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2019
03.24

理想の恋の見つけ方 102

甲板から船内に入ったつくしは真理子に向かい側の席に座るように言われソファに腰を下ろした。
そこはサロンと呼ばれる船の応接室でインテリアは白と黒を基調に纏められているが、壁のいたるところに鏡が張り巡らされ部屋を大きく見せていた。
そして頭上には豪華なシャンデリアが輝いていた。

クルーザーが港を離れていくのは甲板を歩きながら感じていた。
つくしは仕事柄船に乗ることが多く船の動きには慣れている。それに今までも海洋調査船に乗り込み、真夜中の海での調査に臨んだこともあった。
けれど今のこの状況は専門的な知識を必要とする状況ではない。
何しろつくしは誘拐され縛られ船の上に連れて来られるという自らの意志とは全く関係ない状況にいるからだ。

いずれにせよ、どうにかしてここから逃げなければ自分の身が危ないということは理解出来た。だから必死に頭を働かせた。だが海の上は逃げ場がない。
鳥のように翼があれば飛んで逃げることも出来るが、手を縛られた状況では例え翼があったとしても羽ばたかせることは出来ない。だがこの縛めを解かれたなら、甲板から海に飛び込み魚のように泳いで逃げればと思うも、それがどれほど危険な事かは身をもって経験している。

それは大学生の時、沖縄の海で起こった事故のこと。
海に落ちた帽子を拾おうと何も考えずに飛び込みスクリューで脚に怪我をした。
あの時は小さなボートだったからよかったものの、大きなクルーザーのスクリューに巻き込まれることを考えれば海に飛び込むことは出来なかった。
それに昼間の葉山の海の青さは岸までの距離を掴むことが出来るが、夜の海ほど怖いものはない。遠くに明かりが見えたとしても、夜空に星が瞬いていても、その煌めきは小さすぎて月ほどに海を照らしてはくれず、岸まで辿り着ける自信がなかった。





「道明寺司の船に比べたらみすぼらしく見えるかもしれないけど我慢してちょうだい。あの男のクルーザーは巨大で豪華な邸宅だって言われるくらいですもの」

真理子にそう言われたが、つくしはこんなに豪華な船に乗るのは初めてで、ここは船というよりも高級ホテルに見られるような豪華さだった。
そしてつくしは道明寺司がまだ名前もない夜の電話の男性だった頃に交わした会話を思い出していた。
それは海の生物に興味があるかと訊いたとき、今はあまり行くことはないが海は好きだと言った。そして元気な頃はよく出かけていたと言った。

あの頃、電話の相手は体調が思わしくないことから、外出もままならないといったイメージを抱いていて男の話すことは真実だと思っていた。だが今となってはそれら全てが嘘だと知っている。
そして夜の電話の男が言った海が好きでよく出かけていたという話を真理子の言葉に重ねれば、あの男はこの船以上に立派な船を持ちクルージングを楽しんでいるということだ。

「何が元気な頃はよく出かけていたよ」

「あら。誰か元気がないのかしら?まさか道明寺司じゃないわよね?だってあの男は見るからに精力的だもの。それに聞いたことがあるわ。あの男はひと晩中でも出来る。精力に限りがないってね?だからお相手を務める女性は大変だってね」

つくしの呟きに真理子は笑いながらそう言ったが、その眼は笑ってはいなかった。
そしてその眼に浮かぶのは憎悪以外の何ものでもなかった。

「ねえ牧野さん。少しお喋りしない?あなたあの男のどこが好きなの?やっぱりお金?それともあの顔かしら?いいえ。それともセックスかしら?あの男は感情を表に出さないことで有名だけどあなたの前では感情を見せるのかしら?ねえ?あの男のセックスってどうなの?」

真理子はつくしがあの男の恋人だと思っているらしいが、そうではない。
だからそれを告げてはいたが、信じようとしない人間に言うべき言葉を見つけることは出来なかった。それなら真理子が望む通りに話を合わせた方がいいはずだ。

