「ほら、しっかり歩きなさいよ」
つくしは手足を縛られていたが、建物の外に出るにあたって自らの足で歩くようにと縛めを解かれていた。そして建物を出て軽自動車に乗せられ少し走ったが、止まると外へ出るように言われ歩いて連れて行かれたのは、港に係留されているクルーザーの前だった。
「どう?あなたこの船をどう思う?素敵だと思わない?この船は元夫の船だったの。小さいけれど高速航行が可能で積んでいるエンジンは最高級なのよ。それに船内は高級ホテルの部屋にも負けない造りになってるわ」
小さいと言われたが充分な大きさで、素敵な船だと思わないかと言われたが、街灯の明かりのなか、はっきりと船の外観を見ることは出来なかったが白い船体を確認することは出来た。
そしてここが何処かということに気付いた。
それは、この場所に来たことがあるからだ。ここは部屋で思っていた通り三浦半島で、この場所は葉山だ。
葉山は研究室の主宰である教授の副島の生家がある。
そこは今では住む人もおらず、副島家の別荘として使われているが、夏に研究室のメンバーと何度か来たことがあった。
そして葉山は日本のヨットレース発祥の地と言われているだけに、ヨットの競技会が盛んに行われ、街には観光客が溢れ浜辺には海水浴客が大勢いた。
だが北風が吹く季節になれば観光客の足は遠のき静かな街になる。しかし今は真冬ではなく春は近い。だが海から吹く風はまだ冷たく、それに暗闇のなか船に乗ろうという人間はいなかった。
けれど川上真理子はこの船で沖に出ようとしていることは確かだ。
つくしはどうすればこの状況から逃れることが出来るかを考えた。
そしてまさかとは思うが彼女が考えていることが脳裡を過った。だから何とかしなければと考えたが、未だに手を縛られた状態では数歩走っただけですぐに掴まることは目に見えていた。
「どう牧野さん?気に入ってくれたかしら?この船いい船だと思うでしょ?でもサメの研究者であるあなたには勿体ない気もするわね?だってこのクルーザーはサメの漁をするには向いてないもの」と言ったが、「ほら行きなさいよ。乗るのよ。この船で沖に出るのよ。あなたは私とクルージングに出るの。楽しいわよ、きっと。」と言葉を継ぎ、つくしの背中を押した。
***
ヘリを降りた司はかつて高森隆三の別荘だった場所にいた。
そして窓のない地下室に残されていたロープに彼女が縛られていたことを確信した。
「牧野様はここに残された車とは別の車に乗せられて何処か別の場所に移動させられたようです。ただその場所がこの町の中なのか。それともまた別の場所なのか_」
「探せ。どんな方法でもいい。町じゅうを叩き起こしてでも探せ。ひとりの女の命がかかってる。もし誰かに何かを言われても死と隣り合わせにいる女を助けるためだと言え!」
西田の言葉を遮った司は、すぐに地下室を出ると、かつて真理子の夫だった高森隆三が何故この町に別荘を持つことにしたのかを考えた。つまり海辺の町に別荘を持つ者ならするであろうことを。
それはマリンスポーツ。もしくは釣りやクルージングといった類だが、あの年寄りがマリンスポーツを好むとは思えなかった。それなら釣りかクルージングということになるが、マリンスポーツと同じで隆三が釣りを好むという話は聞いたことがなかった。
となると、贅沢な暮らしを好む妻の真理子に頼まれクルーザーを所有していた可能性を考えた。
葉山にはマリーナがある。
そしてそこにはヨットやボートが係留されているが、その中にはクルーザーもあるからだ。
「西田。高森隆三はこの町のマリーナに船を持ってなかったか?」
「お待ち下さい」
西田はタブレット端末に表示された高森隆三がかつて持っていた資産に目を通していた。
「はい。高森隆三名義で船の登録があります。今その船はこの別荘と同じ地元の不動産会社の名義に変わっていますが以前は高森隆三のものです」
マリーナはここから車で5分程の場所にある。
もし牧野つくしがクルーザーに乗せられているのなら、逃げ場のない場所に閉じ込められたと同じ。いやそれよりも質が悪い。夜の海に突き落とされれば見つけることは簡単ではないからだ。
「….マリーナだ。あの女は牧野つくしをクルーザーに乗せて海に出た。すぐにマリーナへ向かえ!」

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つくしは手足を縛られていたが、建物の外に出るにあたって自らの足で歩くようにと縛めを解かれていた。そして建物を出て軽自動車に乗せられ少し走ったが、止まると外へ出るように言われ歩いて連れて行かれたのは、港に係留されているクルーザーの前だった。
「どう?あなたこの船をどう思う?素敵だと思わない?この船は元夫の船だったの。小さいけれど高速航行が可能で積んでいるエンジンは最高級なのよ。それに船内は高級ホテルの部屋にも負けない造りになってるわ」
