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2019
04.04

理想の恋の見つけ方 110

川上真理子について話がある。
その言葉につくしは躊躇った。そして気を引き締めた。
自分を誘拐した女性は逮捕されたが、その後どうなったのか。知りたい思いもあったが敢えて自分から訊こうとは思わなかった。
だが現れた男は女性がどうなるか知りたいと思うはずだと言った。つまり何らかの動きがあったということなのか。それを知らせに来たというなら、話を訊かない訳にはいかなかった。

つくしは司の言葉に、「本当に食事だけですか?」と訊いた。
すると「ああ。食事だけだ」と返された。
それなら出来るだけ二人っきりにならない状況でいればいい。
食事をしたいというならひと目がある場所で長居が出来ない場所にすればいい。そうすれば話を切り上げるのも簡単だと思った。

「分かりました。じゃあ私が食べたいもの。行きたい店でもいいですか?そこでならお話をお伺いします」

と、つくしが言うと男は右手を少しだけ動かした。すると黒いリムジンがすぐ横で止り助手席から降りて来た男が後部座席のドアを開けた。






***






「いらっしゃいませ!あら。牧野先生いらっしゃい。今日は珍しくお連れさんがいるんだねぇ。それもとってもイケメンで映画俳優みたいな人じゃないか。もしかして彼氏?」

「違います!この人は彼氏じゃありません。大学の….大学の研究仲間です」

「へぇ~。そうなの?牧野さんの大学は優秀な学生さんが多いって訊くけどイケメンの学者さんもいるんだねぇ。はいお水。注文が決まったら呼んでちょうだいね?」

つくしが道明寺司との食事場所に選んだのは行きつけの中華料理店「丸源」。
丸源はメープルにあるような高級中華料理店ではなく、女将が前掛け姿で料理を運んで来る大衆的な店で間違っても道明寺司が足を運ぶ店ではない。
だからこんな店で食事が出来るかと言われればそれまでだが、男は当然のようにビニールクロスがかかった長方形のテーブルを前に腰を下ろした。そしてテーブルに置かれているメニューを手に取った。

この店に来る客の大半は作業着姿の人間や、くたびれたスーツ姿の外回りの営業だったりするのだから、仕立てのいいスーツを着て理知的な表情を浮かべた男が大衆的な中華料理店にいる姿は奇妙に映るはずで、思わず周りに視線を配ったが、やはりチラチラとこちらを見るサラリーマン風の男性の姿があった。
だが道明寺司は周囲を気にすることはなかった。そして注文が決まったのか。メニューを閉じると向かい合わせに座ったつくしに言った。

「決まったのか?」

「も、もちろん。私はここの常連です。だからメニューを見なくてもいいんです」

男が顔を上げた途端、一瞬口ごもったのは男を見ていたからだ。
伏せた目の睫毛が長いな。ふとそんなことを思ったが、決して見惚れていたのではない。
ただこの男はこの場所に似合わない。そう思いながら見ていただけだ。

「そうか。ここのメニューは熟知してるってことか。じゃあ注文しようじゃないか」

そう言われ、つくしは女将を呼んだ。

「はい。ご注文はお決まりですか?」

女将は伝票を手に訊いた。

「豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せをくれ。それからこれにライスとスープを付けてくれ」

「ご飯とスープ付きってことは豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せ定食ね。あとこれにはザーサイと杏仁豆腐が付きますからね。それで牧野先生は何にする?牧野先生もこの料理好きよね?」

「え?ええ….」

男が選んだ料理はつくしが好きな料理で、あとをひく味付けでよく注文していた。
そして男に間違い電話をかけたときも注文した料理だ。
もしかして目の前の男は、あの時の料理を覚えていて同じ料理を注文しているのではないか。つまり二人の電話について忘れたことはないと言うつくしに対するアピールなのか。

「それに牧野先生は一時こればっかり食べてたものね?同じ物ばかり食べると栄養のバランスがよくないって分かってても、つい好きなものを選んじゃうのよね?でも考えてみれば外食は好きなものを食べることに意味があるのよね?食べたくないものを、無理矢理食べたところで美味しくないもの。それでこちらの先生と同じでいいの?それとも他の料理にする?」

女将の言葉はその通りであり、食べたくないものを、無理矢理食べても美味しくない。
それにこの店に来ると決めたとき、口の中には、この料理の味が広がっていた。
だから少し躊躇ったものの、「同じものをお願いします」と言った。

「注文お願いしまーす!豚ニラもやし春雨卵定食ふたつね!」

女将が大きな声で注文を伝え厨房に戻ると、つい先ほどまで賑やかだったテーブルは静まり返った。
そしてつくしは本題に入ることを望んでいるが、目の前の男は口を開こうとはしなかった。
だからつくしは、「あの_」と言いかけたが、男が表情を変えることなく口を開いた。

「豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せ。電話でお前に言われた料理だ。どんな料理か興味があったからメニューの中に見つけて迷わず決めた」

やっぱり覚えていたのかと思った。
だが舌が肥えた男に庶民的な中華料理が口に合うのか。そんな思いでいるが、男はそんなつくしの考えを読んだように言った。

「どうした?この料理美味いんだろ?そうか。俺の口に合わないと思ってるのか?だから俺が失礼な態度を取ると考えている。違うか?言っとくが俺が育った家は食事のマナーには煩かった。だからどんな料理だろうと失礼な態度を取ることはない。それにここはお前にとっては大切な店なんだろ?それならなおさら俺の態度でお前が嫌な思いをすることはない」

その言葉は道明寺司には不似合いだと思った。
それは、そこまで神経を使うような男には見えないからだ。
そして、街の小さな中華料理店で妙に静かな目でつくしを見る男は、やっと本題に入ることに決めたのか。

「川上真理子のことだが」

と言葉を継いだ。



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コメント
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dot 2019.04.04 07:39 | 編集
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dot 2019.04.04 08:43 | 編集
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dot 2019.04.04 12:36 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
司を馴染みの中華料理屋に連れて来た女は、豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せを頼みました。
しかし長い名前の料理ですね?(;^ω^)
それを覚えていた司は凄い!(笑)
司は真理子の話をするようですが、どんな話をするのでしょうか。
そして彼女の心を懐柔することが出来るのかねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.04.05 22:14 | 編集
ふ*様
原作の司からは想像がつかない(≧▽≦)
あの司がどんな大人になるのか。もしもこうだったら...。そんな妄想がこんな男になってしまいました^^
そしてやっと運命の人と巡り逢ったようですが前途多難です。
何しろ相手は手強い女です。彼女の心を掴むことが出来るのでしょうか。
いや、掴まなければ!え?こういう人。どこかにいないかですか?(笑)
いたらアカシアも会いたいです‼でも坊ちゃんに、こんな話し書くんじゃねぇ!と怒られそうな気がします(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.04.05 22:45 | 編集
丸*****腐様
今日は春の和菓子は無しですか?残念!(´Д⊂ヽ

まさか司がどこにでもあるような中華料理屋に行くとは!
そして女将はイケメン相手でも気にしない。
司のことを普通の一般客と同じように接しています。
それにしても豚肉とニラともやしの春雨炒め卵乗せ。長い名前ですよね~(笑)
確かに相手が同じものを食べるという状況は、二人の距離が縮まる感じがします。
しかし、そこは相手が牧野つくしですから、すんなり事が運ぶのかと言えば、どうなんでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.04.05 23:09 | 編集
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