徐々に意識を取り戻したつくしは、自分がどこにいるか確かめようとした。
それは今より前に目覚めた時、両手足を縛られていたからだ。
だから手足を動かし自分が置かれた状況を確かめたが、甦る記憶は川上真理子に誘拐され船に連れて行かれたこと。そこから逃げ出すため掃除道具入れに隠れ息を殺していたこと。そして勇気を出して海に飛び込むことを決めると扉を開け外に出た。
するとそこにいたのは道明寺司で彼に荷物のように担がれ尻を叩かれた。
そして抱きかかえられると、ヘリコプターに乗り込み病院へ運ばれ、縛っていたロープで擦れ赤くなっていた手首の手当を受けたが、今夜は泊まるように言われた。
そして目覚めた部屋の中は暗かったが、壁に灯った明かりが状況を教えてくれた。
それは、ここは病室で海に投げ込まれる心配はないということだ。
「良かった….」
口を突いたその言葉は心の底からの思いだ。
だがつくしは複雑な心境にいた。
それは助けられたことには感謝をするが、この事件の責任の所在は何処にあるかといえば、あの男にある。だが真理子の行動は完全なる逆恨みであり常軌を逸していた。
だから責める相手は道明寺司ではないと分かっている。誘拐という罪を犯したのは川上真理子であり、道明寺司に罪はない。頭ではそのことは理解しているが、あの男に嘘をつかれていたという感情が先に立ち道明寺司を責める気持ちがあった。
だが命を助けてくれた相手に対し、それではいけないということは理解している。だから複雑な心境なのだ。
つまり助けてもらったことに感謝して控えめな態度に出ればいいのか。
それとも嘘をつかれていたことは許してないと強気な態度に出ればいいのか。
道明寺司という男は、百人の女が彼とすれ違ったとしたら、その百人の女すべてが目を輝かせ振り返るような男だ。だから百歩譲ってつくしが平手打ちしたことは当然だと認めているとしても、こうしてつくしを助けた事に対しては感謝しろと言うのではないだろうか。
だが助けてもらった礼は言った。
「それにどんな顔して会えばいいのよ」
「何をブツブツ言ってる?それにどんな顔ってそのままでいいだろ?」
部屋の奥にいる人影に気付いたのはその時だった。
「気がついたか?」
その声の持ち主が誰であるかは顔を見なくても分かる。
だから今思えば夜の電話の男としての道明寺司と話をしていたとき、何故気付かなかったのか。だがそれは思いもしなかったことなのだから仕方がないと言えた。
そして近づいて来た人影がベッドの傍で立ち止まったとき、はっきりと顔が見えたが、その顔は真剣だった。
「痛むところはないか?」
そう訊かれたが、手当をされた手首以外はないと答えると、「すまない」と言って伸ばした手でつくしの頭に触れた。
そして「とんでもない目に遭わせて悪かったな」と言ったが、触れた手は大きく髪の毛を通しても暖かさが感じられた。
それは夜の海の上で冷たい風に晒されないようにと、包み込むように抱きかかえられた時と同じ暖かさが感じられた。
何か言わなければと思ったが、言葉が口を突かないのは、自分を見下ろす男の顔がこれまで見た事がないような表情を浮かべていたからだ。
それは憂いとでも言えばいいのか。とにかく今まで見たことがない顔だった。
そして何も言わず黙っているつくしに、「どうした?船の上では威勢が良かったが急に大人しくなったようだが舌を無くしたか?」と言って微笑んだ。
もちろんそれが冗談だと分かっていて、そんなことないわと言えればいいのだが、向けられている視線に何故か緊張していた。
それに船に拉致されてから水分を取っていなかった。
だから喉もだが唇が乾ききっていて思わず唇を舐めたが、ベッドの傍に立つ男の視線が唇に向けられていることに気付いた。
そういえば会社でこの人にキスされたことがあった。その時の様子が頭の中に過り顔が火照った。だが間接照明の明かりだけの部屋では、顔の赤みまでは分からないはずだ。
だが喉の渇きは抑えられなかった。
だから「お水….お水をお願いします。喉が渇いてるんです」と水を求めた。
すると「ああ。水か。ちょっと待ってろ。確か冷蔵庫にミネラルウォーターがあるはずだ」と言って頭に触れられていた手が離れたが、その言葉よりも心配そうに見つめていた目が今まで見ていた道明寺司の目とは違ったように思えた。
つくしはベッドから身体を起こし、枕を背に当て水を取りに行った男の背中を見ていたが、少しして戻って来た男は落ち着いた顔をしていた。
だからつくしは改めて助けてもらった礼を言うことにした。
「あの。船の上では失礼なことを言いましたけど、助けていただいたことは感謝しています。でもあなたが私に嘘をついていたことは、このこととは別です。でもあの件についてはもう終わったことですし今日を限りで私たちがお会いすることはないと思います」
道明寺司のことなど一切忘れてこれからもサメの研究に邁進すればいい。
そんな思いで礼とは別に言葉の半分は言ったつもりだったが、相手はそうは受け取らなかった。
「悪いがその申し出は拒否する。このこともあのことも関係ないと言わせるつもりはない。俺はお前のことが好きだと言った。だからこれから先も牧野つくしに係わるつもりだ」
そう言った男は、つくしに水の入ったボトルを渡すと「まず手始めはこれだ」と言ってほんの一瞬唇を重ねた。