小さいと言われたが充分な大きさで、素敵な船だと思わないかと言われたが、街灯の明かりのなか、はっきりと船の外観を見ることは出来なかったが白い船体を確認することは出来た。
そしてここが何処かということに気付いた。
それは、この場所に来たことがあるからだ。ここは部屋で思っていた通り三浦半島で、この場所は葉山だ。
葉山は研究室の主宰である教授の副島の生家がある。
そこは今では住む人もおらず、副島家の別荘として使われているが、夏に研究室のメンバーと何度か来たことがあった。
そして葉山は日本のヨットレース発祥の地と言われているだけに、ヨットの競技会が盛んに行われ、街には観光客が溢れ浜辺には海水浴客が大勢いた。
だが北風が吹く季節になれば観光客の足は遠のき静かな街になる。しかし今は真冬ではなく春は近い。だが海から吹く風はまだ冷たく、それに暗闇のなか船に乗ろうという人間はいなかった。
けれど川上真理子はこの船で沖に出ようとしていることは確かだ。
つくしはどうすればこの状況から逃れることが出来るかを考えた。
そしてまさかとは思うが彼女が考えていることが脳裡を過った。だから何とかしなければと考えたが、未だに手を縛られた状態では数歩走っただけですぐに掴まることは目に見えていた。
「どう牧野さん?気に入ってくれたかしら?この船いい船だと思うでしょ?でもサメの研究者であるあなたには勿体ない気もするわね?だってこのクルーザーはサメの漁をするには向いてないもの」と言ったが、「ほら行きなさいよ。乗るのよ。この船で沖に出るのよ。あなたは私とクルージングに出るの。楽しいわよ、きっと。」と言葉を継ぎ、つくしの背中を押した。
***
ヘリを降りた司はかつて高森隆三の別荘だった場所にいた。
そして窓のない地下室に残されていたロープに彼女が縛られていたことを確信した。
「牧野様はここに残された車とは別の車に乗せられて何処か別の場所に移動させられたようです。ただその場所がこの町の中なのか。それともまた別の場所なのか_」
「探せ。どんな方法でもいい。町じゅうを叩き起こしてでも探せ。ひとりの女の命がかかってる。もし誰かに何かを言われても死と隣り合わせにいる女を助けるためだと言え!」
西田の言葉を遮った司は、すぐに地下室を出ると、かつて真理子の夫だった高森隆三が何故この町に別荘を持つことにしたのかを考えた。つまり海辺の町に別荘を持つ者ならするであろうことを。
それはマリンスポーツ。もしくは釣りやクルージングといった類だが、あの年寄りがマリンスポーツを好むとは思えなかった。それなら釣りかクルージングということになるが、マリンスポーツと同じで隆三が釣りを好むという話は聞いたことがなかった。
となると、贅沢な暮らしを好む妻の真理子に頼まれクルーザーを所有していた可能性を考えた。
葉山にはマリーナがある。
そしてそこにはヨットやボートが係留されているが、その中にはクルーザーもあるからだ。
「西田。高森隆三はこの町のマリーナに船を持ってなかったか?」
「お待ち下さい」
西田はタブレット端末に表示された高森隆三がかつて持っていた資産に目を通していた。
「はい。高森隆三名義で船の登録があります。今その船はこの別荘と同じ地元の不動産会社の名義に変わっていますが以前は高森隆三のものです」
マリーナはここから車で5分程の場所にある。
もし牧野つくしがクルーザーに乗せられているのなら、逃げ場のない場所に閉じ込められたと同じ。いやそれよりも質が悪い。夜の海に突き落とされれば見つけることは簡単ではないからだ。
「….マリーナだ。あの女は牧野つくしをクルーザーに乗せて海に出た。すぐにマリーナへ向かえ!」

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
居場所を特定出来たのですが真理子は手強そうです。
司はそんな真理子を追いかけなければならない状況。
そしてつくしは、この状況から逃げ出そうと考えているようですが、果たしてどうなんでしょうねぇ。
全てを失った人間はある意味強いです。怖いものはない。まさに真理子はその状態なのかもしれませんね?
さあ。司!つくしを救出して下さい!
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
居場所を特定出来たのですが真理子は手強そうです。
司はそんな真理子を追いかけなければならない状況。
そしてつくしは、この状況から逃げ出そうと考えているようですが、果たしてどうなんでしょうねぇ。
全てを失った人間はある意味強いです。怖いものはない。まさに真理子はその状態なのかもしれませんね?
さあ。司!つくしを救出して下さい!
コメント有難うございました^^
アカシア
2019.03.23 21:13 | 編集
