持ってここまで送り届ける義務があります。それに私の仕事は昨日で終わりましたので彼女と一緒にこちらへお邪魔してみようと思った次第です。ただ。お邪魔でなければということになりますが」

ジョナサン・ブラウワーは、司の言葉ににこやかな顔していたが、牧野つくしの目は険しくなった。
そして言いたいことは、自分はこの男の恋人ではないということ。
だが初対面の、それも世界的なサメの研究者である男性の前で言い争うことは避けたいという意志が働いたのか、その言葉を口にすることはなかった。

「邪魔などとんでもありません。大学や研究施設での研究に於ける資金は企業からの寄付で成り立っていることはこの国の誰もが知っていることであり、より良い教育や研究を続けるためには企業からの経済的な援助が必要です。ですからあなたのような方に海洋生物学に興味を持っていただくことは大変光栄なことです。実は今夜海洋生物学に対する私の功績を祝ってパーティーが開かれます。そのパーティーにドクター牧野をご招待しようと思っていたところです。どうです?せっかくですから道明寺さんもドクター牧野と一緒に私のパーティーにいらっしゃいませんか?」

ビジネスの世界にはビジネスのルールがあると同じように学者には学者の世界がある。
アカデミックな世界にもルールがある。
海洋生物学の世界では有名な博士から招待をされることは名誉なことだ。
だからそれを断るということは、こうして会う約束を取り付けてくれた恩師である副島の顔を潰すということにもなる。それに、そういったパーティーは大勢の研究者が集まることから交流ができるチャンスだ。そのことを理解している女は断わることは出来ないはずだ。だが司を同伴してということに躊躇いを見せたのは明らかだ。

「ブラウワー博士。私は喜んでお伺いします。でも彼は忙しい人間ですので….」

と言葉を切って女は司を見た。
それは断れと言っているのだが、司は、

「紳士と学者の名誉というものが同じである以上私は紳士の名誉を守るつもりです。喜んで彼女と一緒にお伺いさせていただきます」と答えた。




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コメント
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dot 2019.05.03 11:38 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
つくしは司にアメリカに連れて来てもらっているということから、彼の態度に我慢している部分もあるかもしれませんね?
そんな女の前で彼女は恋人ですと言い切る男(笑)
司は周りから固めていく戦法に変えたのか?
そしてつくしは反撃出来るのか?それとも押し切られてしまうのか?
やはり一番大切なことは自分の心を伝えることですが、相手の心は頑なです。
え?つくし頑張れですか?(笑)伝えておきます!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.05.04 23:05 | 編集
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