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2019
03.27

理想の恋の見つけ方 104

司がマリーナに着いたとき、高森隆三の名義だったクルーザーは既に出航していた。
葉山の隣街の逗子には財閥が所有するクルーザーが係留されている。それは普段から会社の接待用に使っている船で商談やパーティーに使われていた。
最新鋭の装備を備えたそのクルーザーはヘリが降りたつことが出来る。そして司が三浦半島に向かった時点でいつでも出航出来るように準備が整えられていて葉山のマリーナに接岸すると彼を乗せ海に出た。

月のない夜の海はただひたすら暗かったが穏やかで波頭は無い。
操舵室で舵を握るのはベテランの船長だが、司が気分次第で船を出すような男ではないことは知っている。だから深夜のこの出航が緊急性の高いものだということを理解していた。
そして物事を機械のように正確に処理する秘書の手際の良さから普段なら腕力など必要としないのだが、今夜司と一緒に乗船したのは、秘書やいつもの護衛だけではなく屈強な男達。
その男達が数歩の距離を置いて立っていた。





「追っている船の位置は分かるか?」

「はい。この船には最新鋭の監視システムが搭載されています。それにこの船は大きいですがスピードは追っているクルーザーよりも出ます。つまり目的の船に追いつくのは時間の問題かと」

豪華で性能が優れた船は音もたてず水面を航行しているが、船長の言う通り船首が水を切り進むスピードはかなりの早さだ。そして暗い海を突き進む船は更にスピードを上げた。

「御覧下さい。あそこにぼんやりとですが白い船体が見えます。我々が追っているのはあの船です」

双眼鏡を渡され見た白い船体は、その動きを止め停泊しているように見えた。

「あの船は動いてるのか?」

「いえ。止まっています。今はただ海の上で波に揺られている状況です」

司はその言葉にあらゆる状況を考えた。
それは既にあの場所で牧野つくしが海に突き落とされたなら、この船で近づくと危険だということ。何故ならこの船は大きなスクリューを備えていて巻き込まれる危険があるからだ。
そして牧野つくしの足に大きな傷跡を残した船の事故のことを考えた。大学生の頃、モーターボートのスクリューで大怪我を負い、その当時付き合っていた男から言われた言葉と行動が今でも心の傷となって男を寄せ付けようとしないことを。だが今はそんなことを考えるよりも、すぐに行動に移す必要があることだけは確かだ。

「副社長。この船で傍に近寄ることは危険です。それよりもボートを下ろし近づいた方がよろしいでしょう」

船長がそう言うと司は頷いた。すると数歩の距離を置き立っている男達は指示を待つこともなく直ぐに動いた。








***







掴まれていた腕を振り解いたつくしは、思いっきり身体をぶつけた男が背後で呻いたのを訊いた。それは身体をどこかへぶつけたからなのか。だがそれを確かめようとは思わなかった。
海風は冷たかったが、とにかく男から逃げることを考え甲板を走り角を曲がった。
そして男が追いかけて来る前に、どこかの部屋に入ろうと最初に目に入った扉を開けた。
だが部屋だと思ったそこは狭い場所にモップやデッキブラシといった掃除道具が並んでいた。だがここがどこだろうといい。海に突き落とされるよりはマシだ。
だから中に入ると急いで鍵をかけた。
そして息を殺し外の様子を窺っていたが船が動きを止めたのが分かった。

つくしは考えた。それはもしここに救命胴衣があるなら、それを着けここを出て海に飛び込み助けが来るのを待つべきか、ということだ。けれどいくら救命胴衣を着けたとしても冷たい夜の海に飛び込むということは生命に危険を及ぼす恐れがある。
それは海の冷たさもだがサメの存在があるからだ。夜行性のサメは夕暮れから早朝にかけて活動が活発になる。そしてサメは暗いところでも良く物が見え血の匂いに敏感だ。両手が縛られたこの状態は、ロープに血が滲んではいなかったが、夜の海面を漂う人間に反応しないとは言えなかった。
それに必ず助けが来るとは限らない。第一ここは海で、ここを特定するには時間がかかるはずだ。

それにしてもまさか自分が他人から危害を加えられる….いや。他人から命を狙われる立場に立つとは思いもしなかった。
だがそれは真理子の道明寺司に対する憎しみから生じたもので、本来ならつくしには全く関係ないはずだ。
けれど真理子の話の中にあったつくしを気に入らないという感情は、つくし個人に向けられたものだ。ホステスと働いていた頃つくしに似た女が真理子の近くにいて、その女が気に入らなかったと言った。だが今はそんなことを考えるよりもどうすればここから、この船から、川上真理子から逃れることが出来るかを考えるべきだ。

「なんとかしなきゃ…」

だが掃除道具が収められた狭い場所で何をどうすればいいのか。
両手が自由ならここにあるモップやデッキブラシで戦うことも出来たかもしれない。
けれどそれは危険な賭けだ。何しろ相手は二人。いや。この船には他にも誰か乗っていてもおかしくないからだ。

外で物音がしたのは、そんなことを考えていた時だった。
つくしは音を立てないように息を殺した。
何人かの男の声がして、甲板を走る足音が聞こえた。
やはりあの二人以外に誰かいてつくしを探しているということだ。
それにしてもこの場所は簡単に見つけられそうな気がするが、物置とも言えるこの場所につくしが隠れているとは思わないのだろうか。
だが見つかるのは時間の問題だ。

つくしは暗闇の中、縛られたままの手でなんとかデッキブラシと思われる柄を握り、いつ扉が開かれてもいいようにと手に力を入れ扉の方を向いた。
その時、足音が扉の前で止ったのを訊いた。




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コメント
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dot 2019.03.27 06:04 | 編集
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dot 2019.03.27 13:17 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
掃除用具入れに身を隠したつくし。
海に投げ込まれては大変です。
サメは血に反応しますが尿にも反応するようです。
さて、扉の前で止った足音。
誰のものでしょう。可能性としてあるのは、あの人。そしてあの人とあの人です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.03.27 22:09 | 編集
桜**れ様
掃除道具入れで息をつめる女。いやシーラカンス( ´艸`)
手を縛られていても戦う意思はあります。
そして扉の前で止った足音の正体は!

あの恐竜映画の息詰まるシーン!
ありましたねぇ(笑)
さあ、シーラカンスつくし!扉の向こうの人物と対面して下さい!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.03.27 22:17 | 編集
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