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2015
11.21

まだ見ぬ恋人30

帰宅したとき、マンションの前で背の高い男性がこちらを睨んでいるのが遠くからでもわかった。
親指と人差し指でつまんだ煙草の先端が赤く光っている。
司はその煙草を地面へ投げ捨てると足で踏んでもみ消した。

「ど、道明寺さん!どうしたんですか?」
そう言ってつくしが視線を下におろすと煙草の吸殻が目にとまった。
吸殻は・・・沢山あった。
顔をあげて司を見ると険しく、怒りを抑えたように凄みのある表情だった。

「牧野!こんな時間までおまえどこに行ってたんだ!」
司は開口一番、つくしに向かって声を荒げた。
「ど、どこって・・・類と・・」
「あっ?なんだ?類だと?」
司は眉をひそめ鋭い目つきになった。

「・・・なんでおまえが類なんて呼び捨てしてんだ?」
「だ、だから花沢・・類とコンサートに行ってたんです・・」
「コンサートだと?どういうことだよ!わかるように説明しろ!」
司は挑むようにつくしを見つめた。

「だ、だから花沢物産後援のコンサートに誘われて・・行っただけです」
ただそれだけのことにつくしは怒鳴りつけるように言われて困惑した。
そして少し不機嫌そうに言葉を継いだ。
「道明寺さんこそどうしてこんなところにいるんですか?帰国されたばかりでしょ?」
「そうだけどよ・・・ちょっと近くに用があったから・・ま、牧野のマンションは確かこのあたりだったよなって思って・・ちょっと寄ったんだよっ!」


立ち寄る理由なんてなんでもいいじゃねぇか!

「なんだよ!べ、別に待ち伏せしていたわけじゃねぇぞ」
司は眉を寄せた。
つくしは司の足元にある煙草の吸殻を数えていた。
いち、にい、さん、よん・・・・吸殻は・・六本までは数えることが出来たがそれ以上は数えることが出来ないくらい沢山あった。
いったいいつからここで待っていたんだろう・・

つくしは視線を司に戻した。
「そう?待っていたように見えるけど・・・」
司の顔がこわばった。

つくしの言うとおり司は待ち伏せをしていた。
ちくしょう!
ああそうだよ!悪いかよ!
俺は待ち伏せの日本チャンピオン、いや世界チャンピオンだ!
牧野に会いたくてここへ来ることがいいとか悪いとか考えてなかった。
明日になれば会社で会えると思ってはいても自分の気持ちを抑えるなんてことは無理だった。
会社に電話を入れてみれば、牧野は早々に退社をしたと言われた。
仕事熱心な牧野が早々に退社しただなんて、そんなことを聞かされたら気にならないはずがない。
滋達とでも出かけたかと思い滋に電話したら違うと言われた。
気になって仕方がないからマンションまで来てみれば応答はなし。
やっと帰って来たかと思えば、よりにもよって類と一緒だったとは!



つくしは思わず吹き出していた。
なんてかわいい人なんだろう。
なにからなにまで男っぽい人なのに、心はまるで少年のようだ。
この人はどんな物でも手に入れることが出来る、どんな事でも自分の思うままに出来るような人だ。
そして望めばどんな女の人だって・・
そんな人がいかにも悪い事でもしましたと言う感じでつくしの前で大きな身体を縮みこませている。

「ま、牧野」
司は軽く咳払いをした。
「た、体調は大丈夫か?き、気分は悪くないか?あれから気分が悪くなったりしてないか?」
「わざわざそんなことを聞きに?」
「いや・・その・・牧野の乗ったジェットが・・離陸するのを見たら俺もこんなところにいるより、さっさと東京に帰りたいと思ってよ。なんか・・特別な感情つぅのが・・」

司はそういうと照れくさそうに笑ってみせた。
「す、好きな人を見送るっていうのは・・辛いもんだよな・・だから・・
早く牧野に会いたいと思って空港から直接きた・・」
司は今の自分の気持ちを正直に打ち明けた。