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それは今より前に目覚めた時、両手足を縛られていたからだ。
だから手足を動かし自分が置かれた状況を確かめたが、甦る記憶は川上真理子に誘拐され船に連れて行かれたこと。そこから逃げ出すため掃除道具入れに隠れ息を殺していたこと。そして勇気を出して海に飛び込むことを決めると扉を開け外に出た。
するとそこにいたのは道明寺司で彼に荷物のように担がれ尻を叩かれた。
そして抱きかかえられると、ヘリコプターに乗り込み病院へ運ばれ、縛っていたロープで擦れ赤くなっていた手首の手当を受けたが、今夜は泊まるように言われた。
そして目覚めた部屋の中は暗かったが、壁に灯った明かりが状況を教えてくれた。
それは、ここは病室で海に投げ込まれる心配はないということだ。
「良かった….」
口を突いたその言葉は心の底からの思いだ。
だがつくしは複雑な心境にいた。
それは助けられたことには感謝をするが、この事件の責任の所在は何処にあるかといえば、あの男にある。だが真理子の行動は完全なる逆恨みであり常軌を逸していた。
だから責める相手は道明寺司ではないと分かっている。誘拐という罪を犯したのは川上真理子であり、道明寺司に罪はない。頭ではそのことは理解しているが、あの男に嘘をつかれていたという感情が先に立ち道明寺司を責める気持ちがあった。
だが命を助けてくれた相手に対し、それではいけないということは理解している。だから複雑な心境なのだ。
つまり助けてもらったことに感謝して控えめな態度に出ればいいのか。
それとも嘘をつかれていたことは許してないと強気な態度に出ればいいのか。
道明寺司という男は、百人の女が彼とすれ違ったとしたら、その百人の女すべてが目を輝かせ振り返るような男だ。だから百歩譲ってつくしが平手打ちしたことは当然だと認めているとしても、こうしてつくしを助けた事に対しては感謝しろと言うのではないだろうか。
だが助けてもらった礼は言った。
「それにどんな顔して会えばいいのよ」
「何をブツブツ言ってる?それにどんな顔ってそのままでいいだろ?」
部屋の奥にいる人影に気付いたのはその時だった。
「気がついたか?」
その声の持ち主が誰であるかは顔を見なくても分かる。
だから今思えば夜の電話の男としての道明寺司と話をしていたとき、何故気付かなかったのか。だがそれは思いもしなかったことなのだから仕方がないと言えた。
そして近づいて来た人影がベッドの傍で立ち止まったとき、はっきりと顔が見えたが、その顔は真剣だった。
「痛むところはないか?」
そう訊かれたが、手当をされた手首以外はないと答えると、「すまない」と言って伸ばした手でつくしの頭に触れた。
そして「とんでもない目に遭わせて悪かったな」と言ったが、触れた手は大きく髪の毛を通しても暖かさが感じられた。
それは夜の海の上で冷たい風に晒されないようにと、包み込むように抱きかかえられた時と同じ暖かさが感じられた。
何か言わなければと思ったが、言葉が口を突かないのは、自分を見下ろす男の顔がこれまで見た事がないような表情を浮かべていたからだ。
それは憂いとでも言えばいいのか。とにかく今まで見たことがない顔だった。
そして何も言わず黙っているつくしに、「どうした?船の上では威勢が良かったが急に大人しくなったようだが舌を無くしたか?」と言って微笑んだ。
もちろんそれが冗談だと分かっていて、そんなことないわと言えればいいのだが、向けられている視線に何故か緊張していた。
それに船に拉致されてから水分を取っていなかった。
だから喉もだが唇が乾ききっていて思わず唇を舐めたが、ベッドの傍に立つ男の視線が唇に向けられていることに気付いた。
そういえば会社でこの人にキスされたことがあった。その時の様子が頭の中に過り顔が火照った。だが間接照明の明かりだけの部屋では、顔の赤みまでは分からないはずだ。
だが喉の渇きは抑えられなかった。
だから「お水….お水をお願いします。喉が渇いてるんです」と水を求めた。
すると「ああ。水か。ちょっと待ってろ。確か冷蔵庫にミネラルウォーターがあるはずだ」と言って頭に触れられていた手が離れたが、その言葉よりも心配そうに見つめていた目が今まで見ていた道明寺司の目とは違ったように思えた。
つくしはベッドから身体を起こし、枕を背に当て水を取りに行った男の背中を見ていたが、少しして戻って来た男は落ち着いた顔をしていた。
だからつくしは改めて助けてもらった礼を言うことにした。
「あの。船の上では失礼なことを言いましたけど、助けていただいたことは感謝しています。でもあなたが私に嘘をついていたことは、このこととは別です。でもあの件についてはもう終わったことですし今日を限りで私たちがお会いすることはないと思います」
道明寺司のことなど一切忘れてこれからもサメの研究に邁進すればいい。
そんな思いで礼とは別に言葉の半分は言ったつもりだったが、相手はそうは受け取らなかった。
「悪いがその申し出は拒否する。このこともあのことも関係ないと言わせるつもりはない。俺はお前のことが好きだと言った。だからこれから先も牧野つくしに係わるつもりだ」
そう言った男は、つくしに水の入ったボトルを渡すと「まず手始めはこれだ」と言ってほんの一瞬唇を重ねた。

