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2019
03.29

理想の恋の見つけ方 106

「それにしても川上真理子という女性は先輩を誘拐してどうするつもりだったんでしょう?」

「西田さん。牧野さんは本当に大丈夫ですか?本当に怪我は無いんですか?」

三条桜子と若林和彦は、つくしが三浦半島沖の相模灘に浮かんでいたクルーザーで発見され、ヘリで道明寺財閥系列の病院に運ばれたと連絡を受けると、すぐに駆け付け病室の外で西田と話をしていたが、桜子の質問に対する答えはただひとつ。
真理子はつくしを海へ投げ込んでサメの餌にするつもりでいたということ。だが西田はその言葉を口にすることはなかった。

そして和彦は、まさか高森開発の社長夫人だった川上真理子が犯罪行為に走ったことを信じられない思いでいたが、その女性がつくしの手足を縛っていたと訊き恐怖を覚えていた。

「ご安心下さい。牧野様はご無事です。今は鎮静剤を打たれ眠っておられますが問題はありません。ですからお二人とも今夜はお帰りになってお休み下さい。病院は警備も万全です。これ以上牧野様に何かあることはございません」

きっぱりとした西田の言葉はこれ以上ないほど二人を安心させた。
そして付き添いたいと言った桜子の申し出を断った。

「あの西田さん。病院の看護体制や警備が万全なのは理解しています。でも私は先輩の友人として傍にいたいんです。それに先輩の目が覚めたとき傍にいたいんです。だって今先輩は_」

「三条様。今は副社長が傍に付き添っておられます。ですからご安心下さい」

西田は桜子の言葉を遮り言った。

「今回このようなことが起きたのは我社のビジネスが発端です。ですから副社長の牧野様に対するお気持ちは、それはもう大変申し訳ないという思いでいっぱいです。それに副社長は責任感の強い方ですのでこの件に関しては大きな責任を感じていらっしゃいます。それはご自身が好きになった女性を守ることが出来なかったことについてもですが、牧野様に対し嘘をついていたこともです」

桜子は西田という秘書を信頼に値する人物だと思っている。
副社長付の秘書になるということは、能力が高いということもだが、仕える人間のことをよく理解しているからだ。
それは桜子が大学教授秘書として働いているからこそ思うことで、たとえ仕える人間の職業が違っていたとしても、秘書という職業の人間が考えることは皆同じだ。
そして秘書は自分のミスは仕える人間のミスになるということも知っている。だから極力ミスはしない方がいい。だが仕える人間のミスは自分のミスとして謝ることが仕事だとも分かっている。だから今の西田の発言は、道明寺司の言葉でないとしても、西田のように聡明な秘書なら仕える人間の言葉を代弁することは簡単だ。
けれど桜子は思った。レストランに現れた道明寺司の態度は心から牧野つくしのことを案じていたと。それに自分の持てる力を使って牧野つくしを探し出した。だから西田の言葉があながち嘘ではないと思い背筋を伸ばし言った。

「分かりました。では今夜は帰ります。後は道明寺副社長にお任せします。ですがひと言言わせて頂いてもいいですか?」

「ええ。何なりとおっしゃって下さい」

「私は牧野つくしの友人です。友人であることもですが牧野つくしの人生に責任を感じている人間です。だからもしこれ以上道明寺副社長が牧野つくしを傷付けるようなことになれば、それなりの代償を払うことになるとお考え下さい」

「代償ですか?」

「ええ。道明寺副社長にサメの餌になって頂くこともあるということです」

「三条様。なかなか面白いことをおっしゃいますね。ですが必ず副社長にお伝えします」







***







「失礼致します」

西田が特別室の扉を開けたとき司は壁際に立って眠っている女を見ていた。

「三条様と若林様にはお帰りいただきました」

「そうか。それで?あの秘書は何か言ってたか?何しろあの秘書はひな鳥を守る親鳥だ。手厳しいことを言ったはずだ」

「はい。もしこれ以上牧野様を傷付けることがあればサメの餌にするとおっしゃられました」

その言葉に司は小さく微笑んだ。

「俺をサメの餌にするって?」

「はい。その目は真剣でした。あの方は心から牧野様のことを心配していらっしゃいます。ああいった方をご友人としてお持ちになることは牧野様にとっては心強いことでしょう」