つくしは司の目にじっと見入っていた。
「俺は牧野のことが好きだ。だからよ、ぜってぇ類になんか渡したくない」
「チクショー、類の野郎、俺がいねぇ時を狙いやがって!何が紳士協定だ!」
司はイライラしながら言っていた。



・・クスッ
つくしはそんな司の様子をみて、ほんとこの人は少年のような人なんだと思っていた。
「類は・・」
「あっ?牧野、おまえいつから類のこと類って言ってんだよ!」
「え?」
「牧野は類って呼ぶな!類のことを類って呼ぶなら俺のことも司って呼べ!」
「類の野郎、おまえに何か言ったか?」
「・・はい・・好きだって言われました・・」
たちまち嫉妬がこみ上げた。
「クソッ!あいつ・・・ま、まきの、おまえはなんて返事したんだよ!」

「え?返事って・・なにも・・」
「ま、まさか類もお友達から始めようなんて言ってきたんじゃねぇよな?」
「類は・・」
つくしはひと呼吸おいた。
「・・類とは・・何も始めません。類にはただの友達になろうって言われましたから・・」
と言って司を安心させるようにほほ笑んだ。
「そ、そうか・・」
つくしの口調に疑わしいところは感じられず、司は安堵に胸をなでおろした。
「道明寺さん・・わたし・・あの・・」
「ん?どうした牧野」
「あの・・」

なんて伝えたらいいんだろう・・
心臓が激しく脈打っている。
この二週間で自分のなかで彼に対する気持ちが変わっていったのがわかる。
彼が刺されそうになったとき、その気持ちが本物であることに気づいた。
そしてその思いは日増しにつのっていった。
人が人を好きになるのに理由はいらないって言ったけど、本当だ。
はじめはなんとなく気になっていた。
でも、それは滋さんがあんなことを言ったから。
でもいつからだろう・・・彼の仕事に対する姿勢?社員に対しての責任感?
どんなところに私は惹かれたのだろう・・
このひとは・・・なにごとにも一生懸命なんだ。
仕事に対しても・・・そして、きっと恋に対しても。
こんな凄い人が私のことを好きだっていうこと事態が不思議だった。
立場が違い過ぎる・・彼は財閥の御曹司で跡取り息子だ。
周りがいつまでも放っておくわけがない。
週刊誌の記事はでたらめだって言われたころ、あの時は気にもとめて無かった。
でも・・・今は・・気になって仕方がなかった。
そして彼はすぐそこ・・目の前にいる・・・
わ、わたしは大人の女なんだから何をしても許されるわよね?

つくしは目の前で自分の顔を覗き込むようにしている司の上着の前をつかむと、自分の方へと引き寄せた。
そして司の顔が自分の近くまで降りて来たとき、司の唇にそっとキスをした。
その唇からは高価な煙草の香りがした。

「わたし・・道明寺・・のことが好き・・だから、と、友達じゃなくてちゃんとお付き合いします!」
つくしはその言葉を一日中練習していたかのように言っていた。

ふいをつかれた司は自分の身に起こった一瞬の出来事とつくしの告白に呆然としていたが
次第に黒い瞳が輝きを増すと、いつもつくしに向けられていた温かい眼差しが戻った。

司はその言葉が本気かどうか確かめるようにつくしを見つめた。
向こうでの二週間が遠い昔のことのように思えてきた。
「牧野、本当か?」
司の表情は真剣だった。
「は、はい」といってつくしは頷いた。
それから顔をあげると司と目を合わせた。 

司はつくしの腕をつかむと自分の胸元へと引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
そして熱のこもったキスをした。









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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.11.21 17:49 | 編集
サ*ラ様
初々しい二人ですよね?
やっと相思相愛になりましたので、これからなんとか司君に頑張ってもらいたいと思います。
これからラブラブ甘々を目指して行きたいと思っています。
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.22 00:01 | 編集
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