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司*****E様
おはよございます^^
司は簡単には引き下がらない!
そして司にキスされたつくしは何を思うのでしょう。
係わることを拒否するつくしと係わりたい男。
これから心が搔き乱されサメの研究に没頭出来なくなる!(笑)
そうですねぇ。つくしがどこで司に心を動かされているのか。
きっと周りのフォローも必要ですね?^^
コメント有難うございました^^
おはよございます^^
司は簡単には引き下がらない!
そして司にキスされたつくしは何を思うのでしょう。
係わることを拒否するつくしと係わりたい男。
これから心が搔き乱されサメの研究に没頭出来なくなる!(笑)
そうですねぇ。つくしがどこで司に心を動かされているのか。
きっと周りのフォローも必要ですね?^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.03.31 21:33 | 編集

さ*******く様
本日の和菓子!食べたい!美味しそう!(≧▽≦)
ピンクとグリーンの組み合わせが美しいです。
サメ司はつくしが唇を舐めたとき「手始め」を決めたんでしょうねぇ。
へこたれない男。それは道明寺司(笑)
ワイルドなのか繊細なのか。アカシアもよく分かりません(;^ω^)
コメント有難うございました^^
本日の和菓子!食べたい!美味しそう!(≧▽≦)
ピンクとグリーンの組み合わせが美しいです。
サメ司はつくしが唇を舐めたとき「手始め」を決めたんでしょうねぇ。
へこたれない男。それは道明寺司(笑)
ワイルドなのか繊細なのか。アカシアもよく分かりません(;^ω^)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.03.31 21:43 | 編集

ふ*様
こんにちは^^
司の不意打ちにニヤッとされたんですね?( ̄▽ ̄)
女に拒否された経験のない男ですが、どうやってつくしの気持ちを自分に振り向かせるのでしょう。
マイナスからのスタートですが頑張っていただきましょう。
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
司の不意打ちにニヤッとされたんですね?( ̄▽ ̄)
女に拒否された経験のない男ですが、どうやってつくしの気持ちを自分に振り向かせるのでしょう。
マイナスからのスタートですが頑張っていただきましょう。
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.03.31 21:50 | 編集

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イ**マ様
こら!いきなりキスするな!(笑)
本当になんて男なんでしょう。
でもしょうがない(;^ω^)だって道明寺司ですものね!(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
こら!いきなりキスするな!(笑)
本当になんて男なんでしょう。
でもしょうがない(;^ω^)だって道明寺司ですものね!(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.04.02 23:14 | 編集
