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2019
04.24

理想の恋の見つけ方 122

男の口から出たのは、お前は足の傷跡に囚われている。
漆黒の瞳は大胆不敵でつくしのことを知り尽くしているといった表情を見せた。

大学生の頃、自分の不注意から負った傷は右の骨盤から膝の辺りにかけてあった。
そしてその傷を見るのが辛いと言われ当時付き合っていた恋人と別れたが、傷を負った場所が場所だけに安易に他人の目に晒されることはない。
だからそこに傷跡があることを知る人間は多くはない。今のつくしの周りで知っているのは三条桜子と教授の副島だけだ。
だが道明寺司は、図書館の書庫で怪我をしたつくしを病院に運ぶ時に知った。
その傷がどうして出来たかも知っている。
そして男は醜い傷跡を持つ女に好きだと言った。傷跡を気にすることは無いと言った。

そして今つくしに向けられた視線は真っ直ぐで彼女の言葉を待っていた。 
だが、つくしは何も言わなかった。
つくしのことを硬い殻で身を包んだロブスターのように言い、傷跡はつまらないことであり気にすることではないと言うが、完璧な容姿をして完璧な家柄を持つ男に何が分かるというのか。だから男の言葉を無視しようと思った。けれど、そんなつくしに対し男は言葉を継いだ。

「牧野つくしは頭が良くて人柄もいい。人に対する思いやりも備えた出来た大人だ。けど恋愛に向き合えないのが傷跡のせいなら随分と勿体ないことをしている。俺はお前の身体にどんな傷があろうと関係ない。それに三条って秘書はお前の傷が出来たのは自分のせいだと今でも責任を感じているようだが、お前がいつまでもそんな態度でいるならあの女もずっとあのままだ。それに昔、付き合っていた男がお前の傷跡を醜いと嫌悪したらしいが、それならその男を見返してやるほど幸せになればいい」

自分が嘘をついていたことを既に終わったこととして片付けている男が開き直っているとは思わない。道明寺司は本人の言う通り謝罪した。そしてつくしも男が言う通り、いつまでも人を恨んだり憎んだりすることはしない。それに人を憎んだところで何かが変わるとは思わないし恨んだところで疲れるだけだ。

そして道明寺司という男は、つくしの傷跡を見るのが辛いと言って去っていった恋人とは全く違うタイプの男性で強引だ。だが強引とはいえ人を顧みないという訳ではない。時に見せる思いがけない優しさというものがあった。
けれど、人を勝手に不幸だと決めつけないで欲しい。
そんな思いから口を開いたが、怒りの混じった声が出た。

「私が不幸だと言いたいんですか?それならあなたは自分なら私を幸せに出来るとでも言うんですか?」

「ああ。言える。俺は今まで女に惚れたことがなかったが他の男がお前にしたようなことは絶対にしない。それに惚れた女を幸せに出来ない男だと思われてるならそれは心外だ。だから俺のことを批判的な目で見ることは止めてくれ」

男はそこまで言うと、「変わる勇気が持てないほど牧野つくしは臆病な女じゃないはずだ。それに牧野つくしは変化を求めているはずだ。だから夜の電話の男と電話をすることを決めたはずだ」と言葉を継いだ。

つくしは反論しようとした。
だが男の指摘は正しいと悟っている自分がいた。
潜在意識の中にあった自分を変えたいという思いから夜の電話の男性との会話を続けた。だが相手が道明寺司だったことに傷付いた。
それなら相手が道明寺司ではなく、全く別の、つまり電話の男性が話した通りの男性だったとすれば、自分はどうしただろうか。
その人のために変わろうとしたのか。
それとも何もしなかっただろうか。
だが会うと決めたということは、変わりたいと思える自分がいたということだ。
そしてその男性となら心の奥にある思いというものを話すことが出来ると思ったから会う約束をした。

つまり道明寺司が言った、つくしが変化を求めているということは正しいということになる。
だが今目の前にいる男性を受け入れることは出来なかった。
だがそれは、今とういう時が受け入れることが出来ないのか。
それとも、時が経てば変わるのか。この旅で日常的な自分を知って欲しいと言ったが、それを知れば男に対する想いも変わるとでもいうのか。
だが二人にはそんな時間はない。
つくしは明日から帰国までの予定を頭の中で確認した。それに道明寺司はビジネスで忙しいはずだ。だからこれ以上道明寺司を知りようがない。
だが不信感だけを抱いていた男に、僅かだが信頼という言葉を与えたのは、川上真理子に拉致されたつくしを救い出してくれたからだ。
あれは巻き込まれたような事件だったが、道明寺司は間違いなく命の恩人だ。

つくしは喉が詰まった訳ではないが、グラスを掴むと中身を飲み干し、
「とにかく、私はあなたとお付き合いするつもりはありません」とだけ言って「すみません。化粧室に行きたいんです」と言うと、「連れ去られるなよ?」と笑いながら嫌味を言われたが、その言葉は無視して席を立った。




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コメント
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dot 2019.04.24 09:02 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
心の中も頭の中も見透かされているような複雑な気持ち。
確かにそうでしょうねぇ。
そして色々と考えることが好きな女は、これからも色々と考えるはずです(笑)
またお手洗いに立った女。連れ去れるなよ、と言われましたが今回は大丈夫でしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.04.24 21:52 | 編集
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