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2015
11.23

まだ見ぬ恋人32

司はベッドの上で寝返りを打ちながら吐きそうになる自分を抑えていた。
薄ぼんやりとした照明のなか、目を凝らすとナイトテーブルに置かれた時計を見た。
目を擦った。
いま・・・何時だ?

インフルエンザにかかった。
西田に鬼の霍乱って言われた。

俺は鬼かよっ!
まあいい・・こんなことは滅多とないことだから。
が、自己管理がなってないヤツが仕事の管理なんて出来るわけがない。
そんな事を言っている俺がこんな事になるとは、ザマァねえな・・

さすがにこれじゃあ会社には出れなかった。
少しでも顔を出そうと思ったが牧野にでも移ったら大変だ。

はぁ・・しかし身体がだるい、重い、もう死にそうにつらい。
熱は下がったけどムカつきが取れない。
水でも飲むかと起き上がったところでインターフォンが鳴った。
無視した。
それでもしつこく鳴る。鳴りやむ気配はない。
ったく誰だっ!
セキュリティは何してるんだ!
ここはタワーマンションだぞ?億ションだぞ?
不審人物がいたら追い帰せ!

司はよろよろと立ち上がると応答した。
「テメーだれだよ!」
「あ、あの・・わたし・・牧野です」
「ま、牧野か?」




ドアを開けたそこには愛しい牧野が立っていた。
その後ろに見えるのは銀縁眼鏡をかけた四角四面の俺の秘書だ。

セキュリティは許してやる。
西田も許す。
牧野をここまで連れて来たからな。
「道明寺!だ、大丈夫?」心配そうにつくしは聞いた。
大丈夫じゃない・・
見たらわかるだろ?
シャワーも浴びず、髭は伸びてる。
部屋も・・・
おい、牧野ははじめて俺の部屋に来たんだぞ。
それがこんな有様だなんて非常にまずい・・・
普段からこんな部屋に住んでいるなんて思われたくない。
来るんなら来るって連絡くらいしろよ!

「司様、なにか着ていただいたほうがよろしいかと・・」
「あぁっ?」
「ですから・・そのような格好ですと牧野様が・・」
四角四面が言ってろ!
「司様、何度もお電話したのですが・・」
そうかよ。
返事をする気力なんてねぇよ!

司は黙って寝室に戻ると脱ぎ捨ててあったシャツを身に纏い携帯電話を持ってきた。
見れば確かに着信が連なっている。

「道明寺?」つくしはそっと語りかけてきた。
「大丈夫だ・・・」
と言ったものの頭が重くて何も考えられねぇ・・・
「ねぇ、道明寺、しっかりして!」
俺、どうしたんだ?
牧野が二人・・いる?
「どう・・う・・じっ・・?」





サイアクだ・・・
こんな姿を牧野に見せるなんて情けねぇ・・・
目が覚めたとき、部屋はきれいに片づけられドアの向う側から温かみのあるにおいが流れてきていた。
司はよろよろとベッドから起き上がるとドアまでゆっくりと歩いていった。

「道明寺!起きたの?寝てなくて大丈夫なの?」つくしはタオルで手を拭きながら聞いた。
「ま、まきの・・」とかすれた声で言った。
「西田さんから聞いたの。昨日出張から戻って熱を出したって・・」
つくしは司のそばまで近寄ると心配そうに言った。
「それに何度道明寺に電話をしても出ないから・・に、西田さんにマンションに行ってみましょうって言われて・・」
司は下から見上げるように見つめる牧野に思わず手を伸ばして抱きしめたいと思う気持ちをこらえた。


そしてその思いをおさえるように司はソファに深く腰かけ、だるそうに身体をあずけると目を閉じた。
「に、西田は?」
「うん、西田さんはあとをお願いしますって・・会社に戻ったの」
「おまえは戻らなくてもいいのか?」
「うん。私は・・午後から休みを取ったから・・今日はもう戻らなくてもいいの・・」
つくしは声を落としてささやくように言った。


牧野のその言葉を聞いて俺はつい本音を口にしていた。
「牧野が・・来てくれて嬉しい・・」
「あのね、道明寺、口にあうかどうかわからないけど、お粥を作ったから食べよう?」
司はお粥ってのがなんなのか分からなかったがつくしの気遣いが嬉しかった。
「食べたら薬を飲んで休んでね」
「ああ、わかった・・そのまえに・・シャワーを浴びたい・・」
司はちらりとつくしを見た。
「う、うん。わかった・・。じゃあ・・あとで・・」
つくしは頬を赤らめて頷いた。



バスルームに向かいながらこれまでの二人の付き合いについて思い返していた。
俺たちはまだキスまでの関係だ。
そろそろ進歩してもいい頃だろ?

牧野が俺の部屋に現れるまではこいつの気持ちを優先してやろうと思ったんだが・・
なんてこった!
その決意も揺るぎかけてきた。
牧野を目にした途端、ウィルスなんてどっかに消えちまったみてぇだ。
俺の頭の中は牧野の一糸纏わぬ姿が見たいと言う思いでいっぱいになっていた。
想像しただけでよだれが出そうになっていた。
けど、想像にふけって喜んでいるのにもそろそろ限界が近い。
牧野が俺のマンションまで来たんだ。
このチャンスを生かさなくてどうする?
期せずして得られた幸運を最大限生かさなくてどうする?
おまえそれでも男か、司!


・・・って声が総二郎あたりから聞こえて来そうだ。
ああ、わかってる。
でもな、お前と一緒にするな。
俺は牧野とは一期一会なんかじゃねぇからな。
その時だけだなんて言われてたまるかよ!
俺の場合の恋は一生一回だ!

チクショー。
牧野、かわいいぞ!
なんで今日に限ってそんな可愛らしいカッコしてんだ?
まてよ、こいつ仕事帰りだよな?
なんでそんなひらひらしたブラウスなんだよ!


俺は今まで女を誘惑したことがない。
そんなことする必要もなかったからな!
勝手に寄って来るのもいるが、そんな女どもは蹴散らしてきた。

・・・だから女を口説いてベッドに行くって経験がない・・
俺には未知の分野ってわけだ。
付き合い始めて2カ月だぞ!そろそろだよな?いいよな?


はっきり言おう。
俺の男性ホルモンのすべてが一極集中している。
「うっ・・」
痛いほど鬱血している。
事態がこれ以上悪くなんねぇうちになんとかしねぇとな。

よし!俺は決めた。

司は服を脱ぐと流れ出て来る湯を浴びながら、いらいらの名残と欲求不満を洗い流していた。







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