確かにその通りだ。
人の心は金で買えるものではない。
それに司にも三条桜子のように自分のことを親身になって思ってくれる友人がいるから桜子の行動も理解出来た。
そして西田は人の心を読む達人だ。人の嘘を見抜くのが得意だ。
それはこの男の持って生まれた才能だと言ってもいい。そんな西田が三条桜子のことを褒めるのだから、少々厄介な女だとしても、あの女が牧野つくしの友人であることは司にとっては望ましいことだと言えた。



「それにしても牧野様を夜の海に放り込むなど川上真理子の考えることは普通の人間が考えることではありません」

「西田」

「はい」

「そう言うが俺が手に負えないガキだった頃のことを考えてみろ。あの頃の俺なら平気でそんなこともしたはずだ」

「確かに。あの頃の副社長は世間に対して厳しいお考えをお持ちでしたから」

西田の表情は真面目で言葉は婉曲しているが、司がガキと表現した高校生の頃の酷さは十分承知していた。

「それであの女は?それから一緒にいた男は何と言ってる?」

司は口元を引き締め西田からの報告を訊いた。

「はい。川上真理子と石田章夫は警察の取り調べを受けることになりますが、石田章夫の方は罪を犯している認識はなかったと言っています。あの男は川上真理子を手伝うことによって生じるメリットだけを考えていたと言っていいでしょう。つまり川上真理子と男と女の関係になることを求めていたに過ぎず、初めから牧野様を誘拐しようとは考えてはいなかったということです。ですが川上真理子は違います。川上真理子の行為は牧野様を誘拐し確実に相手が死ぬことを目的としていた。殺意を持っての行動であり確信犯罪者です」

川上真理子の牧野つくしに対する行動は司に対する復讐。
だが高森開発が破綻したのは司のせいではない。
それに財閥のビジネスは真っ当なものでその国の法を順守している。
だが世界を相手にするビジネスが必ずしも真っ当だとは言えないこともある。
それに法を犯すことがなくとも質の悪い輩はどこにでもいる。だからビジネスには高い判断能力が必要になるのだが、狂人相手となるとこちらも相手と同じ土俵に立たざるを得ないことがある。
それはやられたらやり返すということ。権力には裏表があり、聖人君子ではビジネスは成り立たないことを司は知っている。

「それにしても川上真理子は随分と安っぽいスリルを味合わせてくれたな」

不都合な出来事の揉み消し方を知る男は、その言葉に頷くと「それではわたくしは夜が明け次第警視総監に今後のことについてお話をさせていただきます」と言った。



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コメント
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dot 2019.03.29 08:09 | 編集
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dot 2019.03.30 19:14 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
サメの餌になる司を想像する...(≧▽≦)
いいですねぇ。御曹司なら笑える話が書けそうです。
そして司はつくしから信頼されるような人間にならなければ、好きになどなってもらえません!
え?真理子と石田はどうなるのか。
司の私的制裁がお好きですか?
安っぽいスリル以上のスリルが真理子たちに降り注ぐとなれば、ブラック司になってしまいそうで怖いです(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.03.30 22:38 | 編集
さ****カ様
いつも春らしい和菓子が頭を過ります。
桜の形が可愛いですね~。
食べるのが勿体ないですが、目の前に出されればありがたく頂戴したいと思います。
そして桜子の司をサメの餌にする発言!(笑)
そんな秘書桜子は西田と分かり合えるところがあるようです(笑)
え?西田と桜子の話ですか?(笑)
果たして読む人がいるのでしょうか?でも面白そうですね!(≧▽≦)
年の離れた二人の恋(笑)

真理子は太陽を拝めない!
深海のエイリアンはどうなる?!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.03.30 23:06 | 編集
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