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2019
04.18

理想の恋の見つけ方 118

ホテルのロビーで人を待つ。
それが苦になるとは言わないが、約束をした訳ではなく、いつ現れるか分からない相手を待つほど退屈なことはない。だからロビーを行き交う人々を観察とまではいかないが、おのずと彼らに視線が向けられたが、老若男女。多様な人種。様々な人間がつくしの前を通り過ぎて行ったが、誰もが高級ホテルの名に相応しい装いと態度だった。

そして今は目の前を通り過ぎて行った女性に目を奪われていた。
その人は長い黒髪で背が高く、少し浅黒い肌からパッと見たところヒスパニック系に思えた。
白のインナーに鮮やかなピンクの上着を羽織り、パールのネックレスを首につけていて、その姿にセクシーさが感じられた。

その女性は、誰かと待ち合わせをしているのか。
つくしから少し離れた場所だが立ち止まり、人待ち顔でエレベーターの方を見つめていた。
眉はくっきりと描かれていて、唇にはたっぷりとグロスが塗られているのか艶やかだ。
年齢は恐らく30代ではなかろうか。
それは、研究仲間にスペイン人の女性もいることから年齢を推察したに過ぎないが、落ち着いた態度に大人の分別が感じられた。

そしてロビーにいる男たちの眼差しは彼女に向けられていた。
それは女性本人の意志とは関係なく男性を惹き付けているということ。アメリカでは女性の誉め言葉として言われるのは、可愛いよりもセクシーで、男たちの視線にはそういった称賛が見て取れた。
だがその女性は、そういったものを無視してエレベーターの扉を見つめていた。
誰かを待っているのは明らかだが、相手の性別は男性ではないかと思えた。
つまり恋人を待っているということ。
そしてその先に見えるのは、感動的な再会の場面であり、間違ってもつくしが道明寺司とメープルのラウンジで待ち合わせた時のように相手に平手打ちなどしないはずだ。

やがてエレベーターの扉が開き1人の男性が現れた。
すると女性は男性に駆け寄った。そして男性に抱きついてキスをした。
その光景はアメリカの空港や駅でよく見かける光景であり好奇の目が注がれることはない。その代わり注がれたのは、ロビーにいた男たちの残念そうな眼差し。
そして暫く抱き合っていた男女は見つめ合い言葉を交わすと互いの身体に腕を回し、つくしの前を通り過ぎていった。








道明寺司を待ち始めて2時間以上が経った。
時計の針は5時半を回っていて、たった今つくしの前を通り過ぎていった男女は、これから食事にでも出かけるのだろう。恋人同士の食事が何であれ、好きな人と食事をすることは楽しいはずだ。
果たして自分にそういった経験があったかと言えば、大学生の頃付き合っていた恋人との間にあったはずだが、今となってはそれを思い出すことは出来なかった。
その代わり思い出されるのは、記憶にも新しいあの男との食事だ。
『俺は今まで女と食事をして楽しいと感じたことはない。だがな、お前と行った中華料理屋の食事は楽しいと感じた』道明寺司はそう言ってつくしと同じ料理を食べた。

だが二人が楽しく食事をしたかと言えば、そうではない。
少なくともつくしは楽しいとは感じられなかった。あの食事は川上真理子のことを訊くための食事であり、仕方なく決めた店が行きつけの中華料理屋の丸源だった。
だからつくしは、食べ慣れた料理を黙々と口に運んだに過ぎなかったが、あの男はそんな女と食事をしたのが楽しかったというのだからある意味変わっている。
けれど、丸源の料理をお前の言う通りで美味いと言った。それは何でも率直に言う男の態度から、お世辞とは思えなかった。

男性と差し向かいで食事をする。
結婚して家族になればそれが延々と毎日続く。
もし道明寺司と結婚したら毎日あの顔と食事をすることになるが、嫌味なほど綺麗な顔を持つ男は箸を持つ姿勢も美しかった。
そんな男の前に出来上がった料理を運び、もぐもぐと口を動かしながらどんな会話が交わされるのか。いや、それ以前につくしの作る料理を食べるのか。あの男の舌は肥えているはずだ。だから庶民の味を受け入れるとは思えなかった。
けれど丸源の料理を口に運び見せた意外だといった顔が甦る。
だがそこで思考を止めた。
なぜ自分が道明寺司と食卓を囲むことを思うのか。




「……..?」

「…..おい?……野?牧野つくし?」

名前を呼ばれハッと我に返ったところで視界に入ったのはダークスーツの一団。
顔を上向けたそこにいたのは、今まで頭の中を占領していた道明寺司だった。




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コメント
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dot 2019.04.18 07:51 | 編集
司*****E様
つくしは高価なブローチを手元に置いておくことに不安もありますが、貰う訳にはいかないと、ひたすら返すことを望んでいるようですね?
会いたくないけど考えてしまう男(笑)う~ん。これは....(笑)
なんだか司の狙いに嵌っているような気がしますが、果たしてどうなんでしょうかねぇ。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2019.04.20 21:31 | 編集
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