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2019
04.27

穏やかな風 2

僕はその男性のことが気になった。
だからコーヒーを飲み終えると後を追った。
もし僕がベージュのトレンチコートを着ていたら、探偵と思われるかもしれない。だが僕は探偵ではない。だから僕の行為はストーカーだと言われてもおかしくはない。それも旅先で出会った年を重ねた男性の後を追うことを両親が知れば、ついに我が子はそちらの世界に足を踏み入れたかと思うはずだ。

だが何故その男性の後を追うのか。
単純なことだがその人を見て思った。それはただ純粋にカッコいいという言葉が当てはまるからだ。
そんなことを父親ほどの年齢の男性に感じるとは思いもしなかったが、人が人に惹かれる理由を考えたところで惹かれたのだから仕方がないとしか言えなかった。
だから僕はその人の後を追った。
するとその男性はホテルを出て正面で客待ちをしているタクシーに乗った。

「すみません。前のタクシーを追って下さい」

僕は次のタクシーに乗り込み座席に身体を預けると、そう言って前を走るタクシーの後部を見つめた。








富山を旅することに決めたのは、大学を卒業し働き始める前に旅がしたかったから。
それはこれからスタートする新たな人生を考えた時、どこか落ち着かない自分がいたからだ。そんなとき旅に出ることを決めたが、旅行代理店の前を通りかかった時、目に留まった『富山で休もう』というパンフレット。手に取りパラパラとめくっていたが、ひとつの記事に気持ちが奪われた。そして実際自分の目で見て見たいという気にさせられた。
だからそのまま店に入り飛行機とホテルを予約した。

それにしても何故自分はこんなにも落ち着かない気持ちでいるのか。
就職先が決まりこれから新しいことにチャレンジすることが怖いのではない。
むしろ新しいことに挑戦するのは好きだ。目標を定め、そのことをクリアして行くのは楽しい。それに目標は高ければ高いほどやる気が出る。
だからこれから先の見えない未来に不安があるのではない。何故なら未来は見えないものだと決まっているからだ。だがもし未来が見えたとすれば自分の人生はつまらないものになる。だから見えないに越したことはない。

そして旅に出たところでこの落ち着かない気持ちが無くなるとは思ってない。
けれど、見知らぬ街で一人過ごすことで何かが見つかるような気がしていた。
だが見つけたのが自分の父親程の年齢の男性だとすれば、それは滑稽なことだと思えた。


「……さん?お客さん?本当にいいんですか?」

考え事をしていた僕は運転手の言葉を聞き逃していた。
だからバックミラー越しに運転手と目が合ったとき「え?」と言った。
すると「お客さん。本当に前のタクシーを追うんですか?」と訊かれ、そうだと答えたが運転手は、「この道を通るってことは前の車、魚津まで行くと思いますが本当にいいんですか?」と言った。

「魚津?」

「ええ。魚津です。まだ少し早いかもしれませんが魚津から眺める海には蜃気楼が見えるんです。ただどうでしょう。今日は見えるかどうか….。ですがこの季節になると気象条件さえよければ見えるんですよ。魚津は」と言ったが、僕が富山を訪れた理由は蜃気楼が見たかったから。
だから運転手の言葉に、「ええ。いいんです。とにかく前の車を追って下さい」と答えた。



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コメント
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dot 2019.04.27 11:08 | 編集
司*****E様
こんにちは。
はい。こちらは短編ですので、お話の結末は早いです。そして今は多くを語れません。
もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。

アカシアの訪ねた富山は素敵な場所でした。
北陸新幹線の開通でお隣の金沢も近くなり、あっと言う間に着きます。そして富山湾と言えばの海の幸も楽しめます。
蜃気楼。不思議ですよねぇ。残念ながらアカシアは見るチャンスに恵まれませんでしたが、こちらの青年は見ることが出来るのでしょうかねぇ。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2019.04.27 22:59 | 編集
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