だがつくしは川上真理子という女性についてはよく知らない。
けれど、どんな人間も自分に対して否定的な言葉を浴びせる人間よりも、自分に共感し同調してくれる人間に心を許す。
だからつくしは、真理子が求めている話をしようとしたが、つくしは道明寺司と恋人ではないのだから、セックスについて訊かれても困る。そして今となっては全くの赤の他人であることが嬉しいくらいだが、自分が誘拐されたのは、あの男のせいだということも頭の中にあった。
だから腹立たしさを押さえ口にした言葉は、「ええ。司は私を眠らせてくれません。激しく愛されたあとは、いつもぐったりしてしまって身体がいうことを利きません。それに司はセックスするときサメの様に私を噛むんです」

それは普段真面目なつくしが話題にすることではない。
だが真理子にすれば、そんなつくしが話題を下半身へと落としていくことで機嫌を良くした。

「あはは!あの男がサメの様に噛むですって?」

「ええ。オスのサメは交尾のときメスの胸びれに噛みついて交接器を子宮の中に入れるんです。それはメスのサメを逃がさないためだと言われていますが、司は経済界のサメと言われていますが、彼の行動はサメです。サメなんです。だから私の身体はいつも傷だらけです」

自分で言いながら恥ずかしいとは思わなかった。
何故なら今話しているのは人間の話ではなくサメの交尾の話だからだ。

「それにしても面白いわね?道明寺司にそんな性癖があったなんて知らなかったわ」

知るも知らないも、つくしはあの男の性癖など知らない。
それに知りたいとも思わない。あの男が経済界のサメと呼ばれているのはビジネスの世界に於いてで、実生活のことなど知らなかったが、そんなことはどうでもいい。
今はそんなことより、どうすればこの状況から逃れることが出来るかを考えていた。

「それであなたの身体は傷だらけですって?あの男。あの外見からして凶暴だと思ったけど私は嫌いじゃないわ。でも私は傷つけられるより傷つける方が好きよ。と、なると道明寺司と私は同じ嗜好の持ち主かもしれないわね?」

道明寺司と川上真理子が同じ嗜好の持ち主だとすれば二人で仲良くすればいい。
道明寺司を殴るなり蹴るなり好きにすればいい。だからあの男に対する恨みを他の人間に転嫁するのは止めて欲しい。
けれど、そう思う反面この状況下から助けてくれる人物がいるとすれば、あの男しかいないような気がしていた。

それはつくしが平手打ちをした時に見せた殴られて当然だという態度。
コップの中に残っていた僅かな水と氷を浴びせかけた時、それを拭うことをしなかったこと。あの時、大勢のひと前でのつくしの行為を当然だと受け入れた。それはプライドが高いと言われる男にとって屈辱的なことではないか。だがそれらすべてを受け入れた男がいた。
だが真理子が道明寺司に恋人の命が惜しければここに来いと言っているとは思えなかった。
それにレストランにいたのは、桜子と若林和彦であり道明寺司ではない。だから今のこの状況があの男に伝わっているとは考えられず助けてくれると思うのは間違いだ。
だから自分で何とかしなければならなかった。

「それにしても道明寺司の真夜中の生態を調べるのは面白そうね?あなたもサメの研究よりそっちの方が興味深いんじゃないの?」

真理子は楽しそうに笑い声を上げたが、次に放った言葉は冷たい声に取って代わっていた。

「どちらにしてあなたのその研究は今晩で終わりよ。あなたあの男が助けに来るための時間稼ぎをしてるようだけど、あなたの持ち時間は終わり。それに私は言ったわよね?サメの研究者ならもっとサメに近づきたいでしょってね?」

そしてつくしは、真理子の言葉に自分を取り囲む海を無視することは出来なくなっていた。



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コメント
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dot 2019.03.24 11:07 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
つくしVS真理子。
真理子は司がサメのようにつくしを噛むと言われ大はしゃぎです。
でもそれはサメの話であり司ではないんですが、この際真理子の興味を惹きそうな話を持ち出してみたようです。
そんな話も、どうすればこの状況から逃れることが出来るか考えを巡らせる時間になればと思うのですが、時間稼ぎは終わりと言われてしまいました。
さて今後の展開はいかに?!
司は今どこにいるのでしょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2019.03.24 22:43 | 編集
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